23. 続武林隠見録
開府以来最大規模の地震に襲われた江戸の町は、家屋の倒壊とその後発生した大火事で地獄と化し、死者の数は一説に3万人余と伝えられています。大惨事のなか、それ見たことかとほくそえむ老人の姿がありました。老人の名は天野弥五右衛門長重(1621―1705)、83歳。幕府旗本で下谷稲荷(現在の下谷神社。台東区東上野3丁目)の近くに屋敷を構えていた長重は、なんと大地震の発生を予知して鎹(コの字型の大釘)300挺で居宅を補強させていたのです。程なく地震があり多くの屋敷が大破したにもかかわらず、長重の屋敷だけは無傷でした。まさかと思いながらしぶしぶ主人(長重)の命に従って補強工事を行わせた近習たちもびっくり。どうして地震が予知できたのですかという問いに、長重は「大地震せんとては前方必天ちかく見ゆる」と答えたとか。大地震の前は天(空)が間近に見えるというのです。『続武林隠見録』は、江戸南麻布の本屋柳角子が著した古今雑話集を、古田忠義という人が増補した書。寛延3年(1750)序。全5冊。