4. 安政雑記
大地震の後、江戸では鹿島(鹿島神宮)の神や被災者が地震鯰を懲らしめている図柄を描いた錦絵(鯰絵)が大流行しました。鯰絵は当初は地震の鎮静を祈願するものでしたが、余震がおさまるにつれて地震の経済効果(土木建築業の活性化による景気振興)を歓迎し、鯰を福をもたらす「世直し鯰」として描いた鯰絵も流布するようになりました。鯰絵にかぎらず、落書の中にも地震の経済効果を称えるものが登場します。『安政雑記』に見える「地震散」の落書もその1つ。地震を振出薬(袋に入れ湯の中で振って成分を出す薬)にたとえて「職人土方は冷腹ヲあたゝめ身上の痛ミを治する」と、その効能を述べています。
『安政雑記』は、江戸で剣術指南を業にしていた藤川貞(号は整斎。1791―1862)の著。全16冊。貞は家業のかたわら多くの著述をのこし、当館も本書のほかに、『文政雑記』『天保雑記』『弘化雑記』『嘉永雑記』『整斎随筆』など彼の著述を所蔵しています。