Ⅳ.おわりに――平家物語とその時代

 平家物語に収められている逸話は、治承・寿永の内乱(源平合戦)当時の史書・日記などの記録類と異なっている箇所が多くあります。また写本によっても内容・表現が大きく違っており、物語は様々な様相を見せます。この章では最後に、当時の記録類や諸本についてご紹介します。

平家物語諸本

長門本ながとぼん『平家物語』

203-0156

【成立】未詳
 長門国赤間関(現在の山口県下関市)にある阿弥陀寺(現在の赤間神宮)に伝来した旧国宝の写本にちなみ、「長門本」と呼ばれる。平家一門滅亡の地に伝わったことから、江戸時代前期に重要視され、写本を中心に広がった。全20巻の大部で、延慶本と内容が近似する。
 展示資料は写年不明。全20巻20冊。紅葉山文庫旧蔵。

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  1. 矢束は十二束、飽まで引て、しばしかためて、放ちたれば、弓は強し、海の面になが鳴して、あやまたず、かなめ所を一寸斗あげて、ひいはたと射たり。扇は空に、さつとあがる、紅の扇の夕日にかゞやきて、空にしばしひらめきたるぞおもしろき。海の面に、さとおちて、白浪にこそうかびたれ。龍田河の紅葉の川瀬の波に散まよふにことならず。月出したる扇の浪の上に、たゞよひたるが面白さに、陸には箙をたゝきて、どよむ。海には舷を叩て感じけり。

慶長古活字版けいちょうこかつじばん『源平盛衰記』

特126-0001

【成立】未詳
 『平家物語』諸本よりも『太平記たいへいき』や『義経記ぎけいき』に近似する。
 展示資料は慶長年間に木活字を用いて出版されたもの(古活字版こかつじばん)で、江戸時代に流布した『源平盛衰記』のほとんどが本資料を底本としている。また展示資料は国学者の岸本由豆流きしもとゆずる(1789~1846)の旧蔵書で、信濃国須坂藩主の堀直格ほりなおただ(1806~1880)の手元にあった時期もあると推定される。全48巻48冊。

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源平闘諍録げんぺいとうじょうろく

特093-0003

【成立】未詳
 千葉氏を中心とした坂東平氏ばんどうへいし(関東を拠点とする平氏)の視点で記された逸話を多く収録するもので、『平家物語』諸本のうちでも特異な内容・表記を持つ。
 巻一之上・巻一之下・巻五・巻八之上・巻八之下の5冊のみが伝存し、当館のみが所蔵する貴重な写本である。
 展示資料は建武4年(1337)に書写したものを、さらに文和4年(1355)に書写したものとされるが、はっきりとした写年は不明。
 那須与一なすのよいちが扇の的を射る場面は欠けており、展示箇所は木曾義仲きそよしなかの最期の場面である。紅葉山文庫旧蔵。

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