Ⅰ.はじめに――平家物語の世界へ

『平家物語』は仏教的な無常観を背景に、平家一門の栄枯盛衰を描いた軍記物語(中世に成立した合戦を中心に描いた文学)です。この章ではまず『平家物語』の世界の入り口へとご案内します。

『平家物語』とは?
【成立】鎌倉時代前期?
【作者】未詳
 平安時代末期の治承・寿永じしょう・じゅえいの内乱(1180~1185)を舞台に、仏教的な無常観を背景として平家一門の栄枯盛衰を描いた軍記物語。平清盛(1118~1181)の栄達と専横から、源氏の挙兵、そして様々な合戦を経て平家一門が滅ぶまでを描く。琵琶法師によって語り継がれたほか、読み物として写本でも伝えられ、様々な異本(内容や巻数の異なるテキスト)が知られる。成立過程や作者については諸説あり、未だ不明な点が多い。

大臣影だいじんえい

262-0037

【成立】鎌倉時代後期
【絵師】伝 藤原為信ためのぶ豪信たけのぶ(共に生没年未詳)
 歴代の天皇・摂関・大臣を即位・着任順に描いた肖像絵巻『天皇摂関大臣影図巻』(三の丸尚蔵館所蔵)のうち、歴代大臣の肖像を収めた「大臣影」の巻。
 展示資料は文久3年(1863)に御用絵師の狩野中信かのうなかのぶ(1810~1871)が模写したもの。全2軸。内務省旧蔵。

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  1. 平清盛
  2. 平重盛
  3. 平宗盛

平清盛たいらのきよもり(1118~1181)
 平忠盛たいらのただもり(1096~1153)の嫡子で、物語では白河院しらかわいん(在位:1072~1086、退位後は院政いんせいを敷く)の落胤らくいんとも言われています。武士でありながら太政大臣だいじょうだいじんまで昇り詰め、平家一門による武家政権を打ち立てました。物語の中では、権力を振りかざす横暴な人物として描かれています。物語の半ば、源氏挙兵の報せを受けてまもなく病没。

東北院職人歌合とうほくいんしょくにんうたあわせ

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【成立】鎌倉時代
【絵師】未詳
 鎌倉時代から南北朝時代にかけて成立した職人歌合しょくにんうたあわせ職能者しょくのうしゃ芸能者げいのうしゃが左右の組に分かれて和歌の優劣を競うもの)のひとつ。建保2年(1214)、東北院とうほくいん法成寺ほうじょうじの東北の寺)に集まった人々が歌合を行ったという設定で二題の和歌を載せる。
 展示資料は絵師の海北友雪かいほうゆうせつ(1598~1677)の手による模写を基に、江戸時代中期~後期頃に書写されたものと考えられる。全1軸。内務省旧蔵。

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  1.  「盲目もうもく」として描かれている僧は下人に琵琶を持たせています。彼らは琵琶の伴奏で経文きょうもんを語り、または物語をうたうことを生業なりわいとしていました。鎌倉時代中期以降、後者は特に「琵琶法師びわほうし」と呼ばれ、『平家物語』を語り継ぎました。
     これに対して「巫女みこ」もまた、日本各地を漂泊しながら物語を謡っていたと考えられています。

秘閣粘葉本ひかくでっちょうぼん『平家物語』

特022-0001

【写年】江戸時代前期
【書写者】未詳
 展示資料は『平家物語』の写本のうち「秘閣粘葉本」または「秘閣粘葉八坂やさか本」の通称で知られるもの。
 「秘閣」とは徳川将軍の蔵書を収めていた紅葉山文庫もみじやまぶんこのことで、本資料が紅葉山文庫の所蔵だったことに由来する。「粘葉」は糊を用いた装丁を指しているが、本資料は実際には糸を用いた「綴葉装てつようそう」と呼ばれる装丁で、誤った通称が定着している。
 とり紙(雁皮がんぴを用いた地厚な高級紙)に金泥きんでい銀泥ぎんでいの下絵を施した美麗な豪華本で工芸品として製作されたと考えられる。総目録1冊、本文12冊の全13冊。

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  1. 『平家物語』は展示資料のような豪華本のほか、版本・写本としても流布し、江戸時代には多くの人々に愛読されるようになります。