Ⅲ 広がる平家物語

 『平家物語』が琵琶法師の語りや書物によって流布するにつれ、物語は芸能・学問など様々な方面に大きな影響を及ぼしていきます。この章では室町時代から江戸時代にかけての『平家物語』の広がりについてご紹介します。

芸能と平家物語

未来記みらいき

204-0018(21)

【成立】室町時代中期~末期
【作者】未詳
 主に戦国時代に流行した芸能である幸若舞こうわかまいを、読み物用に編集した『まいほん』のうちのひとつ。鞍馬寺くらまでら牛若丸うしわかまるが天狗と出会い、源平合戦の行く末を予言されるという内容を持つ。
 展示資料は挿絵入りで明暦2年(1656)に出版されたもの。天狗たちが話す源平合戦の顛末は『源平盛衰記』の記述に近似しており、物語の影響をうかがうことができる。内務省旧蔵。

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  1. 【挿絵】天狗たちの予言に聞き入る牛若丸(左)

十二段草紙じゅうにだんぞうし

204-0073

【成立】室町時代中期か
【作者】未詳
 一般的な書名は『浄瑠璃じょうるり御前ごぜん物語』あるいは『浄瑠璃物語』。この物語が三味線と結びついて「浄瑠璃じょうるりぶし」と呼ばれるようになり、さらにそののち操り人形芝居として上演されて「人形にんぎょう浄瑠璃じょうるり」の語源となったと言われる。
 奥州下りの途上にある源氏の御曹司おんぞうし義経よしつね矢作やはぎ(現在の愛知県岡崎市)の遊女浄瑠璃じょうるりひめの悲恋を描いたもの。
展示資料は江戸時代に出版された絵入り本で、刊年・刊行者は不明。全1冊。和学講談所旧蔵。

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  1. 【挿絵】御曹司おんぞうし義経よしつね浄瑠璃じょうるりひめを天狗が迎えにくる場面  奥州下りの途上、病にかかった義経は吹上ふきあげの浜(現在の和歌山県和歌山市)に捨てられてしまいます。八幡菩薩のお告げによって、これを知った浄瑠璃姫が駆け付け、砂に埋もれた義経を助け出すと、姫の涙が薬となって義経は息を吹き返します。
     挿絵は主人公の二人を天狗が迎えにくる場面。源氏の重宝「古年刀こんねんとう」は童子に、「友切丸ともきりまる髭切ひげきり)」と「漢竹かんちく横笛ようじょう蝉折せみおれ)」は大蛇に、「皆紅みなぐれないの扇」は白鳩に、「左折ひだりおり烏帽子えぼし」はからすにそれぞれ変化した姿として描かれています。