Ⅲ 広がる平家物語

『平家物語』が琵琶法師の語りや書物によって流布するにつれ、物語は芸能・学問など様々な方面に大きな影響を及ぼしていきます。この章では室町時代から江戸時代にかけての『平家物語』の広がりについてご紹介します。

平家物語研究

平家物語評判秘伝抄へいけものがたりひょうばんひでんしょう

特028-0003

【成立】慶安3年(1650)以前
【作者】未詳
 本書は批評や注釈を中心にした「ひょう」と、物語には未収録の独自の説話を述べる「でん」によって構成される。軍略的な批評も多く、軍学者の由井正雪ゆいしょうせつ(1605~1651)を作者に比定する向きもある。
 展示資料は京で出版されたもの。刊年・旧蔵者ともに不明。

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  1.  展示箇所は「敦盛最後(敦盛最期)」で、ここでは海へ逃げる敦盛あつもりを追った直実なおざねの行動について「みだりすすむときかえって敵の為にとらるゝ者也(みだりに敵を深追いするとかえって敵に討たれる)」と論じ、また敦盛が海から引き返して直実と組んだ行動については「敦盛海中より一矢いっし射給いたまはざる事は馬達者うまたっしゃならざるがゆえか、又は若武者わかむしゃゆえなるべし(敦盛が海から直実に向かって矢を射なかったのは、騎射が不得意だったからか、或いは若武者で戦に不慣れだったからだろう)」と兵法上の観点から論じています。

参考源平盛衰記さんこうげんぺいせいすいき

167-0044

【成立】元禄15年(1702)
【編者】今井弘済(1652~1689)
    内藤貞顕(1648~1702)
 徳川光圀とくがわみつくに(1628~1700)の命によって編纂されたもので、物語を歴史資料として活用するために様々な史料や物語の異本との対照・検討を試みている。本書は特に編集に長い時間を要し、完成したのは光圀の没後の元禄15年(1702)だったが、その後もさらなる改訂が続いた。
 展示資料は享保16年(1731)、幕府に献上された浄書本で、水戸彰考館しょうこうかんの印が見える。

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  1.  展示箇所は「平家公達最期并首共掛一谷事」より、敦盛の最期。『源平盛衰記』は敦盛の年齢を16歳としていますが、ここでは『平家物語』諸本のほとんどが17歳と述べている点を指摘しています。またほかにも攻め寄せる源氏の兵について、諸本との比較が行われています。