電子記録管理の現在~オーストラリア政府の場合~

国立公文書館   統括公文書専門官室
公文書専門員   渡辺 悦子

はじめに
   オーストラリア国立公文書館(National Archives of Australia、以下「NAA」とする。)は、1983年に公文書館法(Archives Act 1983、以下「公文書館法」とする。)のもと設置された連邦政府機関[1]で、連邦政府記録[2]に対する標準を発行、また連邦政府の記録資源を保存し、利用に供している。主な権限は、連邦政府の記録管理実務を監督し、連邦政府記録の要件を設定することとされ[3]、政府機関の記録の廃棄、移管、書換えについてはNAAの承認が必要となっている[4]。
   2012年、NAAは、2016年以降に電子的に作成される記録でNAAへの移管が相当であるものは電子フォーマットでのみ受け入れることを表明し[5]、また翌2013年には、電子的に作成された政府記録でNAAへの移管対象でないものについても、2016年以降は電子的に管理すべきとする[6]など、政府の業務プロセスの電子化を促進している。
   本稿では、オーストラリア政府機関に対するNAAの取組みを通じて、同政府における電子記録管理に焦点をあて、紹介するものとする。なお、本稿でとりあげるデジタル移行政策及びデジタル継続2020政策には、政府機関における紙媒体記録の削減が含まれているため、「電子記録管理」には、アナログ形式の記録を電子化した記録も含まれることを断っておく。

1.オーストラリア政府における電子記録管理の課題
   オーストラリア政府における電子記録管理の発展の経緯や課題は、これまで見てきたイギリススペインと共通している。取組みは2000年代初頭にはじまり、政府業務を電子化する大規模改革、“major change”プログラムが2000年に立ち上がったことを受け、NAAでは、政府機関に電子的に作成された記録だけでなく、紙媒体をはじめとする様々なアナログ媒体の記録を電子的に保存するシステムを開発し、提供することとなった[7]。それにより、電子記録保存にかかわる方針とそれに基づく様々なツールが開発されていくこととなる[8]。
   2010年7月、オーストラリア政府は、市民に対する説明責任を果たし情報へのアクセシビリティを向上させるため、「オープン・ガバメント宣言」を発表、以後はwebベースを基本とした公共サービス等の改革に伴い、政府業務プロセスの電子化がさらに推進されることになる[9]。
   電子環境で行われる業務プロセスでは、各業務に応じて作られた業務システム等で記録が作成されることが多く、やり取りを通じて共有ドライブやメール・サーバー、モバイル機器といった様々なプラットフォームに個別に情報が蓄積されてしまいがちである。オーストラリアでも、このような情報が一元的に管理されない状況が問題となっていた。また、国家監査室(Australian National Audit Office)[10]が2012年に行った調査報告[11]によれば、政府機関で使用される業務システムには、記録管理・移管・処分にかかる法的要件を満たしていないなどの問題を抱えていることが明らかになった。
   加えて、同調査やNAAが2010年に実施した調査によると、2009年政府機関の半分以上が電子記録管理システムや電子的な業務システムを持っているが、それらにより作成された情報を電子的に扱っているのは30%以下にとどまり、70%に及ぶ機関が相当数の電子記録を紙に印刷して管理している状況が見出された。一方で、2014年までに政府機関が作成する電子記録は、新規作成分だけでも毎年107万ギガバイトを超えるという試算もあった[12]。膨大な電子記録が紙媒体でも並行して管理されるという状況は、大きな課題となったのである。
   こうした政府における記録管理の慣行に対する転換に直接的な影響を与えたのは、当時のNAAの書庫増設にかかる課題にもあったという[13]。紙媒体記録が作成され続ける限り、収蔵庫の拡張は半永久的に必要となる[14]。電子記録管理の改善は、こうした紙媒体記録の保管にかかるコスト削減もまた、大きな動機として働いていたと言える。
   以下では、オーストラリア政府が具体的にどのような段階を踏みつつ政府記録の電子的な管理を進めているかを見ていきたい。

2. 電子記録管理政策の発展
   NAAの定義する「電子的に記録を管理する」とは、記録が「電子的に作成・保管・管理されること」であり、認可や承認などを含めた業務プロセスが電子的に行われることとされる[15]。また、電子的に情報を一元管理することを目指して紙媒体ファイルが新規に作成されないよう努めるほか、収受する紙媒体記録の電子化にも言及される[16]。
   本章では、こうした記録の電子的管理を促進するため、オーストラリア政府が展開したデジタル移行政策(Digital Transition Policy、以下「DTP」とする。)と、DTPを発展的に継承するデジタル継続性2020政策(Digital Continuity 2020 Policy、以下「DC2020」とする。)について概観していきたい。

2.1 デジタル移行政策
   DTPは、首相内閣省(Department of Prime Minister and Cabinet)により策定された全オーストラリア政府機関を対象とする政策である[17]。2011年にはじまり、業務の効率化を主眼として政府機関の記録を電子的手段による管理へと移行させるもので、NAAはその主導機関[18]とされた。
   政府機関がとりくむべき内容は、(1)記録を電子的に管理するための体制を整備すること、(2)紙媒体記録の量を減らすこと、そして(3)国際標準であるISO16175「電子オフィス環境における記録のための原則及び機能的要件」に準拠した、電子情報の適切な管理を行うこと、の3つに大別できる。(3)は章を改めて述べることとし、ここでは(1)と(2)について述べる。
   (1)は、記録管理を効果的に行うに当たっては、その実施に価値を置く「文化(culture)」の普及が欠かせないことからリーダーシップのサポートが必要として、まず上級管理職に改革を促す協力を求めることとした。また、電子化にあたり必要なリソース(人材、スキル、機材など)の検討を行うとともに、実施状況の評価を行うことにも言及されている。この評価はNAA開発の自己評価方式オンラインツール「Check-up 2.0」[19]によって、毎年調査が行われた。記録管理に関する戦略から実務まで幅広く16のセクションに及ぶ設問がある一方で、電子記録管理に関する設問は2セクション程度にとどまるが、記録管理にかかる啓発につながるよう工夫されている。
   (2)の紙媒体記録の削減については、一般記録処分基準31項(General Records Authority 31、以下「GRA31」とする。)を活用するよう述べられる[20]。記録処分基準(Record authorities)とは政府記録の移管・廃棄等を決定する際の基準となるもので、NAAと各政府機関との協議により策定される機関ごとの特定記録処分基準(Agency-Specific Records Authorities)と、全政府機関に共通する基準として使用される一般処分基準がある。GRA31は後者にあたり、NAAに移管されない記録や法的に原本保存が求められていない等[21]の記録に限り、適切な電子化/媒体変換後には、原本となる紙媒体等の記録の廃棄を認める規程である。GRA31はオフィス環境から紙媒体記録を削減する取組みとしてDTPの「鍵」と位置付けられ[22]、これにより政府機関内で保管される物理的記録の収蔵スペースの削減が進むこととなる。

2.2 デジタル継続性2020政策
   DC2020は2015年10月、公文書館法のもとNAAが発布した政策であり、政府機関を横断して情報管理ガバナンスへの一貫したアプローチを促進するものとされる[23]。政策の名前にみえる「デジタル継続性(Digital Continuity)」は、「電子情報を必要な方法で必要な期間使用し、不要になれば廃棄することを確保するための、保存と管理のアプローチ[24]」であるとともに、前身となるDTPにおける電子化移行の取組みを引き続き「継続」していくという意味も込められているという[25]。
   政策は3つの原則とその実現のための項目が示される形で提示され、その多くが達成目標を2020年12月末日においている[26]。
   まず、原則1では、「情報には価値がある」とうたう。ここで設定される達成目標は、情報ガバナンスの仕組みやそのフレームワークの設定、必要な期間情報資産を管理する体制の確保など、記録管理の原則の普及と各機関における適切な管理体制の構築に結び付けられるものとなっている。
   原則2は「情報は電子的に管理すること」で、達成目標には業務プロセスの電子化に加え、業務上必要なものでもアナログ形式の記録をできるかぎり少なくし、記録の電子的な作成と管理を確実にすることとされる。
   最後の原則3は「情報、システムとその処理過程は相互運用性があること」である。達成に向け、情報ガバナンスと互換性確保のため、情報はフォーマットとメタデータ標準を管理することや機能要件に合致した業務システムとすること等が挙げられる。相互運用性は、政府機関を横断しての情報の共有や利用/再利用の効率性を向上させるだけでなく、オーストラリア政府で特に頻繁に行われる組織改編に伴う情報の移動等のために重要と考えられている[27]。
   DC2020の実施から1年を迎えた2016年8月、司法長官に提出された調査レポート[28]からは、上記3つの原則を実現するため、NAAが、合理化とリスク管理アプローチをベースにした業務システム評価フレームワーク[29]や情報ガバナンス構築の際に各機関の状況に応じて作成できるよう作られたテンプレート[30]、政府機関職員の職務レベルに応じた記録管理にかかる技術・知識レベルの基準となる電子情報記録管理能力マトリックス[31]の他、政府職員へのe-ラーニング教材やワークショップの提供などを行っていることが見える。電子的に管理された情報を資産として利活用することとその体制づくりの強化がはかられ、政府機関における電子情報管理の取組みが着実に進んでいることがうかがえる。

3. 電子記録管理への取組み
   上述のように、NAAは政府機関における記録の電子的管理の促進に当たって、標準やガイダンスの策定、各機関への助言を行っている。活動にあたってNAAは、強制機関ではなく推進機関としてベスト・プラクティス・アプローチを行うという姿勢を取っており[32]、NAAのHP上の「Information management」のセクションには記録管理にかかる膨大なガイダンスを掲載しているほか、NAAが中心となって形成する政府機関情報ネットワーク(Government Agency Information Network、GAIN)により、研修やフォーラムも開催している[33]。
   さて、DC2020は、「情報は電子的に管理すること」(原則2)とし、また自己評価ツールである「Check-up Digital」[34]では、業務成果の最適化を行う能力の第1チェック項目に「デジタルをデフォルトとして業務を行う」ことを置く。このように、業務プロセスを電子的に行うシステムとその導入は、政策推進の根幹をなすものの一つと言えよう。
   そこで本章では、記録を電子的に管理するシステムの導入に当たっての取組みを紹介する。

3.1 ISO16175と記録管理のためのシステム
   政府機関の電子記録は、例えば業務情報(財務情報や職員管理など)を作成するシステムやネットワークドライブなど様々なシステムで作成されており、これらは広く業務システムと呼ばれる。前述のとおり、DTP以降、ISO16175に準拠した業務システムの導入が政府機関の「要求される実務」[35]に指定されている。ISO16175とは、「オフィス環境における電子情報の作成と管理に使用されるソフトウェアのための原則と機能的要件」という、業務システム内で作成される情報を記録として保存するための要件等にかかる国際的な合意を得た標準である[36]。一方で、記録の作成・管理を電子的に行うシステムとして知られるのが、電子記録管理システム(Electronic document and records management system、以下「EDRMS」とする。)である[37]。EDRMSもまた、こうした業務システムも一つであるとされる。
   注意しなければならないのは、NAAによる記録の電子的管理の推進の要請が、必ずしも即ちEDRMSの構築や導入ではないことである。リソースやインフラ整備に多くのコストを必要とするEDRMS導入の推奨はもちろんであるが、NAAはまず、各機関で様々に導入されている業務システムに目を向けている[38]。業務システム内における情報は、業務の最新状況を維持するためコンスタントに更新される一方で、各時点における情報をオーストラリア政府の法的要件等に合致した記録として残すための機能が付されていない場合が多い。しかしながら、業務システム内の情報もまた業務プロセスの各時点における唯一の証拠となりうるもので、政府のアカウンタビリティやリスク管理のため記録として適切に管理できるようにすることが必要である。そのためにISO16175に準拠したシステムの見直し・選定・構築を要請していることが読み取れる。
   政府記録の電子的管理のための要件としてNAAの各種のガイダンスでしばしば引用されるISO16175のPart3「業務システムにおける記録についてのガイドラインと機能的要件」には、記録管理に必要な機能的要件が網羅されているだけでなく、業務システムの構築にあたって、業務プロセスや当該プロセスにおいて証拠として確保すべき記録を特定し、システムに埋め込むべき機能的要件を編成、設計し、レビューを行うといったガイダンスが示されている。必要な記録の特定にあたっては、関連する規程や業務上の要件等を含めた、現行の実務における業務プロセスの分析を行うことによって始めなければならないとする[39]。NAAが政府機関へのガイダンスの一環でHP上に数多くの電子化の成功例を紹介しているが、各事例ではこうした業務プロセスのマッピングをもとに、電子的な管理に則したプロセスへの見直しを行っていることが見える[40]。

「業務プロセスをどう改善するか」 紙媒体ベースで行われる非効率な業務プロセスを改善するためのNAAのワークショップで使用された教材(※クリックすると大きくなります※)

   なお、これまでの「電子記録管理の現在」[41]でもしばしば紹介してきたように、電子記録管理においてメタデータの付与は欠かせない要件である。記録はそのコンテクストや構造にかかる情報がなければ証拠としての要件を満たさない。電子記録においてメタデータが不可欠なのは、コンテクストや構造がメタデータを通してキャプチャされるからであり、記録をコンテクストに固定するものだからである[42]。NAAはメタデータ標準への合致についても、業務システムやEDRMSに備えるべきメタデータのエレメントを特定し、その付与に向けて取り組んでいることも付言しておく[43]。

3.2 業務システム構築の事例
   ここでは、議会業務フロー・ソリューション(Parliamentary Workflow Solution、以下、「PWS」とする。)[44]と呼ばれる政府機関共通の業務システムの事例を見ていきたい。本事例は、NAAが加わった事業で、業務プロセスの見直しによって明らかとなった記録管理の課題をもとに、システムにEDRMSを組み込んだだけでなく、評価選別の自動化機能をも実現したものである。

3.2.1 PWSとは何か
   政府と議会のやりとりを円滑に行うため、政府機関には議会業務を担当するユニット(Parliamentary service unit)が設置されていることが多い。ユニットは、議会対応とそれに伴う他の政府機関とのやりとりにおいて所管する省庁が担当する業務提供を遂行し、政府機関・大臣オフィス、議会の間の交流や情報の流れ、政策決定の管理を担当している。それらユニットを通じてのやりとりが議会業務フロー(Parliamentary Workflow)と呼ばれる。ここで作成・維持される記録は当然ながら、公文書館法の適用を受ける政府記録(大臣説明、大臣提案、議会質問に対する回答など[45])である[46]。
   PWSは、上記業務を行うため、教育・研修省(当時の教育・雇用・職場関係省)とNAAが開発し、2013年に使用が開始された政府機関における共通業務システムである[47]。

3.2.2 PWS導入の背景
   PWSの開発にあたっては、記録の作成、管理に関する部分は全面的にISO16175に準拠して行うだけでなく、上述のとおり作成時点に記録の評価選別を自動的に行う機能を組み込んだことも特徴といえる。
   システム構築に当たっては、まず議会業務フローのプロセスについてマッピングを行うことから始まった。明らかになったのは、そもそも議会業務フローは個別かつハイレベルで保護される業務であり、複雑かつセンシティブな対応が求められつつさらには短期間で行う必要のあるプロセスであるため、記録管理に関連する業務を追加的・遡及的に行うことは難しいにもかかわらず、各機関の記録管理担当者(レコード・マネジャー)がこうした記録に対するアクセス権を持っているとは限らない状況だったことである。そのため、記録の不必要な長期保存や紙媒体への出力という非効率的な管理だけでなく、誤廃棄のリスクもが見出された[48]。そこで、これまで議会業務フローに直接携わることのなかった記録管理担当者の業務である、記録の評価選別と最終決定をプロセス定義に組み込むこととなった。
   各機関に既存のEDRMSと統合することも検討されたが、NAAは、機関によって記録管理にかかる業務システムやEDRMSの存在/不存在といった個別の現状に違いがある以上は、PWSが適切に記録管理を行うのであれば各機関のEDRMSに重複して管理される記録は不要と判断することとし、各機関のEDRMSとは独立してシステムの構築が進められることとなったという。

3.2.3 PWSの機能と成果
   PWSでは、業務プロセス分析により[49]、大臣提案、大臣説明などの作成する文書タイプでモジュール化されており、各モジュールにおいて議会文書記録(Parliamentary document record、 以下「PDR」とする。) が作成される。PDRが作成されると、全てのPDRがシステム設計によって自動的にデフォルトの保存期限とその後の処分分類(廃棄や移管)が付されるという仕組みである[50]。また、記録管理担当者の議会業務フロー・プロセスとシステムへのアクセスを可能にすることにより、自動的に付与される処分分類も業務サイクルを通じてステータス変更をできるようにした。
   PWSの導入は、議会業務フローの効率化に貢献しただけでなく、記録管理担当者が業務フローで生じる記録を直接管理できる機会となったのである。
   2015年時点で、PWSは23の機関に導入されており、年間44万件の記録の評価選別が自動化されているとのことである[51]。

4.DTPとDC2020の成果と課題
   2016年8月、2011年~2015年のDTPの成果を報告する調査レポート「オーストラリア政府におけるデジタル継続性政策の実施:司法省長官への報告」が発表された[52]。
   本報告によると、電子的に業務を行う(digital by default)政府機関の数は2010年から2015年の間に44%増加し、全体の74%の機関がほとんどの記録を電子的に管理するに至っているという[53]。また、DTPの実施により、2010年の政府機関における記録の保管にかかる費用は、220万豪ドル(約1億8500万円)だったが、紙媒体記録等にかかる費用の94万豪ドル(約7700万円)分の削減に成功し、2015年の費用は年間127万5千豪ドル(約1億800万円)となったとのことである[54]。
   「Check-up 2.0」を電子情報管理に特化し5段階で自己評価を行えるようにした「Check-up digital」[55]の、2015年の調査結果[56]では、全体的平均スコアが前年度から0.2ポイント上昇が見られ、なかでもDC2020の実行にあたり上級管理職レベルからのサポートが広がっていることを示す項目が全項目の中で最大の成熟度を示した。また、前年度からの比較で最も大きな伸びを示したのは共有スペースやソーシャルメディアにおける適切な記録の管理であったとし、さらに82.4%の機関が、電子記録が常に利用可能で予測不可能な情報の喪失から保護されていると答えた。
   一方で、平均スコア以下の状況にとどまっている機関が依然3分の1にのぼっている現実もある。達成度の低いものは、項目別に「業務システムにおいて電子情報(のメタデータ)が管理されている」、「国立公文書館へ移管される電子情報の、マイグレーションの準備が整っている」などが挙げられる。これらでは、30%近い機関が「初期段階」であると回答しており、電子記録のメタデータ管理とNAAの移管がより改善すべき点となっていることを示すものである。さらに、電子情報の保存とマイグレーションについて、電子的に情報を管理するコストの最適化も進んでいないことも指摘されている。
   こうした記録・情報の管理の電子化を進める過程で障害となっているものとしては、資金や人材といったリソースの不足をあげる機関が71%に及んでおり、次いで技術的またはインフラの限界(53%)、スタッフ能力の制約(40%)が続き、組織内における文化の問題を指摘する機関も依然31%あることが見える[57]。
   2020年12月末の目標達成までに、さらなる取組みが求められている。

おわりに
   以上のように、オーストラリア政府の業務プロセスにおける電子化の取組みは、記録やその管理を電子化するために、まずどこに確保すべき記録があるかを認識し、業務プロセスの見直しを通じて、電子的な管理体制を構築していることが見えてくる。それが、業務の効率化と資産としての情報の管理のより良い向上を目指すという政策の目的とつながっているのである。
   電子記録管理では、ICTが日々発展する中、克服と新たな課題の発見を繰り返している。紙幅の関係で本稿では大きく扱わなかったが、課題を乗り越えて政策を推進するために政府機関に示されるNAAの数々のガイダンス、実施される研修やワークショップ、e-ラーニングモジュール等は、日本の公文書管理とは背景とする権限や制度の違いはあっても、学ぶものは多いと思われる。
   今後もこのようなオーストラリア政府の電子化の動向を追うと共に、それを支えるNAAの取組みを注視していきたい。

   本稿作成に当たり、NAAのAgency Capability Developmentの、Eric Swain氏 (ディレクター代理)、Linda Zakman氏(ディレクター補佐)、Jo Hanisch氏(ディレクター)には、お時間のない中大変なご助力をいただいた。ここに心からの謝意を申し上げたい。


[1] NAAが管理する記録の作成者の範囲として、連邦政府機関(Australian Government agencies)が含むのは、国務大臣を長とする省(department)と、各種の庁(agency)、その他連邦裁判所や連邦当局が運営する各種機関、国営企業等である(http://naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/digital-transition-policy/index.aspx)。本稿ではこれらを「政府機関」と称することとする。
[2] 「連邦政府記録(Commonwealth Records)」とは、公文書館法のもと、政府の業務の過程で作成・使用・収受したデジタル・非デジタルformatsの情報全てを含むものとされており、本稿で扱う「記録」はそれらをさすものである(Archives Act 1983(最終改訂08/Jul/2016)の第3条「Implementation」より)。公文書館法については以下のURLを参照。https://www.legislation.gov.au/Details/C2014C00417 (Access:2017/7/14)。なお、NAAのwebサイトやガイダンスでは、記録管理はInformation and Records management(情報・記録管理)、或いはInformation management(情報管理)と表現され、Records management(記録管理)と表現されることはあまりない。「情報」とは一般に意味をもったデータの集合であり、「記録」とはデータやそういった情報が一定の媒体に固定されたもの、とされる(アメリカ・アーキビスト協会Glossaryより。https://www2.archivists.org/glossary、Access:2017/7/14)ことから、オーストラリア政府では、記録管理よりもより広く「情報管理」あるいは「情報ガバナンス」を行っていることがわかる。正確を期すならば、本稿でも情報・記録管理、あるいは情報管理とすべきところであるが、「オーストラリア政府の業務として作成、送付、収受された『情報』は『記録』である(『』は筆者による。‘Getting Started’より。Available at:http://www.naa.gov.au/information-management/getting-started/index.aspx、Access : 2017/7/14)」とあること、またこれまで「電子記録管理の現在」のタイトルで本稿と関連する記事を記載していたことに鑑み、「記録」の言葉をつかう。ただし、本稿における「記録」は「情報」を含む言葉としておきたい。
[3] Archives Act, Section 2A。URLは注2参照。
[4] Archives Act, Section 24。URLは注2参照。
[5] NAAのwebサイト、‘Digital Transition Policy’より。Available at: http://naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/digital-transition-policy/index.aspx (Access:2017/7/14)
[6] 注5、NAAのwebサイト、‘Digital Transition Policy’より。 
[7]D.Fricker (2012), ‘Defining a business model for the digital age at the National Archives of Australia’, Comma, issue 2012.2, p.11。
[8] 「オーストラリア連邦政府における電子媒体による公文書等の管理・移管・保存の取組み」参照(Available at: “http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/kako_kaigi/denshi/171205/haifu/haifu1.pdf、Access:2017/7/14)。なお、現在はDigital Preservation Software Platformと呼ばれる、NAAが開発したオープンソースの4つのソフトウェア、Manifest Maker(NAAへの電子記録の移管をサポートするソフトウェアであり、移管される全ての電子記録の目録をタブ分けしたファイルで作成、各データ・オブジェクトのメディアID、チェックサムやチェックサム・アルゴリズムをリスト化する。)、Xena(商業ベースのファイル・フォーマットを保存用フォーマットへ変換するソフトウェア)、Checksum Checker(保存された電子記録のデータ・ロスや破損をモニターするソフトウェアで、記録のチェックサムを計算し、Digital Preservation Recorderのデータベース内にあるものと比較を行う)、Digital Preservation Recorder(検疫から保存までのワークフローを自動的に行うもので、前述のフォーマット変換ソフトであるXenaやチェックサム・チェッカーは、このDPRの一部である。Xenaを使って電子記録を保存用形式へ変換、電子アーカイブに保存されたデータの継続的チェックする他、利用者管理や各移管の監査情報を提供し、また移管・電子アーカイブ・利用者に関するレポートの作成も行う)によって電子記録の保存が行われている。NAAのwebページ、Preserving Digital Records参照。(Available at: http://naa.gov.au/collection/preserving/digital-records/index.aspx#software Access: 2017/7/14 )。
[9] 注7、D.Friker。また、2011年のEASTICA東京大会におけるバーバラ・バース氏の基調講演を収録した、バーバラ・バース(2012)「レコードマネジメントと『開かれた政府』改革-オーストラリアの事例」(「アーカイブズ」46号、Available at: http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_46_p07.pdf p.9)参照。フリッカー氏によれば、文化の技術革新や市民参加を目標とする「National Cultural policy」の策定も、NAAの電子化促進の方針に影響を与えたとしている(前掲同氏論文、p.18)。なお、「オープン・ガバメント宣言」がNAAに与えた影響の詳細は、バース氏の講演に詳しいので、ご参照いただきたい。
[10] オーストラリア国家監査室は2002年以降、政府機関の記録管理について助言する報告を作成している。現NAA館長のD.フリッカー氏によれば、2006年の国家監査室の報告は、翌2007年に政府の記録管理の自己評価のための実験的ツールである「Check-up」を立ち上げるきっかけとなったという(D.Fricker (2012)、注7)。この「Check-up」は2011年、「Check-up 2.0(Available at: http://www.naa.gov.au/Images/check-up-all-questions_tcm16-94298.pdf)」となった後、2014年以降は電子記録管理の進捗状況を評価する「Check-up Digital(Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/check-up-digital/、Access: 2017/7/14)」へバージョンアップしている。
[11] Australian National Audit Office (2012), “Records Management in the Australian Public Service”より。 Available at: https://www.anao.gov.au/work/performance-audit/records-management-australian-public-service (Access: 2017/7/14)
[12] 注7、D.Fricker、p.19。
[13] 注9、バーバラ・バース(2012)氏の講演 p.12。
[14] 2017年6月9日、NAAは新保存施設National Archives Preservation Facilityを建設、物理的記録を収蔵する施設の建設はこれを持って最後とするとしている。Available at: http://www.naa.gov.au/collection/managing-collection/securing-national-archives-holdings/napf/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[15] NAAのwebページ、デジタル継続性2020政策の原則2より。Available at :http://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/information-is-managed-digitally/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[16] NAAのwebページ、デジタル移行政策より。http://naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/digital-transition-policy/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[17] 注16参照。
[18] この政策の実行にあたり、NAAは実務上のガイダンスを提供する「Digital Continuity Plan」http://www.naa.gov.au/Images/12.02.05%20Digital%20Continuity%20Plan%20web_tcm16-52027.pdf、(Access: 2017/7/14)の策定を含め、他機関と連携して助言や研修の機会の提供を行った。
[19] 注10参照。
[20] NAAのwebサイト、‘General Authority 31’より。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/records-authorities/types-of-records-authorities/GRA/GRA31/index.aspx (Access: 2017/7/14)。GRA31は、2003年に発効された当時、原本廃棄が可能な記録は2002年以降に作成された紙媒体をはじめとする物理的媒体を必要とする記録に限られていたが、2011年、DTP開始時の改訂で2000年以降、2012年の改訂で1995年以降となった後、2015年の改訂では1980年以降に作成された記録へと適用範囲が拡大している。なお、「1980年」は、この頃からPCの導入が進み、電子的に作成・アウトプットされる紙媒体記録が見られるようになる時期であることによるとのことである(Dr Jo Hanisch氏のご教示による)。
[21] NAAのwebサイト、‘General Authority 31’(URLは注20参照)によれば、その他、i)芸術的、文化的な重要性があるもの(装飾画がついているなど)、ii) 媒体そのものが貴重であったり、透かし模様などの加工が入っているもの、iii) 歴史的人物や事件に直接関連する原本記録など。特に重要なのは、「原本/スキャン元記録を廃棄してはならない旨、政府政策や命令に定められている場合」とされるもので、「処分決定停止(disposal freeze)」や「記録の保存通知(records retention notice)」と呼ばれる、著名あるいは物議を醸している問題や事件、裁判上の手続きが行われている記録の場合は、通常は廃棄となる記録の処分でもNAAが廃棄を停止する仕組みがあり、これが発行されると関連する記録の原本は廃棄してはならない定めがある。NAAのwebサイト、Records disposal freezes and retention notices より。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/managing-information-and-records/destroying/freezes/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[22] DC2020を実施する現在でも引き続き政策の実施にかかる鍵とされている。‘Implementation of Digital Continuity in the Australian Government:Report to George Brandis QC’, Available at: http://naa.gov.au/Images/Report%20to%20the%20Minister%202016%20-%20Digital%20Transition%20and%20Digital%20Continuity%202020%20-%20FINAL_tcm16-95403.pdf (Access: 2017/7/14)、p.11。
[23] NAAのwebサイト、“Digital Continuity 2020 Policy”より。 URLは注15参照。
[24] 原文「approach to keeping and managing digital information to ensure that it can be used in the way that is required, for as long as it’s required and no longer.」NAAのwebサイト、Digital transition and digital continuityより。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/Copy_of_index.aspx (Access: 2017/7/14)
[25] Dr Jo Hanisch氏のご教示による。
[26] 各達成目標の詳細と実施期限は以下のとおり。原則1では1)情報ガバナンスの報告を行うこと: 2020年12月まで毎年、2)政府機関内に情報ガバナンス委員会を設置すること:2016年6月末まで、3)政府機関が情報ガバナンス・フレームワークを設定すること:2016年12月末まで、4)政府機関は必要な期間、情報資産を管理すること:2020年12月末まで、5)政府機関はスタッフの技術習得にかかる目標を達成すること:2020年12月末まで。原則2では6)政府機関はデジタル環境で業務を行い、業務における交流や決定・承認の過程を電子的に記録すること:2020年12月末まで、7)業務上の利益となる場合は、アナログ形式の情報をデジタル形式へマイグレーションすること:2020年12月末まで。原則3は8)情報ガバナンスと互換性確保のため、情報はフォーマットとメタデータ標準を基礎に管理すること:2020年12月末日まで、9)業務システムは情報管理の機能的要件に合致していること:2020年12月末まで、10)全政府規模で省庁を横断して行う処理過程は、情報ガバナンスの要件と仕様に合致していること:2020年12月末日まで。URLは注15参照。
[27] T.Antsoupova(2015), ‘To Keep or not to Keep: Automating appraisal and selection at the National Archives of Australia,’ (Journal of Digital Media Management, vol.4:1)。なお、NAAの情報ガバナンスについてのガイダンスの一環で、政府の組織改編(Machinery of government change)にかかるページが設けられている。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/information-governance/MoG-changes/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[28] 注22、‘Implementation of Digital Continuity in the Australian Government:Report to George Brandis QC’参照。
[29] 業務システム評価フレームワーク。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/information-is-interoperable/assessing/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[30] NAAのwebページより。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/information-governance/governance-framework/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[31] NAAのwebページより。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/support/qualifications/capabilities-matrix/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[32] Eric Swain、Jo Hanisch両氏のご教示による。なお、以下は、NAAのwebページ、‘Legislation, policies, standards and advice’(http://www.naa.gov.au/information-management/information-governance/legislation-standards/index.aspx、Access: 2017/7/14)を参考に、各政府機関(NAAを含む)が担当、発行している記録管理にかかる政策や標準の数を一覧にしたものである。これよりNAAがベスト・プラクティスやガイダンスを多く出していることが見える。なお、情報管理に係る法律が多省庁から発行されており、国民にとってもわかりにくいものとなっているので、整理の必要があると認識されているとのことである(Dr Jo Hanisch氏のご教示による。)。
【表】

[33] 研修は財務省下の情報マネジメント局(Australian Government Information Management Office, AGIMO)と協働して開催されることもある。これらはAgency Service Centreが担当している。Agency Service Centreについては以下のページを参照。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/support/agency-service-centre/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[34] 注10参照。
[35] 「要求される実務」とは、政府機関にはそれを実施する義務はないが、業務ニーズに最適のものとしての助言・アドバイスとして採用されるものであり、当該標準に沿った実務が強く推奨される」とされるもの。NAAのwebページ‘Legislation, policies, standards and advice’参照(URLは注32参照)。
[36] ISO16175は、概観と原則(Part 1)、電子記録管理システムについてのガイドラインと機能的要件(Part 2)、業務システムにおける記録についてのガイドラインと機能的要件(Part 3)の3部で構成される標準で、また国際公文書会議(International Council on Archives)がオーストラレージアン・電子記録管理イニシアチブ(Australasian Digital Recordkeeping Initiative)と共同で発行した「ICA-Req」を採用している。
[37] EDRMSは、情報や記録の作成、管理、利用、保存、処分をコンピュータ上で行えるよう設計されたソフトウェア・アプリケーションと定義される。NAAのwebサイト、 ‘Electronic document and records management system’参照。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/managing-information-and-records/systems/EDRMS/index.aspx (Access: 2017/7/14)
[38] NAAのwebsite、Systems that manage information(「情報を管理するシステムについて」、Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/managing-information-and-records/systems/index.aspx、Access:2017/7/14 )では、まず業務システム内の記録の管理について述べられ、ついでEDRMSについてが掲載される。
[39] ISO16175-3:2010 ‘Analyse the work process’、p.8。また、こうした分析は、機関のレコードマネジメントやアーカイブズ専門家と緊密に連携して行うことが重要とする。
[40] オーストラリア連邦裁判所(Federal Court of Australia、実施例はhttp://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/digital-excellence-awards/digital-excellence-case-studies/federal-court-of-australia.aspx(Access:2017/7/14)を参照)など。その他成功事例の多くで、取組みがChange management(変革管理)としての実施、上級管理職のサポートやシステム導入後のスタッフ研修を行っていることが見える。成功事例は2015年以降行われているAwards for Digital Excellenceの各年のCase Studyとして掲載されている。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/digital-excellence-awards/index.aspx、Access:2017/7/14。
[41] 拙稿、「電子記録管理の現在~イギリス国立公文書館の場合」(http://www.archives.go.jp/publication/archives/no061/4940、Access: 2017/7/14)及び「電子記録管理の現在~スペイン政府の場合」(http://www.archives.go.jp/publication/archives/no62/5329、Access: 2017/7/14)。
[42] ISO16175-3:2010 ‘2.1 Why is it important to have evidence of business process and activities?’ より(p.5)。
[43] NAA webサイト、 ‘Minimum metadata set’参照。Available at: http://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/information-is-interoperable/metadata/index.aspx(Access: 2017/7/14)より、「最低限のメタデータ標準」は記録のレベルに応じて、付すべきものが1)コア・プロパティ:全ての文書・記録に付す必須メタデータ(ID、作成者、作成日)、2)追加的プロパティ:長期間保存すべき価値のある記録に付す必須メタデータ(タイトル、保護マーク、処分基準における分類、フォーマット)、3)移管用プロパティ:NAAの移管対象となる記録(RNA、Retain as National Archivesと呼ばれる)に付す必須メタデータの3段階で設定されている。これらメタデータ標準の合致について、まず2016年末までに全ての文書・記録にコア・プロパティを、2017年までに長期保存記録に追加的プロパティを、2020年までにRNA記録に必須メタデータを付すことを目標設定している。
[44] T.Antsoupova(2015)、注27参照。また、ダイジェスト版として財務大臣のプレスリリースの模様が掲載された記事が以下にある。http://idm.net.au/article/0010132-parliamentary-workflow-system-picks-steam (Access: 2017/7/14)
[45] 各記録がどのようなものを指すかは、財務省発行の「Common Parliamentary Workflow Language – Terms and Definitions」の定義。Available at: https://www.finance.gov.au/sites/default/files/common-parliamentary-workflow-langage.pdf (Access:2017/7/14)
[46] 注27、T.Antsoupova(2015)、p.85。
[47] 注27、T.Antsoupova(2015)、p.86。PWS導入の経緯は、2010年、当時の金融・規制緩和省(現・財務省)が、首相内閣省や防衛省、司法省と言った主なステークホルダーと合同で、各機関で使用される議会業務にかかる業務システムについてのスコーピング調査が行われたことにはじまる。これにおいて全政府的なシステムの構築が推奨されたため、2012-13年に教育・雇用・職場関係省(現・教育・研修省)がホストし、財務省が実施にかかるガバナンスを担当しての全法的情報管理システムが開発されることとなった。一方で当時のNAAは議会業務フローの記録の処分基準にかかる要件の調査過程で、各機関の記録のマッピング作業等を行っており、そこで財務省からNAAが招かれ、PWS開発に参加することとなったという。なお、ソリューションの全面的な運用開始は2016年であった。
[48] 注27、T.Antsoupova(2015)、p.85。
[49] 注27、T.Antsoupova(2015)、p.87。議会業務フローで見られる各活動は、それぞれ特殊な文書形式が使用されるという(例えば、政府機関が政策・課題についての情報を大臣から依頼されると、「大臣説明」の形式で提供される、等)。このことから、システムの構造は、記録の処分にかかる分類の指定を通じて記録と関連する処分(移管、廃棄)の決定とをマッチさせるというアプローチをとったとのことである。
[50] モジュールは全部で10あり、そのうち重要な7つ(大臣提案、大臣説明、プレスリリースなど)のモジュールで作成されたPDRには自動にRNA(Retain as National Archives、NAAに移管される文書)の処分が付される。残り3つのうち、「省庁間対応(Ministerial Correspondence、通称 Ministerials)」と呼ばれる記録が最も大量に作成されるもので、デフォルトの設定は2年保存(その後、廃棄)であるが、名前と役職の組み合わせ、件名の組み合わせなど、設定された8つのサーチクエリを通じて、重要と認められたものについては自動的にRNAへと指定される。このサーチクエリの開発のため、NAAは「省庁間対応」でやり取りされるメタデータ・スキーマの分析を行い、どのようなメタデータ・エレメントが重要な記録として特定されるかの評価を行ったとのことである。注27、T.Antsoupova(2015)、pp.88-90参照。 
[51] うち、110,000弱がRNAに指定されているとのことである。注27、T.Antsoupova(2015)、p.90参照。 
[52] 注22参照。2016年8月とあるが、実際の発表は2017年の4月であった。(NAAのwebsite、”Report on Australian Government progress towards digital information management published”、2017年4月13日付ポストより。Available at: http://www.naa.gov.au/about-us/media/media-releases/2017/04.aspx、Access:2017/7/14)
[53] 注22参照。
[54] なお、オーストラリア政府におけるデジタル・ストレージの購入総量については、2008-2009から2014-2015の間に46PB(ペタバイトはギガバイトの20乗倍)から291PBに上がっているが、TB(テラバイトはギガバイトの10乗倍)あたりのストレージ費用は5分の1に下がっているという。“Australian Government ICT Trends Report 2014-2015”、p.23。Available at: https://www.finance.gov.au/sites/default/files/ict-trends-report-2014-15.pdf (Access: 2017/7/14)
[55] NAAのwebサイト、Check-up Digitalより。URLは注10参照。Check-up Digitalでは、3分野(1. 業務成果の最適化、2.リスクへの取組み、3.業務システムの管理)で計18の項目にわたる成熟度につき、5段階(1が初期段階→5が最適化)で評価を行うもの。
[56] ACIL ALLEN CONSULTING (2016), ‘Report to the National Archives of Australia: CHECK-UP DIGITAL: Analysis of 2015 Survey Data’(http://www.naa.gov.au/naaresources/documents/CheckUpDigital-Analysis-20161111.pdf、Access: 2017/7/14)  (当時の全政府機関の99%に当たる168機関が回答)
[57] ‘2016 Survey of Information and Records Management Practices in Australian Government Agencies’より。Available at: http://www.naa.gov.au/naaresources/documents/2016Survey-Findings.pdf (Access: 2017/7/14)