国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門員 渡辺 悦子
はじめに
イギリス国立公文書館(The National Archives、以下「TNA」という。)は、文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media & Sports)が所管する[1]非大臣省(non-ministerial department)であり、イギリス政府、イングランド及びウェールズ政府の記録を保管する公的アーカイブズである。
TNAは現在、テラバイト規模の記録が保存可能な電子記録インフラ(Digital Records Infrastructure)を構築し、様々なかたちでデジタル化した電子記録等へのアクセスを提供しており、こうした総合的電子アーカイブズ・サービス機関としての「デジタル・アーカイブ」[2]を目指すと宣言している(We will become a digital archive by design)。こうしたTNAが今、最も検討しなければならない最大の戦略的課題は「デジタル」であるとしている[3]。
電子記録の保存・公開に取り組むTNAの活動は、2007-2011年のデジタル継続性(Digital Continuity)プロジェクトにさかのぼる。その成果は、デジタル継続性にかかる定義やガイダンス、関連ツールの開発といった形で発表されており、詳細は、『北の丸』43号(2011年、以下、「北の丸論文」という。)でも紹介されている[4]。本稿は、この北の丸論文の後を受けて、現在に至る5年間のTNAやイギリス政府の取組みを見るものである。
TNAが扱う電子記録は、ボーン・デジタル(電子環境で作成された記録)、デジタル化記録(digitised records、紙媒体記録等をスキャンした上で記録として受け入れ、保存しているもの)、デジタル代替物(digital surrogates、TNAが所蔵する紙媒体・羊皮紙等の記録を、利用に供するためにデジタル化したもの)の3種類とされている[5]。このうち、本稿でとりあげる「電子記録」は、ボーン・デジタルに限るものとする。
なお、本稿は、以後、本誌上で継続して連載を予定している、諸外国の政府及び国立公文書館における電子記録管理の取組みをとりあげる第1弾である。
1.イギリス政府における電子記録管理の現況
イギリス政府による記録管理の基本法は、Public Records Act 1958(以下「PRA」という。)である。PRAは情報技術の到来以前に作られた法であるが、記録の定義が「書かれた記録だけでなく、情報が伝達可能なあらゆる媒体を含む」(10条)とされているため、電子記録もPRAの対象である。また、記録管理についての豊富なガイダンスが、2000年に制定され2005年に施行された情報公開法(Freedom of Information Act、以下「FOIA」という。)の46条の下に規定された記録管理にかかる行動規約(Code of Practice)[6]に基づいて、提供されている。
イギリス政府機関におけるITの使用が本格的に始まったのは、1980年代という[7]。当時、電子媒体で作成された記録は、紙媒体へ出力した上で、紙媒体での記録管理方式に従いファイルされていた。この方式は2000年代まで広く普及しており、一部の機関では現在も行なわれているという。一方で、電子記録の普及により、電子記録そのものを公的記録とする方針が徐々に広まる。しかし、こうした場合でも、依然として旧来の紙媒体方式による記録管理は並行して行なわれており、これは「ハイブリッド方式」と呼ばれている[8]。
こういった電子記録は元々、個人ドライブや共有ドライブにおいて保存されていたが、1990年代以降、徐々に電子情報の管理のためのソフトウェア・パッケージが政府機関に導入され始める。外務・英連邦省(Foreign and Commonwealth Office、以下「FCO」という。)が1992年に「Aramis」と呼ばれるソフトを導入したのが最初で、1996年には、財務省により初めて電子文書・記録管理システム(Electronic Documents and Records Management Systems、以下「EDRMS」という。)が導入される。2000年代以降になると、多くの機関がこのEDRMSを採り入れはじめ、それまで行なわれていた「紙媒体への出力」方針が次第に行なわれなくなったという[9]。
2013年1月以降、政府記録の移管及び公開にかかる30年ルール(文書の作成後30年で記録をTNAに移管し公開する)から20年ルールへ移行することが決定すると、移行にかかる期間を10年とし、2022年までは2年分ずつTNAへ移管する(2013年に1983-84年分、2014年に1985-86年のように)こととした[10]。そのため、1992年に電子記録の管理を開始したFCOの記録が、2017年にTNAへ移管されることが明らかになったのである。これを受けてTNAは、2013年9月、電子記録移管プロジェクト(Digital Transfer Project、以下「DTP」という。)を立ち上げ、その対策に乗り出す。続いて2014年、アレックス・アラン卿による、政府全体の記録管理についての調査が開始され、8月に発表された「記録管理状況に関する報告(Records Review)」では、18段落を割いて電子記録管理の現状と課題が述べられた[11]。その後、DTPの一環で、イギリス政府における「電子記録管理と移管に対する準備状況調査」がTNAの主導で行なわれた[12]。この結果を受けて再度、アレックス・アラン卿が電子記録管理に特化した報告を発表し、その課題と推奨事項が明示されるに至っている[13]。
2015年6月24日、電子記録の実験的移管により、最初の電子記録がTNAに移管され、オンライン検索目録Discoveryにおいて公開された[14]。2016年には、約12の政府機関からの総計5テラバイトに及ぶ電子記録が移管される見込みとなっている。2017年に始まるFCO他2機関からの本格的かつ大規模な電子記録の移管は、それを上回るものとされる。
イギリス政府における電子記録管理についての方針はFOIA46条の下に規定された行動規約やガイダンスで示され、徐々に実施が進められてきたところであったが、20年ルールへの移行がもたらした電子記録の移管の早期化により、その課題が一気に表面化してきたのが、現在のイギリスが直面する状況と言える。
2.電子記録管理の課題
本節では、TNAが2014-15年に行った「電子記録管理と移管に対する準備状況調査報告」[15](以下「報告書」という。)に沿って、イギリス政府における電子記録管理の課題を紹介する。この報告では、政府機関における電子環境の現状と課題を確認するため、①作成・管理される電子情報の量と種類、②電子記録を管理する能力、③TNAへの電子記録の移管にどの程度備えているかの能力、の3点が調査された。以下では、当該報告書が行なう記録の移管プロセスの0~4段階(0:デジタル継続性の確保、1:評価と選別、2:センシティブ情報の審査、3:移管、4:TNAへの取込みと受入れ)に沿い、報告書と同様、政府機関が担当する0~3の各プロセスを見ていく[16]。(以下、特に注を付していないものは報告書によるものである。)
2.1 デジタル継続性(Digital Continuity)
「デジタル継続性」は、「情報を必要な方法で必要な期間使える能力」[17]と定義されるものである。報告書では、TNAに移管するまでの間、電子記録のデジタル継続性を確保することは政府機関の責任と位置づけられ、記録の移管の0段階としている。デジタル継続性の考え方やマネジメントの詳細については、北の丸論文を参照されたい。
継続性確保のプロセスにおいて、報告書が調査したのは、技術的現状(フォーマットや分量)の他、システム更新時等の「変化(change)」に備える体制等である。
前者についてはPremaveraやMS Projectなど、Adobe社のPDFやマイクロソフト社のワードといったフォーマットが導入される以前に使用されていた文書作成ソフトがまだ半数の機関で使用されていることが明らかになったため、保存方法やエクスポート時の助言の必要性が指摘されている。また、これら調査が現用記録のみの範囲内での実態の把握にとどまり、非現用のレガシー記録(現在使用されていないフォーマットや媒体に記録されている記録)に及んでいないことも問題視されている。
さらに、現在イギリス政府では、機関間で異なる記録管理システムが採用されていることから、共通のITシステムへの技術更新を推奨している。そのため、報告書に伴う調査では、81%の機関が技術更新を行なった、もしくは行なっている・検討していると回答している。こういった更新時に最も懸念されることは、旧システム内に保存されている記録のメタデータが不適切なままとなっている点である。電子記録では特に、適切なメタデータのない記録は構造化が困難となるため、メタデータは記録とセットで保存する必要がある。デジタル継続性維持のためにたとえデータのマイグレーションが行なわれたとしても、旧システム内における不十分なメタデータのままは記録の構造は再現できないままとなり、結果、記録の総体としての情報が失われかねないという状況が指摘されている。
2.2 評価・選別(Appraisal and Selection)
評価(Appraisal)とは、将来的価値のある記録を特定することであり、選別(Selection)とは、一次選別でなされた判断からどの記録をTNAへ移管するかまでの最終判断を含む、決定のプロセスと定義されている。TNAの監督(supervision)の下、これら歴史的価値のある記録を特定し、選別にかかる決定を行なうのは、政府機関の責任となっている。
電子記録の評価・選別では、そもそも記録保存の時点から、実務上の課題があると考えられている。例えば現在、記録のリテンション・スケジュールが組み込まれたEDRMSが導入されるなど、比較的適切な管理が行なわれている機関は、全体の60%にとどまっている。また、EDRMSへ記録を搭載する際に要求されるメタデータの付与はユーザ泣かせであることが指摘されており[18]、ファイルのタイトルも適切でないことがあるという。こういった適切なメタデータの欠如が検索時の不正確さを招き、その不便さによってユーザが個人や各部局等の共有ドライブのみに記録を保存しており、その結果、EDRMSには本来保存されるべき記録の一部しか搭載されていないという。調査に回答した3分の2の機関及び政府における主要11機関が、記録の主な保存先は共有ドライブと回答した上に、EDRMSを導入している機関でも、並行して共有ドライブにも記録を保存していることがわかっている。そのため、評価・選別で重要となる、何を保存するかを決定するための情報が異なるシステムやプラットフォームに散在しており、情報を全体としてとらえることが困難となっているというのである。
評価・選別プロセスにおいては、情報のクラスター化や、それにより記録の構造のより高い階層からの情報特定を行なうといった技術的課題もさることながら、記録管理の文化そのものの問題が指摘される他、記録の自動保存のあり方の検討が始まっている。
2.3 センシティブ情報の審査(Sensitivity Review)
政府機関が保有する情報は、影響度レベル(Business Impact Level)に応じ1~6段階の分類がなされており[19]、TNAに移管される記録は、この影響度レベル3(「要制限」)を超えないものとされている[20]。よって、記録に含まれる内容の影響度レベルが下がるまでは、作成機関で保存期間が延長されることになる。さらに影響度レベルにおいて移管可能とされたものであっても、FOIAに規定される非公開情報を含んでいるかの審査が必要となる。このような記録のセンシティブ情報にかかる審査は、移管前に作成機関が特定するようFOIAに定められている。電子記録の移管プロセスにおいて、イギリス政府及びTNAが現在取り組むべき最大の課題ととらえているのが、このセンシティブ情報の審査とされており、20年ルールへの移行をきっかけに審査のスピードを加速させる必要から、特に深刻に受け止められているという。
TNAは電子記録の移管プロジェクトにおいて様々なパイロット試験を行なってきたが、電子記録におけるセンシティブ情報の審査にかかる課題は、量の多さと、情報の発見の困難さにある。上述のように、電子記録は紙媒体記録ほど秩序立った構造化がなされていないため、上位の階層からの情報の特定が難しい一方で、その膨大な量ゆえに全ての文書に目を通すことが物理的に不可能という状況があるのである。
もっとも、TNAの調査によれば、政府の主要21機関が保有するセンシティブ情報の75%は個人情報とされており、こういった個人情報には特定のパターンがあるため、デジタルでの検索が容易である可能性も指摘されている。最大の壁とされるのは、コンテクストによりセンシティブ情報と見なされるものであるが、これらを含めた審査にかかる電子フレームワークの開発が、政府諸機関の資金提供の下、ノーサンブリア大学とグラスゴー大学により現在進行形で行なわれているとのことである。
2.4 電子記録の移管(Digital Transfer)
電子記録の本格的な移管が見込まれるのは、2017年のFCO等の機関からの移管であることはすでに述べた。TNAはこれまでに、受入れや移管を行なうための、
・DROID(Digital Records Object IDentifier):電子記録のフォーマットや容量を特定し、目録化に必要な必須メタデータを作るソフト
・CSV検証ソフト:電子記録のフォーマットの検証を行なうソフト
・テラコピー(Teracopy):電子記録が移管プロセスの過程で、内容等の変更が加えられないよう、保護をかけるためのソフト。
といった3つのツールをすでに開発しており、また幅広い電子フォーマットの受入れを可能とする体制を構築している。そのため、媒体の陳腐化や記録のデジタル継続性は克服されつつあるととらえられており[21]、課題は政府機関側の準備不足と考えられている。
報告書が調査したのは、各機関が保有する最も初期の電子記録がどの程度把握されているかや、アウトソースされているITシステムの課題等である。
調査は、政府機関のほとんどが、レガシー記録をどの程度保有しているかが認識されておらず、また、それらの記録がいつ作成されたかが分からないため、いつTNAに移管しなければならないかが把握されていないという深刻な実態を明らかにした。さらに、TNAが電子記録移管を行なうために政府機関に対し上記3つのソフトウェアのダウンロードを要請しているのに対し、各機関が導入しているアウトソースによる電子記録管理システムが、TNAへの電子記録移管を想定していない構造となっていることも判明している。そのため、システムに必要なソフトをインストールするのに4週間から18ヶ月かかること、またインストールとネットワークにおけるテストを行なうために、ソフト1つにつき1万ポンド(約200万円)のコストがかかることが試算されている。
記録管理システムへの更新時に、TNAへの移管にかかるシステムの埋め込みを推奨する他、DROIDの機能向上を図る更なる開発が必要とされている。この他、紙媒体記録とは異なり、電子記録の移管プロセスには最低限のITスキルが必要とされることから、それらスキルの特定も急がれている。
以上、電子記録の管理と移管にかかる課題をまとめた。上記から見えてくるのは、
・どのような記録を、どこに保存するかといった記録管理そのものにおける実務
・メタデータの不足により適切に構造化されていない記録
が核となる課題であり、電子情報そのものの性質と言ってよい「膨大な量」が、これら2点をより深刻にしていると要約できる。アレックス・アラン卿の電子記録に関する報告は、記録管理にかかる行動規約やTNAが作成した様々なガイダンスは適切であり、問題はそれをいかに実務に反映させるかであるとした[22]。その上で、電子記録管理で取り組むべきは、1つはシステムの簡便化と記録管理にかかる文化の醸成、もう1つは、既存の記録についての把握と管理であるとしている。
電子記録管理にかかる課題は一見技術的なものであるように見えて、その実態は紙媒体記録におけるものと同様、基本的な記録管理にかかる実務そのものにあるのである[23]。
3.電子記録管理と研修
電子記録の管理は、優れた管理システムといった技術だけでなく、技術を実務に生かす知識とスキルを持った人材によって支えられるものである。報告書でも、様々な形でそういった知識やスキルを身に付けるための研修の必要性が語られている。そこで最後に、TNAにより現在提供されている研修の概観を紹介したい。
3.1 TNAの提供する研修
TNAは、記録及び情報管理や情報の保全など、イギリス政府及びTNAに記録を移管する機関の職員を対象に、様々な研修を提供している。TNAの本館で行なわれる研修は、午前・午後のセッションに分けて行なわれる、一つのテーマに1日かけて行なうコースが基本となっている。現在提供されている研修は、
・電子記録の移管研修(Digital Transfer Training)
・評価・選別のための上級者コース(Appraisal and selection master course)
・目録作成と移管準備のための上級者コース(Cataloguing and preparation master course)
・選別と移管プロセスのための基礎コース(Selection and transfer process foundation course)
・デジタル継続性研修(Digital continuity Training)
の5種類がある。このうち、「選別と移管プロセスのための基礎コース」と「デジタル継続性」の両研修は、オンライン・フォームを介しての申込みとなっていることから、他のコースに比べ受講者が多いことが推測される。
上記5種類以外に、「情報保全とサイバーセキュリティー(Information Assurance and Cyber Security training)」に関する一連の研修及び説明会が、機関の情報資産管理者(Information Asset Owners)、あるいは各種運営委員会・監査委員会でのワークショップや説明会等の他、政府機関の全職員や情報管理を担当する職員向けのeラーニング教材等の形で提供されている[24]。これは、TNAが政府機関に対し情報保全に関する研修を担当していることによるものである。
その他、国民健康サービス(National Health Service、通称NHS)の記録や検視記録など、いわゆる認定保管施設(Places of Deposit)の指定を受けた地方公文書館等で管理される記録の移管に関わる職員への研修として、「20年ルールに基づく認定保管施設への移管(Implementing the 20-year rule―transferring to places of deposit)」研修が、バーミンガムやリバプール等の地方都市でも開催されている[25]。
3.2 「デジタル継続性」にかかる研修
2007-11年に行なわれた「デジタル継続性プロジェクト」では、4つの成果として、ガイダンスの作成、研修プログラム、DROIDの開発、そしてデジタル継続性を補完するソフトウェアツールの調達フレームワークの作成が挙げられている。また、「デジタル継続性」に関する研修は、2011年に開始されて以降、3年間で政府職員約500名がすでに受講したとされる[26]。アレックス・アラン卿の報告では、かつて電子記録管理における課題の主なものとして考えられていたハードやソフトの陳腐化や「デジタル継続性」については、ほぼ克服されようとしていると述べている[27]。このように、イギリス政府機関において「デジタル継続性」確保の重要性が浸透しているのは、こういった研修などの成果とも言えよう。そこで、この「デジタル継続性」にかかるガイダンスと研修について、簡単に紹介しておきたい。
TNAのウェブページ上で公開されている研修資料[28]からは、定義と意義[29]、4段階のマネジメント・プロセス(①計画、②要件の確定、③リスク評価と管理、④維持)の順で説明され、各プロセスについて説明をうける度にグループに分かれてディスカッションを行なう形式となっていることが見える。
ディスカッションのトピックを見ていくと、プロセス①では、デジタル継続性のマネジメントにはどのような人が関与する必要があるのか、またどのような動機が行動の下にあると考えられるか。プロセス②では、各機関ではどのような情報を取り込んでおく必要があるか、また情報資産とテクノロジーの関係をどのように維持するべきか。プロセス③では、架空の機関(Department of Records and Archivesか)を例にし、情報を使うことによる影響とは何か、またその情報の組織における影響は何か、さらにリスク軽減はどのように行なうか。さらにプロセス④では、架空の機関で起きた架空の問題(例:1980年代後半の宇宙探索にかかる「スポック・レポート」について開示請求を受けたが、何が移管されたかの記録が失われている)を元に、なぜそのような問題が置き、どのような是正が必要で、再発防止にどのように取り組むかをグループ毎に発表させる、といったものである。デジタル継続性とは単に技術の問題ではなく、適切な記録管理に基づくものである という考え方に対応するものとなっていることがわかる。
なお、「デジタル継続性」についてTNAが提供するガイダンスは、本表の通りである。
おわりに
以上、イギリス政府とTNAによる、電子記録管理の課題と現況及びそれに取り組むための研修を見てきた。電子記録管理における課題の多くは、技術的なものにもあり、また技術的に解決されることがある一方で、記録管理の実務全般に根ざすものであることを、このイギリスにおける取組みの例が示している。課題の抽出を終えたイギリスが、今後どのように解決を見出し、世界の「デジタル・アーカイブ機関」として自らを確立させていくかの過程を、注視していきたい。
[1]2015年9月から移行(http://www.nationalarchives.gov.uk/about/news/machinery-of-government-change-the-national-archives-moves-to-dcms/ アクセス:2016/07/19)。それまでは法務省(Ministry of Justice)の管轄であった。
[2]The National Archives strategic priorities 2015-19、p.7 :https://www.nationalarchives.gov.uk/documents/2015-16-business-priorities.pdf 、アクセス:2016/07/19。
[3]前掲、The National Archives strategic priorities 2015-19、p.2。
[4]中島康比古「イギリス国立公文書館の近年の取組―電子情報・記録の管理を中心に―」(『北の丸』43号、2011年)https://www.archives.go.jp/publication/kita/pdf/kita43_p170.pdf アクセス:2016/07/19。
[5]TNA website “Preserving Digital Records: http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/manage-information/preserving-digital-records/、アクセス:2016/07/19。
[6]Lord Chancellor’s Code of Practice on the management of records issued under section 46 of the Freedom of Information Act 2000: https://ico.org.uk/media/for-organisations/research-and-reports/1432475/foi-section-46-code-of-practice-1.pdf 、アクセス:2016/07/19。
[7]Review of Government Digital Records、p.4。2015年8月発表:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/486418/Report_-_Digital_Records_Review.pdf アクセス:2016/07/19
[8]前掲、Review of Government Digital Records、p.4。
[9]前掲、Review of Government Digital Records、p.4。
[10]村上由佳「イギリス国立公文書館視察報告」(『アーカイブズ』55号、2015年)https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_55_p10.pdf アクセス:2016/07/19
[11]Sir Alex Allan’s Records Review、pp.18-21。2014年8月発表。 https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/370930/RECORDS_REVIEW_-_Sir_Allex_Allan.pdf アクセス:2016/07/19。
[12]The Digital landscape in government 2014-2015 Business intelligence review。2016年2月発表。: http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/digital-landscape-in-government-2014-15.pdf アクセス:2016/07/19。
[13]前掲、Review of Government Digital Records。
[14]TNA website, News “The National Archives received first born-digital records from government departments”: http://www.nationalarchives.gov.uk/about/news/national-archives-receives-first-born-digital-records/ 、アクセス:2016/07/19。なお、移管された記録はウェールズ政府からのウェールズ語製作にかかる言語委員会の記録。
[15]前掲、The Digital landscape in government 2014-2015 Business intelligence review。
[16]Gateway 4はTNA側の準備状況にかかるものであるため、報告書でも取り上げられていない。
[17]前掲、北の丸論文。原文は「the ability to use your information in the way you need, for as long as you need」。なお、デジタル継続性の詳細については、同論文pp.171-176を参照。
[18]前掲、Review of Government Digital Records、p.4及びSir Alex Allan’s Records Review、p.18。
[19]影響度レベルについてのイギリス政府の公式文書はweb上に見当たらないが、複数のIT企業のウェブサイトに「United Kingdom Business Impact Levels (BIL), Guidelines & Destruction Procedures Explained」が紹介されている(http://degaussers.eu/business-impact-levels.asp やhttp://www.shreddingmachines.co.uk/business-impact-levels.asp アクセス:2016/07/19)。政府が保有する情報のセキュリティ分類(Government Security Classification Scheme、https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/251480/Government-Security-Classifications-April-2014.pdf、アクセス:2016/07/19)は、2014年にこれまでの6段階(unclassified, Protect, Restricted, Confidential, Secret, Top secret)から、3段階(Official〔Official-sensitive〕, Secret, Top secret)に変更され、Officialに該当する記録はunclassified(IL1)からConfidential(IL4)までを含むものとなったが、影響度レベルは現在のところ旧来の6分類を継続すべき(第37段落)としつつ、見直し中とされている。TNAに移管される文書の境界となる「影響度レベル3」は、「Restricted(要制限)」に該当。
[20]Digital Records Transfer、Step 3 “Sensitivity Review”、‘Applying for closure on transfer:http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/manage-information/selection-and-transfer/digital-records-transfer/digital-transfer-steps/ アクセス:2016/07/19。
[21]前掲、Sir Alex Allan’s Records Review、p.18。
[22]前掲、Review of Government Digital Records、p.6。
[23]これを、アレックス卿によるReview of Government Digital Recordsは“good record management”が重要であると説く。なお、技術的課題に関わる調査もTNAは行なっている。本稿では触れなかったが、「The application of technology-assisted review to born-digital records transfer, Inquiries and beyond: research report」も参照されたい(http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/technology-assisted-review-to-born-digital-records-transfer.pdf アクセス:2016/07/19)。
[24]Information Assurance and Cyber security training:http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/training/information-assurance-training/ アクセス:2016/07/19。エジンバラやバーミンガムといった地方都市でも説明会イベントが開催されている(Information Management Newsletter、2015年5月号:http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/information-management/im-newsletter-may-2015.pdf アクセス:2016/07/19)。なお、一連の研修については、2016年4月以降、教材の見直しにより現在は開催を中止しており、年度後半より再開の予定とのことである。
[25]Implementing the 20-year rule –transferring to places of deposit: http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/training/implementing-20-year-rule/ アクセス:2016/07/19。なお、この他にTNAは、アーカイブズ・セクター全体を対象とした研修も提供している(http://www.nationalarchives.gov.uk/archives-sector/training/ アクセス:2016/07/19)。
[26]TNAブログ、Jo Moorsheadによるポスト”Building the future and preserving the past”(2014年10月1日付):http://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/building-future-preserving-past/ アクセス:2016/07/19。
[27]前掲、Sir Alex Allan’s Records Review、p.18。
[28]Digital Continuity Training:http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/training/dc-training/ アクセス:2016/07/19。
[29]なお、研修資料には、デジタル継続性が失われることにより引き起こされる問題の一つに、日本の「消えた年金問題」が取り上げられている。
[30]前掲、TNAブログ、Jo Moorsheadによるポスト“Building the future and preserving the past”。