電子記録管理の現在~スペイン政府の場合~

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門員 渡辺 悦子

1.はじめに
   第61号より連載を開始した「電子記録管理の現在」は、今号ではスペイン政府の取組[1]を見る。 
   情報技術の発展は多くの国に電子政府構築の流れをもたらしている。スペイン政府でもそれは例外ではない。スペインの場合、国を挙げての電子政府化の取組の中で、市民に対する行政サービスの基盤であり、かつ活動の文脈を記録する電子記録[2]の環境整備は第一に掲げられ[3]、早い段階から対応が検討されてきた。そもそも電子化した行政活動の中では、作成・収受される記録も電子化されるのであるから、電子政府化の流れと、電子記録管理は切り離せないものと言えよう。
   そこで、本稿ではまず、スペイン政府における電子政府化の動きを概観し、その大きな枠組みの中で実施されている電子記録管理の状況を見ていくこととする。なお、スペインにおける行政記録の管理体制は表「スペイン政府の行政文書管理体制」のとおりである。適宜参照されたい。

2.電子政府化への取組と全国相互運用化構想
2.1 電子政府化への取組

   スペインの電子政府化の取組は、2000年代半ばから本格的に開始されている[4]。初期の活動は、全国的に不均衡だった情報技術基盤インフラを整えることを中心としつつ、国と自治体、EU圏の国々とのデータ交換を進めるためのものであった[5]。電子政府化にかかる法的基盤となったのが、2007年に制定された「市民による行政サービスへの電子的アクセスに関する法」[6](以下、「電子政府法」とする。)である。本法は、行政機関の市民サービスは電子的に行うことを原則とするもので、電子的手段による行政手続きの主要要素を規定し、規定された事柄を行政機関間の協力で行うよう定めている。この法により、スペインの公共セクター(政府機関、自治州・基礎自治体政府、大学、裁判所等)は、その活動の電子的基盤を整備することが法的に義務付けられたのである。
   スペインの電子政府化を主導する財務行政省情報通信技術総局の、副局長M.A.アミュシオ氏によれば、当時のスペイン政府は電子政府化を進める過程で多くの課題を抱えていたという[7]。スペインには、行政機関だけでも政府機関のほか、17の自治州政府、2つの自治都市、そして約8,000にのぼる基礎自治体があり、それぞれが組織的構成や業務手段、技術的基盤等が幅広く異なる一方で、行政サービスの電子化が推し進められつつも共通のルールやインフラがなく、異なるシステムの乱立が進む一方であった。そのため、市民が等しく行政サービスにアクセスできるよう、より改善した相互運用化の努力が急務と考えられるようになったのである。そこで政府が着手したのが、全国相互運用化構想(National Interoperability Framework[8]、以下、「NIF」とする。)であった。現在、スペインにおける電子政府化の成果として、電子IDの共有化や省庁をまたがるネットワークの構築、自治州・市町村レベルの公的機関を含めた行政情報公開システムの構築といった様々な取組が紹介されている[9]が、これらを下支えしたのが、NIFなのである。

2.2 NIF―全国相互運用化構想
   相互運用性(Interoperability)とは、「異なる様々な機関同士が、相互利益のもとに合意した共通の目的に向かって交流する能力。それぞれがサポートする業務プロセスを通じ、各々のICTシステム間でデータを交換する手段によって情報や知識を共有することを含む」と定義される[10]。スペインにおけるNIFの動きは、2009年9月の欧州議会決定(922/2009/EC)により、ヨーロッパ相互運用化構想(European Interoperability Framework)が策定されたことを受けた、EUとの関わりともあわせて本格化したものである。
   NIFは、前述の電子政府法でその策定が定められたものであり、同法第42条の第1項[11]でNIFとは、「市民の公共サービスへの電子的アクセスのための一連の基準と安全性の推奨、相互互換性を保証する技術的決定のため、行政が検討しなければならない情報・フォーマットとアプリケーションの標準化とその維持」を行うものとされている。
   EUの決定と国内における電子政府法を受けて、2010年1月、スペイン公共セクターにおける相互運用化を規定する、「電子政府における全国相互運用化構想を規定する勅令」(以下、「4/2010勅令」とする。)[12]が制定された。本勅令は、電子政府の法的枠組における相互運用性に関する要件を包括するものであり、電子政府法で義務付けられた相互運用性を確保する組織的・技術的手段、標準インフラとサービスの構築等の基準を具体化する内容となっている[13]。
   NIFの核となるインフラ整備事業のひとつとして挙げられるのが、「SARAネットワーク (Red SARA)」と呼ばれるスペイン公共セクターのイントラネット・サービスである[14]。SARAは、各行政機関によって異なる情報システムを連携し、その相互運用の増進をはかって、システムの統合やデータ/ソフトウェアの交換を促進するものとされ、現在すでに、16の省、全自治州(17)と自治市(2)、3,708の基礎自治体という、人口の約90%をカバーする行政組織が参加するに及んでいるという[15]。近年はこれにCloud SARAと呼ばれるクラウド・サービスが搭載され、多元的な活用が期待されている。
   このような4/2010勅令に、「電子記録の回収と保存」に関するセクション(第10章)[16]」が設けられていることは、特筆すべきであろう。以下では、このようなNIFの枠組みにおける電子記録とその管理の整備を、詳しくみていきたい。

2.3 NIFにおける電子記録管理
   電子政府法における電子記録は、「電子的な形で、あるフォーマットにおいて電子的デバイスにより保存されている、あらゆる性質の情報」と定義されている[17]。電子政府法ではまず、こうした電子記録が、市民が行政プロセスに電子的にアクセスをする際の基盤の一つであることに鑑み、電子化にあたりその信頼性を確保するための環境整備への注目と、「電子記録は電子的に保存」されるべきこと、保存に当たっては「真正性・信頼性・完全性・利用性を保証」することが規定されている[18]。
   この電子政府法を受け、4/2010勅令では行政機関が電子記録のライフサイクルを通じてその回収と保存における「相互運用性を担保」する為の必要な手段を採用すること、そして行政機関は伝統的アーカイブズ [19]に相当する電子レポジトリを構築することが定められた[20]。その上で、それらを実現するための技術的標準の策定を行うことが、追加条項[21]に明記された。この追加条項を実現するために、財務行政省の主導のもと全ての政府機関が協同で策定、合意にいたったのが、各種の「相互運用化のための技術的標準(Technical Interoperability Standard[22]、以下「技術的標準」とする。)」である。策定された合意は12の分野にわたり[23]、そのうち、電子記録とその管理に直接関連するものは、「電子記録」「電子ファイル」「目録標準」「記録のデジタル化」「電子記録管理方針」及び「原本の複製とフォーマット変換」の6件にのぼる。ここでは特に、「電子記録」[24]と「電子ファイル」[25]に注目してみたい。
   上述のように、スペインの行政機関における電子記録は、NIFに基づき、「相互運用可能」でかつ保存の際には真正性・信頼性・完全性・利用性が保証されていなければならないとされた。このような要件を実現するため技術的標準が定めたのは、「電子記録」「電子ファイル」へのメタデータ付与と、その義務化である。
   メタデータとはしばしば「データについてのデータ」と説明される。対象となるモノについての情報/データであり、たとえばある電子記録の「作成者」や「作成日」なども、その電子記録についてのメタデータである。記述する対象が何であるかを伝える役割があり、またその対象を検索する際の手がかりともなる。紙媒体・電子媒体を問わず、メタデータはあらゆる記録の保存・管理に不可欠なものであるが、物理的な実体を持たない電子記録では、他の記録とのコンテクストの維持等において特に重視されている[26]。
   技術的標準では、電子記録の要件について、1)「内容」、2)「電子署名」、3)「メタデータ」の3つが揃ったものと定義している。また、電子ファイルは、上記3つの要件を満たした「電子記録」と「電子的インデックス」、「電子署名」とあわせ、こちらも「メタデータ」を要件のひとつに定義している。両技術的標準ではまず、付与すべき最低限の必須メタデータを規定しており、そのエレメント・セットが示されている。注目すべきは、このようなメタデータを電子記録・電子ファイルの作成の際に付与することを義務(obligation)としていることと言えよう(もっともこれらメタデータはXMLスキーマにおいて記述されるものであり、ディスプレイ上に表示されるわけではない)[27]。なお、NIFにおける電子記録/電子ファイルの技術的標準で策定されたメタデータは最低限の必須メタデータのみとなっているが、こういった必須メタデータのほかに補助的メタデータ・追加的メタデータを含む電子記録管理に関わる全体的なメタデータ・モデルとして、「e-EMADGE(電子記録管理のためのメタデータ・スキーマ)」[28]も策定されているので、あわせて参照いただきたい。
   これら電子記録や電子ファイルは、2013年にサービスを開始した、INSIDE[29]と呼ばれる電子記録の保存と管理のためのシステムにおいて管理されている。このINSIDEは、SARAネットワーク(2.2参照)を通じて提供されており、記録をシステムに取り込む際に必要なメタデータの付与等が自動で行われるほか、各機関が必要に応じてe-EMDGEによるその他の補助的メタデータ等の設定を加えることが可能な仕様となっているとのことである。このように、全ての電子記録にその構造や検索性等の維持を保証する公的セクター共通のメタデータの付与が制度化されたことは、非常に意欲的な取組と言えよう。
   なお、4/2010勅令の制定後、行政機関が作成するあらゆる電子記録にはメタデータの付与が義務付けられたわけだが、それ以前の紙媒体文書の扱いについては、「行政による通常行政手続法(以下、「39/2015法」とする。2016年10月2日施行。)[30]」において、暫定的に「本法発効前に作成された文書は、可能な時に、規定に沿った要件によって電子化しなければならない」と定められている。
   こうして、電子政府法以降、電子記録とその管理に関わる整備により新たな法的義務等が加わったことを受け、2011年、「スペインの公文書制度の確立と国家行政による公文書制度並びに公的機関、そのアクセス体制の規定に関する勅令」[31]が制定された。この勅令は、これまで「スペインの歴史遺産に関する法」(1985年)等に基づき行われていた行政記録等の管理について、より体系的にその管理体制を明らかにしたものである。歴史的記録や行政記録に関する管理システム、各公文書館の役割、記録のライフサイクルを通じた管理の流れや文化遺産としての保護・普及、アクセスに至る、スペインにおける歴史的記録・行政記録の管理体制を詳細に整理し、電子記録とその保存には、第3章の第4節(20条~22条)を費やしている。
   以上よりスペインでは、電子政府化の取組の中から電子記録管理の整備に後押しされる形で、記録の作成から永久保存・利用に至るアーカイブズ制度全体を見通す法整備に至ったと見ることができるかもしれない。

3.電子記録管理の課題と改善へ向けた取組
3.1 電子記録の課題

   次に、上述してきた諸制度が実際に運用されるにあたって、どのような課題が見出されているかについてみていきたい。
   2013年2月から2014年10月の間、電子政府化を主導する財務行政省によって、NIFの実施状況を追跡するため、6度にわたってアンケートや自己評価方式による調査が行われた。特に最後に行われた2014年秋の調査では、電子記録やその管理について、「電子記録管理方針」の策定の有無や、技術的標準に基づいて電子記録、電子ファイルの作成が行われているか、また伝統的アーカイブズと同様の電子レポジトリを設置しているかといった、4/2010勅令や技術的標準に即した16に及ぶ設問を設けたアンケートが回収されている[32]。調査の結果で明らかになったのは、電子記録管理における進展は、NIFの様々な分野の中で最も状況の悪いものの一つであるということだった[33]。課題に挙げられる諸点[34]をまとめると、以下のようになる。
i) 電子記録管理方針の策定が進んでいない。
ii) 機関横断的な協力体制が不足している。
iii) 電子記録の最終的保管場所となる「電子レポジトリ」が未整備のため、各機関/部署のサーバに記録が滞留している。
iv) 記録管理におけるスタッフの研修が不足し、記録遺産の重要性を認識する「文化」が欠如している。
いずれも、前回のイギリス政府で見られた状況に類似した状況と言えるだろう。

3.2 電子記録管理の改善へ向けて
3.2.1 電子記録管理方針の策定の義務化

   2.3で述べたように、技術的標準には「電子記録管理方針」の策定に関する標準[35]も含まれている。これは「電子記録」や「電子ファイル」の技術的標準の翌年に行政担当大臣[36]の承認を経て発効されたもので、管理方針が含むべき内容、規定すべき事項[37]が定められたものとなっている。管理方針は、技術的標準だけでなく、「電子記録管理方針モデル(POLÍTICA DE GESTIÓN DE DOCUMENTOS ELECTRÓNICOS: Modelo)」や「電子記録管理方針策定ガイド(POLÍTICA DE GESTIÓN DE DOCUMENTOS ELECTRÓNICOS: Guía de aplicación de la Norma Técnica de Interoperabilidad)」といった関連するガイダンスが出されており、財務行政省がその普及に努めている。M.A.アミュシオ氏によると、管理方針は作業計画や実施、記録の管理プログラムのタスク管理など記録管理のライフサイクルの様々な段階の作業を含むことから、各省がこれらを策定すること自体が記録管理の認識向上と研修を兼ねるものとなることが期待されているとのことである。
   ちなみに、電子記録管理方針のベスト・プラクティスとしては、取組を主導する財務行政省のもの[38]が挙げられている。策定にあたっては、3.1のii)で示した横断的協力体制の不足という課題の克服を兼ね、電子政府を推し進める財務行政省内の12の組織と教育・文化・スポーツ省(スペインのアーカイブズ管理の調整主体を務める省[39])の、IT技術者及びアーキビストが横断的チームを形成して取り組んだものである[40]。

3.2.2 専門家グループの設置
   電子記録や電子ファイル、電子アーカイブといった特定エリアについて、様々な分野の行政機関における専門家間の協力を改善することを目的とし、2016年、電子記録・電子ファイル及び電子アーカイブに関する2つの専門家グループが設置されている[41]。1つは政府行政機関の枠組みにおけるもの、もう一つは自治州・基礎自治体政府並びに公立大学の枠組みにおけるものである。それぞれ財務行政省と各省の中央アーカイブ、国立行政文書館、国立歴史文書館の協働の取組となっているとのこと[42]で、今後、成果の報告が待たれる。

3.2.3 統合電子アーカイブ(archivo electrónico único)の構築
   2.3で触れたように、NIFに基づく技術的標準の諸要件をそなえた現用文書管理システムであるINSIDEは構築されたものの、同システムはあくまで現用記録管理の範囲にとどまるものであった。法令には記録のライフサイクルを通じて、中・長期的に電子記録の保存・管理を行う電子アーカイブを各省に設置することが求められていた一方で、それを全省的に実現するシステムの開発が急がれていた。
   そこで、2015年に制定された39/2015法では、2017年10月2日までに各省はそれぞれの電子レポジトリを設置すること[43]、さらに2018年10月2日までに、スペインの行政機関はそれら電子レポジトリを統合した、単一の電子アーカイブを構築することが義務付けられた。当該法の序文では、この統合電子アーカイブはやがて国立歴史文書館までつながるシステムとなることとされている[44]。
   この実現のために、2015年10月、電子記録のライフサイクルを通じて長期保存と管理が可能なwebアプリケーションARCHIVE [45]が発表され、サービスを開始した。M.A.アミュシオ氏によると、ARCHIVEは今のところ、各省にそれぞれ設置されるための電子レポジトリとしての機能に留まっており、全省のレポジトリをあわせた「統合電子アーカイブ」に耐えうる仕組みにはなっていないという。電子記録は伝統的な紙媒体記録と同様、各省での管理を終えた後には国立行政文書館(中間書庫)、国立歴史文書館と移管される。ARCHIVEにおいて、これら次の段階の管理機関へつなぐ機能をどのように開発するかについては、財務行政省と両文書館を管轄する教育・文化・スポーツ省との間で検討がなされているとのことである。

3.2.4 研修の実施
   2014年に行われた調査結果において、電子記録管理は、多くの新しい制度や法的義務の生じる標準が策定されたことにより、日々の業務で電子記録を作成する職員やICT部門の職員にとって、かつて経験したことのない問題として受け止められていることが記載されている[46]。いずれの国においても、電子記録管理者を悩ませている状況は似たようなものと言える。そこで重要となって来るのは、やはり職員の研修となってくるであろう。
   スペイン政府における電子記録管理の研修は、各省内でそれぞれに行うことが、前述の電子記録管理方針のための技術的標準に見える[47]。教育・文化・スポーツ省中央アーカイブズ副長のB.デサンテ氏によると、2015年に同省が文書管理方針を策定して以降、電子記録管理に特化した研修を省の職員を対象に開催しているとご教示いただいた。
   同省で行われている研修は15~20名程度と小規模な教室規模で行われ、期間は3~4日間にわたるという。カリキュラムは、電子記録にかかる法的制度やその管理に関する技術的標準、メタデータ・スキーマ「e-EMADGE」の適用方法等に関する講義が行われた後に、電子記録のスキャンやINSIDEの使用方法等に関するワークショップを行う構成となっており、これら研修は、全てICTセクションの専門スタッフとの共同で開催しているとのことである。カリキュラムの詳細は、「電子記録管理についての研修カリキュラム」[48]を参照されたい。

おわりに
   以上、スペイン政府における電子記録管理制度とその取組を見てきた。電子政府化により多様な公的セクター機関同士の相互運用化をはかる中で、そういった相互運用に欠かせないメタデータとメタデータ・スキーマの整備が、電子記録の保存と管理にも欠かせないものであったことで、両者の取組が互いの目的に有益に働き、結実しようとしている事例と言えるであろう。
   とはいえ、実際の運用にあたっては未だ様々な困難を抱えている。2年後の完成を目標とされている各省庁間による統合電子アーカイブの構築と、システムが将来的に国立歴史文書館で永久保存されていくことへの継続性を保つまでには、まだ課題が山積しており、財務行政省内部でも、2年後という期限は不可能ではないかと危ぶむ声も寄せられている[49]。その一方で、完全実用化が進めば、世界でも屈指の電子記録管理体制が整うに違いなく、今後の動向が注目されるところである。

本稿作成にあたり、財務行政省情報通信技術総局副局長のM.A.アミュシオ(Muguel A. Amutio)氏と、教育・文化・スポーツ省中央アーカイブズ副長兼プログラミング・コーディネーション担当上級副部長のB.デサンテ(Blanca Desantes, Fernández)氏には、お時間のない中、多大なご協力をいただいた。ここに伏して謝意を表したい。

——

[1] 「スペイン政府の取組」とは、電子政府化とそれに関する諸規程・標準化を担当する財務行政省とそのICT担当職員、また電子記録管理については同省とICT担当職員と財務行政省アーカイブによる取組を指す。
[2] スペインの法令では、管見の限りでは「記録」や「記録」に関する言葉は、おおよそで「documento」が現用記録、「archivo」が非現用記録として使用されている。筆者の言語的限界から、各単語が意味する範疇を明確にすることはできないが、後述する勅令4/2010(注[12])では英語版が刊行されており、そこではスペイン語原文で「Recuperación y conservación del documento electrónico」(第10章の表題)とあるものがスペイン政府により「Recovery and preservation of the Electronic Records」と英訳されていることから、本稿では原文に「documento」とあったものは「記録」で統一したことを申し添えておく。また、本稿では、「記録」は文書や記録を含む語として使用し、そのうち、行政機関によって作成された記録を「行政記録」としている。また、「電子記録」は、行政機関が作成した記録の電子化されたものとしている。
[3] 市民による行政サービスへの電子的アクセスに関する法(Ley 11/2007, de 22 de junio, de acceso electrónico de los ciudadanos a los Servicios Públicos、英文の論文ではeGovernment lawと通称されている)の前文(「策定の動機」(EXPOSICIÓN DE MOTIVOS))、第3節より。available at: https://www.boe.es/buscar/act.php?id=BOE-A-2007-12352(アクセス:2016年10月14日)
[4] eGovernment in Spain (2015年10月, ver.18)、 pp.29-30。available at: https://joinup.ec.europa.eu/sites/default/files/ckeditor_files/files/eGovernment%20in%20Spain%20-%20February%202016%20-%2018_0_4_00.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[5] 前掲、eGovernment in Spain、p.29
[6] 前掲、注[3]参照。
[7] Miguel A. Amutio (2014), ‘The National Interoperability Framework of Spain, a Global Approach to Interoperability Integrated in the eGovernment Legal Framework’、Joinup、2014年10月14日公開、European Commission, available at: https://joinup.ec.europa.eu/sites/default/files/NIF_Spain_Global_Approach_to_Interoperability.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[8] スペイン語ではEsquema Nacional de Interoperabilidadで、ENIと略される。
[9] 髙木弘康「欧州の電子政府に関する取組の最新動向:第2回 英国及びスペインにおける電子政府の取組事例」、株式会社日立コンサルティングのwebサイト「ナレッジ&コラム」より。available at: http://www.hitachiconsulting.co.jp/column/europe_egovernment/02/index.html (アクセス:2016年10月14日)
[10] Decision No 922/2009/EC of the European Parliament and of the Council of 16 September 2009 available at: http://ec.europa.eu/isa/documents/isa_lexuriserv_en.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[11] 条文は注[3]のリンク参照。
[12] Real Decreto 4/2010, de 8 de enero, por el que se regula el Esquema Nacional de Interoperabilidad en el ámbito de la Administración Electrónica. 本勅令は、英語版が出ている。avairable at: http://administracionelectronica.gob.es/pae_Home/dms/pae_Home/documentos/Estrategias/pae_Interoperabilidad_Inicio/pae_Esquema_Nacional_de_Interoperabilidad/ENI_INTEROPERABILITY_ENGLISH_3.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[13] 前掲、Miguel A. Amutio (2014), ‘The National Interoperability Framework of Spain, a Global Approach to Interoperability Integrated in the eGovernment Legal Framework’。
[14]電子政府ポータルサイト、PAeの’Red SARA’ 参照。avairable at: https://administracionelectronica.gob.es/ctt/redsara#.WCAe4hu7qM8(アクセス:2016年10月14日) 
[15] 前掲、eGovernment in Spain, p.49。
[16] 第10章 「Recuperación y conservación del documento electrónico」。条文は前掲、注[12]。
[17] 電子政府法「付録 定義」 j) Documento electrónicoより。条文は前掲、注[3]。
[18] 前掲、「電子政府法」の前文と第29条、第31条。条文は注[3]参照。
[19] 「表(PDF)」にあるように、スペイン政府の行政機関では、各省毎に中央アーカイブズ(Archivos Generales/Centrales delos Ministerios)が設置され、中間書庫に送られる前に行政文書の業務シリーズ分類や評価選別等の業務を行っている。
[20] 4/2010勅令、第10章第21条。なお、スペインにおける「法」と「勅令」の法的関係は、「法」が上位にあり、「法」が定めた特定の分野の発展を要求し、当該分野をより具体化して規定するのが「勅令」となる(M. Amutio氏のご教示による)。
[21] 4/2010勅令、第12章の追加条項1(First Additional provision)。条文は前掲、注[12]参照。
[22] スペイン語では、Norma Técnica de Interoperabilidad。NTIと略される。
[23] その他は、「電子署名」、データ交換を仲介する主体や交換のプロセスに関する「データ仲介プロトコル」、「データモデル」、スペイン行政ネットワークRed SARAへの「接続要件」、「公的なレジストリ間のインポート/エクスポートのためのデータモデル」、「公共セクター情報の再利用」。
[24] 2011年7月19日発効。
[25] 発効は電子記録と同様、2011年7月19日。
[26] 前号の、イギリスの電子記録管理の現場でも、作成された電子記録のメタデータの不足が課題となっていることを述べた。
[27] さらに、これらメタデータとあわせて、XMLスキーマによるデータ交換形式も規定している。
[28] ‘Esquema de Metadatos para la Gestión del Documento Electrónico’の略。オーストラリア政府のAustralian Government Recordkeeping Metadata Standard Version 2.2がベース(p.10、またメタデータの比較がp.102にある)。技術的標準におけるメタデータと共に、財務行政省と当省に所属するアーキビストにより開発。初版は2012年10月刊であるが、2016年9月に2版が刊行されている。なお、同じ頃(2012年7月)、CNEDA(La Comisión de Normas Españolas de Descripción Archivística、スペイン・アーカイブズ記述標準委員会)により、スペイン国内のアーカイブズ資料を記述するための概念モデル‘Report on the work of CNEDA(2007-2012): toward a conceptual model for archival description in Spain’が策定されている。e-EMDGE策定とは別個のプロジェクトではあるが、同メタデータや技術的標準のメタデータ策定に当たったメンバーが当該概念モデル構築に関わっているとのことであり(スペイン文化省、B.デサンテ氏よりご教示)、e-EMDGEとCNEDAの概念モデルの関係性を今後確認したいところである。
[29] http://administracionelectronica.gob.es/ctt/inside#.V_SWUBvr2M8(アクセス:2016年10月14日)
[30] Ley 39/2015, de 1 de octubre, del Procedimiento Administrativo Común de las Administraciones Públicas。同法17条で、これまでの電子政府法や4/2010法にも電子レポジトリの記述はあったが、本法ではこれまでになかった、「deber (mustにあたる、「~しなければならない」)が入った。実施の年限については、法の末尾にある「電子レジストリと単一の電子アーカイブについての移行に関する条項(Disposición transitoria segunda. Registro electrónico y archivo electrónico único)」に見える。available at: https://boe.es/diario_boe/txt.php?id=BOE-A-2015-10565(アクセス:2016年10月14日)。
[31] ‘Real Decreto 1708/2011, de 18 de noviembre, por el que se establece el Sistema Español de Archivos y se regula el Sistema de Archivos de la Administración General del Estado y de sus Organismos Públicos y su régimen de acceso’。法令の日本語名称は、野口健格氏に拠った(野口健格「世界のアーカイブズ: スペイン」『アーカイブズ要論』(尚学社、2014年2月発行)所収)。
[32] 電子政府ポータルサイトPaeにアンケートが全文掲載されている。available at: http://administracionelectronica.gob.es/pae_Home/dms/pae_Home/documentos/Estrategias/pae_Interoperabilidad_Inicio/Normas_tecnicas/20141009_ENI_Cuestionario_seguimiento_octubre.xlsx (アクセス:2016年10月14日)
[33] M. A. Amutio, ‘Compliance with the National Interoperability Framework (ENI) follow-up’, available at: http://administracionelectronica.gob.es/pae_Home/dms/pae_Home/documentos/OBSAE/pae_Notas_Tecnicas/20150228-nota-OBSAE-tecnica-ENI-99-FINAL_EN.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[34] 前掲、M. A. Amutio, ‘Compliance with the National Interoperability Framework (ENI) follow-up’及びG. B. Pretel ‘El archivo electrónico es la última etapa del documento electrónico’、available at: http://administracionelectronica.gob.es/pae_Home/dms/pae_Home/documentos/OBSAE/pae_Notas_Tecnicas/2015-07-nota-tecnica-archivoelectronico.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[35] 電子記録や電子ファイルの技術的標準より約1年後の、2012年6月26日に承認を受け、発効している。
[36]Secretario de Estado de Administraciones Públicas。スペイン語版「電子記録管理方針の策定に関する技術的標準」参照。avairable at:https://www.boe.es/buscar/act.php?id=BOE-A-2012-10048 (アクセス:2016年10月14日)
[37] 記載すべき内容として挙げられているのは以下の通り。1.適用範囲、2.関連する当事者とその役割、3.記録管理プロセスの構造と展開、4.研修の取組、5.記録管理プロセスに対する監督と監査、6.更新の方法。このうち、記録管理プロセスは、①取込み(captura)、②登録(registro)、③分類(clasificacion)、④記述(descripcion)、⑤アクセス(acceso)、⑥判定(calification)、⑦保存(Conservación)、⑧移管(Transferencia)、⑨廃棄と処分となることが見える。
[38] 財務行政省電子記録管理方針 (Política de gestión de documentos electrónicos MINHAP)。 初版は2014年に発表、現在は第2版(2016年発表)available at: http://www.minhap.gob.es/Documentacion/Publico/SGT/POLITICA%20DE%20GESTION%20DE%20DOCUMENTOS%20MINHAP/politica%20de%20gestion%20de%20documentos%20electronicos%20MINHAP.pdf (アクセス:2016年10月14日)
[39] Real Directro1708/2011、第4条。条文は前掲、注[32] 参照。
[40] 前掲注[35]、G. B. Pretel ‘El archivo electrónico es la última etapa del documento electrónico’。
[41] M.A.アミュシオ氏のご教示による。
[42] M.A.アミュシオ氏のご教示による。
[43] なお、この39/2015法による電子レポジトリの設置は、中央政府だけでなく、自治州や基礎自治体等の行政組織全てを対象とするものである。
[44] 前掲注[30]、39/2015法の序文、第5章。
[45]電子政府ポータルサイトPae「ARCHIVE」より。available at: http://administracionelectronica.gob.es/ctt/archive#.V_SWgBvr2M8 (アクセス:2016年10月14日)。またARCHIVEのマニュアルによれば、アプリケーションはOAISモデルに基づく構造となっている。INSIDEと同様、SARAネットワークを通じてサービスが提供されている。
[46] 前掲、 M. A. Amutio, ‘Compliance with the National Interoperability Framework (ENI) follow-up’及びG. B. Pretel ‘El archivo electrónico es la última etapa del documento electrónico’。
[47]「電子記録管理方針の策定に関する標準」、第9章。なお、中間書庫である国立行政文書館と、歴史的公文書等を保存する国立歴史文書館は、教育・文化・スポーツ省の管轄に属するため、同省により職員研修が行われている(B.デサンテ氏のご教示による)。
[48] B.デサンテ氏より送付いただいた、「PROPUESTA DE ACTIVIDAD FORMATIVA version1.0 ”La gestión de los documentos electrónicos en el MECD. Marco normativo, Política y procesos”」と「PROPUESTA DE ACTIVIDAD FORMATIVA version1.1 “Conceptos y procedimientos básicos de gestión documental y archivos electrónicos. Digitalización y transformación de documentos electrónicos”」による。
[49] G.ブストス(G. Bustos、財務行政省次長 Subdirector general del Ministerio de Hacienda y Administraciones Públicas)による寄稿、‘6 fechas cruciales del archivo electrónico único’(「統合電子アーカイブズについての6つの期限」)、LegalToday.comの2016年6月13日付記事。available at: http://www.legaltoday.com/blogs/transversal/blog-administracion-publica/6-fechas-cruciales-del-archivo-electronico-unico# (アクセス:2016年10月14日)。