令和4年度国立公文書館企画展(第1回・第2回)開催報告

国立公文書館 統括公文書専門官室
展示担当 高橋 喜子
市川 超大

Ⅰ 令和4年度第1回企画展「江戸城の事件簿」開催報告(高橋)

1.概要
  国立公文書館(以下「当館」という。)は、「北丸」(北の丸)というかつては江戸城の一部であった場所に位置している。北桔橋門に近く、当館4階南側の窓からは天守台の石垣が見える。大手門が表門とすれば、北桔橋門は裏門。いわば江戸城本丸の搦手(からめて)を見渡せる場所に当館は位置しているのである。しかし、これまで当館では、身近にある江戸城をテーマとした展示会を開催したことがなかった。そこで、当館の立地を活かした展示会として、「江戸城の事件簿」を企画した。

2.テーマの決定と構成の検討
  「江戸城」をテーマにした展示で、所蔵資料としてまずイメージできるのが江戸城の図面である。当館では多くの図面を所蔵している。しかし、彩色が施された図面を展示する場合、スペースや展示期間に制約がある。そのため、図面だけで展示を構成することは難しいので、江戸城で起きた「事件」に注目した。多くの人が出入りする江戸城では、日々様々な事件が起きていた。中には複数の死傷者が出た衝撃的な事件もあった。展示会では、事件に関する記録とあわせて、事件現場を図面で示すことで、江戸城の空間をよりリアルに感じてもらえると考えた。また、江戸城が見舞われた災害も広く事件として捉えることとした。特に、火災を主とした災害に注目すると、江戸城の御殿の変遷も同時に垣間見ることができるという効果もあった。こうして本展の構成が決定した。

3.資料調査
  本展企画者はこれまでに、当館所蔵の江戸城関係絵図について調査研究を行い、その成果は「江戸城関係絵図解題」として当館の紀要である『北の丸』に2回に分けて掲載している[1]。本展はこの調査研究がきっかけとなっている。調査当初は、特に展示を意識していたわけではなかった。しかし、当館所蔵の江戸城関係絵図の全容を把握できたことで、何らかの形で展示に活かすことはできないかと思い始めたことが今回の企画につながった。
  また、本展では『江戸幕府日記』をはじめ、江戸幕府由来の記録類を展示することを特に意識した。江戸幕府では各部署で日記をはじめとした様々な記録類が作成されており、当館には数多く所蔵されている。他の機関に写本が残されている資料もあるが、多くは、当館が原本を所蔵しているか、当館しか所蔵していない資料である。そうした江戸幕府由来の記録類を調査し、できるだけ多く展示することを試みた。

4.展示の内容
  展示は以下の構成とした。

プロローグ 江戸城の空間と構造
Ⅰ 江戸城の事件簿(1刃傷、2窃盗、3珍事件)
Ⅱ 江戸城の災害(1火災と地震、2幕末の江戸城)
エピローグ 江戸城から皇居へ

  プロローグでは、展示の導入として、江戸城の立地、御殿の構造を理解できるよう、江戸城の図面を展示した。その際、現在の地図もパネルで展示し、江戸城と皇居の地理的構造、位置関係が把握できるように工夫した。「Ⅰ 江戸城の事件簿」では、江戸城で起きた事件について、刃傷、窃盗、珍事件という3つのテーマに分けて資料を展示した。「Ⅱ 江戸城の災害」では、災害に焦点を当て、明暦の大火、安政の大地震等、江戸城を襲った火災や地震の被害状況や幕府の対応、その後の復興・復旧への取組を紹介した。エピローグでは、明治維新以降の江戸城の無血開城から明治宮殿の竣工まで、江戸城から皇居へと変貌していく過程を取り上げた。

展示解説会の様子(令和4年8月17日開催)

展示解説会の様子(令和4年8月17日開催)

5.企画展の開催
  会期は令和4年7月16日(土)~9月11日(日)で、学校などの夏休みの時期と重なったこともあって、多くの方にご来場いただいた。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、会期中の展示解説会では参加人数の上限を設け、事前申し込み制で開催するなど、制約もあったが、2回の展示解説会はいずれも満席で、会期全体を通じて5,302名の方にご来場いただいた。改めて感謝の意を表したい。
※展示紹介動画は下記URLで現在も公開中。
https://www.youtube.com/watch?v=T5QxWI6eeOc

6.企画展を振り返って
  今回の企画展では江戸城に関する予備知識がなくても楽しめるように工夫したつもりではあったが、取り上げる事件は経緯が複雑なものもあり、多くの人の理解を得られるのか、開催前は大きな不安を感じていた。しかし、会期中に実施した展示会に関するアンケートでは、「わかりやすかった」、「面白かった」という意見を多く頂けたことは幸いであった。

Ⅱ 令和4年度第2回企画展「鉄道開業150年 広がる、広げる-公文書で描く鉄道と人々のあゆみ-」開催報告(市川)

1.展示概要
  当館では、令和4年(2022)10月8日から12月4日までの間、令和4年度第2回企画展「鉄道開業150年 広がる、広げる-公文書で描く鉄道と人々のあゆみ-」 (以下「本展」という。)を開催した[2]。これは、同年が、明治5年(1872)に新橋~横浜間に日本で最初の鉄道が開業してから150年を迎える年であることに合わせて企画したものである。本稿では、企画担当者の立場から、本展を振り返り、開催報告としたい。

2.展示の構成
  本展は、以下の5章立てで構成した。
第1章 鉄道の導入
第2章 私設鉄道の登場
第3章 鉄道の影響力
第4章 鉄道に関する論争
第5章 現在につながる鉄道

「鉄道省文書」の例(昭47運輸00146100)

  第1章・第2章では、幕末~明治20年代頃までの時代の流れに沿って、鉄道網が「広がる」様子を描いた。続く第3章では、鉄道によって人々が行動し交流する範囲が「広がる」様子を紹介。第4章では、改軌=軌間を改める(「広げる」)など、特定のトピックについて、時代や観点の異なる複数の資料を展示した。そして、第5章では、比較的記憶に新しい、昭和戦後期の資料を展示し、現代につながる鉄道のあゆみを紹介した。当館では、平成16年(2004)に、一度「鉄道」という展示会[3]を開催しているため、本展の企画にあたっては、法令の制定・改廃などの通史を追うことよりも、各地の鉄道が開業に至った経緯等を示す資料を努めて展示することとした。
  具体的な資料の選定においては、以下の3点をコンセプトとした。1点目は、内閣文庫の古典籍なども展示に組み込むことである。これは、国の機関などから移管された行政文書等に加え、旧幕府機関などに由来する内閣文庫の資料を併せて所蔵している当館の特徴を活かす試みであった。2点目は、可能な限り様々な地域の鉄道を取り上げることである。この点は、来場者に所蔵資料をより身近に感じてもらうための方策として試みた。もっとも、スペースや展示構成の都合上、全都道府県の事例を紹介することは到底できない。そこで、当館の最寄り駅で、多くの来場者が利用すると想定される東京メトロ東西線の竹橋駅に関する資料など、来場者が利用したことのある鉄道、見たことや聞いたことのある鉄道に関する資料を展示するようにした。3点目は、「鉄道省文書」について、来場者の理解を深めることができるような展示とすることである。「鉄道省文書」は、表紙の題簽(画像参照)から「鉄道省文書」と呼ばれることが多いが、当館の目録上では、「鉄道関係」[4]というタイトルがつけられた資料群で、旧運輸省から移管された資料である。当館所蔵の「鉄道省文書」には、私鉄の鉄道敷設免許に関する資料が多く、逆に営業に関する資料は少ないなどの特徴があり[5]、こうした特徴を来場者に伝えることを心がけた。本展では、上記3点のコンセプトを念頭に約40点の資料を選定し、展示を行った。

3.展示会を振り返って
  本展の会期中の来場者は、4,455名であった。アンケートやSNS上での来場者の反応で興味深かったのは、印象に残った資料が、来場者によって異なったことである。出身地などゆかりのある鉄道に言及した回答が多く見られ、先述のコンセプトの2点目が上手く機能し、来場者の多様な関心に応えることができたと言える。
  来場者の反応では、解説がわかりやすいという声も多く、「鉄道省文書」や関連用語について解説したコラムを特に挙げた回答も見られた。コンセプトの3点目、「鉄道省文書」に関する来場者の理解を深めるという点でも一定の成果があったと言える。

  平成16年の「鉄道」展の開催報告は、『北の丸』第38号[6]にあるほか、同第40号[7]では、企画者による分析が行われており、本展の企画においても、参考とした部分がある。本稿も類似の展示会において参考となることがあれば、幸いである。

[注]
[1]高橋喜子「江戸城関係絵図解題(1)」国立公文書館編・発行『北の丸』第52号、2020年
https://www.archives.go.jp/publication/kita/052.html
同「江戸城関係絵図解題(2)」『北の丸』第53号、2021年
https://www.archives.go.jp/publication/kita/053.html
[2]令和4年度第2回企画展の概要は、以下のURLで紹介している。
https://www.archives.go.jp/exhibition/jousetsu_04_10.html
[3]平成16年に開催した展示会「鉄道」の概要は、以下のURLで紹介している。
https://www.archives.go.jp/exhibition/haruaki_16_aki.html
[4]国立公文書館デジタルアーカイブ 資料群情報 鉄道関係
https://www.digital.archives.go.jp/fonds/2855178
[5]河野敬一「大正・昭和戦前期における鉄道敷設申請却下について-国立公文書館蔵「鉄道省文書」にみる地方鉄道建設の動向-」国立公文書館編・発行『北の丸』第28号、1996年
https://www.archives.go.jp/publication/kita/028.html
[6] 「平成十六年秋、平成十七年春の展示会報告」国立公文書館編・発行『北の丸』第38号、2005年
https://www.archives.go.jp/publication/kita/038.html
[7]塩満正哉「特別展・展示実績と今後の課題について」国立公文書館編・発行『北の丸』第40号、2007年
https://www.archives.go.jp/publication/kita/040.html