モンゴル国公文書管理庁との協力覚書による共同プロジェクト
~日本モンゴル外交関係樹立50周年記念プロジェクト「日本とモンゴル~綴られた交流のあゆみ~」webサイトの構築~

国立公文書館 総務課
公文書専門員 大野 綾佳

はじめに
  日本国国立公文書館(以下「当館」という。)とモンゴル国公文書管理庁(General Authority for Archives of Mongolia、以下「GAAM」という。)は2019年11月に「アーカイブズ及び記録管理に係る協力覚書」に署名し、同分野における両国の交流の促進に努めることとなった[1]。協力覚書を踏まえ、両機関は2020年度及び2021年度の2年にわたる共同プロジェクトを実施することとした。1年目には両機関の基礎情報を交換したうえで、2年目となる2022年に日本とモンゴルが外交関係樹立50周年を迎えたことから、これを記念して、両機関は、両国国民の相互理解を進めることを目的として、共同で日本とモンゴルとの関係及び交流の歴史を紹介するwebサイトを開設した。本稿では、webサイトの構築を中心に本プロジェクト活動を紹介する。

1.GAAMの概要及び基礎情報交換プロジェクト
1.1.GAAMについて[2]
  モンゴルの公文書館に関する体制は、GAAM、国立中央公文書館、37の州公文書館及びその他のアーカイブズ機関で構成される。GAAMは内務省が所管する機関で、1996年にモンゴル政府の実施機関(Implementing Agency)となっており、総務部局、財務部局のほか、専門的・方法論部局(Department of Professional and Methodological Management)、監視・評価部局(Department of Monitoring and Evaluation)、情報技術部局(Department of Information Technology)がある。GAAMは国立中央公文書館を直接指揮しており、国立中央公文書館には歴史資料館、映像・画像・音声資料館、建築資料館、政党・公共団体関連資料館、デジタル化センター、情報・レファレンスセンター、修復・リノベーションセンターがある。
  なお、前述の「その他のアーカイブズ機関」として、防衛中央公文書館、外交中央公文書館、環境・気象記録センター、農地・測量・地図情報センター、鉱物・石油・地理情報センター・アーカイブズ、国境防衛軍中央公文書館、情報機関中央公文書館、警察中央公文書館、刑罰特別公文書館等がある。
  国立中央公文書館の所蔵資料は年代や媒体、テーマによって管理されている。すなわち、清王朝期(1674-1911)、ボグド・ハーン朝期(1911-1921)、人民革命(1911)以降、映像・画像・音声資料、科学・建築資料といった区分である。
  GAAMは当館と同様に、国際公文書館会議(International Council on Archives, ICA)及び同東アジア地域支部(East Asian Regional Branch of the International Council on Archives, EASTICA)に加盟(前者は1991年、後者は1993年)している。
  モンゴルでは、アーカイブズ法が1998年に制定された。また、州公文書館には一般的に「州公文書管理にかかる基本的ガイドライン」、「州公文書館にかかる基本的ガイドライン」、「州公文書館の運営にかかる主要ガイドライン」等の規則が適用されている[3]。

1.2.基礎情報交換プロジェクト
  共同プロジェクト1年目の2020年度には交流の基礎作りのため、両国における、双方のアーカイブズ資料を所蔵する国レベル機関の基本情報や組織体制、所蔵資料の情報を交換した。具体的には、アーカイブズ所蔵機関の記述に関する国際標準ISDIAH[4]を参照しつつ記述する試みを通じて、両機関の所管官庁、根拠法、機関の歴史といった組織の概要に加えて、記録管理方針/収集方針、所蔵資料の概要、検索システム、利用の条件等についての情報を交換した。
  この基礎情報交換プロジェクトで取得した情報により、前項のGAAMの概要やモンゴルの各アーカイブズ機関の位置づけに関する最新情報を得ることができ、今回の資料紹介プロジェクトで資料提供のあった機関(国立中央公文書館、外交中央公文書館)について理解するための有益な布石となった。

2.オンライン資料紹介webサイト構築
2.1.経緯
  GAAMとの協議の結果、2年目の共同プロジェクトとして、2021年度には、共同で資料紹介webサイトを作成することとなった。Webサイトは、2022年2月の日本とモンゴルの外交関係樹立50周年を記念し、当館及びGAAM、さらに両国のその他の機関が所蔵する日本とモンゴルの関係及び交流に関する記録をインターネットにより日本語・英語・モンゴル語の3言語で紹介することを通じて、両国の友好関係を深めるとともに、一般に提供する資料の利活用を促進することを目的とした。また、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、両機関関係者の対面での打合せや事業が困難だったところ、その影響を比較的受けにくいこともwebサイトを作成するにいたった理由のひとつである。なお、当館が海外の国立公文書館と共同で資料紹介のwebサイトを作成した例は、2018年のベトナム国家記録アーカイブズ局に続く2例目[5]となる。
  Webサイトの作成作業については、制作・公開・運営に関する当館とGAAMとの間の実務的申合せを書面にて作成し、webサイトの目的のほか、両機関の作業分担、webサイトの公開や管理運営方針について確認を行った。作業分担については、webサイトの内容についての検討や作業スケジュールの調整を共同で行いつつ、両機関が自国の資料に関する情報(目録情報、画像、解説文等)を提供した。日本語版・英語版・モンゴル版のwebサイトは当館にて制作した。
  資料紹介の構成、内容、資料紹介文の確認等については、モンゴル現代史や国際関係論などが専門の昭和女子大学国際学部国際学科のボルジギン・フスレ教授に監修いただいた。

2.2.概要
  資料紹介webサイト[6]は以下の通り時系列に従って6章に分けた構成となっている。

  I 13世紀の日本モンゴル関係
  II 19~20世紀初頭の日本モンゴル関係
  III モンゴルの都市整備と日本人抑留者
  IV 戦後の文化交流(1950~1960年代)
  V 外交関係樹立(1972)
  VI 20世紀末~21世紀の日本モンゴル交流

  上記6章にわたり、日本からは当館のほか、外務省外交史料館及び防衛省防衛研究所(戦史研究センター)、モンゴルからは国立中央公文書館(歴史資料館、政党・公共団体関連資料館、映像・画像・音声資料館)及び外交中央公文書館からの資料等を紹介している。紹介資料数は併せて58点(日本より25点、モンゴルより33点)である。両国の複数機関の所蔵資料を対象とすることで関係資料の所在状況を広く紹介しており、利用者による資料の包括的な検索の手がかりを提供するよう試みた。また、いろいろな機関の所蔵資料を展示のストーリーに分かりやすく組み込むため、各資料について、所蔵機関が付与した資料の原題に加えて展示用のタイトルを付すこととした。さらに、第IV章 日本モンゴル外交関係の樹立、第VI章 海部俊樹首相によるモンゴル訪問のように、同一の出来事に関する記録を日本とモンゴルから提供することで、双方の記録が重なり合い、歴史的事象を立体的に描き出すよう努めた。
  資料紹介の方針は、まず対面での展示のように、一次資料としてのアーカイブズ資料を見やすく紹介することとした。資料画像をメインに大きめに配置したうえで、各資料のページの全体を画像として見せつつ、オンラインの利点を活用して、画像の拡大表示機能を付したことで、資料の詳細が見やすくすることとした。また、今回の紹介資料のなかには、1枚の印刷面を中央で折って綴じたため、見開きの左右で場面が一致していない挿絵(第I章 全相平話)や、末尾から順に紹介している書簡(第II章 ボグド・ハーン政権より日本への書簡)がある。これは、展示という、紹介する資料数に限りがある取組において、原本の前後のつながり等抜け落ちてしまう情報もあるものの、オンライン上でもできる限り原本に近い綴りの状態で紹介するため、現在各館で原本が保管されている順序通りに展示することとしたためである。さらに、全体の資料数が多い一方、広い時間軸を網羅しており、1点1点を細かく追って見るアプローチだけでなく、画像を一通り眺めるだけでも、時代とともに日本及びモンゴルの資料の文字や書式(縦書き、横書き)、資料形態などの変遷をたどることができるだろう。一度に訪問することが難しい両国の複数機関の資料をひとつのポータルに集め、各資料の所蔵機関、請求番号、簿冊表題/件名、さらに当館のデジタルアーカイブやアジア歴史資料センター等で閲覧可能な目録情報がある場合には該当ページへのリンクを付しており、原本の利用に必要となる情報とともに様々な見方を提供している。例えば、関心のあるテーマにおける各国・機関の所蔵状況や、全体を通して国ごとの所蔵資料の傾向等を見ることができる。
  各章の構成や内容については別途監修者のコメントも参照されたい。

  【フスレ教授のコメントはコチラ

公開記念会

公開記念会

2.3.公開記念会
  本webサイトの公開を記念して、外交関係樹立記念日でありwebサイトの公開日である2022年2月24日に、当館とGAAM合同で公開記念会を開催した。新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて対面で開催することがかなわず、記念会では当館とGAAMをオンラインで結び、監修者のフスレ教授には当館へ来館いただいた。鎌田薫館長、中田昌和理事(当時)、佐々木奈佳次長が出席し、GAAMからはENKHBAATAR Samdan長官、OYUNCHIMEG Chuluun副長官のほか、国立中央公文書館長、総務部局、専門的・方法論部局、情報技術部局より、本プロジェクトに深くかかわったメンバーを中心に出席があった。同会において、当館館長及びGAAM長官の挨拶の後、監修者のフスレ教授よりコメント及び見どころの紹介をいただいた。前掲の同教授のコメントの一部を以下に紹介する。

  アーカイブは歴史の記録であり、人類の知的財産です。長い歴史の間、日本とモンゴルは、複雑で密接な関係を持ってきました。本展示会「日本とモンゴル――綴られた交流のあゆみ――」は、文字通り、日本とモンゴルの交流の歴史を、精選された両国のアーカイブで綴っています。・・・(中略)・・・歴史の対立を乗り越えた日本とモンゴルの経験から何が得られるかを考える本展示会は、今日の東アジア諸国間の歴史認識問題や領土問題、資源利用、環境保護問題、さらにはそれらをめぐるナショナリズムの問題の解決において、社会的インパクトを与えることが期待されます。

2.4.日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念事業の認定
  日本とモンゴルの外交関係樹立50周年を両国の友好関係増進及び相互理解の一層の促進の機会とするため、両国政府により、「日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念事業・行事」の認定が行われている。在モンゴル日本大使館のホームページ上に開設された特設ページ[7]では、申請があった行事等に対して、両国政府による審査を行った上で同記念事業・行事を認定し、広報を行っている[8]。本事業もこの認定を受け、所定のロゴマークの使用許可を得るとともに在モンゴル日本国大使館ホームページ上の「イベントカレンダー」に、当該事業の情報が掲載された[9]。これをきっかけとして、本プロジェクトが当館及びGAAMのwebサイト上だけでなく、駐日モンゴル国大使館、在モンゴル日本国大使館[10]、清水武則モンゴル駐箚特命全権大使(2011年9月-2016年12月)による中央大学清水ゼミホームページ『モンゴル情報館』[11]等、複数のホームページやSNSにて紹介されることとなった。周年事業を通じてアーカイブズの分野に限らない日本・モンゴルのコミュニティに向けて情報を提供したことは、当館とGAAMのアーカイブズに関する二国間協力が双方にとって、相手国のアーカイブズ機関に対する周知に限らず、自国でもアーカイブズの普及に向けて、その存在をアピールする機会となった。当館ホームページの国際交流ページへのアクセス数は、本webサイトを公開してから大きく増加している。

おわりに
  我々アーキビストがアーカイブズ資料を利用に供する際には、資料をコンテクスト情報とともに提供している。日本及びモンゴルからの幅広いアクセス、そして長期間にわたる公開を想定して、必要なメタ情報を付し各資料を補足する取組を行った本webサイトも、この取組のひとつである。また、共同で制作するスタイルは本プロジェクトのように、事業開始まで双方の所蔵資料の組織体系を未だ熟知していなかった(コンテクスト情報の相互普及が進んでいなかった)場合、それぞれ自力では獲得困難な情報を制作過程で交換することができ、その成果を事業に還元できるため、特に有益である。
  当館とGAAMの二国間協力の一環としての本プロジェクトから読み取れる成果はまず、日本語・モンゴル語とも相手国にとってなじみのない言語であるなか、新規公開資料を含む多くの一次資料を3言語で紹介・提供していることである。また、資料の構成によっては、第I章は日本の資料、第III章はモンゴルの資料から紹介しているといった資料選択の特徴をはじめ、双方の資料を併せることで、点から線、さらに二国間を越えた国際情勢を踏まえた広い視点でストーリーの紹介を実現できたと考える。なかには元寇や抑留など、一見共同プロジェクトで扱うことが難しい印象をもつ資料についても、双方の過去の出来事に対する現在の視点が反映される本webサイトの構成資料に含めることとなった。各資料をその後の出来事とともに説明することで、コンテクストの中で資料を紹介することによって伝わるメッセージがあることを示す例となっている。
  本プロジェクトをきっかけとして、今後も両機関の意義ある相互交流が進み、両国の相互理解を深める一助となることを祈念したい。

  最後に、本webサイト構築及び公開にあたって、温かく細やかなご助言・ご協力をくださった、以下の関係機関・個人の方々にあらためて深く感謝したい。
  GAAM、ボルジギン・フスレ昭和女子大学教授、駐日モンゴル大使館、外務省アジア大洋州局中国・モンゴル第一課、同外交史料館、防衛省防衛研究所。

〔注〕
[1] 本覚書は、2017年にベトナム国家記録アーカイブズ局と取り交わした覚書に続き、当館が海外のアーカイブズ機関と相互の交流・協力関係を視野に署名したものとして2例目である。ベトナムとの協力覚書については、当館ホームページお知らせ「ベトナム国家記録アーカイブズ局との協力の覚書の交換について」(2017.09.19)( https://www.archives.go.jp/news/20170912.html (2022年7月1日アクセス))を参照。
[2] GAAM webサイト「МОНГОЛ УЛСЫН ЗАСГИЙН ГАЗРЫН ХЭРЭГЖҮҮЛЭГЧ АГЕНТЛАГ АРХИВЫН ЕРӨНХИЙ ГАЗАР」( http://archives.gov.mn/ (2022年7月1日アクセス))。
[3] アーカイブズ法は2020年 に改正され、アーカイブズ・記録管理法となったとのことである。州公文書館の規則と併せて、後述の「1.2.基礎情報交換プロジェクト」によりGAAMから提供された情報による(2020年5月)。
[4] ICA webサイト「ISDIAH: International Standard for Describing Institutions with Archival Holdings」
( https://www.ica.org/en/isdiah-international-standard-describing-institutions-archival-holdings (2022年7月1日アクセス))を参照。同サイトでは日本語版も提供している。ISDIAHについては渡辺悦子「アーカイブズ所蔵機関情報の記述に関する国際標準(ISDIAH)とその周辺 : 諸外国における受容と実例等について」(『北の丸』第48号(2016-03)所収。https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11117428/www.archives.go.jp/publication/kita/pdf/kita48_p035.pdf (2022年7月1日アクセス))を参照。
[5] 渡辺悦子「日本・ベトナム外交関係樹立45周年プロジェクト「日本とベトナム:きざまれた交流の軌跡をたどる」webサイトについて」(『アーカイブズ』第70号(2018.11.27)所収。 https://www.archives.go.jp/publication/archives/no070/7993 (2022年7月1日アクセス))を参照。
[6] 「日本モンゴル外交関係樹立50周年記念プロジェクト「日本とモンゴル~綴られた交流のあゆみ~」」( https://www.archives.go.jp/about/activity/international/jp_mn50/index.html (2022年7月1日アクセス))を参照。
[7] 在モンゴル日本国大使館「日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念特設ページ」(2022.6.2) ( https://www.mn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/anniversary50thjp.html (2022年7月1日アクセス))を参照。
[8] モンゴル国内で事業・行事を実施する場合は在モンゴル日本国大使館に、日本国内で事業・行事を実施する場合は駐日モンゴル大使館へ申請することとなっている(在モンゴル日本国大使館「日本・モンゴル外交関係樹立50周年(2022年) 記念事業・行事認定申請」(2021.10.1) ( https://www.mn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/certification20211001_jp.html (2022年7月1日アクセス))を参照。
[9] 在モンゴル日本国大使館「日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念事業イベントカレンダー」(2022.6.28) ( https://www.mn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/50thyear_calendar20220119.html (2022年7月1日アクセス))を参照。
[10] 在モンゴル日本国大使館「オンライン資料「日本とモンゴル~綴られた交流の歩み~」の紹介」(2022.3.17) ( https://www.mn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/archive_jp.html (2022年7月1日アクセス))を参照。
[11] モンゴル情報館「国立公文書館が日本・モンゴル交流史サイトを開設」(2022.3.9) ( https://mongol-info-japan.net/2022/03/09/1746/ (2022年7月1日アクセス))を参照。