アーキビスト認証の仕組みと大学院修士課程における科目設置について

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門員 中野 佳

はじめに
  独立行政法人国立公文書館(以下「当館」という。)は、「国民共有の知的資源である公文書等の適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとする専門職を確立するとともに、その信頼性及び専門性を確保する」[1]ため、アーキビストとしての専門性を有する者を当館長が認証する仕組みを令和2年度よりスタートした。令和2年度に190名、令和3年度に57名の認証アーキビストが誕生し、現時点でその合計は247名を数えている。
  認証を受けるためには、認証アーキビスト審査規則(以下「審査規則」という。)第3条に定めているとおり、原則として、「イ 知識・技能等」、「ロ 実務経験」、「ハ 調査研究能力」の3要件が求められる。なお、「イ 知識・技能等」が修得できる大学院及び関係機関は、スタート時点で学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻(うち5科目)、当館主催アーカイブズ研修Ⅰ及びⅢ、国文学研究資料館主催アーカイブズ・カレッジ(長期コース)の3つに限られている現状を踏まえ、「ロ 実務経験」と「ハ 調査研究能力」の2要件をもって認証を受けられる仕組みを用意した
  令和3年度からは、大阪大学大学院、島根大学大学院において科目が整備されたため、「イ 知識・技能等」が修得できる大学院として認証アーキビスト審査細則(以下「審査細則」という。)に追加した。また、本稿執筆時点では、昭和女子大学大学院や東北大学大学院でも、科目設置に向けた検討が進んでいる[2]。
  本稿では、アーキビスト認証の基本的な仕組みを確認した上で、認証アーキビストに求められる「イ 知識・技能等」の内容と単位数・時間数の考え方、さらに大学院修士課程における科目設置と審査細則への追加手続について整理した。今後、アーカイブズに関する科目設置をし、アーキビスト認証への参画を希望する大学院への一助になればと思う。

1 アーキビスト認証の基本的な仕組み
  まず、アーキビスト認証の基本的な仕組みについて、簡単に整理したい[3]。
  アーキビスト認証は、当館の事業として令和2年度から開始することを決定し、令和2年度事業計画により内閣府(内閣総理大臣)の認可を得て開始した事業である[4]。
  アーキビストとしての専門性を有することが認められる者に対し、当館長が「認証アーキビスト」の名称を付与するが、その専門性の有無の判断は、有識者からなるアーキビスト認証委員会(以下「認証委員会」という。)が行う。
  アーキビストとしての専門性を有すると認められるためには、以下の3要件をいずれも満たす必要がある(審査規則第3条第1号)。

イ 知識・技能等 職務基準書に示された知識・技能等について、別表1に定める内容の大学院修士課程の科目を修得し、又は同程度と認められる関係機関の研修を修了していること。
ロ 実務経験 職務基準書に定める職務に知識・技能等を活かして、3年以上従事した経験を有していること。
ハ 調査研究能力 修士課程相当を修了しアーカイブズに係る調査研究実績を1点以上有すること、又は修士課程相当を修了していない場合は、アーカイブズに係る調査研究実績及び紀要の論文等を各1点以上有すること。

  ただし、体系的な教育の機会は得られていないものの、十分な「ロ 実務経験」、「ハ 調査研究能力」をもって同等と認められる(審査規則第3条第2号)。
  以下は、各号が定める要件をまとめたものである[5]。

  なお、社会規範の変容や、情報技術の進展等を踏まえ、認証アーキビストに求められる知識・技能等が、時代に即して更新されていることを確認するため、認証アーキビストの有効期間を5年とする、更新の仕組みを設けている。

2 認証アーキビストに求められる「イ 知識・技能等」の内容とその単位数・時間数
  次に、3要件のうちの一つである「イ 知識・技能等」の内容とその修得に要する単位数・時間数の考え方について説明する。

(1)内容
  「イ 知識・技能等」の内容について、審査規則第3条では、「職務基準書に示された知識・技能等について、別表1に定める内容・・・・・・・・・の大学院修士課程の科目を修得し、又は同程度と認められる関係機関の研修を修了していること。」(傍点筆者)と規定している。この別表1(以下「審査規則別表1」という。)を以下に示す(①~⑭は、筆者が追記)。

  この審査規則別表1は、当館がアーキビストの専門性を明確化し、人材育成の基礎資料とするため、アーキビストの職務とその遂行に必要な要件をまとめた「アーキビストの職務基準書」(平成30年12月、以下「職務基準書」という。)に基づいている。審査規則別表1が、職務基準書のどの部分に対応しているか、確認していきたい。

基礎的知識・技能等
  「基礎的知識・技能等」(①~⑤)は、職務基準書の1~2頁(青線で囲った部分)と対応している。例えば、「アーキビストの使命、倫理と基本姿勢の理解」(①)は、職務基準書では、「1 アーキビストの使命」、「2 アーキビストの倫理と基本姿勢」に対応している。

専門的知識・技能等
  「専門的知識・技能等」(⑥~⑬。⑭は後述)は、職務基準書の遂行要件(具体的には「職務と遂行要件の対応表」の赤線で囲った部分)と対応している。例えば、「公文書等の管理・保存・利用に関する知識」(⑥)は、職務基準書の「公文書等の管理・保存・利用」に対応している。この「公文書等の管理・保存・利用」は、さらに「公文書作成機関の文書管理制度に関する理解」、「公文書作成機関の歴史、組織・施策や作成文書に関する理解」など7つの遂行要件によって構成される。職務基準書は、これら個々の遂行要件について、さらに「遂行要件の解説」(職務基準書の19~21頁)において説明を加えている。

  また、「職務全体に係るマネジメント能力」(⑭)は、職務基準書の3頁(赤線で囲った部分)と対応している。

  実際に、大学院がアーキビスト認証への参画を希望する場合の科目設定においては、審査規則別表1の「基礎的知識・技能等」、「専門的知識・技能等」に掲げられた14項目すべてを網羅する必要がある。14項目の内、どれか1つでも欠けてしまうと審査規則別表1に示される内容を網羅できなくなるため、特にご注意いただきたい。

(2)単位数・時間数
  「イ 知識・技能等」の修得に要する時間については、審査規則別表1の「備考」において、その単位数は計12単位、研修時間数は計135時間をそれぞれ標準と定めている。この標準単位数及び研修時間数は、アメリカのCertified Archivist(以下「CA」という。)の受験要件である大学院の科目修得時間を基に、現在の日本国内の高等教育機関・関係機関におけるアーキビスト教育・研修環境の現状の調査結果、さらに職務基準書に示した知識・技能等を把握するために要すると考えられる時間数を総合的に勘案し、設定したものである[6]。
  なお、12単位・135時間は、標準的な単位数・時間数として示しているものであるが、当分の間、単位数は計10単位、研修時間数は計110時間を下らないものとする経過措置を設けている(審査規則附則第2条)[7]。
  ただし、(1)内容で示した審査規則別表1の14項目それぞれの修得に要する単位数・時間数の配分は定めていない。これは、14項目を体系的に修得できればよく、大学院が所在する地域や時代のニーズ、さらに大学院自体の特性に即した特色あるアーキビスト育成が行えるよう、ある程度緩やかな運用を可能にするためである。

3 審査細則への追加手続
  前節で見てきた審査規則の詳細な事項を定めたものとして、審査細則がある。審査細則第2条では、審査規則第3条第1号の「大学院修士課程の科目」として、学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻、大阪大学アーキビスト養成・アーカイブズ学研究コース、島根大学大学院人間社会科学研究科認証アーキビスト養成プログラムを掲げ、その科目名を別表1で定めている。このように、審査細則に大学院名・科目名が追加されることによって、正式に認証要件となる。
  さて、アーカイブズに関する科目設置をし、アーキビスト認証への参画を希望する大学院は、当館アーキビスト認証担当と随時協議・調整し準備を進めることとなる。昨年度(令和3年度)の場合は、当館が8~9月に大学院向けの個別説明会を開催し、科目設置の意向を持った大学院と調整を開始した。11月末に大学院側から開設予定の科目等の概要が提出され、3月上旬に開催した認証委員会で報告後、本稿執筆時点(4月)では、開設予定の科目が審査規則別表1を網羅しているか当館において確認を進めている。そして、5月下旬に開催予定の認証委員会にて、開設された科目が審査規則別表1に定めた内容を網羅しているか、また実際に科目開設されたかを確認し、その上で審査細則に大学院名・科目名を記載する改正(館長決定)を6月上旬に行う予定である。なお、審査細則に追加されるまでは正式決定とはならないため、事前に大学院側で広報活動をする際は、予定・見込みであることを記載するなど、ご留意いただきたい。

おわりに
  以上、簡単ではあるが、認証アーキビストに求められる「イ 知識・技能等」の内容と単位数・時間数の考え方、大学院修士課程の科目を審査細則へ追加する手続について整理した。最後に、今後の展望として、二点あげておきたい。
  一点目は、当館も含めた高等教育機関や研修実施機関同士の連携強化である。アーカイブズを体系的に学べる機関が増加傾向にある中で、各高等教育機関・研修実施機関が自身の強み・特性を活かしつつ、さらに全体的な教育内容の質向上を図るため、高等教育機関や研修実施機関同士の連携をさらに深める必要があるように思う。今後、複数の高等教育機関・研修実施機関が連携し、アーカイブズに係る教科書・教材作りが推進されることも期待したい[8]。
  二点目は、アーカイブズに係る知識・技能等を修得した者にふさわしい資格(准アーキビスト(仮称))付与のあり方の意見集約・具現化である。認証アーキビストには、最低3年以上の実務経験とアーカイブズに係る調査研究実績も求めているため、学生にとって認証アーキビストへのハードルは高いものと言わざるを得ない。この点について、当館では、アーキビスト認証準備委員会の段階から、アーカイブズに係る専門人材の裾野を広げるため、実務経験は無いが知識・技能等を修得した者に資格を付与する仕組みの検討を進めているところである。
  今後も当館では、こうした活動・検討を進めることで、認証アーキビストの定着に向け取り組んで参りたい。


[1] 「アーキビスト認証の実施について」令和2年3月24日国立公文書館長決定
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ninsyou_jissi.pdf)。
[2] アーキビスト認証委員会(第 13 回)配布資料(https://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_013.pdf)。
[3] アーキビスト認証の開始に至る経緯やその前提となった「アーキビストの職務基準書」作成の取組等については、以下を参照のこと。
伊藤一晴「「アーキビストの職務基準書」の確定について」(『アーカイブズ』第71号、2019年、
http://www.archives.go.jp/publication/archives/no071/8464)。梅原康嗣「令和2年度認証アーキビストの申請にあたって」(埼玉県地域史料保存連絡協議会『会報』第47号、2021年)。当館統括公文書専門官室アーキビスト認証担当「アーキビスト認証の開始~令和2年度実施報告~」(『アーカイブズ』第79号、2021年、https://www.archives.go.jp/publication/archives/no079/10450)。伊藤一晴「アーキビスト認証の実施について」(『日本歴史学協会年報』第36号、2021年)。幕田兼治「アーキビスト認証−国立公文書館におけるアーキビスト養成の取組」(『アーカイブズ学研究』第35号、2021年)。長谷川貴志「アーキビスト認証の取組について」(『記録と史料』第32号、2022年)。
[4] 「アーキビスト認証の実施について」令和2年3月24日国立公文書館長決定
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ninsyou_jissi.pdf)。
「令和2年度独立行政法人国立公文書館年度目標」(https://www.archives.go.jp/information/pdf/nendomokuhyou_r2.pdf)。
「令和2年度独立行政法人国立公文書館事業計画」(https://www.archives.go.jp/information/pdf/jigyo_r2.pdf)。
[5] 「令和3年度 認証アーキビスト申請の手引き」8頁。
[6] CAの受験資格の一つに「アーカイブズ管理の修士号及び1年以上の専門的実務経験」がある。ここに示される「アーカイブズ管理の修士号」とは、「専門職アーキビストの役割に関する声明」で示された各要素をカバーする等している大学院の課程で、少なくとも9セメスターアワー、または12クオーターアワーを履修した上で修士号を得たことを指すとされる(国立公文書館「アーキビスト養成・認証制度 調査報告書」令和元年11月、15頁)。1セメスターアワーは60分/回×授業15回が標準とされるため、9セメスターアワーでは、60分×15回×9=135時間となる。なお、日本の大学における単位は、90分×15回(半期)=22.5時間=2単位で計算される場合が多い。よって9セメスターアワー(135時間)を単位数に換算すると、12単位となる。
[7] 12単位・135時間は、本認証が標準とする単位数・時間数であるが、日本のアーキビスト育成の現状を踏まえ、認証アーキビストの質やレベルを担保できる単位数・時間数として、10単位・110時間以上も可としたもの。なお、CAの要件である9セメスターアワーも、対面授業の時間に幅(50~60分)があるため、実際には112.5~135時間(単位数で換算した場合は10~12単位)の幅が生じると考えられる。
[8] 教科書については、安澤秀一、大藤修、安藤正人「座談会 日本におけるアーカイブズ学の発展」(『アーカイブズ学研究』第27号、2017年、59~60 頁。)においてもその必要性が指摘されている。一方で、最近ではアーカイブズに関する入門書として、大阪大学アーカイブズ編『アーカイブズとアーキビスト 記録を守り伝える担い手たち』(大阪大学出版会、2021年)や、下重直樹、湯上良編『アーキビストとしてはたらく 記録が人と社会をつなぐ』(山川出版社、2022年)が刊行され、人材育成環境の整備が進みつつあるといえる。