アーキビスト認証の開始~令和2年度実施報告~

国立公文書館
統括公文書専門官室 アーキビスト認証担当

 

はじめに
  令和3年1月1日、独立行政法人国立公文書館(以下「当館」という。)は、アーキビスト認証委員会による厳正な審査を経て、アーキビストとしての専門性を有すると認められた者190名を認証アーキビスト名簿に掲載し、同月8日、当館ホームページで公表した。本稿は、この取組の開始から現在までの経緯を整理し、報告するものである。
  なお、この取組は、平成26年度から当館が開始した「アーキビストの職務基準書」[1]の検討を端緒とし、職務基準書の確定(平成30年12月)、アーキビスト認証準備委員会の設置(平成31年3月)、同準備委員会による「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」の決定(令和元年12月)、「アーキビスト認証の実施について」の決定(当館、令和2年3月)と進んできた。平成26年度から令和元年度の取組については、既にまとめたものがある[2][3][4]ため、本稿では令和2年4月以降の取組に限って報告する。

1 認証アーキビスト審査規則・同審査細則等の決定
  当館では、令和2年3月末から「アーキビスト認証の実施について」(令和2年3月24日国立公文書館長決定)[5]に沿って、アーキビスト認証に係る規則・細則の策定作業に入った。4月7日には、政府から東京都を含む7都府県に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出され、職員はテレワークなど慣れない環境の中で作業を強いられたものの、5月上旬には原案の作成を終え、その後は具体的な運営方法の検討を併せて進めつつ、6月初めに下記の規則・細則の策定 [6]を終えた。

  ・認証アーキビスト審査規則 (令和2年6月3日国立公文書館長決定)
  ・認証アーキビスト審査細則 (同上)
  ・アーキビスト認証委員会規則(同上)

  認証アーキビスト審査規則は、本則19条・附則4条からなるアーキビスト認証の基本規則である。第1条において「公文書等の管理に関する専門職員に係る強化方策として、国民共有の知的資源である公文書等の適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとする専門職を確立するとともに、その信頼性及び専門性を確保するため(中略)認証アーキビストの審査及び認証について、必要な事項を定める」と、その目的を明示し、第3条において認証の要件、第5条において申請書類というように、認証の骨格となる事項を定めている。
  続いて、認証アーキビスト審査細則では、審査規則において要件として求める「大学院修士課程の科目」や「関係機関の研修」の具体、実務経験年数の算定方法、「アーカイブズに係る調査研究実績」・「紀要の論文等」の定義など、審査に係る詳細事項を定めている。
  また、アーキビスト認証委員会規則では、委員は「アーカイブズに関する実務経験及び専門職の育成・指導経験を踏まえた高い識見を有する者の中から館長が委嘱する」とし、委員会の所掌(①認証の審査、②認証の取消しの審査、③認証更新の審査、④異議の申立ての審議)、委員会の構成、委員の任期などについて定めている。

アーキビスト認証委員会[第1回](6月8日、当館)

アーキビスト認証委員会[第1回](6月8日、当館)

2 アーキビスト認証委員会(第1回)の開催
  以上の規則・細則の策定と並行し、当館では5月より『令和2年度 認証アーキビスト 申請の手引き』(以下、「申請の手引き」という。)の作成、さらにアーキビスト認証委員会(以下「委員会」という。)の人選を進め、6名の有識者に委員就任の了解を得て、委嘱手続を行った(その後、8月に委員一名を追加) [7]。第1回委員会は6月8日に開催され、事務局による認証の仕組みの説明後、委員長の互選、委員長代理の指名が行われた。委員長には高埜利彦学習院大学名誉教授が選出され、委員長代理には大友一雄国文学研究資料館教授が指名された。その後、アーキビスト認証委員会運営細則(令和2年6月8日アーキビスト認証委員会決定)が定められ、認証アーキビストの審査について規則・細則類を確認した上で、申請の手引きの案について意見が出された。その後、申請の手引きについては、委員会の意見等を踏まえ、6月12日に館長決定を行った。
  年度当初、当館としては、6月10日に開催を予定していた全国公文書館長会議において、規則・細則類と申請の手引きを配布し、認証の仕組みについて説明を行い、全国の公文書館職員に対して積極的な申請を呼びかける予定であったが、新型コロナウイルス禍により会議開催を断念せざるをえなくなった。代わって6月12日に規則・細則類及び申請の手引きなど認証に関する事務手続のホームページ掲載に合わせて、加藤丈夫館長から全国公文書館長会議構成館に対し、今回始まるアーキビスト認証は過去3年間にわたり館長会議の場で討議するなど、全国の公文書館と協力・連携して進めてきたものであること、さらに今後の認証アーキビストの積極的な採用・配置の促進、待遇向上にご尽力いただきたいことなどを記した「アーキビスト認証の開始にあたって」と題する文書を送付した。また同日、アーカイブズ関係機関協議会などの関係機関に対しても、アーキビスト認証の開始についてお知らせした。

説明会の様子(7月19日、東京大学文書館[柏キャンパス])

説明会の様子(7月19日、東京大学文書館[柏キャンパス])

3 説明会の開催
  当館としては、認証に関する事務手続の公表後、積極的に申請者向けの広報活動を展開したい考えであったが、新型コロナウイルス禍の中、対面での規模の大きな説明会の開催は困難な状況が続いた。そこで当館では、館ホームページやSNSにより広報を行う一方、大規模な説明会の開催に代えて、全国の公文書館を個別に訪問し、きめ細かに申請者向けの説明を実施することとした。6月24日に全国公文書館長会議構成館に対し開催希望について照会したところ、全国より開催希望が寄せられ、計画の途中で、新型コロナウイルス感染症対策のために訪問を断念せざるをえない場合もあったものの、6月29日から9月18日にかけて、全19会場で説明会を実施し、243人の参加を得た。これらの説明会では、全ての会場で当館担当職員が説明を行ったほか、外務省外交史料館、戸田市立郷土博物館(埼玉県地域史料保存活用連絡協議会)、滋賀県立公文書館、東京大学文書館での開催には加藤館長が、また、香川県立文書館と岡山県立記録資料館での開催には中田昌和理事が直接取組の趣旨等について説明し、本取組への協力・連携を呼びかけた。また、沖縄県公文書館や山口県文書館に対してはオンラインで開催するなど、可能な限り先方と協力し、普及に努めた。説明会では、申請方法に関する質問にとどまらず、今後の普及方法や展開についても意見が出された。なお、令和3年度も引き続き説明会を実施する方向で検討を進めている。要望がある機関は是非ともご相談いただきたい。
  また、これらの取組については、アーカイブズ関係機関の機関誌等への掲載により周知のご協力をいただき[8]、また多くの報道機関においても、「文書管理の人材 記録保存の徹底へ活用したい」(読売新聞7月10日朝刊社説)[9]をはじめ、期待をこめた論調で取り上げられ、担当者一同、気が引き締まる思いであった。

4 申請書類の受付、審査
  7~8月にかけて各地で説明会を開催しつつ、当館では申請書類の受付開始に向けて準備を進めた。8月25日には第2回委員会が開催され、具体的な審査手続や認証要件の確認が行われた。
  申請書類の受付は、予定どおり9月1日から開始し、9月30日までの消印を有効とし、送付方法は、申請者側で送受の確認ができる簡易書留又はレターパックに限ることとした。当館としては、初年度の申請者数を概ね100名程度と想定していたところ、最終的な申請者数は、248名にのぼった。当館では、随時、届いた申請書類の確認を行い、10月15日付けで館長からの委員会に対し審査依頼を行った。
  依頼を受けた委員会では、各委員が申請書に目を通して事前審査を行い、11月6日に第3回委員会、11月24日に第4回委員会、12月4日に第5回委員会がそれぞれ開催され、審査が非公開にて行われた。なお、当初、審査については2回の委員会で終える見通しであったが、申請者数が想定を大きく上回ったため、1回追加され、計3回開催された。
  審査の結果、申請者248名のうち190名の合格が確認され、第5回委員会の終了後、高埜委員長から加藤館長に対し、審査結果が手交された。

5 審査結果の通知、公表
  当館は、委員会の審査結果に基づき、12月15日に申請者に対し認証の可否を通知し、期日までに合格者全員からの登録料納付が確認されたことをもって、令和3年1月1日付けで190名を認証することを決定した。1月8日に当館ホームページにおいて認証アーキビスト名簿を公表し、1月末に認証状・認証カードを認証者宛に送付した。
  また、1月8日の名簿公表に併せて、加藤館長及び高埜委員長のコメント、「令和2年度アーキビスト認証の結果について」を当館ホームページに掲載し[10]、広く報道機関、全国公文書館長会議構成館、関係機関等に周知を図った。この発表を受けて、1月19日のNHKニュースウォッチ9において、認証アーキビストへのインタビューを含むこの取組が「公文書管理の行方は」と題して取り上げられた。また、1月22日には第85回公文書管理委員会において、当館より認証結果について報告を行った。

おわりに~次年度に向けて~ 
  以上、今年度開始したアーキビスト認証の取組について述べてきた。初めての取組であり、かつ新型コロナウイルス禍の状況下、広報・周知活動が制限を受ける中ではあったが、委員の先生方の労を惜しまないご協力や、関係機関の方々の積極的なご支援により、初年度の審査を着実に終え、190名に及ぶ認証アーキビストの誕生という成果を得ることができた。今後は令和3年度に向け、より取組を充実させるべく、事務手続の見直しと、さらなる取組の拡充について検討を進めていく予定である。
  なお、「アーキビストの職務基準書」の検討から現在に至るまで、様々なかたちでご協力いただいた委員や関係者の皆様、また各所で報告や説明の機会を与えていただいた関係機関や団体の方々に改めてお礼を申し上げたい。
  今回の取組は、直接的には平成26年度から開始した「アーキビストの職務基準書」の検討を端緒とするが、アーカイブズの専門職(アーキビスト)の資格化の問題は、昭和62年に成立した公文書館法の中で「専門職員」が位置づけられる頃から、長年にわたり関係者間で議論されてきた懸案事項である。「認証アーキビスト」の誕生は、この問題に一つの道を切り拓くものと考えているが、取組はまだ始まったばかりである。今後とも全国の公文書館をはじめとする関係機関、内閣府をはじめとする政府機関や高等教育機関及びアーカイブズ関係機関協議会など関係者の方々の協力を是非ともお願いしたい。

〔注記〕
[1] 「アーキビストの職務基準書」(平成30年12月、国立公文書館)https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/syokumukijunsyo.pdf
[2] 伊藤一晴「アーキビストの職務基準書」の確定について(「アーカイブズ」第71号、平成31年2月27日)https://www.archives.go.jp/publication/archives/no071/8464
[3] 統括公文書専門官室人材育成担当「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」のとりまとめについて(「アーカイブズ」第75号、令和2年2月28日)https://www.archives.go.jp/publication/archives/no075/9287
[4] 統括公文書専門官室人材育成担当「アーキビスト認証制度創設の検討について」(「カレントアウェアネス-E」No.389、令和2年4月23日)https://current.ndl.go.jp/e2251
[5] 「アーキビスト認証の実施について」(令和2年3月24日国立公文書館長決定)https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ninsyou_jissi.pdf
[6] 審査規則・細則類、『令和2年度 認証アーキビスト 申請の手引き』の全文については、当館のアーキビスト認証サイト(https://www.archives.go.jp/ninsho/index.html)参照。
[7] アーキビスト認証委員会委員は、以下の7名(敬称略)。井口和起(京都府立京都学・歴彩館顧問)、井上由里子(一橋大学大学院教授)、大賀妙子(国立公文書館アドバイザー)、太田富康(埼玉県立文書館主任専門員)、大友一雄(国文学研究資料館教授)、高埜利彦(学習院大学名誉教授)、福井仁史(日本学術会議事務局長)。なお、井上委員は第2回委員会から参加。
[8] 定兼学「社会を担う新職誕生」(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会会報 No.108、令和2年9月)。
[9] https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200709-OYT1T50326/(令和3年1月29日閲覧)
[10] 「令和2年度アーキビスト認証の実施結果の公表について」(令和3年1月8日国立公文書館)https://www.archives.go.jp/news/pdf/20210108_01.pdf