アーキビスト認証における国立公文書館主催研修の位置付け

国立公文書館 統括公文書専門官室
島林 孝樹

はじめに
  本稿は、令和2年度より開始したアーキビスト認証の要件における、国立公文書館(以下「当館」という。)主催の研修の位置付けについてまとめたものです。

1.「知識・技能等」の要件となる関係機関の研修
  アーキビストには、高い倫理観とともに、評価選別や保存、さらには時の経過を考慮した記録の利用に関する専門的知識や技能、様々な課題を解決していくための高い調査研究能力、アーカイブズに係る豊富な実務経験が求められます[1]。令和2年度から、知識・技能等、実務経験、調査研究能力の3要件を全て満たす者を、アーキビストとしての専門性を有すると認め、国立公文書館長が認証することとしました[2]。これら3要件のうち、「知識・技能等」については、次表に定める「内容の大学院修士課程の科目を修得し、又は同程度と認められる関係機関の研修を修了していること」[3]を要件としています。

表1 知識・技能等の内容(審査規則別表1)[4]
基礎的知識・技能等 ・アーキビストの使命、倫理と基本姿勢の理解
・公文書等に係る基本法令の理解
・アーカイブズに関する基本的な理論及び方法論の理解
・資料保存に関する理解
・デジタル化・電子文書・情報システムに関する知識
専門的知識・技能等 ・公文書等の管理・保存・利用に関する知識
・所蔵資料及び目録に関する知識
・情報公開等関係法令に関する知識
・アーカイブズ機関に関する知識
・保存修復及び保存科学に関する知識
・海外のアーカイブズに関する知識
・情報化・デジタル化等に関する知識
・職務遂行に必要とされる技能
・職務全体に係るマネジメント能力

(備考)
1 単位数は、計12単位を標準とする。
2 研修時間数は、計135時間を標準とする。

  ここで要件としている「同程度と認められる関係機関の研修」には、大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国文学研究資料館主催「アーカイブズ・カレッジ(長期コース)」及び当館主催の「アーカイブズ研修Ⅰ及びⅢ」が当たります[5]。さらにこれらの研修は、公文書管理制度が確立したといえる公文書管理法施行後(平成23年度以降)に修了したものに限られます。
  「職務基準書に示された知識・技能等について修得可能とする目安」については、「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」(令和元年12月)[6]に示しています。すなわち、高等教育機関の単位数の場合は「計12単位を標準とし、計10単位を下らないもの」、関係機関の研修の場合は「計135時間を標準時間数とし、計110時間を下らないもの」としています。当館主催の研修であるアーカイブズ研修Ⅰ及びⅢの場合、全て履修すると大学院10単位に相当します(90分×15回×5科目)[7]。
  では、アーカイブズ研修Ⅰ及びⅢの具体的な中身はどのようになっているのでしょうか。以下、国立公文書館「アーキビスト認証委員会第8回配布資料(令和3年5月27日開催)」を参考にしつつ、アーカイブズ研修Ⅰ及びⅢの概要とともに、各研修で習得できる知識・技能等を紹介します。また各研修で提供している科目の一部についても紹介します[8]。

2.アーカイブズ研修Ⅰ
  アーカイブズ研修Ⅰは、昭和63年(1988)6月1日に公文書館法が施行されたことを契機に、同年12月「公文書館等職員研修会」として開始されました。その後、毎年1回のペースで開催され、公文書管理法が施行された平成23年(2011)度より、名称を含め現在の形へ改組しています[9]。
  令和3年度においては、当研修を「公文書館制度や実務に関する基本的な研修」[10]と位置付け、「受講者に、公文書等に係る基本法令やアーカイブズに関する基本的な理論及び方法論等を習得させるとともに、デジタル化・電子文書・情報システムについての理解を深めさせることにより、『アーキビストの職務基準書』が示すアーキビストとしての資質の向上を図る」[11]ことを目的としています。
  受講対象は、主に国又は地方公共団体の設置する公文書館等の職員ですが、国、独立行政法人等、地方公共団体の文書主管課等の職員も受講することができます。研修カリキュラムの内容は、全5日間で、講義11コマ、事例報告2コマ、国立公文書館本館見学、グループ討論及び発表で構成されます。研修時間は合計で28時間です[12]。
  表2(アーカイブズ研修Ⅰの該当部分に限る。)は、審査規則別表1に定めるアーキビストとして必要な知識・技能等の内容とアーカイブズ研修Ⅰの科目との対応表です。1つの知識・技能等であっても複数の科目にまたがって習得することとされています。とりわけ「アーカイブズに関する基本的な理論及び方法論の理解」、「アーカイブズ機関に関する知識」、「職務遂行に必要とされる技能」、「職務全体に係るマネジメント能力」の4つは複数の科目修得が必要となっています。以下、それぞれの知識・技能等について、それらを習得できる科目との関係を中心に紹介します。
  「アーカイブズに関する基本的な理論及び方法論の理解」については、「アーカイブズ概論」や「日本における公文書管理とアーカイブズ」といったアーカイブズに関する仕組みや歴史、理論に係る科目から修得します。また、「公文書の評価選別」、「特定歴史公文書等の目録作成等(所蔵資料情報の提供等)」、「特定歴史公文書等の利用」、及び「公文書館の利用普及(広報・展示)」といった業務に係る科目からも習得することとしています。
  「アーカイブズ機関に関する知識」については、「他のアーカイブズ等との連携」という科目のほか、国立公文書館本館見学や事例報告(国立公文書館等及び都道府県の公文書館)から習得します。
  「職務遂行に必要とされる技能」については、「公文書館の利用普及(広報・展示)」の科目のほか、「公文書館における実務と課題①~③(グループ討論)」及び「公文書館における実務と課題④(発表・質疑応答)」から習得します。特に、「公文書館における実務と課題①~④」では、受講生が所属する館の抱える業務上の課題をテーマとして設定し、他の受講生から得る情報により課題を相対化させ、問題解決の糸口を探すこととしています。他の受講生との討論を通して、ポイントを整理し、資料を作成し、論理立てて説明するスキルを向上させることを目的としています。令和3年度は、1 公文書の評価・選別、2 公文書の利用と利用制限、3 電子公文書、デジタルアーカイブ、4 公文書の受入・整理・保存、5 公文書館における普及啓発と公文書の展示・利用促進の5つのテーマを設定して、グループ討論、発表・質疑応答を実施しました。
  最後に、「職務全体に係るマネジメント能力」についても、上記の「公文書館における実務と課題①~④」から習得することとしています。

3.アーカイブズ研修Ⅲ
  アーカイブズ研修Ⅲは、公文書館における専門職員の養成の重要性に鑑み、専門職員養成制度の創設を早期に実現するため、平成元年(1989)度から各分野の学識経験者の参画を得て、2つの研究会において専門職員の養成方策について検討を進め、平成10年(1998)に「公文書館専門職員養成課程」として開始されました[13]。その後、毎年1回のペースで開催され、公文書管理法が施行された平成23年(2011)度より、名称を含め現在の形へ改組しています。
  令和3年度においては、当研修の目的を「公文書館等において中核的役割を担う専門職員を養成するための研修」[14]と位置付け、「公文書等の管理・保存・利用に係るより高度な理論及び方法論を習得するとともに、関係法令や情報化・デジタル化等への理解を深めることを通じて、『アーキビストの職務基準書』が示すアーキビストとして必要な資質の、より一層の向上を図る」[15]ことを目的としています。
  研修対象は、国又は地方公共団体の設置する公文書館等の職員及び地方公共団体の文書主管課等の職員等のほか、公文書管理研修Ⅰ及びⅡを受講した国の機関及び独立行政法人等の文書管理担当職員等です。全科目を履修した上で、修了研究論文を作成・提出し、アーカイブズ研修Ⅲ論文等審査委員会において合格することを修了の要件としています。研修期間は3週間で、合計90時間です[16]。公文書等の管理・保存・利用、所蔵資料及び目録、情報公開等関係法令、保存修復及び保存科学、情報化・デジタル化等、アーカイブズ機関の事例研究等を学びます。なお、当研修では、3年度以内の分割履修を認めています[17]。
  表2(アーカイブズ研修Ⅲの部分に限る。)は、アーカイブズ研修Ⅲの科目と審査規則別表1に定めるアーキビストとして必要な知識・技能等の内容との対応表です。ここでは、アーカイブズ研修Ⅰでは得られない知識・技能を習得できる科目、及び習得できる知識・技能等が多い科目を特に取り上げて紹介します。
  第一に、アーカイブズ研修Ⅰでは得られない知識・技能として、「公文書等の管理・保存・利用に関する知識」、「情報公開等関係法令に関する知識」、「情報化・デジタル化等に関する知識」があります。以下それぞれの知識・技能を習得できる科目を紹介します。
  「公文書等の管理・保存・利用に関する知識」については、「地方行政と公文書管理」、「近代日本公文書管理」、「近代法史とアーカイブズ」、「行政運営・オーラルヒストリー・記録」、「政策の形成と記録」、「評価・選別論①国の取組、実習等」、「評価・選別論②諸外国の理論と取組」、「評価・選別論③地方公共団体の取組(受入から評価選別)、(実習)」、「利用審査実習」の9科目があります。歴史的な背景や諸外国の事例等も踏まえて、こうした知識・技能等を習得していくことが期待されています。
  次に、「情報公開等関係法令に関する知識」については、「情報公開法制」、「個人情報保護法」、及び「著作権法とデジタルアーカイブ」という法令に関する3科目があります。
  最後に、「情報化・デジタル化等に関する知識」については、「情報科学総論」、「メタデータ論」、「電子記録管理論」、「デジタル情報の原本性確保、カラー画像」、及び「媒体変換と保存性」の5科目があります。
  第二に、アーカイブズ研修Ⅰと同様に、該当する科目が多い知識・技能等として、「基礎的知識・技能等」である「アーカイブズに関する基本的な理論及び方法論の理解」、及び「専門的知識・技能等」である「職務遂行に必要とされる技能」が挙げられます。前者は「アカウンタビリティ論」、「記録管理論」、「資料整理論①」、「資料整理論②(実習)」、及び「資料情報サービス」から、後者は「資料整理論②(実習)」、「紙資料修復実習等」、「利用審査実習」、及び「個別課題研究演習①~③(前期・中期・後期)」といった科目からそれぞれ習得できます。とりわけ各演習では、本研修の講義等を踏まえ、「修了研究論文」作成へ向けた情報収集、検討・考察等の進捗状況を受講生から報告し、その報告を受けて、講師からのコメント、受講者相互の質疑応答、意見交換等を行います。

おわりに
  以上、アーキビスト認証における国立公文書館主催研修の位置付けについてまとめました。具体的に本稿では、アーカイブズ研修Ⅰ及びⅢの概要とともに、各研修で習得できる知識・技能等を紹介しました。また、各研修で提供している科目についても紹介しました。アーキビストとして必要な知識・技能等を体系的に習得できる研修を引き続き提供できるように、館職員一同、アーカイブズ機関等職員に対する研修の企画・運営、より一層の内容の充実に努めてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

表2 科目と審査規則別表1との対応関係[18]


〔注〕
[1] 国立公文書館「令和3年度認証アーキビスト 申請の手引き」(令和3年6月4日公表)、2頁、
https://www.archives.go.jp/ninsho/download/005_shinsei_tebiki.pdf(参照、令和4年3月29日)
[2] 国立公文書館「認証アーキビストについて」、https://www.archives.go.jp/ninsho/aboutCAJ/index.html(参照、令和4年3月29日)
[3] 国立公文書館「認証アーキビスト審査規則」(令和2年6月3日国立公文書館長決定)、1頁、
https://www.archives.go.jp/ninsho/download/001_shinsa_kisoku.pdf(参照、令和4年5月2日)
[4] 前掲注3、6頁。
[5] 国立公文書館「認証アーキビスト細則」(令和2年6月3日国立公文書館長決定)、1頁、
https://www.archives.go.jp/ninsho/download/002_shinsa_saisoku.pdf(参照、令和4年5月2日)
[6] アーキビスト認証準備委員会「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」(令和元年
12月)、3頁、
http://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ninsyou_kihon.pdf(参照、令和4年3月29日)
[7] 国立公文書館「アーキビスト認証委員会第8回配布資料(令和3年5月27日開催)」、20頁、
http://www.archives.go.jp/ninsho/download/haifushiryo_008.pdf(参照、令和4年3月29日)
[8] これらの研修の歴史的経緯については以下を参照。梅原康嗣「国立公文書館における研修の実施について~専門職員養成を中心にその歴史を振り返る~」『アーカイブズ』第81号、2021、
https://www.archives.go.jp/publication/archives/no081/10878(参照、令和4年3月29日)
[9] 前掲注7、17頁。
[10] 国立公文書館「研修計画(アーカイブズ研修)〈令和3年度〉」、
http://www.archives.go.jp/about/activity/pdf/ken_keikaku_archives_2021.pdf(参照、令和4年3月29日)
[11] 前掲注7、17頁。
[12] 前掲注7、17頁。
[13] 「公文書館専門職員養成課程実施要綱について」国立公文書館所蔵『公文書館専門職員養成課程決裁綴 平成10年度』所収、平20公文00062100。
[14] 前掲注10。
[15] 前掲注10。
[16] 前掲注7、19-20頁。
[17] 前掲注10。
[18] 前掲注7、21-22頁。