2025年EASTICA総会等参加報告

国立公文書館 総務課 専門職(デジタル総括)西山 直志
同 統括公文書専門官室 公文書専門官 長岡 智子

EASTICA理事会メンバー

1. はじめに
  2025年11月10日(月)から13日(木)まで、韓国釜山広域市において、国際公文書館会議東アジア地域支部(East Asian Regional Branch of the International Council on Archives、以下「EASTICA」という。)の総会等が開催された。今回は「記録管理における大転換:パピルスからAI技術へ」をテーマに、韓国国家記録院とEASTICAが共催し、EASTICAに加盟する日本、中国、韓国、モンゴル、香港、マカオをはじめとした8カ国・2地域から約160名が参加した。当館からは、現在EASTICA副議長を務める鎌田薫館長他4名が出席した。
  本稿では各会合及び視察の概要について報告する。

2. EASTICA理事会及び総会
  11月10日に開かれた第36回理事会では、EASTICAの財政や香港大学と共催の研修プログラム、モンゴルで実施された研修プログラム等に関する報告があり、事務局長と会計官の選任に関する議論
等が行われた。また、2026年のEASTICA会合は中国で開催される
ことが確認された。

EASTICA総会の様子

  翌11日午前に第17回総会が開催された。会場となったヌリマルAPECハウスは、2005年にAPEC首脳会議が行われた場所で、現在は国際会議場として使用されている。
  EASTICAの会員で構成される総会は、隔年で開かれ、EASTICAの各種方針及び活動について決定する。今回は、2023年から2025年までの活動報告及び会計報告が行われ、事務局長のイ・サンミン氏と会計官のイム・シニョン氏の再任(任期4年)が承認された。

3. セミナー
  11日午後から12日午前中にかけて、基調講演、国・地域別報告、韓国内アーカイブズ機関の報告で構成されるセミナーが開催された。プログラムは以下のとおりである。なお、各講演・報告の英語資料はEASTICAの公式ウェブサイトに掲載される予定である。[1]

  

2025 EASTICA「記録管理における大転換:パピルスからAI技術へ」
(2025年11月11日~12日)

  基調講演:
  AI時代における
  アーカイブズ管理    
  「時を超えた記憶:アーカイブズ、アクセシビリティ、そしてAIの地平線」
  Lise Jaillant(英国ラフバラー大学デジタル文化遺産教授)
  「AI時代における記録管理の変革と未来」
  Oh Zian(高麗大学校行政大学院非常勤教授)
  国・地域別報告   「デジタル・AI時代における記録物へのアクセスと利用サービスの拡充・強化に向けた基本計画」
  Park Jiyoung(韓国国家記録院 シニア・アーキビスト)
  「過去とデジタル未来をつなぐ:アーカイブ評価・記述・利用におけるAI応用―マカオ档案館の事例研究」
  Choi Ka Lam(マカオ档案館 シニア・テクニカル・オフィサー)
  「AIの基盤整備:香港行政府記録サービスが変革に備える」
  Bernard Hui(香港特別行政区政府档案処 アーキビスト)
  「新たな国立公文書館開館へ向けたデジタル・イノベーション」
  西山 直志(日本国立公文書館 総務課デジタル総括係専門職)
  「中国におけるアーカイブズ業務へのAI技術応用に関する報告」
  Cai Yingfang(中国国家档案局 経済科学技術档案監督部門副部長)
  「モンゴルにおけるアーカイブズ及び記録管理活動への人工知能(AI)導入の可能性とアプローチ」
  Khashbaatar Tumurbaatar(モンゴル国公文書管理庁 国際技術部門長)
  韓国国内アーカイブズ機関の報告   「韓国民主主義財団の25年:記念から記録へ」
  Choi Jong Sook(韓国民主主義財団 アーカイブズ・研究チームマネージャー)
  「記録遺産に関するユネスコ・カテゴリー2センター:全ての人々のためのアクセス可能で持続可能な記憶の促進」
  Yang Juhee(国際記録遺産センター プログラム・スペシャリスト)
  「韓国における記録管理の問題と韓国記録専門家協会の活動」
  Park Jongyeon(韓国記録専門家協会 会長)
  「韓国における民間アーカイブズ機関の現状と将来の方向性」
  Sohn Dong You(アーカイビングネットワーク研究院 会長)

 

3.1. 基調講演
3.1.1 Lise Jaillant(英国ラフバラー大学デジタル文化遺産教授)
  Jaillant教授はイギリス内閣府と共同で、人工知能(AI)を活用した政府記録の保存・アクセス等の向上に関するプロジェクト等を行っている研究者[2]で、飛行機トラブルのため現地入りできずオンライン参加となったが、アーカイブズ、記憶、アクセスの関係をAI時代の視点から再考する講演を行った。冒頭で、アーカイブズは証拠を通じて社会の未来像を形づくる存在だが、デジタル化が進む現在も膨大な文化的データに十分アクセス可能と言えない、と課題を確認した。そして、AIはその解決策として、メタデータの自動生成、評価選別、審査などを通じて、隠れた歴史の可視化、記憶へのアクセスの変革、デジタル未来の形成等を実現する可能性を持つと述べた。
  政府機関に代表される膨大な記録の量は人間の処理能力をはるかに超えており、AIによる自動評価や処分の判定は不可避である一方で、資料の価値や公開の可否の機械的な判定には限界があることも指摘した。その中で今後重要となるポイントとして、法的枠組みとの調和、アーカイブズの観点を取り入れたアルゴリズムの設計、人間の関与を組み込む「Human in the Loop(人間参加型、HITL)」等を挙げた。そして、アーカイブズ機関は保管管理者から共創者へと転換し、利用者参加型デザインやAIリテラシー等のアクセス戦略を通じて、人と記憶を繋ぐというアーカイブズの使命達成のため、責任あるAI活用及び利用者との信頼構築を行っていくことが求められると結んだ。

3.1.2 Oh Zian(高麗大学校行政大学院非常勤教授)
  Oh氏は、AI時代における記録管理の根本的変容を論じ、AIが業務効率化にとどまらず記録の対象や概念そのものを再構築しつつあると指摘した。データ量の爆発的増大と人間の限界を背景に、AIは予測的・文脈的・自律的な記録管理に向かって進化し、「記録とは何か」という定義の再検討を迫っているという。技術革新により記録のライフサイクル全体が自動化される一方、真正性・信頼性・完全性といった本質的価値の再検証が課題となり、AIが自律的に生成する記録をめぐって、その学習や判断の痕跡の信頼性をどう担保するかが問われると述べた。さらに、汎用人口知能(Artificial General Intelligence, AGI)や自律エージェントの登場により、記録の対象は人間の行為を超えて機械の判断や意思決定にも及ぶため、記録管理はデータ管理からAIの推論や行動の文脈を検証するインテリジェント・ガバナンスへ進化すべきだと主張した。その際、透明性・説明可能性・説明責任を基盤とし、専門性を持つ人間が最終的な判断を担う必要性を強調した。アーキビストは「信頼の設計者」としてAIの倫理的活用を監督する者になること、そしてEASTICAの連携を通じて新たな記録管理モデルを構築していくことを提唱した。

3.2. 国・地域別報告
  国・地域別報告のうち、報告順に韓国・日本・中国の発表内容の概要を紹介する。

3.2.1 韓国国家記録院
  韓国の報告[3]は、AI時代に向けた計画として、「利用サービスの充実」と「データ・プラットフォーム整備」という2つの戦略を軸に、7つのタスクを推進していることを紹介した。利用サービスでは、利用者からの質問に対して根拠を示しながら対話形式で回答するAIポータル(タスク1)や、行政職員向けの統合型検索システム(タスク2)の構築が進められている。さらに、AIによる非公開情報の自動マスキング導入による公開範囲の拡大やアクセス速度の向上(タスク3)、官民約2,000機関を結ぶ全国規模の記録ネットワーク(タスク4)も構想されている。一方、これらのサービスを支える基盤整備としては、紙資料のデジタル化・OCR処理や音声映像のSTT(音声認識テキスト化、Speech to Text)処理など、記録のAI学習可能なデータへの変換を進め(タスク5)、外部機関との連携によって国家的な公共AI利活用を促進するデータ提供体制を確立(タスク6)、さらに記録管理業務そのものにもAIを積極的に導入し効率化をはかる(タスク7)という。

国・地域別報告で発表する西山専門職
(写真 韓国国家記録院)

3.2.2 日本国立公文書館
  日本からは、来るべき新館開館を契機に「Center for Archives」としての機能強化を進めており、その中でもデジタル分野の取組について報告した。まず新館建設の概要を述べたうえで、従来の事業として、2000年代初頭から取り組んできたアジア歴史資料センターと国立公文書館デジタルアーカイブを紹介し、電子公文書の長期保存に関しても「標準的フォーマット」策定の支援や「電子公文書の作成・保存・利用ガイドブック」の作成を行ったことを説明した。さらに新館に向けた取組として、主要な利用手続きのオンライン化をはかるシステムと、資料の受入れ・保存から出納・搬送までのプロセスを一元管理するシステムが構想されていること、デジタルアーカイブのリニューアルを行うこと、レファレンスサービスの一環としてシナリオAI型チャットボットの導入等に着手していることを紹介した。

3.2.3 中国国家档案局
  中国の報告では、「AI+」イニシアティブをはじめとする国家レベルの強力な政策支援のもと、各地の档案館でAI技術の導入が急速に進んでいることが示された。アーカイブズ業務におけるAI技術を活用した研究プロジェクトに対しては重点的な支援が行われており、民間企業との協働による技術開発も活発であるという。さらに、各地の档案館でのAI活用事例は多岐にわたり、電子記録の分類・整理、記述要素の抽出や目録作成の自動化、写真画像の自動修復、テキスト解析を用いた公開審査の支援、検索の精度向上や多様化、知識データベースを活用した質問応答や解説提供など、多面的な成果が紹介された。

3.3. 韓国国内アーカイブズ機関の報告
  韓国の4つのアーカイブズ関係機関・組織[4]が活動内容の紹介を行った。
  韓国民主主義財団のChoi Jong Sookアーカイブズ・研究チームマネージャーからは、韓国内の民主化運動に関する民間記録の収集・保存・研究等を行う組織として設立された同財団が公的機関となった経過、博物館やオンラインデータベースの運営等最近の活動について報告があった。
  国際記録遺産センタープログラム・スペシャリストのYang Juhee氏は、記録遺産の保存・アクセスの向上を目的にユネスコの支援を受けて設立された同センターについて、アーカイブズ機関ではなく国際的な調整役・推進役を担う機関であると説明し、研究・教育・ネットワーク構築等の事業を紹介した。
  韓国記録専門家協会のPark Jongyeon会長は、協会の目的及び活動の紹介に加え、その背景にある韓国内の公文書管理の課題について批判的観点からの説明を行った。
  アーカイビングネットワーク研究院のSohn Dong You会長は、同研究院が行っている受託調査研究やコンサルティング活動のうち、小規模アーカイブズの構築に関するワークショップ等の具体的事例を紹介した。

4.第4回国際アーカイブズ・フォーラム
  12日の午後には第4回国際アーカイブズ・フォーラムが開催された。同フォーラムは2022年から韓国国家記録院が主催してきた会合で、今回は国際公文書館会議(ICA)の東南アジア地域支部(Southeast Asian Regional Branch of the International Council on Archives、以下「SARBICA」という。)とEASTICAの間に新たな協働関係を構築するための契機とすることを目的に、EASTICA総会等の関連行事として企画された。「境界を越えて:アジアのアーカイブズコミュニティにおける国境を越えた協力」のテーマのもと、韓国国家記録院及び韓国大統領記録館、並びに東南アジアから招かれた講師により、活動事例等の紹介が行われた。報告の概要は次のとおりである。

  

第4回国際アーカイブズ・フォーラム
「境界を越えて:アジアのアーカイブズコミュニティにおける国境を越えた協力」
(2025年11月12日)

  「韓国国家記録院「特注型修復・複製支援事業」」
  Na Mi-sun(韓国国家記録院シニア・コンサバター)
  「韓国大統領記録館の概要」
  Park Soung Bae(韓国行政安全部大統領記録館 指定記録管理部長)
  「アーカイブズ協働の強化:東南アジアにおけるSARBICAの経験」
  Rusniza Binti Hamdan(マレーシア国立公文書館 政策・基準・品質管理部門責任者)
  「ベトナム国家記録アーカイブズ局の国際協力活動と地域協力への貢献」
  Nguyen Thi Nga(ベトナム国家記録アーカイブズ局 副局長)

  

  韓国国家記録院のシニア・コンサバター、Na Mi-sun氏の報告では、国内外で実施している資料の修復支援事業の中から、パキスタンへの修復専門家派遣と現地での技術指導のプログラムが取り上げられた。大統領記録館のPark Soung Bae指定記録管理部長からは、韓国大統領記録の管理に関する法制、記録館の沿革、施設、業務内容等の概要が報告された。
  マレーシア国立公文書館のシニア・アーキビストで、SARBICA名誉事務局長を務めたRusniza Binti Hamdan氏は、1968年のSARBICA設立経緯、目的、構成、主な活動等の紹介と共に、EASTICAとの連携に関する展望について述べた。ベトナム国家記録アーカイブズ局のNgyen Thi Nga副局長は、日本を含む多様な国及び国際組織との協力事業の実績を踏まえ、支援の受益者から協働パートナーへの転換を目指すという方向性を示した。

韓国国家記録院釜山支所修復室の視察の様子
(写真 韓国国家記録院)

5.韓国国家記録院釜山支所の視察
  最終日の13日午前には、韓国国家記録院釜山支所の視察が行われた。釜山アジアド主競技場という大きなスタジアムに隣接した広い敷地内にあり、地上2階・地下4階の充実した施設である。視察は4班に分かれて実施され、地下書庫と修復室・展示室の見学が行われた。
  地下書庫では、丁寧に桐箱に収められた朝鮮王朝実録と、朝鮮総督府が作成した朝鮮全土の地籍原図について解説を受けた。このように古い時代の記録が釜山にあるのは、北朝鮮から可能な限り離れた場所で保管する意図があるとの説明が印象的であった。続いて修復室では、日々の業務で作成される修復カルテ等について説明があった。広いスペースのある展示室は、朝鮮王朝期から日韓ワールドカップを含む現代までの充実した内容で、映像・イラストを効果的に用いたビジュアル面での工夫も見られ、見応えがあった。

6.おわりに
  本会合では、今日的テーマを掲げ、東アジア地域におけるアーカイブズ管理の現状と将来像を多角的に共有することができた。AIの導入をめぐっては、各国・地域で取組の進展に差はあるものの、信頼性や説明責任を重視しつつ活用を進めるという共通認識が確認された点は意義深い。加えて、韓国のアーカイブズ機関の活動や東南アジアとの連携を視野に入れた事業の広がりに関する発表、並びに韓国国家記録院釜山支院の視察を通じ、実務と国際協力の双方において多くの示唆を得た。今回得られた知見とネットワークは、今後のEASTICA活動及び日本を含む各国の取組に資するものと考えられる。
  
[1]http://www.eastica.net/home/sub.php?menukey=30090(access: 2026年1月22日)
[2]LUSTREプロジェクト https://lustre-network.net(access: 2026年1月22日)。なお、Jaillant教授が関与するもう一つの研究プロジェクトとして、英米の大学等が中心となり、文化機関におけるAIの活用に関する調査研究を行っている「AEOLIANネットワーク」 https://www.aeolian-network.net(access: 2026年1月22日)がある。
[3]報告者のPark Jiyoung氏は、ICAのオンライン・チュートリアル動画シリーズ「AIとアーカイブズ実務」でも、韓国国家記録院におけるAIを活用した研究開発プロジェクトについて語っている(渡辺悦子「国際公文書館会議(ICA)PCOMプロジェクト「AIとアーカイブズ実務」チュートリアル #02」、『アーカイブズ』第98号、2025年11月28日) https://www.archives.go.jp/publication/archives/no098/17687(access: 2026年1月22日)
[4]報告を行った機関等のウェブサイトは次のとおり。
韓国民主主義財団 https://en.kdemo.or.kr(access: 2026年1月22日)
国際記録遺産センター https://www.unescoicdh.org/eng/main.php(access: 2026年1月22日)
韓国記録専門家協会 https://www.archivists.or.kr(access: 2026年1月22日)
アーカイビングネットワーク研究院 https://archivingnet.org(access: 2026年1月22日)