国際公文書館会議(ICA)PCOMプロジェクト「AIとアーカイブズ実務」チュートリアル
#02:「第3回:研究とアクセスを支援するAI」「第4回:AIとアーカイブズ記述」「第5回:AIと写真アーカイブズ」

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官 渡辺悦子

はじめに
  国際公文書館会議(International Council on Archives、ICA)では、2024年、プログラム委員会(Programme Commission、以下、「PCOM」[1])の資金提供に基づき実施されたプロジェクトの成果物である、全8回のオンライン・チュートリアルシリーズ、「AIとアーカイブズ実務(AI and Archival Practice)」を、ICAのウェブサイトで公開[2]している。ICA前会長で2025年現在はICAフェローであるDavid Fricker氏をプロジェクトリーダーに作成された本シリーズ[3]については、情報誌『アーカイブズ』第97号で、第1回と第2回を紹介した[4]。
  本稿では、これに引き続き、第3回「研究とアクセスを支援するAI」、第4回「AIとアーカイブズ記述」、第5回「AIと写真アーカイブズ」を紹介する。

1.第3回:研究とアクセスを支援するAI(AI to Support Research and Public Access)
1-1. セッションの概要とゲスト・スピーカー

  本セッションは、韓国国家記録院(National Archives of Korea、NAK)及びフランス国立公文書館(Archives Nationales France、ANF)それぞれの取組を紹介する2つのセッションで構成される。前者は、David Fricker氏とシンガポール国立公文書館のKam Kit Geok氏を聞き手に、NAKの上級アーキビストJiyong Park氏をゲストに迎えるセッション、後者は、アフリカのガボン・ドキュメンタリスト協会(ADG)の元会長でCENARBICA(国際公文書館会議アフリカ中部・西部地域支部)の会計担当を務めるEstell Obe氏を司会に、ANFの中世及びアンシャン・レジーム期主任コンセルヴァトゥール[5]のJean-François Moufflet氏とデジタル・保存部長のThomas Van De Walle氏をゲストに迎えるものである。コメンテーターは、第1回「AIと評価選別」でも登場した、ポルトガル・コインブラ大学情報学部教授のMoises Rockembach氏である。

1-2. 韓国国家記録院によるセッション
  NAKでは、Park氏をリーダーに、2024年5月から12月にかけ、AIを活用した「インテリジェント・アーカイブ・サービスモデル」の研究開発を進めている。プロジェクトは第一に、資料と資料の間のコンテクストを理解して関連情報を結びつける知的統合検索モデルの設計、第二に、映像・音声記録の高度検索機能(顔認識・音声認識など)の開発、そして第三に、利用者の検索意図を分析して結果を最適化する仕組みの構築の、三つの柱から構成されている。その背景には、NAKには約12億件にのぼる資料が所蔵されているが、これまでのキーワード検索のみで管理してきた方式では、検索結果として表示される資料同士のつながりが見えにくく、個別の記録がリストとして提示されるにとどまるという限界があったという。そこでNAKは、コンテクストを理解するAIの能力を活かして関連資料を自動的に結びつけ[6]、利用者が出来事の前後関係や政策的影響まで把握できるような検索を目指している。

  プロジェクトの進行段階では、AIのハルシネーション(もっともらしい誤情報・偽情報を生成すること)を防ぐことが大きな課題とされている。そこで、アーカイブズの信頼性を維持するため、NAKではRAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)技術 [7]を導入し、AIが回答を生成する際に参照した資料を明示する仕組みを検証している。また、AIの導入にあたっては電子記録の場合の処理は機械可読が容易だが、所蔵資料の大半を占める紙媒体記録等の非電子記録はデジタル画像を作成し、OCR等でテキスト・マイニングを行う必要があり、段階的に取り組むべき長期的投資として位置づけているという。

  最後に、今後AIを活用する取組を検討するアーキビストへの助言として、アーキビストがITを恐れず、データ管理やデジタル保存などの基礎的リテラシーを身につけることが重要であるとした。データ管理、デジタル保存、データベース構造や検索アルゴリズムの基本を理解することで、自分たちのニーズをより技術者に的確に伝えることができ、また業務における技術の可能性と限界を理解することが可能となる。そして好奇心をもってIT技術を学び、最新の技術動向を追うことは、アーカイブズを向上させるアイデアのきっかけにもつながり、アーカイブズのアクセシビリティと創造的利用を拡大する第一歩となると結んだ。

1-3. フランス国立公文書館のセッション
  ANFでは、AIの活用を始めて10年になるという。研究支援の点では、資料の所在・年代・内容を整理し、利用者が検索できるようにする「記述」を基本業務として位置づけており、現在はISAD(G)[8]に基づくEAD[9]形式で目録を作成し、オンライン上で公開している。一方で、19世紀以来の膨大な手書きの目録[10]の存在は、長年の大きな課題となっていたという。この課題を解決するためにANFが進めているのが、AIを活用した旧目録の自動変換システムを開発する、SIMARAプロジェクト[11]である。フランス企業Teklia[12] と協働して開発されたソフトウェア、SIMARAは、画像化した目録をAIが解析し、手書き文字認識[13]でテキストを抽出し、固有表現抽出[14]で日付や件名、請求記号などを判別する。そして、得られた情報を自動的にEAD要素に整形し、短期間でオンライン公開可能な形へ変換する。これにより、転記とコード化に限れば、従来は数か月を要した入力作業が数日で完了[15]するようになったという(但し、AIによる転記は必ずしも完全ではないため、確認に要する時間が短縮されることはないとする)。

  SIMARAプロジェクトで特筆すべきは、その公共性と共有性にある。ANFはプロジェクト開始時点で、ソフトウェアの開発契約に「オープンソース化[16]すること」を明記した。公的資金によって開発される技術は、他の文化機関や研究者にも再利用できる形で公開すべき、という原則に基づく判断である。結果として、SIMARAのコードはオープンソースで提供され、本システムの基盤となるAIエンジンArkIndex[17]も、後にオープンライセンスへ移行した。ANFが重視するのは、AIを閉じた業務ツールではなく、文化遺産分野全体の共有資産として位置づけることという。

  また、AIを導入する際の基本的な姿勢として「AIのためのAI」に陥らないようにすることが重要とした。AIの利用は、あくまで「使用する目的」を設定することから出発すべきであり、業務のどこに課題があり、どの作業をAIに委ね、どの段階で人間が判断し検証を行うかを明確にする必要があるという。また、AIの学習には人の知識と初期データが不可欠であり、品質管理や成果公開の設計も同時に考慮すべきだとした。なお、現在はAI技術が成熟段階に入りつつあり、既存の手書き認識モデルを利用するなど、初期開発の負担を軽減できる点にも触れている。

  印象的なのは、AIの位置づけに関するANFの明確な立場であり、同館ではAIを「人間の代替」ではなく「専門職を支援するツール」としてプロジェクトを設計していることである。ソフトウェアであるSIMARAが担うのは反復的で時間がかかる転記や構造化の作業であって、その後の検証と品質保証は人間が行う。AIと人の分業によって、専門職はより判断や解釈が必要な業務に集中できるようになる。Van De Walle氏は、「AIがアーキビストを置き換える方向には進まない」と明言し、また、Moufflet氏は「AIは人の知的活動を拡張し、これまでアクセスできなかった資料への新しい探究を可能にする」として、AIがもたらすのは自動化ではなく、研究と利用の新たな道を開く力であると指摘している。

  クロージング・セッションでは、Rockembach氏は、AIが単なる検索を超えて文脈を提示できる点を評価しつつも、出力の信頼性を確保する検証の重要性を強調し、またFricker氏は、韓国・フランス双方の事例が示したように、品質確認の時間は「圧縮できない」と指摘している。また、フランスが開発コードをオープンソース化した点を評価し、AI導入の障壁が下がりつつあることを歓迎した。さらにRockembach氏は、透明性と倫理性の確保、そして資料のデジタル化によるAI基盤の充実が課題となっていたことを挙げ、信頼に基づくAIの活用の重要性を確認し、セッションを締めくくった。

2.第4回:AIとアーカイブズ記述(AI and Archival Description)
2-1. セッションの概要とゲスト・スピーカー

  David Fricker氏を聞き手に、オーストラリア国立公文書館等でアーキビストとして勤務し、現在はICAのアーカイブズ記述に係る専門家グループ[18]のメンバーのAdrian Cunningham氏をゲストに迎える。「AIとアーカイブズ記述」とのタイトルでありながらも、AI時代を背景に、アーカイブズにおける「記述」という行為そのものの意味と本質をAIとの対比で考えるセッションとなっている。コメンテーターは、引き続き、シンガポール国立公文書館のKam Kit Geok氏とポルトガル・コインブラ大学情報学部教授のMoises Rockembach氏、そして第2回「AIとデジタル保存」で登壇したスペイン・ジローナ州公文書館のLluis-Esteve Casellas氏が加わる。

2-2. Adrian Cunningham氏のセッション
  アーカイブズや記録管理の理論及び実践における専門家として、長年国際的な標準化等を牽引してきたCunningham氏は、現在、ICAにおける「アーカイブズ記述」についての専門家グループで、記述標準である「Records in Contexts(RiC)」[19]の策定に取り組む一方、ISO23081シリーズ[20] の改訂を主導している[21]。両者は、記録の作成段階と保存段階という異なる局面を対象としながらも、記録のコンテクストをどう捉えるかという共通の課題を持つと述べ、まず、「記述」とは「記録を通して世界の複雑さに意味を与える営み」と位置付ける。

  Cunningham氏は、アーキビストが常に直面してきた最大の課題は、記録の量に対して人手が圧倒的に足りないこととした上で、その膨大な記録の「山」を登るための支援技術として、AIの可能性に期待を寄せた。大量の記録群を機械が分析し、一定の記述を生成できるならば、完璧ではなくとも「何もないよりはずっと良」く、AIが出力を重ねて学習し、改善していくことを前提に「試行錯誤を恐れずに使うべき」と述べている。

  同時に、AIがもたらす自動化の先に、「記述」の意味を見失ってはならないとも警告している。Cunningham氏は、「記述」は探索のためだけではなく、意味をつくる(sense-making)行為でもあり、真正性と完全性を保証する手段でもあるとし、「記述」の意義を明確にした。資料や図書の全文検索が可能になっても、コンテクストまでは検索できない。よって、「記述」とは、記録が何であり、どのような経緯で生まれ、どのように伝えられてきたかを理解するための構造的保証であるとする。

  また、「記述」は完成することのない「作成のプロセス」であると指摘している。記録は時間を経て意味づけが変化し、記述も常に更新されるべきものだという。特にCunningham氏の住むオーストラリアにおいては、先住民の記録を扱う際など、従来の植民地主義的な表現が持つ偏りを認識する必要があり、多様な視点を記述に取り込む倫理的課題を挙げた。その解決の一つとしてオーストラリアのアーカイブズ・コミュニティが生み出した「並行的出所(parallel provenance)」[22]という概念のもと、複数の文脈や解釈を許容する柔軟な枠組みが必要だとした。

  最後にCunningham氏は、アーカイブズ記述の国際標準が存在していても、現場でそのとおりに実装されることは驚くほど少ないと指摘した。標準は理論的には整っていても、実際の記録管理システムや業務フローに落とし込むには大きな隔たりがあり、この「実装のギャップ」は、AI導入においても無視できない課題だと強調した。AIが標準の適用を支援しうる一方で、人間の専門的理解と制度的調整がなければ、その効果は限定的になるとしつつ、AIがこの橋渡しに役立つ可能性があることを指摘している。AIによるメタデータ作成支援の研究や、標準を実装可能な形でソフトウェアに組み込む開発動向に注目し、アーキビストは技術を恐れず、研究や開発の現場に積極的に関わるべきと呼びかけている。

  クロージング・セッションでは、Rockembach氏らは、AIが大量の記録を処理する上で「記述」作業を効率化できても、人間の判断と倫理を代替することはできないとし、「人間の判断に導かれる補助的な道具」として活用すべきとした。Fricker氏は、AIが有用なのはコンテンツよりもコンテクストに焦点を当てる点にあり、人間の知的判断を補完しうる可能性を示唆した。Geok氏は、Cunningham氏が標準を実装する難しさを指摘したことに共感しつつ、アーキビストと技術者が共通言語で協働できる環境づくりの重要性を指摘した。また、Casellas氏は、AIを文書作成段階から活用する「能動的」ツールと捉え、標準の適用支援やメタデータの自動生成によって記述サイクル全体を改善できる可能性を指摘する一方で、標準の複雑さや国・地域差を踏まえ、実践的に共有可能な最小要件を定義する必要があるとした。

3.第5回:AIと写真アーカイブズ (AI and Photographic Archives)
3-1. セッションの概要とゲスト・スピーカー

  David Fricker氏と記録管理・アーカイブズ分野の専門職コンサルタントのMargaret Crokett氏を聞き手に、TopFoto社 [23]の運営責任者、John Balean氏をゲスト・スピーカーに迎えるセッションである。本セッションは、TopFoto社のキャプションの自動生成アプリケーション「DataSheep」とそのデモンストレーションを通じて、この分野のAI導入の可能性を紹介するものとなっている。コメンテーターは、引き続きMoises Rockembach氏と、第3回のANFのセッションで司会を務めたEstelle Obe氏のほか、インドCEPT大学アーカイブズの助教のSaman Quraishi氏、 ALA(ラテンアメリカ・アーキビスト協会)情報アクセスと透明性に関する作業部会の本会議メンバーであるClaudia Escoto氏である。

3-2. John Balean氏のセッション
  冒頭で、進行を務めるCrocket氏により、写真アーカイブズの管理には、他の記録とは異なる特有の課題があり、たとえば、大量に残された同じ構図の写真からどれを残すかという評価の問題、あるいは、被写体や撮影状況の特定が難しい写真群が多いこと、加えて、著作権の所在や保護期間の判定も複雑で、保存環境も紙資料とは異なる配慮を要するといった課題が整理された。こうした背景を踏まえ、本セッションでは写真アーカイブズの「記述」と「キャプション作成」に対し、AIがどのように支援できるのかを掘り下げる、と説明される。

  Balean氏によると、まず、TopFoto社は約500万点に及ぶ20世紀を中心とした報道写真を所蔵しており、その多くが、ネガ袋や写真の裏面に付されたタイプ打ちや手書きのキャプションを伴っているという。これらのテキスト情報は、写真を理解する上で重要だが、デジタル化や整理に膨大な労力を費やす必要があった。写真をスキャンしてデジタル画像化することは容易にできても、キャプションを入力しフォーマットを整形する作業にはその数倍の時間がかかるため、同氏がAIに期待したのは、まさにこの「テキスト処理」の効率化だったとする。

  TopFoto社が導入したアプリケーション「DataSheep」は、まず OCR(光学文字認識)でキャプションを読み取り、次に生成AIを使って文章を作成・補整(改行位置の調整、綴りや文法の修正、文の冒頭を見出し形式に揃えるなど)する仕組みを備えているという。また、記載された文章から撮影日、場所、写真家名、著作権表示などを抽出し、定義済みのメタデータ項目に自動分類も可能という。こうした「ルール」は利用者が自由に設定でき、Balean氏自身も試行錯誤を重ねながら、より精度の高い抽出条件を見つけていったとする。

  「DataSheep」では、抽出したデータを表計算ソフトに出力し、人工知能の結果を人の目で確認・補正した上で再インポートできる。作業の大部分はクラウド上で行われ、OCRと生成AIの処理が自動的に連携する仕組みとなっているとのことである。Balean氏は、特に「ChatGPT」を活用した部分を「ポスト抽出処理」と呼ぶ。ここで提示するプロンプト(生成AIに対する指示)の書き方によって、AIが事実を修正してしまう場合があるため、「Improve the caption(キャプションを改善して。)」のような曖昧な指示ではなく、「Correct spelling and grammar(綴りと文法を修正して。)」のように、処理範囲を明確に指示する必要があるという。また、「DataSheep」は多言語対応が可能なことも特徴で、フランス語など他言語で書かれたキャプションを自動翻訳し、英語に統一して整理することもでき、これによって、国際的な報道写真アーカイブズに共通する多言語の壁を乗り越えて、効率的にメタデータを生成できる可能性を示している。

  Balean氏は、最後に、AIは、キャプションの入力や整形といった繰り返し作業を支援する強力な道具であり、専門家を単調な作業から解放し、写真の意味づけや文脈の理解といったより本質的な業務に集中できるようにするための補助的技術である、と強調した。

  クロージングでは、「DataSheep」の活用事例を受けて、各コメンテーターがAI導入の可能性と課題について意見を述べた。まずQuraishi氏は、利用者が自らの目的に応じてキーワードを設定し、分類を柔軟に行える点を高く評価し、AIが写真アーカイブズの整理を支援する有効な手段になるとした。また、Obe氏は、AIに与えるプロンプトの設計が成果を大きく左右することを指摘し、テーマに即した適切な指示が不可欠だと述べた。さらにEscoto氏は、アルゴリズムを用いて大量の画像を自動的に分類し、テキストデータを抽出・ラベル付けする仕組みが、将来的に分析やアクセス性の向上に寄与すること、またAIが写真アーカイブズの整理・分類・保存に多大な利点をもたらすと期待した。

  最後にRockembach氏は、「DataSheep」が多言語対応を備え、翻訳や抽出を自動化できる点を取り上げ、これが多くの国や場所で応用できる可能性をもつ非常に大きな強みであること、また大手企業による大規模開発ではなく、現場から生まれた試みがここまで進化していることが印象的であるとし、AIが中小のアーカイブズ機関でも導入可能な段階に近づいていることを評価して、セッションを締めくくった。

おわりに
  本稿で紹介した3回の動画は、タイトルこそ異なるが、いずれも「アーカイブズへのアクセス支援」という共通のテーマに貫かれていると言える。AIは、研究者や市民が資料にたどりつくまでの様々な作業(記述やキャプション生成など)や、人の手による作業だけでは見えづらかった資料と資料の間の関係性や隠れたコンテクストの可視化を支援するものとして位置づけられていた。

  同時に、各回で繰り返し指摘されたのは、AIの成果を過信せず、その出力を検証する人間の判断が不可欠であるという点である。AIは「自動化の道具」ではなく、「専門職を支援するパートナー」であり、真正性やコンテクストを担保するためには、アーキビスト自身が技術の仕組みを理解し、適切に設計・管理する役割を担う必要がある。AIの精度向上やオープンソース化の進展により、技術的障壁は下がりつつあるが、その利活用を左右するのは、やはりアーカイブズ専門職の知識と倫理なのである。

  次号では、第6回「AIと倫理、人権」、第7回「AIとアーカイブズの利用促進」、第8回「アーカイブズ・記録管理分野におけるAIの専門知識の維持」を紹介する。

[1]Programme Commission(PCOM)は、専門的・技術的プログラムやICA主催の国際会議、専門家グループの運営、専門家プロジェクトへの資金提供といった活動を統括する機関。ICA副会長(Vice President Programme)が委員長を務める。:About the Programme Commission: https://www.ica.org/programme-commission/about-programme-commission/ (access: 2025年10月23日)
[2]ICAウェブサイト:https://www.ica.org/resource/ai-and-archival-practice-on-line-tutorials/ (access: 2025年10月23日)
[3]本シリーズについては、情報誌『アーカイブズ』第97号(令和7年8月29日)「国際公文書館会議(ICA)PCOMプロジェクト「AIとアーカイブズ実務」チュートリアル #01:「第1回:AIと評価選別」「第2回:AIとデジタル保存」を参照のこと:https://www.archives.go.jp/publication/archives/no097/17408 (access: 2025年10月23日)
[4]同上。
[5]小原由美子「文化遺産を構成に伝えるために―フランス国立古文書学院におけるコンセルヴァトゥール養成教育」(情報誌『アーカイブズ』第25号、2006年)参照:https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_25_p39.pdf (access: 2025年10月23日)
[6]Park氏によると、韓国史上もっとも甚大な被害をもたらした台風「Maemi」(平成15年台風第14号)を事例にしつつ、このシステムであれば、被害規模や死傷者数等の情報、緊急措置、復旧活動、災害後の法改正といった政府の対応、さらにその後数年間にわたる予算配分の変更や政策改革とも関連づけ、ある事件の全体像を一望できるようにするものと説明している。
[7]野村総合研究所webサイトの「用語解説」より、「外部情報の検索を組み合わせることで、大規模言語モデルの出力結果を最新の情報に更新できるようになる効果や、出力結果の根拠を明確にし」、AIの課題とされる「事実に基づかない情報を制しえする現象(ハルシネーション)を抑制する効果が期待されるもの」。https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/rag.html (access: 2025年10月23日)
[8]国際公文書館会議(ICA)が策定した、アーカイブズ資料の編成や記述を行う上での基礎となる、国際標準のひとつ:https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ISAD(G)2nd.pdf 参照(access: 2025年10月23日)
[9]Encoded Archival Description の略。アーカイブズの資料の検索手段を電子的に符号化するための事実上の国際標準。米国議会図書館ウェブサイト「EAD」:https://www.loc.gov/ead/  (access: 2025年10月23日)
[10]ANFでは19世紀、中世とアンシャン・レジーム期の資料から最初に整理していったという経緯から、カード形式の目録が80万枚、台帳形式の目録が数万ページ単位で存在しており、AI以前はこれらをすべて手作業で入職し、EAD形式に構造化していたという。
[11]SIMARAプロジェクトは、2021年末から2022年半ばにかけて、ANFとTeklia社が共同で実施したプロジェクトで、手書きの目録カードを自動的にデジタル化・EAD化する仕組みを開発し、880枚の画像で学習した手書き文字認識モデルの誤認率を12%から6%へと改善、最終的に約10万ページ(カード80万枚相当)を対象に運用可能なシステムを構築し、アーキビストの入力作業を大幅に効率化したとされる。同社によるSIMARAプロジェクトの概要は以下を参照:https://teklia.com/blog/202207-simara/ 。なお、SIMARAは「Saisie d’inventaires manuscrits assistée par reconnaissance automatique(自動認識を用いた手書き目録のデータ入力支援、の意)」の略(https://www.archives-nationales.culture.gouv.fr/innovation-et-recherche/simara-convertir-en-donnees-les-inventaires-manuscrits-avec-laide-de-lia)。(共に、access: 2025年10月23日)
[12] Teklia社はフランスを拠点とする、OCR 技術を用いたドキュメント処理・分析ソリューションを開発するソフトウェア企業。https://teklia.com/ (access: 2025年10月23日)
[13]手書き文字認識(Handwritten Text Recognition、HTR)とは、OCR(光学式文字認識)技術などを応用し、手書き原稿の画像を自動的に機械可読かつ検索可能なテキストデータに変換する技術である。文字を認識する際にAIを活用する「AI-OCR」もこの技術分野に含まれる。国内の主だった取組は以下のページが参考となる:橋本雄太「くずし字資料の解読を支援するデジタル技術」(カレントアウェアネス No.351、2022年3月) https://current.ndl.go.jp/ca2015 (access: 2025年10月23日)
[14]固有表現抽出(Named Entity Recognition, NER) とは、テキストから事前に定義されたカテゴリの情報(人名、地名、組織名、日時など)を自動的に抽出する技術のこと(IBM:「Named Entity Recognitionとは?」 https://www.ibm.com/jp-ja/think/topics/named-entity-recognition (access: 2025年10月23日))。NER技術は、諸外国のアーカイブズ分野においてメタデータ生成や検索機能の自動化にも応用されつつある。
[15]具体的には、1,550枚のカードを手作業で入力するのに1か月、300ページをEAD化するのに2か月かかっていたものが、数日で完了するようになったという。
[16]開発者がソフトウェアのソースコードの著作権を部分的に放棄して、広く一般に公開し、だれでも自由に入手、使用、改変、複製、別のプログラムへの組み込みなどができるようにすること。(IT用語辞典「オープンソース」:https://e-words.jp/w/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9.html)(access: 2025年10月23日)
[17]Teklia 社が提供するOCR(光学文字認識)ベースの文書分析プラットフォーム。文書を読み取り、それを構造化された情報へ変換するためのHTRやNERといったモジュール群を搭載している。https://teklia.com/our-solutions/arkindex/ (access: 2025年10月23日)
[18]Expert Group on Archival Description(EGAD)。ICAウェブサイト:https://www.ica.org/ica-network/expert-groups/egad/ (access: 2025年10月23日)
[19]ICAが2023年に公開した新しい記述標準。ICAウェブサイト:https://www.ica.org/ica-network/expert-groups/egad/records-in-contexts-ric/ (access: 2025年10月23日)
[20] ISO23081は記録のメタデータに関するシリーズ(Information and documentation – Records management processes – Metadata for records):https://committee.iso.org/sites/tc46sc11/home/projects/published/iso-23081-metadata-for-records.html (access: 2025年10月23日)
[21] ISOはスイスのジュネーブに本部を置く非政府機関 International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略。アーカイブズ及び記録管理に係る委員会(IS第46技術委員会(TC46) 第11分科会(SC11)の策定のISO15489(記録管理)はよく知られる。 https://www.iso.org/committee/48856.html (access: 2025年10月23日)
[22]Chris Hurley氏が提唱した考え方。記録の記述とは、その記録がどのような経緯・物語(history/ies)を持つかを語る行為そのものであり、記録にも記録者と、被記録者の立場それぞれに物語がある。よって、作成者によるひとつだけの「出所」だけでなく、複数の人びとやコンテクストが並行して関わってきたそれぞれの物語を、優劣をつけずに語り伝える必要があるというもの。Chris Hurley (2005)”Parallel Provenance” Archives & Manuscripts, 33(2) https://publications.archivists.org.au/index.php/asa/article/view/9799 (access: 2025年10月23日)
[23] イギリスを拠点とする独立系の写真アーカイブ会社で、報道・歴史・文化関連の写真資料を所蔵・管理し、編集・出版・放送などへのライセンス提供を行っている。 https://www.topfoto.co.uk/about-us/ (access: 2025年10月23日)