つくば分館見学ツアー2023開催報告

国立公文書館 つくば分館
業務係長 松田 暁子

  国立公文書館つくば分館(以下「つくば分館」という。)では、令和5年(2023)4月7日(金)~9日(日)の3日間、バックヤードを中心とした見学ツアーを開催した。見学ツアーでは、まず、つくば分館の業務や役割の概要を説明した後、行政機関等から移管された歴史公文書等の受入作業のための作業室、くん蒸設備、書庫の各バックヤードを案内した後、常設展示を観覧した。以下、開催概要について報告する。

1.開催の経緯
  つくば分館では、主に行政機関等からの歴史公文書等の受入れ、特定歴史公文書等の保存の業務を行っている。しかし、これらの業務について、広く一般に知られているとはいい難い状況である。また、つくば分館にはどなたでも観覧できる常設展示室があるが、来館される方からは、つくば分館の存在は知っていたが何をしている施設なのか知らなかった、そもそも中に入ることができるのか分からなかった、といった声を聞くことがあった。
  つくば分館では、これまでも団体からの依頼に基づき施設の見学を受け入れてきたが、不特定の方々を対象とした大規模な見学会を行ったことはなかった。つくば分館の業務や役割を国民の皆様に知っていただき、国立公文書館(以下「館」という。)に興味・関心を持っていただくための取組が必要であると感じた。そのためには、つくば分館が主体的になって、施設公開をする機会を設ける必要があると考え、本見学ツアーを開催することを決めた次第である。[1]

2.見学ツアー開催に当たってのポイント
  見学ツアーの開催に当たっては、以下の4点に重きを置いた。
  1点目は、当然のことであるが、国立公文書館の認知度向上や特定歴史公文書等の利用の促進のため、国立公文書館の業務、役割を知っていただくこと、特定歴史公文書等は閲覧室やデジタルアーカイブを使って国民の皆様が利用できることを内容に盛り込んだ。
  2点目は、受入れや保存など、いわば“縁の下の力持ち”のような業務にも興味を持っていただくことである。つくば分館では、行政機関等からの歴史公文書等の受入れ、受入時の歴史公文書等の確認作業、特定歴史公文書等の保存のための処理であるくん蒸、特定歴史公文書等の適切な保存及び利用に資するための目録の作成といった、国立公文書館の業務の中でも裏方といえる業務を多く行っている。国立公文書館は国民の皆様に特定歴史公文書等を利用していただくための施設であるが、この利用を将来にわたって確保するためには、適切に保存してくことが不可欠である。利用を下支えしている“縁の下の力持ち”の業務にも目を向けていただきたいと願い、この点を盛り込むこととした。
  3点目は、本見学ツアーは文部科学省が推進する科学技術週間[2]に参加して開催するものであったことから、科学技術といった観点からの説明も加えるようにしたことである。例えば、くん蒸設備の説明では、減圧式くん蒸の仕組みについても説明したり、書庫では、紫外線を当てるとインクが退色する仕組みについて説明したりした。掘り下げて説明することは、参加者の立場からすると、普段の生活の中ではあまり触れることのない知識や経験を得られる機会にもなり、それは同時に国立公文書館の存在意義をより深く理解していただくことにつながると考えた。
  4点目は、職員と参加者との双方向のコミュニケーションをとることである。職員が一方的に説明するだけでは、参加者が受け身になってしまい、興味を持てなくなってしまう可能性がある。そこで、説明する際には、時々「なぜ○○なのか分かりますか?」など参加者に質問を投げかけるようにし、興味を持って聞いていただける仕掛けを随所に組み込んだ。

3.見学ツアーの内容
ⅰ 国立公文書館の概要説明
  はじめにエントランスホールで国立公文書館の紹介映像[3]をご覧いただき、概要を説明した。

作業室・くん蒸設備(右手奥)の説明の様子

作業室・くん蒸設備(右手奥)の説明の様子

ⅱ 作業室・くん蒸設備
  次に、作業室に移動し、参加者に国立公文書館ニュース第32号[4]を配布し、「特集 つくば分館お仕事紹介 〜実は、こんなことをしています!〜」のページをご覧いただきながら、歴史公文書等を受け入れてからくん蒸を行い、目録を作成して排架を行うまでの一連の流れを説明した。
  その際、業務の大変さを理解していただけるように、またなぜそのような業務を行うことが必要なのかを理解していただけるように留意しながら説明した。例えば、作業室での説明において、受入れを行った直後はこの室内が段ボール箱で埋め尽くされること、受け入れた歴史公文書等は移管元行政機関等から提出されるリストと1冊ずつ照合して検品のような作業を行っていること、このような作業を行う理由は、誤送などの不備がないよう、移管元行政機関等からの適切な移管を国立公文書館としても確保するためであることを説明した。
  また、くん蒸設備の説明では、くん蒸という聞きなれない言葉や内容に興味を持っていただけるよう、紙を好んで食べる虫についても、虫を描いたパネルを示しながら解説するなど、専門的な知識がなくてもとっつきやすい話題や表現方法を盛り込むようにした。また、科学技術週間に参加していることを踏まえ、減圧式くん蒸の仕組みを分かりやすく説明した。くん蒸設備の中に紙媒体の特定歴史公文書等を入れ、設備内の気圧を大気圧より下げて、その中に気化させた酸化エチレンガスを入れると、勢いをつけて酸化エチレンガスを噴射しなくても、気圧の差によって、酸化エチレンガスが設備内に勢いよく入っていくこと、その結果くん蒸設備内で自然と対流が生まれ、隅々まで酸化エチレンガスが行き渡り、紙媒体の特定歴史公文書等を殺虫殺菌できることなどを説明した。[5]

ⅲ 書庫
  続いて、書庫に移動し、リストとの照合、くん蒸、目録作成の一連の作業を終えた特定歴史公文書等を排架する専用書庫の説明を行った。書庫の温湿度や一般書庫と特別管理書庫の違いだけでなく、書庫内の設備についても詳しく解説し、紙媒体の特定歴史公文書等を永久に保存するための取組を知ってもらうよう努めた。具体的には、つくば分館の一般書庫では、移動式の書架を設置しており、照明は紫外線を除去した蛍光灯であること、落下防止のために書架に柵が取り付けられていることなどを説明した。また、光がインクに当たると退色する原理について、紫外線のエネルギーによってインクに含まれる顔料を構成する分子が破壊される、という仕組みについても説明した。そのほか、変色した紙のサンプルをご覧いただき、専用の書庫で適切に特定歴史公文書等を保存することの大切さを伝えた。
  また、特定歴史公文書等により興味を持っていただくため、書庫内通路に展示ケースを設置し、つくば分館で所蔵しているもののうち利用制限区分が「公開」の特定歴史公文書等の中から筑波地域に関するものを中心に展示して、参加者にご覧いただいた。

ⅳ 保存容器の紹介
  続いて、エントランスホールに移動し、つくば分館で行っている保存業務についてより深く知っていただくため、特定歴史公文書等を格納するための専用の封筒や職員が作成した保存容器を並べ、実際に参加者に触れていただきながら、解説した。地味な作業ではあるが、こうした地道な取組が特定歴史公文書等を永久に保存するために必要であり、それが特定歴史公文書等の利用を下支えしていることを説明した。

常設展示室の説明の様子

常設展示室の説明の様子

ⅴ 常設展示室
  続いて、つくば分館常設展示室に移動し、つくば分館の展示資料(複製)について、特定歴史公文書等の中から、大日本帝国憲法や日本国憲法、終戦の詔書、徳川家康の書状等、学校の歴史の授業で学んだことのある出来事や人物に関するものを選んで展示していること、筑波地域に関するものを展示していることを解説した。展示資料の見どころについても解説し、徳川家康の書状に押された朱印には「恕家康」と書かれていること、また江戸時代の筑波山神社の絵図に描かれた橋が今も残っていること、終戦の詔書が読み上げられたものがいわゆる「玉音放送」として知られるものであることなどを紹介した。


国立公文書館デジタルアーカイブの説明の様子

国立公文書館デジタルアーカイブの説明の様子

ⅵ 国立公文書館デジタルアーカイブの紹介
  最後に再びエントランスホール移動し、国立公文書館デジタルアーカイブの使い方について、モニターに表示させながら解説した。検索窓にキーワードを入れることで探している資料の目録情報の検索ができることはもちろん、特段探している資料はないがとりあえず資料の画像だけ見たいという場合には、「主な資料を見る」の下にあるサムネイル画像をクリックすることで、憲法等や重要文化財など、主な資料の画像に直接アクセスできることを伝え、目的に応じた使い方を説明した。また、国立公文書館デジタルアーカイブの特長の一つである拡大機能を実感していただくため、実際に画像を表示させ拡大することで、細部までよく見ることができることを伝えた。

4.総括
  本見学ツアーの参加者は、3日間で計165名であった。筆者としては、特に“縁の下の力持ち”のような業務について参加者に説明が上手く伝わるか不安であったが、参加者アンケートでは「大変良かった」、「良かった」という意見を多くいただけた。説明が分かりやすかった、普段は入れないバックヤードに入れてよかった、などのご意見をいただくことができ、入念に準備した甲斐があったと感じた。
  他方で、冒頭の紹介映像は国立公文書館ホームページで公開されており自宅でも見られるので不要である、貴重な資料があるという説明だけでは国立公文書館の存在価値が伝わりにくい、国立公文書館デジタルアーカイブでどのようなことが調べられるのかイメージできる職員おすすめの所蔵資料一覧があるとよい、といった本見学ツアーに対するご意見や、路線バスの時刻に合わせてイベントのスケジュールを組んで欲しい、といった当館の業務に対するご意見もいただいた。説明の仕方やスケジュールの設定について、更に改良が必要であることを痛感した。いただいたご意見を踏まえ、国立公文書館つくば分館の魅力がより伝わると同時に、参加者により満足していただける見学ツアーの計画を検討していきたい。

〔注〕
[1] なお、参加申込みはメールでの事前申込み制(抽選)とした。
[2] 科学技術週間は、科学技術について広く一般の方々に理解と関心を深めていただき、日本の科学技術の振興を図ることを目的として昭和35年(1960)2月に制定された。毎年4月18日の発明の日を含む1週間が科学技術週間と定められており、全国の関係機関等では、主にこの期間に各種科学技術に関するイベントなどを実施することとなっている。
https://www.mext.go.jp/stw/outline.html
令和5年7月31日閲覧
[3] 国立公文書館紹介映像
https://www.youtube.com/watch?v=qr0r86EgKjU&list=PLMxtMk3BK5RMxRHYry0KskSvk0runorwn&index=1
令和5年8月28日閲覧
[4] 国立公文書館ニュース第32号
https://www.archives.go.jp/naj_news/32/index.html
令和5年7月31日閲覧
[3] その後、気圧の差を利用して酸化エチレンガスを勢いよく設備内に注入し、対流が生まれる様子をより分かりやすく説明するため、令和5年(2023)5月以降、申込みに基づきつくば分館で開催している団体見学会では、簡易な減圧実験器具も用いて説明を行っている。