ICA隔年会合出席あれこれ

国立公文書館
理事 山谷 英之

  少し前のことになってしまったが、2022年9月にイタリア・ローマで行われたICA(国際公文書館会議)の隔年会合に出席した。会議自体の概要は、前号(第86号)で長岡公文書専門員が報告(※)しているのでお読み願いたいが、会議に出席して私なりに感じたことを述べてみたいと思う。

https://www.archives.go.jp/publication/archives/no086/12751

(街の様子) 
  コロナの関係では、街中や会議場でマスクをしている人はかなり少なかった。列車の中はマスクをすることとなっているようなので、それなりにはいたが、ほとんどの人がマスクをしている日本の状況とはかなりの違いがあった。(ちなみに、この年末にも別用でローマに行ったが、マスクをしている人は列車内も含めてほとんどいなかった。)
  また、ローマの空港は観光客と思わしき人など非常に人が多かった。空港から市内までの鉄道の切符の販売機の前にはかなり行列ができていた(もっとも、8台の販売機のうち5台(!)が故障していたせいもあるが。)
(ICAのスポンサー)
  ICAは、会員の分担金を中心に運営されているが、会議自体は様々なスポンサーがついており、IT企業もスポンサーになっていた。ご承知のとおり、文書管理の世界もデジタル技術の活用が喫緊の課題となっており、ビジネス機会と認識してのことであろう。また、家系図を作成したり、先祖を探したりする会社もスポンサーになっており、自分のルーツを探ることが、公文書館の機能として期待されている国もあるということを実感した。
(ICA総会)
  ICA総会の模様は、先号の報告にもあるとおりであるが、分担金の値上げ案の採決はかなりの棄権・反対があった。当方は、事情自体は理解ができるということで賛成したが、分担金が一番多いアメリカ国立公文書記録管理院(NARA)(ちなみに日本の国立公文書館は2位)が棄権したのは驚きであった。ICAプログラム担当副会長として執行部席に座っていたMeg Phillips氏が、(NARA対外交渉官でもあるため)NARAを代表して棄権の意思表示をしていたのはおかしな光景であった。いずれにしても、今回、分担金値上げの理由が(当日は説明されたが)、事前の説明はなかったことから、今後丁寧な説明を行うように当館としても申し入れをした。
(ICAでの講演やプレゼン)
  ICAでは、様々な講演やプレゼンがなされていたが、私が聞いたなかでいくつか紹介すると以下のとおり。(私の英語ヒアリング能力には限界があるのでその点はご容赦願いたい。)
  ・Geoffery Yeo氏の講演の中で、有史以来の記憶媒体(例えば古代の石板など)を概観して、媒体の変化の過程で様々な問題が生じてきたが、現在課題となっている紙の文書からデジタル媒体への移行においても、過去の経験が参考になる、という議論がなされていた。
  ・チリの電子記録の公文書館への移管についての報告において、電子記録の移管が遅れており、その理由としては、電子記録が整理されていない、電子記録が業務プロセスと関連づけられていない、データがそれぞれ違うプラットフォームで管理されている、機能的な記録分類区分がない、評価選別作業や記録保存(リテンション)スケージュールがない、デジタル化が市民向けサービスにのみ焦点を当てられており内部の業務手続きには当てられていない、記録管理の専門職が不足している、などが挙げられていた。
  ・現在の電子メールの保存状況(分類・整理がなされていない)を”E-mail pandemic”だとして、世界100社(残念ながら日本の会社は含まれていない。)のAIソフトウェアを取り上げ、記録の分類・整理に利用可能か否かを比較・評価する研究について紹介されていた。

  ICAの会議全体としては、デジタル化についての話題が多く、聴講者の関心を引いていたように感じた。日本も、デジタル化への対応は喫緊の課題であり、デジタル化に伴う様々な課題の検討やデジタル技術の利用可能性の検討を行う必要性を実感させられた会議であった。