統括公文書専門官室人材育成担当
1.はじめに
国立公文書館(以下「当館」という。)では、これまでのアーキビスト養成の取組の経緯を踏まえつつ、アーキビストの専門性を明確化し、人材育成の基礎資料とするための「アーキビストの職務基準書」(以下「職務基準書」という。)を平成30年12月に策定するとともに、それを踏まえて当館主催の研修カリキュラムに反映してきました。それらを受けて、平成31年3月より、アーキビスト認証制度の創設を検討するため、有識者によるアーキビスト認証準備委員会(以下「準備委員会」という。)を設置しました。
令和元年12月4日に開催した第4回会議において、「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」がとりまとめられました。本稿では、この概要を御紹介します。
2.公文書管理の専門的知識を持つ人材をめぐる近年の動きについて
平成30年7月20日に行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議において「公文書管理の適正の確保のための取組について」が取りまとめられました。この中で、「実効性あるチェックを行うための体制整備」として、内閣府では、独立公文書管理監(政府CRO)の下に「公文書監察室」を設置し、「各府省における適正な行政文書管理を促進するため、公文書管理の専門的知識を持つ職員を内閣府・国立公文書館から政府CROの指揮の下、派遣する仕組みについて、平成30年度の内閣府を派遣先とした試行的な実施の成果を踏まえ、平成31年度より派遣先府省の拡大を含め拡充を図る。派遣に必要な公文書管理の専門的知識を持つ人材の確保及び歴史公文書等該当性の評価選別のチェック機能拡充等のための内閣府・国立公文書館の体制強化について、平成31年度に必要な措置を講ずる。」と示されたところです。
3.「アーキビスト認証準備委員会」の開催について
アーキビスト認証制度創設に係る具体的な検討を行うため、当館に準備委員会を設置し、会議を開催してきました。関係する組織及び団体から推薦を受けた委員を含む8名の有識者からなる委員に御議論いただきました。3、5、9月と回を重ね、議論の成果を次なる段階に移していくための骨子を取りまとめたものが、以下に御紹介する「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」になります。
4.「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」の概要 資料
前文となる「1.はじめに」では、アーキビストの検討についての歴史を踏まえ、今回の認証制度創設の背景について記述しています。
「2.アーキビスト認証制度の目的及び位置づけ」
平成26年以降取り組んできた、職務基準書に基づき、国民共有の知的資源である公文書等の適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとする専門職を確立するとともに、その信頼性及び専門性を確保するため、認証制度を創設することを目的としています。
「アーキビストの認証制度に関する基本的考え方」の中核をなす「3.アーキビスト認証制度の内容」は以下のとおりです。
(1)名称・認証主体
名称は「認証アーキビスト」とし、英語名は「Archivist Certified by the National Archives of Japan」とする。認証主体は、国立公文書館長とし、当館内に「アーキビスト認証委員会」(仮称)を設置し、専門性に基づき申請者の審査を実施することで、審査の透明性及び客観性を確保することにしたものです。
(2)認証対象
「認証アーキビスト」となる、アーキビストとしての専門性を有する者の要件は次の3つになります。
ア.「アーキビストの職務基準書」が示す、アーキビストの使命、倫理と基本姿勢を理解し、職務遂行上基本となる知識・技能について把握している者
イ.アーカイブズに係る実務経験を有している者
ウ.修士課程修了レベルの調査研究能力を有している者
(3)申請要件
要件は以下の2つとしています。
・職務基準書が示す知識・技能等について修得可能と判断された高等教育機関の科目を履修又は関係機関の研修を修了し、アーカイブズに係る実務経験と調査研究能力を有する者
具体的には、「高等教育機関の科目を履修」・「研修を修了」について、「アーキビストの職務基準書の内容と対応する12 単位(約135 時間)を標準とし、10 単位(約110 時間)を下らないもの」と示しました。また、経験年数を原則3年以上とし、週3日以上の勤務を標準とし経験年数として認め、経験の場は公的機関に限定しないとしています。さらに、「修士号取得(修士号未取得者は同等の実績)及びアーカイブズに係る調査研究実績」を要することとし、「ポイント制を導入」する予定です。
・その他同等の能力があると認められる者
「海外での教育・研修修了者」・「過去の教育・研修修了者」・「体系的な教育・研修の機会を得られていないものの、実務経験と調査研究能力を有し、知識・技能も修得済みと判断される者」を具体的に想定しています。
(4)審査方法
(2)で示した要件を満たしているかを確認する書類審査を実施することとしています。
(5)更新制度
社会規範の変容や情報技術の発展等を踏まえ、知識・技能等が更新されているか確認するための更新制度を設ける必要があるとして、認証を受けてから5年目に更新申請を行う(海外勤務等による申請猶予の例外を認める)こととしました。
(6)レベル分け
認証アーキビストに準じて公文書等の管理に携わる人材の充実を図るとともに、認証アーキビストへの社会的理解を深め、その活躍の場を拡げるため、「准アーキビスト」制度を導入することとしました。「准アーキビスト」については、今後、具体的な検討を実施し、速やかな導入を目指すこととしています。
「認証アーキビスト」の上位となる「上級アーキビスト」についても、「アーキビスト認証委員会」(仮称)において本制度の運用を図りつつ設置を検討することとしました。
「4.むすび」においては、準備委員会としてアーキビスト認証制度の望ましい将来像について、短期的・中長期的な展望を述べています。
5.アーキビスト認証の開始に向けて
第4回準備委員会において取りまとめられた「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」を受け、令和元年12月24日に開催された第80回公文書管理委員会において、出席した加藤館長から「国立公文書館における人材育成の取組」として、当館主催研修の充実と並んで文書管理の専門家(アーキビスト)の養成:アーキビスト認証制度の創設を検討中で、その骨子となる基本的考え方が取りまとめられたことを報告しました。また、第4回準備委員会に先立つ同年11月18日に開催された第25回国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議においても加藤館長が報告を行いました。
当館は、主務大臣である内閣総理大臣から示された平成31年度目標の中に「ⅳ)公文書管理における専門職員養成に係る強化方策として、平成30 年度に策定した職務基準書について国の機関、地方公共団体等における文書の保存・利用機関等の理解の促進を図り、それらを踏まえて研修カリキュラムに反映させるとともに、認証制度の創設を検討すること。」と指示を受け、その作業を続けてきました。今後も引き続き、関係機関等のご支援とご協力を得ながら、国民共有の知的資源である公文書等の適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとする専門職員を確立するとともに、その信頼性及び専門性を確保するために、アーキビストの認証につなげていきます。その実現のためには、今後、国の機関、地方公共団体等における文書の保存・利用機関等への普及啓発を図ることやアーキビスト養成環境の拡充につながるよう、高等教育機関等との協力関係の構築も取り組んでいくこととしています。中長期的展望(「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」むすび)で触れられた、「広く我が国全体の文書の管理・保存・利用の適正・充実に資する」ための更なる第一歩となるように引き続き努めてまいります。
参考 アーキビスト認証準備委員会
https://www.archives.go.jp/about/report/ninsyou.html