国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官 太田 由紀
はじめに
2025年10月27日(月)から30日(木)まで、国際公文書館会議(International Council on Archives、以下「ICA」という。)の大会(Congress) [1]が、スペインのカタルーニャ州のバルセロナ国際会議場において開催され、国立公文書館(以下、「当館」という。)から古矢一郎理事他職員2名が参加した。
ICAはアーカイブズに関する国際非政府組織(NGO)で、150を超える国・地域の公文書館、専門職団体、専門職教育機関などが加盟している。ICAの大会は4年に一度開催されるが、前回のアブダビ大会が新型コロナウィルス感染症の影響で2度の延期を経て、2023年に開催されたため、本大会は2年ぶりの開催となった。
ICAとスペイン[2]が共催した本大会は、「過去を知り、未来を創る(Knowing Pasts, Creating Futures)」をテーマに、専門プログラム(基調講演、個別発表、パネル・ディスカッション、ワークショップ、ポスター発表等)、運営会合(執行委員会・総会等)、アーカイブズ施設の視察プログラム等で構成され[3]、約100か国・地域からアーカイブズ関係者2,000人以上が参加した。また、会場内のブースには、アラゴン王宮文書館などのスペインのアーカイブズ関係機関や企業のほか、2027年にICAの会合(Conference)を開催予定のマレーシアの出展があった。本稿では、大会の概要及び会期中に行った視察について報告する。

開会式会場の様子
1.総会
総会ではICAの運営や財務に関する報告がなされるほか、重要事項が決定される。
10月28日に開催された総会の特記事項として、4年毎に策定されるICAの戦略計画案の発表と採決が行われた。ICAの会合と大会は、2年ごとに交互に開催され、その開催形式は類似しているが、大会では戦略計画が採決されるのが大きな特色である。新たな戦略計画(ICA Strategic Plan 2025-2029)はネットワーク構築と協働、研修と専門職の能力開発、基準とベストプラクティス、アドボカシーの4つを目標に掲げたものである[4]。
運営体制に関して、ICAの3名の選出役員のうちプログラム担当副会長が、Meg Philips氏(任期:2021-2025年)からアラブ首長国連邦国立図書館公文書館のHamad Abdulla Al-Mutairi氏に代わることが報告された(任期:2025-2029年)。2025年春に実施された選挙の候補者公募の結果、候補者が一名であったため無投票により2025年5月の執行委員会で承認された人事である。また、ICA会長のJosée Kirps氏の任期の1年延長が提案され、5年に変更(2022-2027年)することが承認された。Kirps氏の当初任期は2026年までであったが、同年に財務担当副会長も任期満了のため交代の予定がある。2名の選出役員が同時に交代することを避け、組織の安定的な運営ができるようにするために、ICA憲章の選出役員に関する「任期の開始時期をずらすものとする」という規定[5]を尊重して、会長の任期が延長されたものである。ほかに、「国立公文書館長フォーラム(FAN)」の運営委員会のうち、ラテンアメリカ及びカリブ海諸国の代表がキュラソー国立公文書館のMaximiliaan Scriwanek氏に、アジア及びオセアニアの代表がマレーシア国立公文書館のZaidin bin Mohd Noor氏に代わることが報告された[6]。
財務関係では、執行委員会のもとに新設された「財務・会員小委員会」が現在、分担金配分方法の本格的な見直しを検討しているところであるが、2026年の総会での採決に向けて新たな分担金配分方法への理解を求めるために、今後ワークショップ等を開催していくことが報告された。続いて2026年の分担金の増額や予算案に関する説明と採決が行われ、原案どおり承認された。
ICAの諸活動に貢献があった個人に贈られるICAフェローの称号授与では、2024年と2025年に任命された5名の発表と授与が行われた。2024年に授与されたフェローは、ICAの元プログラム担当副会長のNormand Charbonneau氏、及び同じく元プログラム担当副会長のHenri Zuber氏の2名。2025年に授与されたのは、トリニタード・トバゴ共和国国立公文書館長のAvril Belfon氏、前ラテンアメリカアーキビスト協会長のEmma de Ramon氏、及び元スイス市立公文書館長のDidier Grange氏[7]の3名である。
最後に、2年後の2027年、マレーシアのサラワク州クチンにおいてICAの会合が開催されることが報告された。ICA大会会場にブースを出店していたサラワク州立図書館スタッフの説明によると、サラワク州立図書館の新しいアーカイブズ施設が2026年に開館することを記念して、マレーシアが会合開催を誘致したとのことである。
この他、パレスチナのアーカイブズの状況について審議しないのかと挙手して発言したスペインのアーキビストがいたが、総会の審議事項は2週間前までに決定する必要があるという手続き上の問題から、当該事項については執行委員会で審議されることになった。その後、2026年1月15日のICA執行委員会臨時会合で「パレスチナ人アーキビストおよびアーカイブ機関を支持する声明」が採択されている[8]。
2.専門プログラム内容
本大会では、上述の「過去を知り、未来を創る」総合テーマのもとに、「記憶の管理/アイデンティティの保持」、「紛争、災害、避難民」、「権利の記録」、「デジタルとアクセスのしやすさ」、「アーカイブズの将来」の5つのサブテーマが設けられた。
3つの基調講演、1つの基調パネル、6つのワークショップに加え、10室に分かれて同時並行で開催されたセッションの数は合わせて90に上った。各サブテーマに関連して組まれた各セッションでは、複数の個別発表やパネル・ディスカッションなどで構成された。この他、ポスター発表のセッション、短時間でプロジェクトやアイデアのプレゼンテーションを行うライトニング・トーク等があり、それぞれの取組の発表や活発な意見交換をとおして国際的な交流が図られていた。以下では、基調講演と当館発表を中心に報告する。
>>2025年ICAバルセロナ大会 専門プログラム(英語)

Dr. Trudy Huskamp Peterson氏の発表
2.1 基調講演と基調パネル
10月28日から30日にかけて、3つの基調講演と1つの基調パネルが行われた。概要は以下のとおり。
・Mercè Crosas氏「AI対応のアーカイブズ:未来のツールで
過去を理解する」
AI発達史説明後、所属のバルセロナ・スーパーコンピュータ
ー・センターとバルセロナのアーカイブズの協力事業について
紹介し、技術を用いた変革への楽観的な見通しを示した。
・Alan Cobley氏「脱植民地化、賠償、デジタル化、そしてAI:21
世紀のカリブ海地域のアーカイブを形作る新たなパラダイム
と技術」
植民地化されたカリブ海地域で作成されたアーカイブズに
は、植民地政府が引き上げる際に廃棄してしまった事例や、
十分でない施設に保管されるため頻発する自然災害により
失われてしまうものがある。
難しい状況の中、維持が難しいアーカイブズをデジタル化で
共有するという将来像について発表した。
・Trudy Huskamp Peterson氏(元アメリカ国立公文書記録管理院長代理)「規律としての希望:アーカイブズと人権」
1948年6月のICA設立時の会議[9]で議題に上がったICAの当初の設立目的に含まれる「アーカイブズの専門家」、
「アーカイブズ機関」、及び「アーカイブズ資料」に着目し、現在と未来の人々の人権を守り、支えるために役立つ
アーカイブズの専門家、機関への希望を語った。
・Emma de Ramon Acevedo氏、Francesc Giménez Martín氏「アーカイブズの未来:次の四半世紀に向けた記録保存と
アーキビストの役割」
カタルーニャ州のアーキビスト協会と南アメリカアーキビスト協会の2氏が、司会のMeg Philips氏の問いに応えながら、
現時点の専門職団体であるアーキビスト協会の役割とICAとの関係について、考察を進めた。

当館古矢理事の発表
2.2 当館の発表等
10月29日に開催されたFANの午後のセッション「国立公文書館の変革のイニシアチブ」において、当館から古矢理事が「日本国立公文書館の将来」というタイトルで発表を行った。
発表では、2030年に向けた新館構想の方向性、特に 国民との関係、行政機関等との関係、国内外の他機関との関係などについて報告した。報告後、会場からの新施設の耐震性に関する質問に答えた。
本セッションで司会を行ったFANのヨーロッパ及び北米代表を務めるノルウェー国立公文書館長Inga Bolga氏は、ICA大会の数週間前に当館訪問をしている。すでに知るBolga氏の司会により発表者は温かく迎えられ、穏やかな雰囲気の中で、当館のほか、オーストラリア国立公文書館長のSimon Froude氏、ルクセンブルク国立公文書館のMagali Soler氏、ベニン国立公文書館長のMathias Massodéによる発表が行われた。
なお、同日午前の FANセッション「2050年を見据えて―国立公文書館の重要事項」では、組織の改革に取り組むイギリス国立公文書館長のSaul Nassé氏とシンガポール国立公文書館長のJulia Chee氏が、各館の長期戦略を発表した。

司会と発表者4名
2.3 その他のセッション等
本大会の専門プログラムにおける発表テーマを概観するとAI(Artificial Intelligence、人工知能)に関する発表が、2年前のアブダビ大会よりも格段に増えていることが目を引いた。また。ウクライナやパレスチナなどの紛争地域におけるアーカイブズ保存問題を喚起する発表も、時代状況をよく表すものであった。数多くのセッションから、AIに関する発表を2つ紹介する。
・Viktoria Löfgren氏「スウェーデン国立公文書館における大規模な手書き文字認識」
「大規模なアーカイブズアクセス:文化遺産・技術・市民との連携」セッション内の発表。発表タイトルに使われた「handwritten text recognition」は「HTR」とも略され、日本語では「手書き文字認識」とよく表記される。スウェーデン国立公文書館がAIを活用して数百万の文書の判読処理を行うことはすでに日本国内でも紹介されている[10]。本発表では、担当者が開発したAIモデル「スウェーデンのライオン(Swedish Lion)」の開発経緯と、研究への応用への可能性についての発表が行われた。マイクロソフトのオープンソースであるTrOCRに基づいた同AIモデルは、100万行の手書き文字の学習データに基づいて開発され、解読に対するエラーは5%ほどだという。ただ、表になっている資料の読み取りは難しい、との説明がなされた。
・Clodomir Santana氏「アーカイブズとAI:デジタル歴史研究における機会と挑戦」
「ポルトガル海外アーカイブズ(AHU)の再定義:グローバルな知識アクセスのためのデジタル・ヒューマニティーズとAI」のパネルセッションのうちの発表の1つ。ポルトガル語が話される国はアフリカにも広がりがあるが、デジタルのポルトガル語資源はブラジルとポルトガルに偏り、アフリカのデータが少なく、歴史研究のためのAIモデルにも影響を及ぼしている。解決方法としてはアーカイブズのデジタル化による学習データの拡大、言語文化的特性の保存、包括的なモデル開発等がある。
2.4 シンポジウム
10月27日は、バルセロナ国際会議場から離れた会場で開催された、ICAの盗難・不正取引問題専門家グループ(Expert Group against Theft, Trafficking and Tampering、EGATTT)のシンポジウム「記録遺産の盗難および不正取引を防ぐには」に参加した。
スコットランド国立記録局の発表は、事例の中でもとりわけ強い印象を残した。過去に1名の研究者が大量の文書を盗難していた事実を、目録と利用記録を手掛かりに追跡し、最終的に返還につなげたという報告である。適切な目録作成と利用記録の保存管理が、真相解明と資料保全に決定的な役割を果たすことを、改めて痛感させられた。
同シンポジウムでは、2025年にEGATTTにより作成されたガイド「文書遺産の盗難及び不正取引を防ぐためのガイド(Guide to prevent thefts and illegal trafficking of documentary heritage)」の紹介[11]もなされた。

バルセロナ市立歴史公文書館
3.アーカイブズ施設の視察―アラゴン王宮文書館とバルセロナ市立歴史公文書館
会期中の10月27日~30日と会期後の31日に、複数のアーカイブズ施設の視察プログラムが組まれた。
このうち当館参加者は、10月31日に、アラゴン王宮文書館の旧館を訪ねた。同館では、旧市街にある建物の歴史が主であり、アーカイブズの機能の特徴について話を聞くことはできなかったが、展示「女性の声-アラゴン王室文書館に残る900年(Female voices. 900 years in the documents of the Archive of the Crown of Aragon)」において、ひとりの女性アーキビストに焦点が当てられているのは、当館においても応用できる可能性が感じられた。
同日午後、公的プログラムとは別枠で、バルセロナ市立歴史公文書館の好意により、同館を訪問することができた。バルセロナ市の歴史をすべて保存するという壮大な計画から生まれた同館について、所蔵資料や組織、課題についての説明を受けたほか、貴重書庫、大判資料用の書庫、閲覧室(コンサルティング・ルーム)を見学した。
おわりに
アーカイブズ分野でAIの利活用が進んでいることを印象付けられた大会であった。国や地域、文化などの違いを越えてアーカイブズの共通の課題について対面で話し合う場があるというのは、当館としても、一職員としても有難い。大会の場はセッションで各館の最新の取組を聞くという情報収集の場であるだけでなく、旧知のアーキビストに再会し、新たな交流が生まれ、さらには相互協力について協議中のアーカイブズ機関と意見交換ができる場でもあった[12]。他館の担当者からの「国際交流は信頼した相手とでないとできず、少しずつ信頼を築きながらゆっくり行うもの」という趣旨の言葉を直接聞けたことが、他国と協力の枠組みを広げる業務を進める際に参考になるものと思われた。
2027年のマレーシア会合では、どのような出会いが待っているのか。次の新たな交流に今から期待したい。
[1]大会特設ホームページ (https://icabarcelona2025.cat/。参照 2026-1-21)
[2]スペイン側の主催者は、カタルーニャ州政府文化省、バルセロナ市議会、バルセロナ州議会文化遺産局、スペイン文化省国立公文書館副総局、カタルーニャアーカイブズ記録管理専門職団体等
[3]ICAバルセロナ大会での発表資料のスライドはICAのHPから閲覧可能。
(https://www.ica.org/slides-from-ica-barcelona-congress-2025-now-available。参照 2026-1-21)
[4]ICA Strategic Plan(https://www.ica.org/app/uploads/2025/07/ICA-Strategic-Plan_2025-2029.pdf。参照 2026-1-21)
[5]ICA憲章の5.1.3. (https://www.ica.org/resource/ica-constitution/。参照 2026-1-21)
[6]ICAは世界を四つの地理的なグループに分けており、他の2地域は、アフリカ及びアラブ諸国、ヨーロッパ及び北米である。
[7]Didier Grange氏は2006年に来日した際、「ジュネーブ市立公文書館-新しい組織の起源と発見-」について講演した。講演録はアーカイブズ第24号に掲載されている。
(https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_24_p15.pdf。参照 2026-1-21)
[8]ICA執行員会のお知らせ(https://www.ica.org/ica-adopts-statement-in-support-of-palestinian-archivists-and-archival-institutions/。参照 2026-2-13)
[9]1948年6月のICA設立時の会議について、以下の論考で簡単に言及している。
太田由紀「国際公文書館会議(ICA)創立75周年~第1回総会への道のりを振り返る~」アーカイブズ第89号 (https://www.archives.go.jp/publication/archives/no089/14120。参照 2026-1-21)
[10]「スウェーデン国立公文書館、AIを活用して約100万点を超える手書き文書をデータベース上で検索可能に」カレントアウェアネス2025年5月21日(
https://current.ndl.go.jp/car/252896。参照 2026-1-21)
[11]Guide to prevent thefts and illegal trafficking of documentary heritage
(https://www.ica.org/app/uploads/2025/10/EGATT-Extended-guide-2025_compressed-1.pdf。参照 2026-1-21)
[12] バルセロナ大会での意見交換後、当館は、令和7年12月18日に当館において、カザフスタン共和国大統領公文書館との覚書署名式を執り行った。(https://www.archives.go.jp/about/activity/international/20251226.html。参照 2026-1-21)
