【令和6年度全国公文書館長会議報告】
電子公文書の管理をめぐる国の動向について

内閣府大臣官房公文書管理課
小池 智歌

1.経緯
  平成29年から30年頃にかけて明らかになった公文書管理をめぐる諸問題を踏まえて、一連の公文書をめぐる問題の再発を防止するため、平成30年7月20日に「公文書管理の適正の確保のための取組について」が閣僚会議決定されました。なぜ行政文書の電子的な管理を進める必要があるのかについて、同決定の中では、「行政文書を電子的に管理することにより、体系的・効率的な管理を進めることで、行政文書の所在把握、履歴管理や探索を容易にするとともに、職員一人ひとりにとって文書管理に関する業務の効率的運営の支援につながり、ひいては文書管理の質の向上をもたらすことが期待される」と記載されています。
  平成31年3月25日には、「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」が内閣総理大臣決定され、その中で「今後作成・取得する行政文書については、行政文書の所在把握、履歴管理や探索を容易にするとともに、管理業務の効率化に寄与する観点から、電子媒体を正本・ 原本として体系的に管理すること」が明記されました。
  また、デジタル時代の公文書管理の在り方について、専門的かつ集中的な議論を行うため、令和3年4月に公文書管理委員会のもとにデジタルワーキング・グループが設置され、同年7月には、報告書「デジタル時代の公文書管理について」が取りまとめられました。報告書では、デジタル技術を活用し、確実かつ効率的な公文書管理を実現するためには、制度の見直しと、システム面での対応を行う必要があるとされました。まず、「制度の見直し」としては、デジタル化を見据えた業務プロセス改革に資するべく、①前後の年度の関連文書を1つの行政文書ファイルにまとめられるようにすること、②国立公文書館等に移管する30年保存文書の保存期間を20年に変更し、早期に移管することなどが盛り込まれました。また、「システム面での対応」として、①デジタル技術を活用した公文書管理(保存・移管・廃棄等)の手続・作業の自動化を進めること、②情報セキュリティの確保や、読取専用化による改ざん防止、長期保存フォーマットへの自動変換を行うことなどが示されました。
  本稿においては、デジタルワーキング・グループ報告書以後の制度面とシステム面における主な動きについて紹介します。

2.制度面の動き
  国では、デジタルワーキング・グループ報告書を踏まえ、令和4年1月・2月に、公文書管理法施行令の改正、行政文書の管理に関するガイドラインの改正、デジタル化に対応した公文書管理課長通知の制定などを行いました。特に、ガイドライン改正では、電子文書での管理を基本とすることを明記したことを受け、各行政機関の行政文書管理規則においても、同内容が明記され、令和4年4月から施行されています。
  また、公文書館において、電子文書が永久保存されていくことも見据えて、電子文書の見読性をいかに確保していくか、長期保存に適したフォーマットはどのようなものが望ましいのかを整理することは重要です。平成22年に定められた「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針[1]」では、国立公文書館は、受け入れた電子公文書等を、その見読性を長期に確保することを図るため、原則として「長期保存フォーマット」に変換した上で保存するとされており、「長期保存フォーマット」として、PDF/A-1とJPEG2000が定められていました。その後の最新の技術情報のアップデートなどを踏まえ、国立公文書館において、諸外国における取組の調査や有識者へのヒアリングなどを通じて、電子公文書等の長期保存フォーマット等に関する調査が実施されました。国では、当該調査を踏まえ、本年2月にガイドライン・課長通知を改正しました。主な2点の改正ポイントについて説明します。
  まず、1点目、従来の「長期保存フォーマット」から種類を拡張し、長期保存に適したフォーマットとして「標準的フォーマット」を示しました。従来の「長期保存フォーマット」に比べて、PDFの種類を増やすとともに、行政機関で日常的に多く使っているWord、Excel、PowerPointについても2007以降についてはISO化されているため、「標準的フォーマット」として追加しました。また、画像のファイル・フォーマット類型として、JPEG2000に加えてPNG、JPEGを追加するとともに、音声・動画のファイル・フォーマット類型として、MP3、MPEG2、MPEG4を追加しました。

令和6年2月 課長通知改正のポイント(「標準的フォーマット」関連)

2点目として、行政機関から国立公文書館への電子文書の移管に当たってのフォーマット変換などに関して、行政機関と国立公文書館の役割分担の明確化をはかりました。公文書管理法第6条において、「行政機関の長は、行政文書ファイル等について、当該行政文書ファイル等の保存期間の満了する日までの間、その内容、時の経過、利用の状況等に応じ、・・・適切な記録媒体により、・・・保存しなければならない。」と規定されているとおり、行政機関において行政文書を保存している間、見読性の確保のための適切な媒体変換を行うことが行政機関には求められております。これは、歴史資料として重要な行政文書ファイル等が国立公文書館等に移管され、そして国民の皆様の利用に供される上での前提となる点です。改正前は、国立公文書館が受け入れた電子公文書等を原則として長期保存フォーマットに変換した上で保存するスキームでしたが、改正後は、国立公文書館における受入れ時のフォーマットが「標準的フォーマット」である場合には、原則として受入れ時のフォーマットで保存するとし、「標準的フォーマット」でない場合には、その見読性を長期に確保することを図るため、原則として、各府省等に対して、「標準的フォーマット」に変換することを求め、必要な助言を行うこととしました。
  なお、公文書管理委員会の委員の方々からも指摘がありましたが、このようなフォーマットは、情報技術の進展などもあり、適時のフォーマットの見直しが必要であるため、課長通知の中では、「国立公文書館においては、社会情勢、情報技術の変化等を注視し、標準的フォーマットの見直しに必要な調査研究を行う」旨の記載も追記されています。

「標準的フォーマット」に関する行政機関と国立公文書館の役割

3.システム面における動き
  国では、現在、「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」等を踏まえ、令和8年度からの段階的導入を目指すべく、新たな文書管理システムの検討を進めています。これまでは、行政文書のライフサイクルを通じて一貫したシステムにはなっていなかったこと、行政機関における事務処理(行政文書ファイル管理簿の記入等)と行政文書そのものの管理が連動しておらず、所在管理も難しいなどの問題がありました。
  そこで、新文書管理システムにおいては、公文書管理法に基づく、行政文書の整理、保存、移管又は廃棄などを、より確実かつ効率的に実施する観点から、一連の文書管理業務を一貫して電子的に処理できるようにする予定であり、具体的には、主に以下のような機能が盛り込まれる予定です。

    ・ 新文書管理システムでは、システム上で作成された保存期間表をもとにしたメタデータにより、検討中領域に作成する行政文書ファイル自体にもメタデータが付与できるようにし、行政文書ファイル等とメタデータが自動で紐付けされます。
・ 保存期間が1年以上の行政文書ファイル等については、行政文書ファイル管理簿に登録する必要がありますが、検討中領域に保存されたままの状態で放置されてしまうことを防ぐために、放置されている行政文書ファイル等を特定してアラートを発出できるようにします。
・ 整理済文書の改ざんや誤廃棄を防止するため、記録用領域は読み取り専用にします。
・ 新文書管理システム上で作成された保存期間表をもとにしたメタデータにより、行政文書ファイル管理簿の記載事項が自動的に転記されます。
・ 各行政機関から国立公文書館に電子文書を移管する前に、その電子ファイルが「標準的フォーマット」であるか、パスワードロックがかかっていないか等のチェックを行う機能を追加し、行政機関、国立公文書館の作業負担軽減に寄与します。

  これらが実現すれば、文書管理業務を、メタデータを基に効率的に、また確実に、さらには職員の過度な負担とならずに行えるようになると考えております。
  なお、新文書管理システムの要件定義書作成に当たり、国立公文書館において実際に電子文書の受入れ担当の方々より、整備を希望する機能について意見をいただきました。そのような意見交換を通じて、実際、電子文書の受入れにあたり、どのようなことに苦慮しているのか、機能として整備することでどのように負担が軽減されるのかを把握することができ、非常に有益でした。令和6年度全国公文書館長会議における意見交換でも「適切な文書管理システムの構築や運用に向けた公文書館等の関与」というテーマで議論がなされました。文書管理システムの構築や更新に当たり、行政機関、公文書館として様々な関与の形があるかと思いますが、ぜひ文書管理のライフサイクルを俯瞰していただき、行政文書の作成・整理・保存をする行政機関、行政文書の受入れ先である公文書館がよく連携をとり、十分に意思疎通が図られることを期待しています。

4.おわりに
  社会全体・行政全体でデジタル化の取組が進む中で、公文書管理においても、紙媒体を念頭に置いた管理から、電子媒体を前提とした管理の仕組みへの転換が求められています。公文書管理におけるデジタル技術の活用は、確実かつ効率的な公文書管理を実現する上で、非常に重要なものと考えています。制度面、システム面を車の両輪として着実に進め、デジタル時代にふさわしい公文書管理を実現してまいりたいと考えています。

〔注〕
[1]当該方針は、令和4年2月10日「行政文書の管理に関する公文書管理課長通知2-6」として整理されている。

〔注〕国における電子公文書の管理をめぐる動向については、以下も参考になりますのでご参照ください。
[1]「公文書管理委員会デジタルワーキング・グループ報告書について」『アーカイブズ』第82号、2021年、https://www.archives.go.jp/publication/archives/no082/10978
(最終アクセス日2024年11月20日)
[2]「【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】国における電子公文書の管理・保存の動向について」『アーカイブズ』第88号、2023年、https://www.archives.go.jp/publication/archives/no088/13937(最終アクセス日 2024年11月20日)