【令和4年度アーカイブズ研修Ⅱ特集】
国における電子公文書の管理・保存の動向について

前内閣府大臣官房公文書管理課長
吉田 真晃

  デジタル化の進展等を踏まえ、国の行政機関においては、確実かつ効率的な行政文書の管理を実現するため、文書の作成・保存を電子媒体で行うことを基本とするとともに、文書管理の新たなシステムを構築し、行政文書のライフサイクル(作成・整理・行政文書ファイル管理簿への登録・廃棄協議・移管等)に係る手続をできるだけ自動化するための取組を進めています。また、行政機関から文書の移管を受ける公文書館においては、電子媒体による移管を受け入れるとともに、これを永久保存することや、デジタルアーカイブとして国民に提供することが求められてきます。本稿では、こうした動向について、全体を俯瞰しながら、現状や課題などについて説明します。

<行政機関における文書の電子的管理>
  行政文書については、パソコンなどで基本的に電子的に作成されていますが、電子的管理とは、大まかに言えば、これをプリントアウトして紙媒体で保存することなく、共有フォルダの中でそのまま管理するというイメージです。また、電子メールや業務システム内のデータ、紙媒体で入手した資料を管理する必要がありますので、これらに対応するためのルールを定めました。紙媒体の文書については、一定の条件を満たしながらスキャナで読み取って保存・管理することができるルールを定めました。また、多くの手続で押印が不要とされましたし、さらに、行政手続のデジタル化が進められていますので、行政文書の電子的管理が進むと考えられます。
  令和3年4月には、公文書管理委員会の下にデジタルワーキング・グループが設置され、同年7月には、「デジタル時代の公文書管理」の報告書がまとめられました。同時にいくつかの公文書管理のルールの見直しについての検討も行われ、令和4年1月・2月に、公文書管理法施行令の改正、行政文書の管理に関するガイドラインの全部改正、公文書管理課長通知の制定などを行いました。
  その後、各省庁の行政文書管理規則において、電子的に作成・保存することを基本とすることが明記され、令和4年4月から施行されています。公文書管理法施行令の改正の中には、移管対象の文書について、保存期間を30年から20年に短くし、国立公文書館等への早期移管を促すことも含まれています。
  制度面と合わせて、システム面での取組も重要です。例えば、保存期間や保存期間満了時の措置の設定、行政文書ファイル管理簿への記載、廃棄協議や移管などの手続の自動化を進めることにより、業務をより確実かつ効率的なものにすることができると考えられます。内閣府とデジタル庁が中心になって、新たな文書管理のためのシステムの検討が行われており、令和4年度中に、内閣府において業務要件の整理が行われました。今後、令和8年度以降の実装に向けて、デジタル庁を中心に調査研究・システムの開発が行われています。また、これと合わせて、行政文書の管理に関するガイドラインの別表の改正が検討されています。現在のガイドラインでは、保存期間と移管・廃棄基準が2つの別の表で構成されていますが、新たなシステム内での取り扱いができるよう、2つの表の統合や基準の明確化などが検討されています。
  行政文書が電子的に管理されることは、テレワークをしやすくなるなど、行政全体のデジタル化にもつながりますし、一方で、行政手続などの電子化が進まなければ、紙の管理が引き続き必要となります。行政文書の電子化は、行政全体のデジタル化とも深くかかわるテーマでもあります。さらに、手続が自動化されれば、職員が文書の作成や判断に注力しつつ、手続漏れをなくすこともできます。行政や文書管理の確実かつ効率的な実施を進める上で、重要な取組と考えています。

<公文書館における文書の電子的保存等>
  公文書館では、歴史的に重要な公文書を永久又は超長期にわたり保存し、国民の利用に供することが求められています。こうした業務も、デジタル化の進展に合わせて、変化していくことが考えられます。
  電子媒体を永久に利用可能な形で保存することは、大きな課題です。国立公文書館における保存については、内閣府がPDF/Aなどに変換して保存する方針を出していますが、10年以上経過していますので、現在、国立公文書館において、長期保存フォーマットについて、諸外国における取組や有識者へのヒアリングなどの調査研究が行われています。ワードなどの汎用的なフォーマットは長期保存に伴うリスクが低いと考えられますが、それでも永久保存のためには、適切な時期に対応していくことが必要となりますし、リスクの高いフォーマットもあります。
  また、マイクロフィルムなどの既存媒体も劣化していきます。例えば、オーストラリアの国立公文書館では、テープを含めた様々な媒体に保存された映像・音声などを低温で保存して劣化を防ぐとともに、デジタル化していく取組が進められています。劣化が懸念される媒体の内容をデジタル化して、保存するという取組も必要となってくると考えられます。
  国民が国立公文書館などの所蔵文書を利用する際にも、利用申請の手続や料金納付のオンライン化や電子媒体による提供を進めていくことが考えられます。さらに、デジタルアーカイブで積極的に提供することにより、利用者の方は、利用請求を行わなくとも、いつでもどこでも、文書を検索し、閲覧することができるようになります。また、所蔵資料の目録情報を連携させることにより、機関を超えて、文書を検索することが可能になります。
  展示についても、デジタル技術を活用することが考えられます。国立公文書館においては、令和10年度末に新館開館予定ですが、従来の紙媒体の文書に加えて、デジタルを活用して、理解や関心を深められるよう、検討が進められています。
  デジタルは、公文書館の在り方を変えていく可能性がありますし、公文書館もデジタル時代にふさわしい形で、デジタルを活用しながら、より良いものに変わっていく必要があります。

<おわりに>
  公文書の適切な管理・保存のためには、①制度、②物理的な仕組み(書庫、電子媒体)、③人材の3つが重要です。公文書のライフサイクルに沿って、行政文書が適切に作成され、保存され、評価・選別され、移管・永久保存又は廃棄されますが、それを担う一人一人の職員の取組も大事ですし、それらを支える専門的な職員も重要です。日々の研修などを通じて、ルールを浸透していくとともに、文書管理やアーカイブズの専門人材を育成していくことが必要です。また、制度や保存の仕組みを作るに当たっても専門的な知見が求められます。
  国立公文書館においては、認証アーキビストの認証が行われておりますし、准認証アーキビストについても令和6年度に向けて検討が行われています。国の行政機関でも、各行政機関で文書管理を担うCRO室の機能を高められるよう、研修の必修化や充実、国立公文書館も交えた意見交換の場などを設けるなどの取組を行っています。さらに、国立公文書館において、公文書管理研修やアーカイブズ研修が行われています。
  民主主義の基盤である公文書が、適切に管理され、現在及び将来の国民に対する説明責任を果たしていくためには、公文書管理を支える人材を育て、時代に合った制度や仕組み、そして、保存や利用の環境を整えていく必要があります。そのためには、行政全体に加えて、社会全体の理解も必要であり、歴史的事実の記録である公文書を残し、利用できることの意義・重要性を広く伝えていくことも大切です。