(巻頭エッセイ) ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて

国立公文書館長
加藤 丈夫

全国公文書館長会議において(平成29年6月9日)

   いま国では重点政策の一つとして「働き方改革」を推進していますが、国立公文書館でも、今年の春から「ワーク・ライフ・バランスの実現」に向けたさまざまな対策の一層の充実化に取り組んでいます。
   改めて言うまでもなく、ワーク・ライフ・バランス(W・L・B)とは、仕事と生活の調和―即ち、働く人一人ひとりが、自分の生活環境やライフスタイルに合った働き方をすることによって、自分自身の満足度を高めると同時に働く場での生産性の向上を実現する取り組みです。
   いまわが国では長時間労働が大きな社会問題になっており、個人が自由な時間を確保できないだけでなく、これが過労死やメンタルヘルス障害の原因になっていると言われています。従って、W・L・Bを実現するには、先ず長時間労働をなくすことから始めるべきだという意見が強く、当館でも残業の削減(時間管理の徹底)、休暇の計画的取得、定時退館日の設定などを実施しています。
   もちろん、こうした目標を確実に実行していくことは大切ですが、私は日本の社会にW・L・Bを定着させるには、もっと基本的な問題、即ち個人としての生き方・働き方や職場での仕事のやり方そのものを見直していく必要があると考えています。
   また、これまでW・L・Bは若い世代が子育てをしやすい環境づくりの面が強調されていましたが、本来は働く人のライフステージ全体を通した取り組みであり、男女・世代を問わず働く人すべてが対象であることを認識する必要があります。
   よく聞く話として、日本の勤労者は欧米と比べて、1)時間に対する観念が希薄でだらだらと職場に居続けることが多い、2)職場の人間関係を大切にして個人の事情より仕事優先で行動しがちだ、3)職務に応じた人の配置が行われないために特定の人に仕事が集中するなどの傾向があり、これが長時間労働の原因だというのです。
   確かに、私自身の会社生活を振り返っても、すべて仕事優先で自分の自由な時間を持つことはほとんどなかったし、家庭生活を大切にする気持ちも希薄だったと言わざるを得ないのですが、いまの若い人たちの中にも、定時に帰宅した後の時間を何に使ってよいか分からないとか、残業をしないと仕事が溜まってしまい周囲に迷惑をかけるのが心配で落ち着かないという人がいるようです。
   私は、日本流の仕事のやり方が悪いとは思いませんが、大切なことは仕事と暮らしのバランスを図ること、双方がwin・winの関係を確立することであり、そのためには従来のスタイルに拘らない大胆な見直しが必要でしょう。
   そうした意識の改革を含め、W・L・Bの定着は簡単なことではありませんが、私は数年後に、国立公文書館の取り組みを“一つの成功例”として報告したいものだと考えています。