群馬県公文書等の管理に関する条例施行

群馬県立文書館
戸恒 義博

  群馬県では、令和2年3月に「群馬県公文書等の管理に関する条例」(以下「条例」という。)が成立し、約1年間の準備期間をおいて令和3年4月1日に施行されました。今回は、条例施行までの経緯や苦労した点等についてお話ししたいと思います。

1 経 緯
(1) 令和元年6月~令和2年11月 群馬県公文書管理条例検討会議(全4回)
    構成員:各実施機関及び庁内関係機関次長級職員19名
    目 的:条例主管課である総務部総務事務センター(現総務事務管理課)から各実施機関への制度の周知・説明、意見聴取
(2) 令和元年10月~11月 公文書等管理条例に係るパブリックコメント実施
(3) 令和2年3月 「群馬県公文書等の管理に関する条例」案が議決、成立
(4) 令和2年7月~令和3年1月 群馬県公文書等管理委員会(全4回)
    構成員:弁護士、国立公文書館上席公文書専門官、大学教授、地元新聞社取締役、県行政書士会副会長の5名
    目 的:条例施行に伴う規則等(施行規則、利用等規則、公文書管理規程、利用審査基準等)の諮問
(5) 令和3年1月~2月 「群馬県公文書等の管理に関する条例に基づく利用請求に対する処分に係る審査基準」に係るパブリックコメント実施

群馬県行政文書

群馬県行政文書

2 文書館の作業
(1) 群馬県立文書館(以下「当館」という。)は教育委員会に属するため、規則や要綱の制定にあたり知事部局の条例所管課及び教育委員会の主管課との調整が複雑になり、当館の意見を十分に反映させることが難しい状況でした。
(2) 特定歴史公文書等とそれ以外の文書の切り分け
  当館は、昭和57年に県史編纂室を引き継ぐ形で全国で8番目に開館し、収蔵資料は大きく「公文書」「古文書」「県史編さん資料」「行政資料・図書」に区分されていました。そのうち県庁等から収集してきた文書等を「公文書」と呼び整理・保存してきましたが、その中には、国指定重要文化財である「群馬県行政文書」(17,858点)等条例上の特定歴史公文書等にあたる重要な文書も多くある一方、歴史的に重要とは言えないもの(条例の選定基準に合致しないもの)や、そもそも公文書とは言えないもの(江戸時代の和綴本や単なる行政資料的な資料等)も含まれており、新設された選定基準に基づき条例、規則上の「特定歴史公文書等」(以下「特歴」という。)を厳密に選別する必要が生じました。その数は十数万点に及び、条例制定から施行までの1年間にデータ整理やデータと実際の文書の突合作業に多くの時間と労力をかけることになりました。
(3)利用手続の変化
  当館では、所蔵文書を利用していただく際にはこれまで公文書、古文書、その他の史料にかかわらず一つの様式で利用請求を受けてきましたが、条例施行により特歴のみが別のルール、様式で対応することとなったため、利用手続が複雑になってしまいました。
  できるだけ利用者にわかりやすいよう、館職員に対する研修を実施したりホームページでの説明等を工夫するなどして、円滑な運用に努めています。また、特歴のみ利用請求等の様式が異なることとなるため、ホームページの文書目録検索システムの改修が必要となり、少ない予算と短い期間しかありませんでしたが、なんとか条例施行までに間に合わせることができました。

3 今後の課題
  これまでは、毎年県庁の文書整理現場に立ち会って歴史的文書を収集してきました 
が、条例施行後はレコードスケジュールに則り文書作成課が移管か廃棄かを決定し、当館に移管文書を搬入することになります。
  今回の条例制定で、移管元実施機関が県庁所属だけでなくその地域機関、警察本部、県立学校、公立大学法人、住宅供給公社まで広がりましたので、文書がどの程度移管されるのかわかりませんが、その受入れ手順、保管場所、整理や目録作成の進め方等未知のことが多くあります。当県の条例では、文書作成課が「廃棄」とした文書でも当館が「移管」と意見を付したものは特別の理由がない限り移管となりますので、すべての廃棄文書に目を通さなければなりません。移管文書は原則受入れから1年以内に排架しなければならないので、中でも一番慎重さが求められ時間もかかる公開審査作業の効率化が課題と思っています。
  また、これまでと比べればかなり具体的な審査基準が設置されましたが、当館にはもとより専門職がおらず、行政職員と教職員出身者が審査を行うため、誰が審査してもできるだけ判断に誤差が出ないよう、審査基準への習熟が必須となります。
  加えて、文書の移管または廃棄を決めることとなる各実施機関の職員の意識向上も重要な課題となりますので、啓発に力を入れていきたいと思います。

4 終わりに
  まだ条例が施行されたばかりなので、今後安心して利用していただけるよう工夫を重ねて利用者の満足度を上げていきたいと思います。全国の文書館・公文書館の方々には今後何かと御教示いただくこともあるかと存じますが、その折にはどうぞよろしくお願いいたします。