2つの条例により県や地域の活動記録を未来へつなぐ
~開館30周年を迎えた鳥取県立公文書館の取組~

鳥取県立公文書館
館長 田中 健一

鳥取県立公文書館全景(左は図書館)

鳥取県立公文書館全景(左は図書館)

1 はじめに
  鳥取県立公文書館は、鳥取大学附属小・中学校の跡地でさらに遡ると江戸時代には鳥取藩の藩校尚徳館が立地していた地に開館してから、今年(2020)で30周年となります。
  公文書館設立の構想は、県史編さん事業終了を間近に控えた昭和54年に、「歴史文献史料・公文書の収集保存についての建議」が県史編さん審議会長から知事に提出されたことに始まり、文書館(ぶんしょかん)(仮称)設置検討委員により議論され、第4次鳥取県総合開発計画(昭和56年)に文書館(仮称)設置が位置付けられました。その後、文書館設置調査会で必要な施設や機能が検討され、平成2年10月1日に県立図書館と同時に開館しました。
  当館では、歴史公文書の引継ぎや寄贈寄託資料の受入により資料を収集し、整理・保存・修復等を行い、利用に供するとともに、行政資料・統計資料の保存・排架・利用提供を行っています。また、資料の研究やその成果を活用した普及啓発のための展示等を行うとともに、新鳥取県史編さん事業の成果や収集資料の公開・活用も進めています。
  今回は、当館の開館からの歩みと取組について、ご紹介します。

公文書館の展示とカウンター(新型コロナ対策対応後)

公文書館の展示とカウンター(新型コロナ対策対応後)

2 開館から公文書管理条例制定まで
  開館当初は、歴史公文書等の保存、利用だけでなく、情報公開の中央窓口として広報文書課職員1名が現用文書の開示請求について対応し、統計資料については統計課統計資料室職員2名が統計相談や統計資料の保存、利用提供を行っていました。
  情報公開窓口は、平成11年の県民室の設置に伴い移管され、その後統計資料室も廃止となりましたが、平成20年には新鳥取県史編さん事業を行う県史編さん室が新たに加わりました。(令和元年度に編さん事業を完了し、現在は県史活用担当。)
  また、開館当初は、文書管理規程を改正して知事部局の歴史公文書等を当館に引き継いでおり、その後、各種委員会からも引継ぎを行うようになりました。
  平成24年には公文書管理条例が施行となり、歴史公文書等の適切な保存・利用により県の諸活動を現在及び将来の県民に説明する責務が定められ、警察や病院、各種委員会等を含む15機関からの引継ぎと廃棄に当たっては公文書館長に協議しなければならないこととなり、毎年度その手続きを経て各機関からの引継ぎを行っています。公文書管理条例の施行により、これまで評価選別の対象であった5年保存と10年保存に加え、1年保存と30年保存の公文書も評価選別することとなり、「鳥取県立公文書館歴史公文書等選別方針」を定めました。評価選別対象の年限と対象機関が拡大したことにより、選別対象の公文書の量が大幅に増加し、業務が増加するとともに、当館の果たす役割もますます重要なものとなりました。

3 歴史公文書等保存条例制定と市町村と連携した取組
  平成の大合併が行われる前の平成15年から平成18年度までの4年間は、専門員1名を増員して、市町村の歴史公文書等の廃棄・滅失を防止するため、目録作成や助言等を行いました。  また、平成23年度までは市町村及び県職員を対象に文書管理に関する研究会を開催し、公文書管理条例が施行された平成24年度からは県市町村公文書等管理連絡協議会を開催し、公文書等の望ましい管理や評価選別、保存方法等の情報交換と研修を実施しましたが、市町村の職員体制は非常に厳しく、専門知識を持った職員も少なく、現用公文書や歴史公文書等の管理や保存は、十分とは言えない状況でした。
  私が当館に着任する直前の平成28年2月県議会で、「市町村合併から10年たち、貴重な公文書等が廃棄される等の危機を迎え、県が市町村をリードして適切な公文書の管理を進めることはできないか。公文書館設置条例は内向きで、条例の見直しを検討すべき。」との質問があり、知事が「文書の保管管理という機能だけでない公文書館の在り方というのを考える必要がある。」と答弁したのをきっかけに、公文書館の在り方の検討を行うこととなりました。4月から県内全市町村の公文書管理の状況を調査し、5月には「県立公文書館在り方検討会議(座長:東洋大学教授 早川和宏 氏)」を設置し、県立公文書館の在り方について検討を行いました。
  検討会議の報告書を基に、その年の11月県議会で「鳥取県における歴史資料として重要な公文書等の保存等に関する条例」が成立しました。

  この条例は、歴史公文書等は県民の知る権利の保障に資するものや地域の重要な歴史事実を伝えるものなど、現在及び将来の住民全体にとって価値の高い知的資源であることから、県・市町村・県民等の相互の連携と協力により、将来の世代へ引き継がなければならないことを基本理念とし、歴史公文書等の保存や活用に係る保有主体(県、市町村、県民等)の責務と役割等を明記した全国初の条例となります。
  平成29年4月には、県・市町村の連携した取組を進めるため、「県市町村歴史公文書等保存活用共同会議」を立ち上げ、共通する課題について対応するため「評価選別部会」と「現用文書部会」を設置し検討を行うとともに、研修や普及啓発等を行っています。
  また、この条例では、県は災害時に歴史公文書等の滅失・破損のおそれがある時は、保有者等との連携と協力により適切な措置を講じることが定められたことから、「災害発生時等の公文書館、図書館、博物館等と市町村との連携・協力実施計画」を策定するとともに、救助に必要な資機材を整備しました。

RPA解説

RPA解説

RPAにより歴史公文書等の評価選別を行う職員

RPAにより歴史公文書等の評価選別を行う職員


4 おわりに
  新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によって、テレワークやオンラインでの取組など生活の変化が生まれ、「Society 5.0」に向けたICTを活用した取組も加速しています。
  このような流れに当館としても対応していく必要があり、今年度の新型コロナ感染防止のため鳥取大火の展示をとりやめウェブ展示にしたり、新型コロナで関心が高まったスペイン風邪を報道した県内の新聞記事を網羅的に収録したデータベースの作成・ウェブ公開を行いました。さらに、県立図書館を中心に構築中の県立4館(図書館、公文書館、博物館、埋蔵文化財センター)共通のデジタルアーカイブシステムが今年度末に完成することにより、ウェブでの資料の公開は一気に進み、国立公文書館等との公開資料の連携もできる予定です。
  また、歴史公文書等の評価選別作業の一部についてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を利用して効率化して捻出した時間をレファレンスの強化にあてるなどの取組を進めています。
  一方で、職員の専門性の向上は大きな課題であり、毎年、国立公文書館のアーカイブズ研修を受講する等、専門性の向上を図っているところです。新たに発足する認証アーキビストの取組は非常に心強く思っており、当館関係者からも申請しているところです。
  今後とも、行政や地域の活動記録を収集・整理・修復・保存して、県民に活用していただけるよう、引き続きしっかりと取組を進めて参りたいと考えています。