令和元年度アーカイブズ研修Ⅱ F班グループ報告
~事前審査の方法と課題についての検討~

新潟県警察本部
江口 史

討論の様子

討論の様子

1 はじめに
 本稿は、令和2年1月15日(水)から17日(金)の3日間、国立公文書館において開催された令和元年度アーカイブズ研修Ⅱにおけるグループ討論・F班の討論内容の概要である。F班の参加者、所属、及び役割分担は次のとおりである。
 石崎亜美(国立公文書館・書記)、丸山寿典(宮内公文書館・司会)、菅波博昭(宮崎県文書センター)、福地洋子(沖縄県公文書館・発表)、柴田愛(八潮市立資料館・書記)、江口史(新潟県警察本部・執筆) 以上、6名
 班員のおかれている立場から顧みると、公文書館機能を有した組織の職員が5名、移管元所属が1名となっている。また、班員の所属組織は公文書館機能を有する組織においても、公文書管理法に基づき審査業務の運用がなされている組織、条例施行準備中の組織、独自の利用審査基準や内規で行っている団体など様々であった。

2 課題の抽出
 それぞれ持ち寄った課題(議論のテーマ)から、最初は審査の基準で統一したマニュアル化についての議論を行った。しかし、班員は、国・県・市などそれぞれ異なる立場にあり、根拠法令のほか、所蔵している文書の種類、地域の事情などそれぞれの状況が異なることから、基準の統一化については難しいという結論に至った。そこで審査基準ではなく、最終的には審査の方法について議論していくことで落ち着いた次第である。我々の班では、特に事前審査について検討し、方法・課題について特化し検討していくこととした。
 なお、事前審査とは、所蔵文書について「事前に(利用制限事由の)該当性の有無を審査し、速やかに利用に供することができるようにしておく」仕組みである。 ガイドラインでは、事前審査は文書の排架前―目録の公開前に行うものとされ、文書の排架後に利用請求によらず行う審査は「積極的な審査」とされる。F班での議論は、前者の、事前審査―目録公開前に行う審査について議論を行った。

3 事前審査の方法・課題
 まず、最初に事前審査のメリットを考えていく。
 事前審査のメリットとして第一に挙げられるのは、利用者が利用請求後、すぐに利用できるということである。これは利用者側の最大のメリットである。事前審査を経た資料は、目録を公開する際に同時に公開・一部公開などの区分表示となり、既に審査(部内の意思決定)を受けているものであるため、審査側にも審査にあたってあせらないことや間違い防止など大きなメリットが存在する。議論の中で、一事例として沖縄県では利用者を待たせて審査を行う場合も多くあり、プレッシャーがかかるということが報告された。この事例を見ても、事前審査を行うことでミスを防ぐ体制が確立でき、より慎重な審査を実施できるというメリットがある。また、事前審査によって、情報を共有することができ、より精度の高い審査が可能となるといった意見もあった。
 次にデメリットについて考えると、審査側の時間と人手が要することが最大の問題点である。しかし、利用者にとっては、事前に審査が行われていれば、ほぼ待ち時間なしで利用できることを考慮すれば、利用者を第一に考えた方法である事前審査を行う方がよいと考えられる。

討論中のホワイトボード

討論中のホワイトボード

4 事前審査の問題点
 上記の通り、可能な限り行う方がよいとした事前審査だが、人手と時間を要する以外にも問題点がある。一つ目には、公開する文書に偏りが発生する可能性が高いことである。どうしても一度に事前審査できる量には限界があり、特定の分野にかたよる場合がある。次に事前審査を行う場所の確保である。一つの空間で事前審査を行える館ばかりでなく、書庫から移動して作業を行うという館もある。さらには、審査のダブルチェックの問題もある。審査を行った文書を部内の意思決定である決裁を経て、結果が確定するための時間を要する。その他の課題として事前審査を行うモチベーションや行う量の目標(ノルマ)など議論の中で話題があった。
 こういった問題点をすべて解決するのはなかなか難しいと考えるが、我々の班ではできるところから改善しようと議論を進めた。

5 事前審査における問題点の改善に向けて
 事前審査の問題点の改善に向け、検討を続ける中で3つの方法が挙げられた。
 一つ目として、事前審査の対象の文書の選び方であり、審査を二段階で実施する、という方法である。最初に公開請求がありそうな文書や、公開できそうな文書を事前審査の対象として選別する。それ以外の文書は過去の実績等から利用頻度が高いと思われるものから審査していくという方法が取れるのではないかと検討した。その際に大切なものとして、過去の利用制限に関する判断を記録した台帳(データベース)を作成すれば、その蓄積により事前審査も効果的になり、事例を蓄積することによって、より基準化、審査基準として確立していくのではないかとの意見も出た。
 二つ目として、どこまで作業するかと言うことを検討した。利用制限箇所をマスキングすることはどこの館でも非常に時間を費やす作業であると考える。そこで時間の短縮化を図るため、いきなり袋かけ等の作業を実施するのではなく、制限箇所の決定までを行い、しおり等を挟んでおく等にとどめ、申請があった時点で再度確認し、年数経過での公開も含めて検討していく方策をとるのはどうかという意見が出た。
 最後に三つ目として、意見書の存在が挙げられた。文書を作成した原課(主管課)からの移管の際、文書に添えられた利用制限についての意見書の存在である。これは公文書管理法や自治体の公文書管理条例で定められている。意見書のメリットは作成者しか知り得ない情報を公文書館側が知ることができることである。意見書に制限内容等を正確に付してもらうことによって、公文書館は審査を効率的に進めることができる。また、移管の際は、移管元へ正確に意見を付してもらうことが、後世に資料を残す重要なことであることを伝え、情報交換し協力体制をとりつつ進めていくことにより効率的な作業ができるのではないかと考えた。公文書管理法や公文書管理条例で制度化されている館は当然ながら、法令が整備されていない館においても、何かしらの意見書を付してもらえるよう移管元の原課に積極的に働きかけるのも重要ではないかと考える。

6 最後に
 本研修に参加したことで、同じような立場の者がお互いの課題を共有したことにより、改めて利用請求の重要性や移管から公開までの一連の流れの中に複雑な作業が含まれていることを認識できた。知る権利やその他の権利保護などに関する時代背景やリスクを考慮しつつ公文書管理という重責を担っている業務であることを痛感した研修であった。今後もこうした検討の場を通じて、それぞれの立場で利用審査について情報交換を行い、効果的な公文書館の運営を行うことに貢献していきたい。
 なお、著者は原課の立場での参加ではあったが、公文書館の運営がいかに大変で限られた資源の中、業務を行っていることを痛感した。特に移管の際の意見書を付す際、利用審査を念頭に置きながら、適切かつ適正な意見書作成を行えるよう、今後とも協力できる体制作りに努めたい。