令和元年度アーカイブズ研修Ⅱ B班グループ報告~理想の公文書館を考えてみて~

仙台市 荒川 理佐
埼玉県立文書館 安立 幸央

はじめに
 本稿は、令和2年1月に実施された令和元年度アーカイブズ研修ⅡにおけるB班の討論をまとめたものである。班のメンバーは以下の6名であった(敬称略、所属は研修当時のものである)。
 長谷川拓也(茨城県立歴史館)、安立幸央(埼玉県立文書館)、子安伸枝(千葉県文書館)、荒木清二(広島県立文書館)、筒井良太(福岡共同公文書館)、荒川理佐(仙台市)
 B班は利用審査に携わってから1年未満の者が多く、各館の利用審査方法も多岐にわたった。そこで、「新たに中核都市に公文書館を新設する際の理想」をテーマとして審査体制を中心に検討し、その中でそれぞれが自らの館の長所・課題点を持ち寄り、主に課題点を解決するための方法を考えながら理想像を論じた。
 議論は、審査基準→審査過程→審査過程にともなう職員体制→運用方法→基準等の見直しのタイミングへと進み、最後に今後公文書館が考えるべき課題を挙げるという順番で行われた。

討論の様子

討論の様子

1.審査基準……公文書管理法に沿った基準を作り、公開
 審査基準を作るにあたり、まずは一つの行政文書が現用文書から特定歴史公文書等に変化する点に注目した。館によって多少異なるが、現用文書は情報公開法(条例)の基準をもとに公開が決定される一方、特定歴史公文書等は公文書管理法(条例)によって利用の可否が決まる。まずは公文書管理法に準ずる条例を作成して「時の経過」を考慮できる体制を作り、それらは広く公開することとした。さらに、規則・審査基準の下に職員用のマニュアルなどを作り、事例や知識を蓄積して日々の業務や審査基準の見直し時に役立てたいとの声が出た。

2.審査過程……早く行うよう心掛けるが、慎重に複数人で審査
 審査過程については、速やかな閲覧利用と慎重な審査のどちらを優先すべきか考えた。利用者目線で考えれば、利用申請当日に審査を終え閲覧できることが望ましいが、短い時間で審査することは利用制限の必要な情報を見落とすおそれがあるため、一定の審査期間を設けて制限情報を慎重に審査する方が良いと判断した。
 また、要審査文書そのものを減らすため、移管・目録作成時に事前審査できないか検討した。例えば経過年数や簿冊名、件名などから判断できないか、移管時に原課で制限情報の有無や利用に際しての意見を付すよう依頼できないか等の案が出た。これらの方法で要審査文書をふるいにかけられれば、審査の総数が減り、利用者にも公文書館にもメリットがあると考えた。
 そのほか、利用頻度の高そうな文書や展示に使えそうな文書等を優先して事前に審査をするなど、利用者からの申請が無い場合でも、日常的に要審査の文書の数を減らすのが望ましいという結論に落ち着いた。

3.職員体制……専門知識を持つ人材の確保
 審査体制の問題点として、審査の負担や責任が1人の職員に集中し易いことや、行政・歴史など専門的な知識のない職員の審査により制限すべき情報が見落とされてしまう可能性があることが挙がった。
 まず必要なのは専門知識を持つ人材の確保である。行政職はもちろん、学芸員や司書、そして認証アーキビスト等の配置が理想だということは共通の見解だった。全員を正規職員だけで構成することは難しいが、非常勤職員や行政職の再任用職員を採用することも可能だ。特に行政職のOBは長年の経験を活かした活躍が期待される。
 そして、特定の職員に業務の負担や責任が偏らないよう、適度な分業制を目指し、公文書館における業務全般を理解して、かつ得意分野がある職員を育成することが理想的だという結論に至った。

4.運用方法……審査履歴の蓄積
 利用審査において、班員からは各館の課題として、担当職員が一人で判断することや審査での考え方・結果が組織として共有・蓄積されておらず、責任の所在が曖昧な面があることなどが挙げられた。
 そのため、利用審査を行う際は、どの部分がどの審査基準によってそのように判断されたのかを調査票に記録する方法が提案された。この中には公文書館側から原課へ問い合わせたというような記録も含む。
 この調査票をもとに会議を開催し、組織として共有し判断することが職員の知識の向上に有効である。また、利用審査手続きの透明性を確保し説明責任を果たすためには、このような調査票を保存・蓄積していくことが重要である。

5.基準の見直し……大きな変化が見直す目安
 一度定めた審査基準は万能ではなく、社会の変化により制限事由、範囲も変化することがあるため定期的に見直す必要がある。ではどのような時に見直しを行うかという議論を行った。個人情報などに係る利用制限は、数十年区切りで「時の経過」を考慮するが、利用審査の見直しにおいては、一定の時間で区切るのではなく、社会情勢が大きく変わる時(例えば旧優生保護法に関する事件などの大きな事件や事故などの発生時)や法令の改正時などが適当ではないかと考えた。

討論中のホワイトボード

討論中のホワイトボード

6.今後の課題
 上記のとおり、新たに設置する公文書館の枠組みを考えたうえで、最後に今後公文書館がどのような課題を抱えるかを議論した。本人情報を本人・親族に対してどこまで公開するのか、遠隔地の利用者、視覚・聴覚などに障がいを抱える利用者への対応など、いくつかの意見が出た。
 遠隔地の利用者へのサービスは既に実施している館の方針や、障害のある人への点訳資料提供についても聞くことができた。公文書館を新たに開館する場合、対応には限界があると思うが、運営が安定した時にこれらの課題と向き合うことが必要だと感じた。
 以上のようにB班は利用審査を中心に、公文書館運営の課題点と理想について議論を行った。
 結果として「利用者にとって使いやすく、業務の効率化を図ることで職員の負担も少ない公文書館」という理想像にたどり着いた。
 これらを実現するために具体的に検討する項目として、公文書管理条例の制定など法令・制度の整備、アーキビストや再任用職員等専門知識を持つ人材を確保し、人員を充実させること、マニュアルや内規を作成し日々の業務を効率化すること、館としての審査履歴を蓄積することという4点が挙げられた。これらはいずれも一度限りのことではなく、継続して取り組むものである。単に公文書を保存し利用してもらう施設としてではなく、生き物のように常に動き続けて時代に合わせた運営を心掛けることが理想の公文書館に近づく方法であると考える。
 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会では、公文書館機能自己点検・評価指標として「ミニマムモデル」「ゴールドモデル」を設けている[1]。B班の理想はゴールドモデルの一部にあたる。
 これから公文書館を設置する予定の仙台市は、開館までに今回の議論で導いた理想像を参考にできる部分もあるだろうし、既に開館している公文書館でも身近な日常業務の小さな部分などに改善できる部分はあるだろう。また、利用審査や審査基準の見直しにおいては、最新の社会情勢にアンテナを高くはり、対象となる事柄が社会的にどのように評価されているか、日々確認する重要さを実感した。

[註]
[1]「電子版 公文書館機能ガイドブック 地域の記録を次世代につなぐために」全国歴史資料保存利用機関連絡協議会調査・研究委員会 編、2020年1月28日閲覧。