長和町文書館の開設について

長和町文書館
勝見 譲

1.はじめに
 長野県のほぼ中央部に位置する長和町は、平成17年10月に長門町と和田村が合併して誕生した町です。昭和31年に長窪古町、長久保新町、大門村が合併して誕生した長門町にとっては2度目の町村合併となり、また、和田村にとっては村政施行117年にして初めての町村合併となりました。現在の人口は6千人ほどで、過疎化が進む山間の小さな町です。
 長和町文書館は、町の歴史的文化的価値を有する行政資料、地域資料等の収集、整理、保管及び研究を行い、広く利活用に供するために、平成31年3月に制定された「長和町文書館条例」により、同年4月1日に長和の里歴史館内に併設して開設しました。
 本稿では文書館の開設に至る経緯と現在の取り組みや課題についてご紹介します。

長和町文書館外観

長和町文書館外観

2.長和の里歴史館の開館
 文書館が併設された長和の里歴史館は、町村合併により不用となった旧和田村の下水終末処理施設を改修して、平成23年に開館した文化財資料の保管展示施設です。
 町村合併により当町には9つの博物館・資料館施設が所在することになりましたが、各施設に展示、収蔵しきれない史資料が、小学校の倉庫や旧消防器具庫などに保管されていて、なかには撤去要請を受けている施設もありました。
 また、旧中山道の長久保宿と和田宿の2つの宿場を持つ当町では、旧家で所蔵されている古文書について所有者から「町で保管してほしい」との要望も度々あり、「町内各所に散在する史資料を一括収蔵して、体系的に保存管理を行う町内博物館・資料館のバックヤード(母体)となる施設」として長和の里歴史館を設けました。
 改修にあたり様々な制約はありましたが、外観そのままに頑丈な蔵のような建物は、地上1階地下1階の延床面積は1,265㎡で、1階部分に狭いながら収蔵史資料から選択して通史的に展示している常設展示室や、30人ほどが収容できる閲覧セミナー室、民具資料を保管する通常の収蔵庫、大型除湿機を備えた古文書・行政文書専用の収蔵室があります。
 そして、幾つもの汚水処理槽が設けられていた地階部分には、この区画を利用した8つの収蔵庫を設けて、大型の農具や埋蔵文化財発掘調査で出土した資料を遺跡単位で保管し、また文献図書を収納しています。

3.長和町文書館開設の経緯
 当町の文書館や近隣の東御市文書館、上田市公文書館が、近年、相次いで開設された要因として、「上田・東御・小県地域史連絡協議会」(以下、連絡協議会)による働きかけが大きく寄与しています。
 連絡協議会は、上田市、東御市、小県郡(長和町、青木村)の4市町村に所在する地域史の調査研究やこれを学ぶ諸団体により構成され、現在19団体が加盟しています。
 まず平成18年7月には、連絡協議会から4市町村に行政文書や近世文書の保管や文書館の設置、専門職員の配置を求める陳情が行われ、当町では長和の里歴史館の整備事業計画が進められているなかで、将来的には文書館機能をも担う施設運営を目指すものとして、概ね陳情内容に沿う形の回答を行っています。
 平成22年には連絡協議会から東御市、上田市の両市議会に文書館の設置を求める請願書が提出され、それぞれ採択されて両市では文書館の設置に向けて検討していくことになりました。そして、平成28年12月当町議会に「長和町文書館の設置を求める請願書」が提出され、一部採択となり正式に文書館が開設される運びとなりました。

4.現在の取り組みと課題
 先述の歴史館の開館にともない、役場各支所などで保管されていた明治期から昭和40年代にかけての行政文書7千点ほどを搬入して、清掃、燻蒸作業を行い仮台帳を作成し収納しています。そして、文書館の開設にあわせて平成30年度から専任の臨時職員1名を雇用して、近世文書の整理、保管と同様に1点ずつの袋掛けと台帳の作成を行い、2/3程度作業が進んでいますが、平成17年の町村合併に関わる資料や、逐次、搬入したダンボール箱60箱余りの非現用文書が未整理のままです。
 今後の大きな課題としては、現在、資料の明確な公開基準が定まっていないため、この策定があります。幸いにして国立公文書館より、度々、情報提供をいただいており、参考にして公開基準を策定していくところです。

資料保管状況

資料保管状況

収蔵資料(昭和31年3ケ町村合併申請書)

収蔵資料(昭和31年3ケ町村合併申請書)



5.まとめにかえて
 長野県内や近隣の市に次々と(公)文書館が設置されるなか、準備不足を否めないまま当町も「文書館を名乗ってしまった」というのが正直なところです。
 しかしながら、当館が収蔵する古文書や民具、考古資料と同様に、公文書も町の生い立ちを示す共有の財産であり、多くの方に利活用されるよう取り組んでいく所存です。

データシート
機関名: 長和町文書館
所在地: 〒386-0701
電話/FAX:0268-88-0030 / 0268-88-0030
Eメール:bunkazai■town.nagawa.nagano.jp(■を@に変えてください)
ホームページ:http://nakasendo.nagawa.ne.jp
交通:上信越自動車道上田菅平ICから約40分
   JR北陸新幹線上田駅からJRバス関東上和田行約50分青原バス停留所下車徒歩3分
開館年月日:平成31年4月1日
設置根拠:長和町文書館条例
組織:長和町教育委員会ー教育課ー文化財係ー文書館
人員:正規職員(学芸員)1名、事務員(臨時)1名
建物:(1)事務室(2)閲覧セミナー室(3)古文書・行政文書収蔵室(4)収蔵庫(長和の里歴史館併用)
所蔵資料:(1)行政文書(2)地域資料
開館時間:9:00~16:00
休館日:月曜日(月曜日が祝祭日の場合は翌日)
    年末年始(12月28日から1月4日)
主要業務:歴史的文化的価値を有する行政資料、地域資料等の収集、整理、保管及び研究、公開普及