琉球政府文書デジタルアーカイブサイト「琉球政府の時代」ー利用者の裾野拡大を目指してー

沖縄県公文書館指定管理者(公財)沖縄県文化振興会
小野百合子

はじめに
 沖縄県文化振興会では、沖縄県から「琉球政府文書デジタル・アーカイブズ公開データ整備運営業務」を受託し、沖縄県公文書館が所蔵する琉球政府文書のデジタルアーカイブを2016(平成28)年度から運営している。琉球政府文書とは、沖縄戦以降の占領統治下における住民側の統治機構であった琉球政府やその前身機関によって作成された公文書であり、この事業の目的は、琉球政府文書をデジタル化し、インターネットで公開することで、これまで沖縄県公文書館の利用が困難であった離島など遠隔地の方を含めて広く利用を可能とし、国内外における沖縄研究の発展に寄与することである。
 2019(令和元)年10月10日、琉球政府文書のデジタルアーカイブサイトが、各種コンテンツを充実させて「琉球政府の時代」としてリニューアルした。本稿は、新サイトの概要やリニューアルの背景について述べるものである。

1 「琉球政府の時代」の主なコンテンツ
(1)デジタルアーカイブへの4つの入り口
 これまでの琉球政府文書デジタルアーカイブは、沖縄県公文書館ウェブサイトの所蔵資料検索ページから利用者自身が琉球政府文書(のデジタル画像)を検索して閲覧する方法と、資料紹介ページから紹介されている資料のデジタル画像を閲覧する方法とがあった。リニューアルにあたっては、この「所蔵資料検索」と「資料紹介」に加えて、「歴史年表」と「刊行物」のコンテンツを新たに追加した。その結果、「注目資料をみる」コンテンツとして「資料紹介」「歴史年表」「刊行物」があり、これらに「資料を検索する」(所蔵資料検索)を加えた4つの入り口から琉球政府文書デジタルアーカイブを利用できるようになった。

(2)各コンテンツの概要
 新規コンテンツの「歴史年表」では、沖縄がアメリカ合衆国統治下にあった27年間のあゆみと関連文書を年表からたどることができる。これは、沖縄戦から日本に復帰するまでの琉球政府の時代について、時間軸に沿って流れを把握しながら文書を見られるよう意図したもので、年表の項目は順次追加していくこととなっている。項目が増えていくにしたがって大きな流れが掴みにくくなることが予想されるため、主要な項目のみの「概要」とすべての項目を表示する「詳細」とに、年表の表示方法を切り替えられるようにした。また、見たい年をすぐに表示できるよう各年へのインデックスも設けている。
 もう一つの新規コンテンツである「刊行物」は、琉球政府文書を読み解く上で参考となる琉球政府発行の刊行物のデジタルアーカイブである。例えば、琉球政府の総合広報誌として発行されていた『広報琉球』と『琉球のあゆみ』は、琉球政府の仕事について住民に理解、協力してもらうため、琉球政府の主要な施策や社会の動きを平易な言葉で説明している。琉球政府の時代をより深く理解するためのこうした刊行物のデジタルアーカイブも、今後充実させていく予定である。
 また、従来から用意されていた「所蔵資料検索」と「資料紹介」についても改良を加えた。「所蔵資料検索」には「資料検索ガイド」を加えて、公文書の検索に不慣れな利用者への便宜をはかった。「資料紹介」では、総務局、企画局といった局別の分類に加えて、機構図に詳しくない方でも「衣食住」、「動植物」、「観光」といったトピックから関連資料を探せるように工夫した。

2 リニューアルの目的~利用者の裾野拡大を目指して
(1)専用のウェブサイトを設ける
 以上のようなリニューアルは、琉球政府文書デジタルアーカイブ専用のウェブサイトを設けることで利用促進をはかること、そして利用者の裾野拡大をはかることを主な目的としたものである。
 まず前者について、これまでの琉球政府文書デジタルアーカイブは、沖縄県公文書館ウェブサイトの所蔵資料検索ページと資料紹介ページから利用するものとなっており、専用のウェブサイトがなかった。このため、利用者への案内に際して不便をきたす場面が多かった。そこで、沖縄県公文書館から独立した、琉球政府文書デジタルアーカイブの専用ウェブサイトとして「琉球政府の時代」を設けることとなった。

(2)利用者の裾野拡大をはかる
 次にリニューアルの最も大きな目的として、琉球政府文書デジタルアーカイブの利用者の裾野拡大をはかることが挙げられる。従来から利用してきた方にはより便利に利用してもらいつつ、利用したことがない方には実際に活用してもらう。また、そもそも琉球政府文書を知らない方にはデジタルアーカイブの存在や意義を知ってもらい、必要な時に利用してもらう。そのようなサイトとするためのリニューアルである。
 琉球政府文書は、「異民族支配」「米軍占領下」と言われる沖縄戦から日本復帰までの27年の間に、試行錯誤を繰り返しながら多くの苦難を克服し、自治を培っていった沖縄のあゆみを記録したものであり、沖縄の今を見つめなおし、将来を考える上で大きく役立つものである。琉球政府文書デジタルアーカイブのサイト名を「琉球政府の時代」としたのは、アメリカ合衆国統治下にありながら住民にとって政治や行政の中心にあった琉球政府に焦点をあてることで、この特異な時代の記録を次世代へと繋いでいきたいという思いを込めたためで、当時を知らない若い世代や教育現場で活用してもらいたいと考えている。
 加えて、デジタルアーカイブはその構築や運営に大きなコストがかかる。琉球政府文書デジタルアーカイブもまた、約16万冊という膨大な琉球政府文書のうち約13万冊のデジタル化を進め、利用制限情報を保護した上で、インターネットで公開できるものはすべて公開しており(2019年11月1日現在、27,086冊)、相応のコストを費やしている。よって、その成果を広く住民に還元していくことが必要であり、そのためには、従来の公文書(館)の利用者にとどまらず、より幅広い層に利用をアピールしていくことが求められる。
 前述した「注目資料をみる」コンテンツとして、「資料紹介」に加えて「歴史年表」と「刊行物」を追加したのも、利用者の裾野拡大を企図したものである。特定の目的を持たない方でも年表から資料を見られたり、いきなり公文書を読むのはハードルが高いという方でも写真や図表を用いながら平易に記述されている刊行物に触れられるように工夫した。さらに、ウェブサイト「琉球政府の時代」そのものを広く知ってもらうための紹介動画を新たに作成し、幅広い層に周知をはかることにも取り組んでいる。

図1

図1

おわりに
 本稿では、琉球政府文書デジタルアーカイブ「琉球政府の時代」の概要とリニューアルの目的について述べてきた。沖縄がアメリカ合衆国統治下にあった27年間のあゆみを次世代に繋ぐため、また公的事業の成果を広く社会に還元するため、琉球政府文書をより多くの方に利用してもらうにはどうすればよいのか。現時点で実現しうる工夫をほどこし、また新規コンテンツを追加したのが「琉球政府の時代」であり、今後も引き続き、内容の充実やウェブサイトの利用促進に努めていきたい。デジタルアーカイブは構築して終わりではなく、継続的に利用されてはじめて、その存在価値を発揮できる。より多くの方に知ってもらい、実際に利用してもらうことで、琉球政府文書デジタルアーカイブの存在意義を高めていきたい。