岡山県立記録資料館の災害時における対応と防災への取り組みについて

岡山県立記録資料館
副参事 杉山 一雄

倉敷市真備支所建物内の被害状況

倉敷市真備支所建物内の被害状況

はじめに
 平成30年7月6日(金)~7日(土)にかけて、岡山県でも記録的な豪雨に見舞われました。これにより、河川の堤防が決壊したり、本流の勢いが強く支流からの水が流れ込めずに逆流するなどして、各地で浸水や土砂崩れが発生しました。
 特に、県中南部に位置し、高梁川と小田川の合流点に市街地が広がる倉敷市真備地区では、ほぼ全域が浸水被害を受け、公的施設でも倉敷市真備支所や倉敷市真備図書館、県立まきび支援学校及び倉敷市立の7つの小・中・高・幼稚園が被災しました。

1.被災記録資料への対応
 岡山県立記録資料館(以下「当館」という。)では、7月10日(火)に、県施設及び市町村へ被害状況の聞き取りを行うとともに、救済・修復道具の在庫確認を行いました。また、岡山史料ネットと今後の対応方法を協議し、当館では被災した市町からの要請に応じるとともに、公的施設の水損資料の救済活動を行うこととしました。

倉敷市真備支所での処置方法の指導風景

倉敷市真備支所での処置方法の指導風景

 公的施設での被災資料は、個人情報や現用の公文書等が多いことから、現地での処置対応とする必要があるため、当館職員が現地で被災した市町の職員と一緒に作業しながら処置方法について説明を行い、その後は必要に応じて状況確認のために赴きました。
 また、倉敷市真備図書館の被災資料の図面・図書・アルバムのように施設外に搬出可能な資料は当館に移し、搬入台帳を作成してから修復作業を行いました。
 図面・図書類は、資料の状態を確認し、冷凍又は自然乾燥など適切な処理方法を選択して作業を行いました。アルバムは当初貼られた写真同士の関係性を復元できるように、全ページ写真撮影した後、台紙から取り外して洗浄・乾燥作業行い、乾燥後に接着防止のため間紙を挟んでから袋詰めにして返却しました。

館内作業1 冷凍庫での処置作業

館内作業1 冷凍庫での処置作業

館内作業2 写真の乾燥作業

館内作業2 写真の乾燥作業



2.防災・被災対応への被災後の取組
(1)岡山県立記録資料館の取組
 水損資料を扱う機会が少なかったため、基本的な処置道具等の備蓄は最小限でした。このため、このたびの救済活動にあたっては資材の調達から行う必要があり、『国立公文書館 被災公文書等修復マニュアル』平成25年を参考に資材を調達して備蓄しています。
 記録資料の啓発活動では、平成30年度からは「古文書調査整理保存講座」と毎年開催している「アーカイブズウイーク(6月1日~7日)」で、保存や簡単な処置を行うワークショップを取り入れ、参加者に知識と技術を向上する機会を増やしました。また、市町村職員対象に開催する「市町村職員研修会」では、公文書及び地域資料の保存等の重要性と有事の際の連絡・協力体制確立の必要性について研修を行っています。

(2)他機関・団体との連携
 ①岡山県文化財等救済ネットワーク 
 平成26年3月31日に岡山県教育庁文化財課を事務局として、大規模災害から県内所在の文化財等(未指定の文化財を含む)を守るために、大学、博物館、各種法人及び行政機関等の関係団体が連携して活動することを目的として組織されました。当館は岡山県博物館協議会の会員として参加しており、今回も市町村資料の被災状況などについての情報共有を行いました。
 被災当時は、民間資料の所在情報が整備中であったため、救済活動では現地訪問や関係者・研究者からの聞き取り等で資料の被災状況を確認するほかありませんでした。このため、当館も含めた構成団体の持つ情報の共有化及び情報内容の確認作業を早急に進めていく必要があります。
 ②岡山史料ネット
 平成17年に岡山大学文学部日本史研究室を中心に、歴史資料や広義の文化財の保全と社会におけるその活用を、歴史資料に関わる諸機関・諸団体・個人と連携して実践的に進める民間ボランティア団体として設立されました。
 令和元年7月28日には総会が開かれ、組織の運営体制が整備されました。当館は設立時から協力、関与しています。

3.おわりに
 「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉をよく耳にします。平成30年の災害は、災害対応への必要性を再認識する機会となりました。先人達が残し伝えてくれた記録資料を、今度は我々が後世に伝える責任があります。そのために、人材の育成、資料の所在情報の整備等を進め、災害による資料の損失の軽減に備えていかなければならないと考えています。

参考文献
『岡山県立記録資料館だより』第14号 平成30年
『岡山県立記録資料館紀要』第14号 平成31年