2018年国際公文書館会議ヤウンデ年次会合参加等報告

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門員 渡辺悦子

1.はじめに
 2018年11月24日(土)から30日(金)にかけ、国際公文書館会議(International Council on Archives、以下ICA)の第5回年次会合が、「アーカイブズ:ガバナンス、記憶、遺産」をテーマに、カメルーン政府との共催により、カメルーンの首都・ヤウンデで開催された。アフリカ地域で開催される初めての年次会合[1]であり、70か国以上の国々から500名を超える参加者があった。
 本稿は、ICAヤウンデ年次会合及びカメルーン国立公文書館の視察について報告する。なお、年次会合については、運営会合(執行委員会及び総会)、国立公文書館長フォーラム、専門家プログラムをそれぞれ取り上げる。

カメルーン国立公文書館

カメルーン国立公文書館

2.カメルーン国立公文書館視察

2.1 カメルーン国立公文書館と同国政府における公文書管理制度
 カメルーンは、アフリカ大陸ほぼ中央、ギニア湾に面して位置する共和制国家である。1884年以降、ドイツの「保護領」となるが、第一次大戦後のドイツの敗戦後、西部がイギリス、東・南部がフランスへ譲渡されている。その後、1960年にフランス領カメルーンが独立、翌年にイギリス領カメルーンが独立した。
 カメルーン国立公文書館は、1952年、フランス統治行政府によって記録を一括管理する仕組みができたことをもって、設立とされている[2]。独立後、カメルーン大統領府がフランス統治時代の管理体制を引き継ぎ、1965年には大統領総局に付属したが、1984年に情報文化省へ所管が代わった後は、政府機関の組織改革に伴い名前の異動はあるものの、文化芸術関連政策を担当する省[3]に付属している。
 アーカイブズ[4]にかかる法制度は、2000年に「アーカイブズの管理にかかる法」[5](翌年に施行令[6])が議会の承認を得て制定されている[7]。同法において、アーカイブズは、作成日、形式、媒体によらず、自然人あるいは法人により、またあらゆる公的あるいは民間のサービスや機関の活動によって、作成・収受されたすべての文書とされている(2条)[8]。公的行政機関には文書の作成と管理の義務があり(6条)、アーカイブズは現用アーカイブズ、中間アーカイブズ、歴史的アーカイブズの3タイプに分けられる(7条)。歴史的アーカイブズに指定されたものは「国立公文書館を所管する機関」(L’Organisme chargé des Archives Nationales)に移管され(10条4項)、廃棄協議は、文書の作成機関と国立公文書館を所管する機関の間で行われる(11条3項)。同様に、アーカイブズの保存は国立公文書館を所管する機関が行うとしつつも、条件によってはより適切な機関に保存される場合があるとされている(11条4項)。カメルーン国立公文書館のEsther Olembe館長によると、現在は同館の収蔵スペースの関係で政府記録の移管は一切受けていないとのことであり、同項が援用されている状況にあると思われる。

2.2 カメルーン国立公文書館訪問
 11月25日、カメルーン国立公文書館を訪問し、同館長と意見交換を行ったほか、館内施設を案内していただいた。
 カメルーン国立公文書館は、同館を所管する文化芸術省に付随するサービスを行うという位置づけの機関である。ヤウンデに本館があるほか、旧イギリス領カメルーンの首都であったブエアにある分館と、バメンダ、マロウア、ドゥアラの3地域に所在するレコード・センターで構成される。主な所蔵資料は19世紀後半以降のドイツ・イギリス・フランス植民地時代の記録、及び1960年の独立以降のカメルーン政府による記録等で、計64,000冊を保管している。
 オレンベ館長によれば、所蔵資料の組織化・目録化がほとんど行われておらず、また組織改革中であることに加え、資料のデジタル化の実施等の理由で、2016年以降、館は閉鎖されている。ただし、利用者の申請を受けると、館のアーキビスト(10名程度)がその都度調査を行い、閲覧希望資料をデジタル化して、申請者にUSBによる提供を行っているとのことである。建物は旧印刷工場を再利用したもので、同館長によれば保存環境としては良好とはいいがたい状況にあるため、新館建設の計画があり、2019年に着工されるとのことである。
 なお、所蔵資料の組織化については、ドイツ保護領時代(1884-1916)の記録2,400冊について、2014年以降、ゲーテ・インスティトゥート・カメルーン及びドイツ外務省の支援の下、ドイツ連邦公文書館とカメルーン国立公文書館との共同により、(1)ドイツ国内における資料のデジタル化と、ドイツ語・フランス語でのオンラインによる目録情報及び画像の公開、(2)カメルーンでの資料保存修復措置の実施、(3)同活動にかかる広報活動(音楽イベントや展示会)の実施を3つの柱とするプロジェクトが実施されている[9]。

ドイツ連邦公文書館との共同プロジェクトで整理された資料群

ドイツ連邦公文書館との共同プロジェクトで整理された資料群

執行委員会夕食会前に行われた同国立公文書館での歓迎イベントで、同館の塀に寄せられた各国アーキビストからのメッセージ。当館からは「ありがとう」と贈った。

執行委員会夕食会前に行われた同国立公文書館での歓迎イベントで、同館の塀に寄せられた各国アーキビストからのメッセージ。当館からは「ありがとう」と贈った。



3.第5回ICAヤウンデ年次会合

会場となったヤウンデ・カンファレンス・センター

会場となったヤウンデ・カンファレンス・センター

3.1 運営会合
3.1.1 執行委員会(11月25日)
 まず、任期満了に伴う執行委員会役員選挙の結果についての報告として、2019-2022の任期で、ICA会長にDavid Frickerオーストラリア国立公文書館長、ICA副会長にNormand Charbonneauカナダ国立図書館公文書館最高執行責任者〈プログラム担当〉及びHenri Zuberフランス防衛省アーキビスト〈財政担当〉がそれぞれ留任し、国立公文書館長フォーラム新代表にはJeff Jamesイギリス国立公文書館長が選出されたことが、確認された。
 その他、ICA会員分担金の将来的見直しのための分析が行われていること、2014₋2018戦略プランの実施期間終了を受けて、2019年に次期戦略プランの策定にかかる調査・検討を行うこと、ICA事務局が2019年3月に、フランス国立公文書館の建て替えに伴う一時的移転を予定していること等がアナウンスされた。また、プログラム委員会からは、新しい専門家グループとして「先住民問題」専門家グループ(Expert Group on Indigenous Matters)が発足したこと、さらに「盗難及び不正取引に立ち向かう専門家グループ(Expert Group Against Theft and Illicit Trafficking)」の立ち上げが予定されていることの報告等が行われた。

3.1.2 通常総会(11月26日)
 2019年度の予算案及び分担金額案が全会一致で承認され、2018年ICA役員選挙に係る結果があらためて出席会員に向けて発表された。また、2019年の年次会合は、予定していたスコットランド・エジンバラでの開催が中止となり、オーストラリア及びニュージーランドのアーキビスト協会、さらにPARBICA(国際公文書館会議太平洋地域支部)等の共催による、オーストラリア・アデレードでの開催(10月21日~25日)となったことがアナウンスされた。その他、ICAに対する長年の貢献に鑑みたICAフェローの認定制度が2018年から再開し、長年紙資料の修復及びアーカイブズ建築分野の発展に寄与してきたイギリスのJonathan Rhys-Lewis氏が、所属先を持たない個人として[10]初めて承認され、フェローシップ授与式が行われた。

3.2 国立公文書館長フォーラム(11月27日)
 国立公文書館長フォーラム(Forum of National Archivists、以下「FAN」という。)は、各種の活動報告と運営会議の2部に分けて開催された。
 過去の植民地統治等に関する記録の所有や保存管理の在り方等を考える「アーカイブズ遺産の共有にかかる専門家グループ(Expert Group on Shared Archival Heritage)[11]」のNjörður Sigurðsson代表(アイスランド国立公文書館)より、2016年ICAソウル大会時に設立された同専門家グループの目的や活動目標、世界各国における「持ち去られたアーカイブズ(Displaced Archives)」にかかる広範な調査を行う予定等が紹介された。また、イギリス・リバプール大学のJames Lowry氏から、「持ち去られたアーカイブズ」に関する1960年代以降のユネスコ及びICAの取組みが紹介された。その他、米国国立公文書館記録管理院及びモロッコ国立公文書館から、近年の各館の取組みについての報告があった。
 運営会議では、2017年よりFANの再活性化策にかかる取組を行ってきたFAN事務局より、各種アンケートの結果報告がなされた。これら一連の取組の結果として、ICAに対するカテゴリーA会員(国立公文書館等)の貢献に鑑み、以後のFANの年2回開催と、その第1回目を2019年4月にアラブ首長国連邦の首都アブダビで、ICA執行委員会にあわせて2日間にわたり開催されることが発表された。現在、アラブ首長国連邦公文書館の顧問となっているIan Wilson氏(元ICA会長・元カナダ国立公図書館公文書館長)より、世界中の国立公文書館長が一堂に会するものとしたいとの抱負が語られた。

開会式の様子

開会式の様子

3.3 専門家プログラム
3.3.1 開会式
 開会式では、David Fricker ICA会長、カメルーン政府Narcisse Mouelle Kombi文化芸術大臣等からの開会の挨拶があったほか、Philemon Yang首相によりPaul Biya大統領の開会宣言が読み上げられた。
 Fricker会長の挨拶では、アフリカ地域初開催という歴史的年次会合であることが強調され、権利や「私たち自身であること」はアーカイブズなしにはとらえられないものだが、アーカイブズはしばしば物理的、象徴的にゆがめられ、たとえその意義は理解されつつも、保存は後回しにされがちになっている。またデジタル技術の開発への国家的投資は盛んでも、デジタル情報の保存には、わずかしか資金が配分されない。このような状況に対し、我々専門職の要求がより広く認識される必要があるとした。最後に、カメルーン国立公文書館の外塀に書かれた「アーカイブズは私たちであり、営みであり、歴史であり、存在の移り変わりである」[12]を引用し、「そして未来である」と加えて締めくくった。
 国立公文書館を所管するKombi文化芸術大臣からは、人類の歴史はアーカイブズなしに語ることはできず、紛争や動乱の時代、アーカイブズによって人は真実と向き合うことが可能となることを強調し、本年次会合の開催は、カメルーンのアーカイブズ管理にかかる政策を発展させる重大な機会となるだろうと結んだ。
 なお、開会式後、カメルーンにおけるアーカイブズの重要性を示す機会とするため、ICA関係者列席のもと、国内で新たにアーキビストやレコード・マネジャーになる386名による宣誓式[13]が、ムフォンディ高等法院で執り行われた。

3.3.2 基調講演
 基調講演者は、以下の3名である。
・Jean-Louis Royケベック州国立図書館公文書館長(11/26)
・Prince Kuma Ndumbe IIIアフリカ未来基金代表(11/27)
・Monique Rokourtハイチ文化省・ハイチ観光協会に対する遺産特別評議会(11/28)
 うち、Roy氏、Ndumbe氏の2名の講演を紹介する。
 Roy氏は、かつてカメルーンとナイジェリアの間でバカシ半島の領有権問題が起こった際に、国境線が記載されたアーカイブズによって平和的解決がもたらされたことに触れつつ、アフリカの潜在力はアーカイブズと歴史に関わる潜在力であり、アーカイブズに投資しないことは未来に投資しないことと同様であるとして、アフリカの発展のため、アフリカ自身の記録を特定していくことの重要性を述べた。
 Ndumbe氏は、アフリカは、旧植民地宗主国の言葉を使い、自分たちの言葉を周縁化させることによって、自身の記憶から目を背けてきたが、アフリカの言語により書かれた資料、アフリカの言葉で話されたオーラル・ヒストリーを保存することによって、アフリカの真実の集合的記憶を取り戻せるのであり、アフリカ各国の国立公文書館は自身の記録を見つけ出し保存することによってはじめて、「国の公文書館(National Archives)」になれるとした。

3.3.3 専門家プログラム
 ICA年次会合における専門家プログラムの発表は、ICAプログラム委員会による選考を通った発表により構成されている。本年次会合では、「全アフリカの課題」、「記憶をアーカイブする」、「遺産に取組む」、「民主主義のためのアーカイブズ」、「アクセスにおける革新」等のサブテーマで29の分科会や円卓会議で84本[14]の発表、7つのワークショップが行われた。ここでは、聴講したいくつかの発表から主なもの紹介する(プログラムは「コチラ」を参照)。

発表を行う寺澤上席公文書専門官

発表を行う寺澤上席公文書専門官

3.3.3.1 「国立公文書館における新たな取組としての積極収集―明治期の記録保全と提供に係る事例報告」(寺澤正直・上席公文書専門官)【パネル「遺産」】
 本報告は、当館の所蔵資料を補完・補強するための取組みの一環として進めている、他機関所蔵資料のデジタル化による収集活動及び提供等についての報告である。
 当館の歴史的公文書等の収集は、開館当初から現在に至るまで、公文書管理法の施行により行政機関等による移管の義務化や寄贈・寄託の受入れの制度化といった大きな変化はあったものの、あくまで受動的な受入れにとどまっていた。政府における有識者会議により新たな「国立公文書館像」が提示されるなか、当館が国のかたちや国家の記憶を伝え将来につなぐ「場」としての役割を果たすには、これまでの移管と寄贈・寄託による方法だけでは不十分であり、新たな収集方法が求められるようになった。そこで、従来の受動的な収集から脱却し、積極的に収集するため国立公文書館から働きかけるという大きな転換が図られた等の経緯に触れた。
 次に、この実現のため、2015年から、当館では他機関が所蔵する資料のデジタル化による把握や、所在情報の収集といった試行的取り組みを開始したこと、2018年度は、政府が日本の近代化・国民国家化の原点となる明治元年を起点とした「明治150年」を記念し、①明治以降の歩みを次世代に遺し、②明治の精神に学びさらに飛躍する国へ、の2つの基本的な考え方を掲げて、様々な関連施策の展開をはかったことをふまえ、当館は「明治」に関連する他機関所蔵資料のデジタル複製の作成と収集を行ったことを報告した。これらデジタル画像は、当館の閲覧室で見ることができるだけでなく、重要な資料のバックアップとしての機能も果たすこととなる。
 最後に、この取組みは、当館だけで成し遂げることはできず、様々な分野の研究者や資料を保存する博物館、図書館、文書館等の協力が不可欠となるため、当館がネットワークのハブとなり、資料保存を行う様々な機関との連携を進めていきたいと考えているとして締めくくり、各国からの質疑に対応した。

3.3.3.2 「継続と変革:記録遺産の効果的管理にかかる現在の研修体制についての検討」(Margaret Crockett ICA研修担当官及びICA New Professionals Programme 参加者[15])【パネル:「遺産」】
 2014年以降、ICAは、アーキビストとして仕事を始めて5年以内の新規専門職を募集して行われる、New Professionals Programmeを毎年実施している。2016年、こうした新規専門職に対し、ICAがどのようなサポートを今後していくべきかを検討するにあたっての材料とするため、世界各国の新規専門職を対象に、どのような困難を抱え、どのようなスキルが現場で求められていると考えているかの調査を行った報告[16]が発表されている。本報告は、2016年の同報告を受けて、2016年当時には調査されなかったことも含め、アーカイブズ教育/研修の現在について報告するものである。
 報告では、同プログラムに参加した7人の新規専門職が、各自の出身地域(中部アフリカ地域、カリブ海地域、イギリス、北米地域、太平洋地域)におけるアーカイブズ教育と就職後のスキルアップにかかる研修の実施状況を調査したうえで、各人が受けてきた教育・研修や経歴、また今後どのような教育・研修が求められるかが報告された。
 おおよそいずれの地域においても、アーキビスト専門職養成にかかる高等教育機関は存在しているが、教育が理論に偏りがちであり、現場での実務との乖離の克服、教育機関と現場の連携の必要性が指摘された。北米地域では専門職となって以降も比較的研修の場や専門職同士のネットワークが発達しているが、それ以外の地域では、スキルアップをはかる機会が少ない状況が見られた。また、記録管理にかかる専門職のバックグラウンドについての調査を行った発表者からは、専門的教育へのアクセスが限られている一方で、教育を受けていない者が専門職に就きづらい現況が指摘され、専門職の現場の多様性が損なわれる可能性と、それがいずれ社会層を適切に反映した記憶・記録の収集・保存を難しくする可能性が指摘された。最後に、アーキビストは、変化の多い社会的状況から、より学際的な視点が必要となるとの指摘でしめくくられた。

3.3.3.3 「アフリカのアーキビストのための軽装目録システムを構築する」(Jean-Pierre Bat/フランス国立古文書学院リサーチ・フェロー)【パネル:「ガバナンス:アクセスにおける革新】
 マダガスカル国立公文書館とイギリスのキングス・カレッジ・ロンドンを中心としたチームが支援・開発している、オンライン目録検索システム「Archives Africa[17]」構築にかかるプロジェクト[18]の取組にかかる発表[19]である。
 同プロジェクトは、1999年にキングス・カレッジが「持続可能なアーカイブズ目録プラットフォームの運営」に重点を置き、軽装アプローチによるシステムの構築、運営を開始した、大ロンドン首都圏におけるアーカイブズ機関の所蔵資料を検索できるポータル目録システム、AIM25[20]の、アフリカへの応用を試みるものである。
 2017年、マダガスカル国内の目録検索システム構築をめざして立ち上げられた同プロジェクトでは、未整理のまま倉庫にあった資料の組織化、メタデータ収集を行った。インデックス作成は多くの課題が見いだされた作業の一つで、同国の19世紀頃からのイギリスとの関係やフランス植民地支配の経験から、近代資料の多くがマダガスカル語だけでなく、フランス語、英語で書かれているため、多様な言語に対応しているユネスコのシソーラスに基づき作成された。その過程では、単に言語の違いだけでなく、言葉の背後にある意味の違いの調整がはかられ、また言語の使用によって植民地時代の差別的なものの見方の再現につながらないよう、論理的構成に多くの注意が払われたとのことである。なお、目録システムはAIM25と同様に、軽装アプローチによるシステムの構築を可能とするAtoMが使用されている。AtoMは、ICAのガバナンスのもとカナダのArtefactual Systemsが開発したオープンソースのアーカイブズ記述ソフトウェアである[21]。
 同プロジェクトは、アフリカ、イギリス、ヨーロッパのアーキビストとアフリカ関係の研究者同士のつながり[22]から着手されたことや、ワークショップなども開催しながら、人的ネットワーク形成の広がりにつとめていることが報告され、今後はアフリカ・プログラム等の実績のあるICAとのつながりも強化していきたいとのことであった。

市内に掲げられたバナー

市内に掲げられたバナー

4.おわりに
 アフリカ地域における初めてのICA年次会合開催という歴史的会合であったことで、基調講演から専門セッションまで、その大部分がアフリカに焦点が当てられたものだった。日頃、「先進国」とされる国々の最先端事例を追いがちであるが、低予算かつ物理的に困難な状況にある機関による取組み・工夫からも、時として多くの知恵が学べると気づかせてもらえた機会ともなった。
 本会合の閉会式では、8箇条からなる「ヤウンデ会合宣言」が発表された。内容は、アフリカの現況を焦点に置きつつも、同様の困難を抱える国々への注意をも喚起しているものと取れ、それぞれの国に対する国際社会のより一層の連帯を求めるものであった。
 ヤウンデの街中は車両により移動するのみであったが、市内各所に本会合のバナーが掲げられるなど、歓迎ムードに包まれており、ホスト国側での関心の高さがうかがえた。国際会議招致という機会がカメルーンのアーキビスト達に力を与え、同国におけるアーカイブズ管理の向上につながっていくことを祈念するものである。

【注】
[1] ICA年次会合は、2011年まで57年にわたって開催された国際公文書館円卓会議(CITRA)が改組されたものであるが、2003年、南アフリカ共和国で第37回CITRAが開催されているため、アフリカ地域初開催は、あくまで年次会合となって以降である。
[2] P.C.Franks et al. (2018) “The International Directory of National Archives”, Rowman & Littlefield Publishers、「カメルーン国立公文書館」の項より。公文書管理に係る法制度の成立は、設立をさかのぼること6年の1946年という。なお、イギリス領カメルーンにおける記録管理は、あくまで民間機関(オックスフォード人類学研究所)の資金提供を受けた書庫がブエアにあったのみとのことである。
[3] 現在は文化芸術省(Ministre des Arts et de la Culture)。
[4] 本稿で「アーカイブズ」という場合は、記録資料を意味し、機関としてのアーカイブズは「アーカイブズ機関」と記述する。
[5] LOI N° 2000/010 DU 19 DECEMBRE 2000 REGISSANT LES ARCHIVES. Available at: https://www.camerlex.com/cameroun-loi-n-2000010-19-decembre-2000-regissant-archives/ (access:2019/1/31)
[6] DECRET N° 2001/958/PM DU 1er NOVEMBRE 2001 FIXANT LES MODALITES D’APPLICATION DE LA LOI N°2000/10 DU 19 DECEMBRE 2000 REGISSANT LES ARCHIVES. Available at: https://www.camerlex.com/cameroun-decret-n-2001958pm-1er-novembre-2001-fixant-modalites-dapplication-de-loi-n-200010-19-decembre-2000-regissant-archives/ (access:2019/1/31)
[7] カメルーン国立公文書館の機能は2014年成立のDECRET N°2014/0882/PM DU 30 AVRIL 2014に規定されており、その使命は、公法・民法により組織体や個人が作成した文書の収集、保存、管理、展開;あらゆる国家の文書の収集と目録化;記録遺産に関わる活動への参加と、アーカイブズ管理にかかる教育、研修、研究の実施、またカメルーンにおけるアーカイブズ政策の展開と実施という(“International Directory of National Archives” [注2参照]より)。
[8] 同法第2条第1項。公文書に該当するのは(1)国・地方の政府や公的機関、公営企業、準パブリック・セクターの活動に由来するもの、(2)公的サービスの管理にかかる民間企業の活動の結果作成されたもの等が該当し、それらをのぞくものが民間アーカイブズという。民間アーカイブズも、「国立公文書館を管理する機関」が認めたものは、歴史的アーカイブズとされる(16条)。
[9] 本プロジェクトの内容については、ICAヤウンデ年次会合専門プログラムにおいて、ドイツ連邦公文書館のトビアス・ヘルマン博士による発表が予定されていたが、直前に要務により参加ができなくなったため、同氏よりお送りいただいた発表資料等をもとに記載している。この場を借りて、ご厚意に感謝申し上げます。
[10] これまでのICAフェローは、元国立公文書館長やICA事務局経験者など。
[11] 詳細は同グループに関するICAのホームページ参照。Available at: https://www.ica.org/en/expert-group-on-shared-archival-heritage-egsah (access:2019/1/31)
[12] 原文は、“Les archives, c’est nous, c’est notre vie, c’est notre histoire, c’est notre devenir.”
[13] アーキビストが就任にあたって宣誓を行うことは、カメルーンのアーカイブズ法(LOI N° 2000/010 DU 19 DECEMBRE 2000 REGISSANT LES ARCHIVES)第4条2項により規定されたものであり、同条では宣誓文をも規定している(同3項)。
[14] 分科会によっては当日・直前に発表をキャンセルした発表者がいた(当館発表のパネルでも、発表予定だったパキスタンからの出席がなかった)ため、正確な数字は不明。
[15] A.Pua’ara/ソロモン諸島国立公文書館デジタル化担当官、E.Cunnings/イギリス・ランカシャー州公文書館レコード・マネジャー、J.Duke/トリニダード・トバゴ国立公文書館アーカイブズ調査専門官、J.P.Lawson/ベナン国際文化遺産フェア・アーキビスト兼文化遺産専門官、K.Samandoulougou/ブルキナファソ公共サービス局アーカイブ修復担当官、R.Mihalko/アメリカ合衆国イェール大学アシスタント・アーキビスト、R.Klassen/カナダ国立図書館公文書館アーキビスト)
[16] 2016年報告は以下のページで公開されている。Available at: https://www.ica.org/en/ica-new-professionals-survey-2016 (access:2019/1/31)
[17] オンライン目録システム、Archives Africaのページは以下: https://archives-africa.org/ (access:2019/1/31)
[18] Archives Africaの構築は、アフリカ諸国に所蔵される資料をクロス・サーチできるオンライン目録検索システムをめざすプロジェクト「アフリカ発見(Finding Africa):大陸のアーカイブズ資料の潜在力を求めて」の一環でおこなわれているもの。
[19] 同氏の発表においては、キングス・カレッジ・ロンドンのGeoffrey Browell博士とVincent Hiribarren博士による同プロジェクト紹介ビデオも流された。
[20] AIM25は “Archives in London and the M25 area”(ロンドンとM25環状幹線道路に囲まれた地域、いわゆる大ロンドン首都圏のアーカイブズ、の意)の略である。詳細は以下のページを参照:https://aim25.com/ (access:2019/1/31)
[21] AtoMについては以下のページを参照:https://www.ica-atom.org/(access:2019/1/31)。なお、発表中に流されたキングス・カレッジの両博士のビデオによると、AtoMは、現在異なる国々の互いの目録が効果的にやり取りできるようにすることに向けて開発が進められているとのことで、AtoMの方向性はArchives Africaの次の段階のプロジェクトの目標とも合致しているとのことである。
[22] イギリスのアフリカに関する図書館、アーカイブズのグループSCOLMAや「危機に瀕するアーカイブズ(Endangered Archives Programme)」の実施で知られる大英図書館、カリフォルニア大学などをプロジェクトパートナーにしているとのことである。