須坂市文書館の設置と一般利用開始に向けた取組

須坂市文書館
館長 根津 良一

1 はじめに

文書館が入る旧上高井郡役所全景(県内に残る唯一の郡役所の建物・大正6年新築)

文書館が入る旧上高井郡役所全景(県内に残る唯一の郡役所の建物・大正6年新築)

 長野県の北部に位置する須坂市は、長野市、小布施町、高山村などに隣接する人口約5万人ほどの「時代のロマンが薫る蔵の町」です。
 須坂市では、須坂市誌編さん事業の終了に伴い、その間に調査、収集した歴史的文書等の保存と市民への公開、市域にある歴史的文書の整理、保存等のため文書館等の設置の検討を行い、平成30年3月に歴史資料として重要な文書、資料その他の記録を収集及び保存し、広く一般の利用に供するため「須坂市文書館条例」を制定し、同年4月1日に施行しました。
 須坂市文書館は同日設置となりましたが、一般の利用については10月1日からの施行とし、一定の準備期間を設けました。
 そこで本稿では、須坂市誌編さん事業の経過(歴史的公文書を含めた史料の調査、収集の経緯を含む。)や準備期間における作業、文書館における取組と課題等についてご紹介します。

2 須坂市誌編さん事業の経過

文書館正面玄関

文書館正面玄関

 須坂市誌編さん事業の一環としての史料の収集は、平成9年の廃棄行政文書の収集からはじまります。平成13年度~16年度においては、近代文書等整理事業(行政文書・旧町村役場文書を中心の整理)を実施しました。この間、平成14年4月には、市誌編さん準備室を設置し、行政文書目録の作成、歴史文書の収集整理を行いましたが、翌年には財政状況等を踏まえ事業の先送りにより準備室を閉じました。
 平成19年『須坂市誌』編さんに向け、旧上高井郡役所を拠点に史料収集・整理目録化を開始し、平成20年には市誌編さん室を設置。平成23年度~平成29年度までに全5巻及び別巻による『須坂市誌』を発刊し、平成29年度をもって室を閉じました。
 この間、市誌編さん室では、調査のため借用した史料や、収集した史料の整理目録化を行う中で、整理した文書等の紹介展示や「もんじょ紹介」などを発行すると共に、75件の文書目録(市所蔵、個人所有、地域自治組織所有等)を作成し、これらを須坂市域の文書目録として位置付け、広く市民に公開するため、『須坂市域の史料目録』第1集から第9集を発刊してきました。
 また、廃棄行政文書の収集、整理、目録作成も並行して行い、「旧町村別文書目録」や収集年度ごとの「移管行政文書目録」を作成してきました。

3 準備期間における作業

文書保管庫

文書保管庫

 文書館は4月1日に開館しましたが、10月1日の一般利用開始を実質的な開館と位置付け、オープンに向け準備作業に着手しました。
(1)文書館運営に係る基本づくり
 文書館は設置したものの、条例、規則以外予備知識が何もないことから、長野市公文書館など先進市のご教示を受けるとともに、例規に対する職員意識の平準化を第一に考え、移管文書の選別基準、閲覧等許可に係る手順、利用制限の基準などの必要な基準、文書目録の作成と考え方、文書等の寄贈及び寄託に関する要綱などのルールを定めました。
(2)閲覧に係る目録の作成等
 既存の『須坂市域の史料目録』をベースに、文書館が保有する寄贈文書、借用文書の複写資料及び寄託文書について、各関係者に文書館での活用に係る許可を文書で頂き、これに基づき「文書館資料目録」、「文書館複製文書目録」を閲覧申請用に整備、作成すると共に、未発刊の『須坂市域の史料目録』を開架資料として整備、作成しました。
 また、行政文書については、閲覧申請用に「旧町村別行政文書目録」、「移管行政文書目録」を作成するほか「文書館蔵書台帳目録」を整備、作成しました。
(3)閲覧コーナーと開架図書の選定等
 一般利用者の閲覧場所として、閲覧コーナーを史料整理室の一角に設置すると共に、自由に閲覧いただく図書を選定し、閲覧コーナーに開架図書として配置しました。
(4)調査史料、整理受託文書等の整理と目録作成
 市誌編さん室において収集した史料の整理、また整理を依頼された文書のうち作業継続分については、一般利用の開始までに目録作成及び『須坂市域の史料目録』への登載を行い、閲覧申請用の各種目録を作成しました。

4 文書館の取組

文書館での文書展示

文書館での文書展示

 一般利用を開始した文書館は、閲覧等対象文書約38,000件に係る閲覧等申請に対応すると共に、廃棄行政文書の収集、整理、目録作成、市民からの情報提供に伴う文書の整理、目録作成、文書収集、文書の保存を行うほか、次の関係施設との連携、普及・啓発事業を実施してきました。
(1)博物館・図書館・旧上高井郡役所・文書館連携事業
 期日 平成30年7月7日 
 内容 平成30年度歴史文化講座
    「西郷隆盛 因縁ばなし」
 講師 東京都江戸東京博物館名誉館長 竹内 誠氏
(2)整理した文書等の紹介展示
 期間 平成30年4月1日~平成31年1月31日
 内容 市川幸夫家文書 江戸・明治期の訴状関連
    明治期の切絵図
 期間 平成31年2月1日~
 内容 吉池一彦家文書 江戸時代の村の暮らし
(3)旧小田切家住宅(須坂市所有・長野県宝指定)との連携
 小田切幸一家文書の展示協力  通年
 「文化講縁会」での当館専門員の講演

5 課題

(1)文書整理、目録化の推進
 文書整理、目録化等は、市民からの要望を優先して実施する方針から、市誌編さん室で収集した文書については、整理、目録化に着手できていないものもあり、一部については、国立歴史民俗博物館に調査依頼している現状から、専門員の確保等を含め、その対応に苦慮していますが、推進に努めてまいります。
(2)文書館への理解と定着
 文書館利用者は他の市施設に比べて少なく、特に閲覧等申請者については施設の特異性から一定の想定はしていたものの、その想定を下回っているのが現状です。
 文書館の存在意義を広く市民に浸透させるためには、文書館の知名度アップ、歴史的文化としての行政文書、古文書等への市民の理解・関心が不可欠と考え、『須坂市域の史料目録』第10集以降の発刊、関係施設との連携、普及・啓発事業の実施に更に努めてまいります。

6 おわりに

 文書館の開館により、歴史的文書等の保存と市民への公開、須坂市域にある歴史的文書の整理、保存等については、一応の筋道がつきました。しかし、行政文書を始め須坂市域には数多くの歴史的文書が存在しており、その整理と保存、市民への公開、文化の継承が文書館の果たすべき使命のひとつであると考えています。
 一人でも多くの市民の皆さんに文書館をご利用いただき、貴重な市民の財産である歴史的文書を通じて市や市域の歴史を知り、共有する場となるよう努めてまいります。

データシート
機関名: 須坂市文書館
所在地: 〒382-0013 長野県須坂市大字須坂812-2 旧上高井郡役所内
電話/FAX: 026-285-9041 / 026-285-9175
Eメール: bunshokan■city.suzaka.nagano.jp(■を@に替えてください)
ホームページ: https://www.city.suzaka.nagano.jp/contents/item.php?id=5ba1abcd88b06
交通: 上信越自動車道須坂長野東ICより約5km(約10分)
   JR長野駅より長野電鉄特急で15分 須坂駅下車 徒歩約15分
開館年月日: 平成30年10月1日(設置 平成30年4月1日)
設置根拠: 須坂市文書館条例
組織: 社会共創部―生涯学習スポーツ課―文書館
人員: 館長(嘱託)1名、専門員(臨時)3名、事務員(嘱託・兼務)1名 (臨時)1名
建物: (1)事務室 (2)史料整理室(閲覧室を含む。) (3)書庫、土蔵等約136㎡
所蔵資料: (1)移管行政文書、(2)古文書、(3)複製文書、(4)所蔵図書
開館時間: 9:00~17:00
休館日: 土・日・祝日等、年末年始(12月29日~1月3日)
主要業務:
・文書等の収集、整理及び保存
・文書等の閲覧およびその他一般の利用
・文書等に関する調査及び研究
・文書等に関する知識の普及及び啓発