公文書管理条例の制定状況について

国立公文書館
統括公文書専門官室 連携担当

1.はじめに
 近年、公文書管理の重要性がメディアを通じて報道される中、地方公共団体においても公文書管理条例(以下、「条例」という。)の制定(検討中も含む)に向けた動きが進んできている。
 当館においても、このような全国的な動向について、これまでも状況把握に努めてきているところであるが[1]、本稿では平成31年1月現在の概況について紹介することとしたい。

表1 地方公共団体の公文書管理条例制定状況(クリックで大きく表示)

表1 地方公共団体の公文書管理条例制定状況(クリックで大きく表示)

2.条例制定状況
 総務省自治行政局行政経営支援室は、平成30年3月付で「公文書管理条例の制定状況調査結果」を公開した[2]。それによると、47都道府県中で条例を制定しているのが5団体(東京都、島根県、鳥取県、香川県、熊本県)、20指定都市中で4団体(札幌市、相模原市、名古屋市、大阪市)、1721市区町村(指定都市を除く)では10団体となっており、いまだ多くの公共団体において条例制定には至っていない[3]。なお、上記調査の後、愛媛県、高根沢町、天草市が条例を制定し、平成31年1月現在では6都県、4指定都市、12市区町村となっている[4]。
 表1にあるとおり、公文書等の管理に関する法律(平成21年7月1日法律66号。以下、「公文書管理法」という。)制定以降を特に注目すると、毎年度全国どこかの自治体において条例が制定、もしくは施行されていることが見て取れよう。平成26年度から28年度にかけては若干低調気味であったとはいえ、近年は持ち直している傾向にある。全国的に公文書管理についての条例化が着実に進行していることを表していると言える。

3.条例制定へ向けた取組状況~都道府県~
 全国の県における条例制定へ向けた取組状況については、以下のとおりである。

(1)山形県
 山形県では、情報公開条例制定から20年を迎えた節目に、さらなる県政運営の透明性確保・向上をはかるための検証等について継続していくことを確認し、平成29年11月に「情報公開・提供の検証、見直し第三者委員会」(通称:見える化委員会)が設置された。同委員会で検討された11項目の中に、文書管理、歴史公文書の保存が掲げられ、条例の制定についての提言が出され、山形県行政改革推進本部において平成30年度中に制定する方向性が決定された。
 かかる状況のもと、山形県公文書管理条例検討委員会が組織され、平成30年11月2日から12月にかけて3回の検討が重ねられ、平成31年1月から2月にかけてパブリックコメントを募集し、2月には取りまとめて議会に提出するスケジュールが組まれている。なお、施行は翌年4月1日を予定している模様である。
参考:山形県公文書管理条例検討委員会(第1回、第2回)

(2)滋賀県
 滋賀県では、平成28年9月に新たな公文書管理の在り方の基本方向を示した「未来に引き継ぐ新たな公文書管理を目指して(方針案)」を策定した。この方針案では、明治期以降の歴史公文書の適切な保存および利用等を図ること、公文書の作成から廃棄に至る統一的な基準を定めることとしており、これを受けて公文書等の適正な管理や県民に対する説明責任を全うすることを目的として条例を制定する方向性が決定された。
 方針案が策定された後、平成30年6月には、滋賀県庁内に公文書管理庁内検討会議が設置され、条例の骨子案について議論された。同年11月から12月にかけて、パブリックコメントの募集が行われ、その結果を受けた(仮称)滋賀県公文書等の管理に関する条例案・(仮称)滋賀県立公文書館の設置および管理に関する条例案が平成30年度中に議会に提出される予定である。
参考:(仮称)滋賀県公文書等の管理に関する条例等の検討状況について

(3)高知県
 高知県では平成30年5月より条例の内容、歴史公文書等の選別基準、その他公文書管理制度の構築に当たって留意すべきことについて検討に着手し、平成30年12月付で「高知県の望ましい公文書管理制度の構築に向けて」をとりまとめている。今号では、そのとりまとめに係る取組の紹介記事をご寄稿いただいた。ぜひとも、参照していただきたい(リンク)

(4)三重県
 三重県では平成31年1月29日、第1回公文書管理条例検討懇話会が開催され、三重県における公文書管理の現状及び条例制定に向けたスケジュール等について説明がなされた他、意見交換が行われ、制定への一歩を踏み出している。

3.条例制定へ向けた取組状況~基礎的自治体~
 続いて、全国の基礎的自治体の取組状況については、以下のとおりである。

(1)栃木県那須町
 栃木県那須町では平成30年9月の段階において、公文書の管理に関する条例案に対するパブリックコメントの募集を終えて条例案が公開され、議会に提出された後、平成31年4月1日の施行を予定しているという状況である。
 参考:那須町公文書の管理に関する条例(案)

(2)岩手県大槌町
 岩手県大槌町では、平成31年3月の議会へ提出するために条例案を作成中である。本案は同年4月の施行を目指している。

(3)東京都豊島区
 東京都豊島区では、平成30年4月1日に公文書管理のあり方検討委員会が設置された。続く4月18日付で豊島区長から公文書の適正な管理のあり方について諮問され、同年12月12日付で「区の文書を公文書管理条例によって管理すべき」との答申を出している。
 参考:豊島区公文書管理のあり方に関する答申
 さらには、同時期にパブリックコメントを実施し(平成30年12月11日から平成31年1月11日)、上記答申とあわせて条例の素案を作成した。素案は平成31年2月に議会へ提出され、同年10月の施行に向けて進めている。

(4)神奈川県茅ヶ崎市
 神奈川県茅ヶ崎市では、平成30年4月に茅ヶ崎市総合計画第4次実施計画を策定し、その中で平成32年度に条例を制定する旨、記載された。
 参考:茅ヶ崎市総合計画第4次実施計画について

(5)茨城県つくば市
 茨城県つくば市では、平成29年度につくば市公文書管理指針策定懇話会を設置し「つくば市公文書等管理指針」を策定した。同指針は、公文書管理法の趣旨を踏まえ、つくば市の公文書管理に関する総括的なものとして位置づけ、全庁的に適正な文書管理を推進するもので、内容は他の自治体の条例に近い構成となっている。つくば市では、同指針に基づき、文書管理規程を作成中であり、平成31年4月の施行を目指している。
 参考:つくば市公文書等管理指針

(6)島根県松江市
 島根県松江市は、新庁舎の整備計画と連動させて平成30年度内に文書館検討委員会を開催し、文書館整備構想の策定を予定。その後整備計画の検討に入り、文書管理体制の充実を模索しつつ、平成32年度には公文書管理の条例を制定する計画が進行中である。
 参考:文書管理改善スケジュール(案)

5.おわりに
 以上のように、本稿では全国の条例制定への概況を一部ではあるが紹介した。自治体の規模を問わず、着実に制定に向けた動きは進んでいるものと思われる。今後も全国的な動向に注目していきたい。


[1]朝倉亮「地方公共団体における公文書管理条例制定の動向」(『アーカイブズ』44号)、本村慈「地方自治体における公文書の管理に関する最近の取組」(『アーカイブズ』49号)。
[2] http://www.soumu.go.jp/main_content/000542521.pdf、およびhttp://www.soumu.go.jp/main_content/000542614.xlsxを参照のこと。
[3] 条例を制定していない自治体では、法的根拠として公文書管理についての規則、規定、要綱などを制定し、運用している。
[4]前掲注2、総務省調査における条例制定済みの公共団体の数は21となっているが、今回改めて調査したところ、総務省調査の時点では19である。挙げられている公共団体のうち、静岡県森町、東京都板橋区については、前者が「森町情報の公開に関する条例」、後者が「東京都板橋区立公文書館条例」を指しているものと見られ、除外する必要がある。したがって、愛媛県、高根沢町、天草市を加えた全国の条例運用公共団体の数は、平成31年1月現在において、22ということになる。