(巻頭エッセイ)いずれ郷土のたからもの

国立公文書館
理事 福井 仁史

 栃木県に、那須国造碑を見に行ってきました。現在はそれ自身を神体とする神社の覆屋の中にあるので、見るのは拓本ということになるのですが、畑の中に埋まっていた「笠石」(笠のついたような形の石)が、古代の貴重な文書記録だと正確に認識した水戸光圀ら江戸期の先覚者たちの努力で保存・解読され、古代史に欠くことのできない情報を提供してくれる「宝もの」になりました。たとえば当時、我が国では元号が定められていない時期であり、東国の豪族たちが唐の元号(「永昌」)を使っていた、なんてことは、この碑が無ければ誰も覚えていなかったでしょう(那須国造碑についてはコチラを参照のこと)。
 「先覚者」は先に目覚めたひとです。「孟子」に、天は「先覚者」にまだ目覚めていない者たちを目覚めさせる、とあります。

いろはカルタ(沖縄県公文書館所蔵「琉球政府文書」第13号(1972.1)より)

いろはカルタ(沖縄県公文書館所蔵「琉球政府文書」第13号(1972.1)より)

 南の方のお話をしますが、昨年11月、沖縄で全国歴史資料保存利用機関連絡協議会の全国大会が開催されました。その際、県立公文書館の方から、昭和47年、復帰直前の琉球政府文書課が編集した「新春文書かるた」の紹介がありました。当時の雰囲気を知ることのできる歴史資料としても興味深いのですが、中に、次のような「読み札」があります。
は:廃棄するな いずれ郷土の宝物
む:無用の用は古い文書
 公文書について、現在だけでなく将来の国民への説明責任を果たすためのツールと位置づけた公文書管理法が施行されている今となっては、当たり前のことに感じます。けれど、これは50年近く前、国立公文書館が出来た直後、複写は紫外線感光の「青焼き」の時代に、公文書の保存の重要性について明確な認識を持っていたことに感服します。まさに「先覚者」ですね。
 ただし、
も:もんくをいうな とにかくやれ
は如何かという気がしますが・・・。
 この沖縄大会で、全史料協の沖縄大会宣言が採択されました。
1 アーカイブズは、唯一無ニの存在である!
2 アーカイブズを扱う専門職(アーキビスト)が必要である !!
3 アーカイブズは国民の権利を守る !!!
の三項目で、「・・・沖縄の経験からも、アーカイブズは有用かつ価値あるものであり、保存・活用される必要があることがわかります。アーカイブズは、人々が生きてきた命の証であり、あまねく国民の権利を守るものです。」と宣言されています。
 アーカイブズに関わる者としては違和感ないのですが、この三項目が全国民の共通認識になっているかどうか。でも、先に目覚めた者がほかの人たちを目覚めさせていくので、いずれは当たり前のことになるのでしょう。