高知県の望ましい公文書管理制度の構築に向けた取組について

高知県総務部文書情報課
池川 滋彌

1.はじめに

 高知県では、平成32年4月1日を目指して、県立公文書館の設置と公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号。以下、「公文書管理法」という。)に準じた公文書の管理に関する条例(以下「公文書管理条例」という。)の施行に向けて取り組んでいます。これらを中心とする新しい公文書管理制度のあり方について、平成30年5月から検討を行ってきた「高知県の公文書管理のあり方に関する検討委員会」により、平成30年12月に「高知県の望ましい公文書管理制度の構築に向けて」と題した報告書が取りまとめられましたので、これまでの取組と報告書の内容について御紹介します。

2.県立公文書館の設置の経緯について

旧県立図書館(改修前)

旧県立図書館(改修前)

 高知県では、平成30年7月に県立図書館が移転新築され、高知市民図書館本館と合築した中四国最大級の図書館(蔵書数205万冊)であるオーテピア高知図書館が開館しました。この新図書館の開館を踏まえ、平成28年度に旧県立図書館跡施設の利活用についてワーキングチームによる検討が行われ、平成29年2月議会において尾﨑正直知事が、平成32年度の開館を目指して県立公文書館を中心とした施設を整備し、県行政に関する歴史公文書等を体系的に収集し、保存し、県民が利用できるようにする旨の報告を行いました。平成29年3月には「高知県公文書館(仮称)整備基本計画」を策定し、平成30年度から旧県立図書館の改修工事に着手し、平成32年度の開館を目指して取り組んでいます。
 本県で初めてとなる公文書館の設置であり、独立行政法人国立公文書館をはじめ、先行して公文書館を運営する皆様方の御指導、御助言をいただきながら新しい公文書館を整備、運営していきたいと考えております。

3.公文書管理条例の制定の検討経過について

(1) 公文書管理条例の制定方針の決定について
 公文書館の設置に伴い、県が作成、取得した公文書のうち、歴史公文書等に該当するものは公文書館へ移管を行い、県民の利用に供する仕組みを整備することになります。この仕組みを実効性のあるものとするには、県が作成、取得した公文書が適切に整理され、保存され、移管される仕組みを定めることが重要であるため、公文書管理条例を制定し、県政のさらなる透明化を図ることとしました。
 新しい公文書管理条例の方針として、公文書管理全般の統一的なルールを定めること、県民の歴史公文書等の利用請求権を保障すること、有識者等で構成される第三者委員会(いわゆる公文書管理委員会、後述)を設置することとし、公文書管理条例を含む公文書管理のあり方について検討を行うため、専門家、有識者等から構成される「高知県の公文書管理のあり方に関する検討委員会」を設置することとしました。

(2)高知県の公文書管理のあり方に関する検討委員会について
 高知県の公文書管理のあり方に関する検討委員会は、平成30年5月から5回にわたり開催し、公文書管理条例の内容、歴史公文書等の選別基準、その他公文書管理制度の構築に当たって留意すべきことについて検討を行い、12月に報告書を取りまとめました。

【委員の構成】
 株式会社高知新聞社編集局長・高知県個人情報保護制度委員会委員・独立行政法人国立公文書館統括公文書専門官・香川県立文書館主任専門職員・高知県町村会事務局長・高知市立自由民権記念館館長・NPO法人代表・公募委員の計8名

検討委員会での検討

検討委員会での検討

尾﨑知事への報告

尾﨑知事への報告



4.報告書「高知県の望ましい公文書管理制度の構築に向けて」

(1) 報告書の概要
 報告書は、公文書管理制度の構築に関する5つの提言、公文書管理条例の規定例と留意事項、歴史公文書等の選別基準案、公文書管理制度の運用に関する意見その他参考事項から構成されています。ここでは、5つの提言と検討委員会案の特徴について御紹介します。報告書の詳細につきましては、コチラを御確認ください。

(2) 提言1:公文書管理制度の目的
 公文書は県民共有の知的資源であり、公文書管理制度は県政の効率化、透明化、県民に対する説明責任を全うすることを目的とするものであることとし、公文書管理法第1条の目的に準じたものとすべきことが示されています。なお、この目的を全うするために条例の実施機関を高知県情報公開条例と同様(知事、議会、行政委員会等、地方公営企業管理者、地方独立行政法人)とし、県出資団体及び公の施設の指定管理者に適正な文書管理を行う努力義務を課すことが望ましいと示されています。

(3) 提言2:公文書の管理
 各実施機関は、公文書の適正な管理、職員への研修の充実に努め、不適切な取扱いが生じることのないように対策を講じるべきこと、知事は、各実施機関の公文書の管理に関し、総合調整機能を果たすことが望ましいこととし、現用の公文書を実施機関が適切に管理し、知事は総合調整機能として実施機関の意見を取りまとめて条例施行規則を制定するほか、各実施機関が参考とできるよう国の行政文書の管理に関するガイドラインに準じた公文書管理ガイドラインやマニュアルを整備すべきことが示されています。

(4) 提言3:特定歴史公文書等の保存及び利用
 特定歴史公文書等を永久に保存し、県民が利用しやすい環境を整備すること、県民の特定歴史公文書等の利用請求権を条例に明記することとし、公文書管理法の国立公文書館等に準じた特定歴史公文書等の利用環境を整備すべきことが示されています。

(5) 提言4:公文書館に期待される役割
 知事(公文書館)は、実施機関が公文書を廃棄する際に協議を受け、意見を述べること、各実施機関の職員に対し研修を行うこと、市町村の文書管理に関し支援を行うこととし、これらを実施するために専門的知見を持ったアーキビストなどの職員の配置に努めることとしています。特に現用公文書の移管・廃棄時に関して、公文書館は知事部局のみならず他の実施機関の移管・廃棄文書についても協議を受け、移管・廃棄に関する意見を述べるとともに、当該協議内容を取りまとめ、公文書管理委員会(仮称)に諮問するべきことが示されています。

(6) 提言5:公文書管理委員会(仮称)の設置
 公文書の管理の適正な運用を確保するため、知事の附属機関として、公文書管理委員会(仮称)を設置し、公文書管理に関する規則等や公文書等の廃棄の妥当性の審査、県民の利用請求に関する審査請求の審査を行う機能を付与するほか、実施機関に対して意見を述べることができるようにすべきこととしています。特に現用公文書の廃棄に関して、公文書館から実施機関との移管・廃棄に係る協議内容について諮問を受け、公文書管理委員会(仮称)が歴史公文書等に該当する旨の答申をした公文書については、知事(公文書館)が実施機関に対し、廃棄しないことの求めを行い、当該実施機関は当該歴史公文書等を公文書館に移管するか保存期間を延長しなければならないと示されています。

委員会報告書の概要

委員会報告書の概要

5.おわりに

 高知県の公文書管理のあり方に関する検討委員会での検討の成果により、本県における新しい公文書管理制度の骨格は定まりました。しかしながら、公文書管理制度の構築に当たっては、公文書管理条例施行規則、公文書管理ガイドライン及び公文書管理規程の制定や現行の情報公開条例及び個人情報保護条例との整合の検討などが必要になります。また、公文書館の開館に当たっては、保存している現用公文書からの歴史公文書等の選別、公文書館への移管、目録の整備などの業務も山積しています。さらには、新しい公文書管理制度を血肉の通ったものにするためには、新たな公文書管理制度に対応し、職員が使いやすい文書管理システムの整備をするとともに、全職員に新しい公文書管理制度の目的と内容を理解してもらうことも欠かせません。
 平成32年4月1日の条例施行及び公文書館の開館を目指して、引き続き皆様の御助言、御協力をいただき、一歩一歩着実に取り組んでまいりたいと考えております。公文書館が開館いたしましたら、皆様方に高知県へお越しいただきまして、御高覧を賜れば幸いです。

高知県公文書等の管理に関する条例(仮称)の構成イメージ

高知県公文書等の管理に関する条例(仮称)の構成イメージ


高知県の公文書管理のフロー(イメージ)

高知県の公文書管理のフロー(イメージ)