安曇野市文書館について

安曇野市文書館
青木 弥保

安曇野市文書館全景

安曇野市文書館全景

1.はじめに

 安曇野市は、平成17年10月1日に南安曇郡豊科町・穂高町・三郷村・堀金村・東筑摩郡明科町が合併し、誕生した自治体です。合併から10年の間に旧町村の業務の統廃合、本庁舎の建設、自治基本条例の設置など、様々な取組が行われてきました。
 安曇野市文書館(以下、文書館)は、平成30年10月1日に開館しました。文書館は公文書館法を根拠とした安曇野市文書館条例と安曇野市文書館条例施行規則をもとに運営されています。
 (安曇野市文書館条例、安曇野市文書館条例施行規則は、こちらから検索・閲覧可能です。)

2.史料整理の取組

 安曇野市では、教育委員会文化課文化財保護係の業務として、平成21年10月から安曇野市内の民家等に保存されている古文書資料の収集と整理作業を本格化させました。当時は、特定の保管施設を持たなかったため、資料の多くを借用し、悉皆撮影するという手段で情報収集を進めてきました。古文書資料の整理には、地域の公民館を拠点に活動していた穂高古文書勉強会の有志の方々の協力を得ました。その一方で、長年自治体史の編纂に携わってきた人材を非常勤職員として採用し、業務の統括を行いました。平成24年には作業内容の統一を図るため、三郷郷土研究会が使用してきたマニュアルを参考に「古文書等目録作成細則」を作成しました。作業の成果は、所有者ごとの古文書目録としてまとめられ、現在16冊を刊行しています。整理作業の過程では、目録情報を管理するシステムの開発を推進し、資料の目録情報と複写画像の双方を管理してきました。

古文書調査の様子

古文書調査の様子

公文書整理室に運び込まれた非現用文書

公文書整理室に運び込まれた非現用文書


 平成24年度からは本庁舎建設の動きに伴い、総務部庁舎建設推進課の業務として旧5町村の庁舎内に保管されていた現用文書を除く非現用文書の整理を行いました。江戸時代から昭和40年代までのすべての文書と、原課で一時選別をした昭和50年代から合併までの非現用文書を、穂高会館内に設けられた公文書整理室に運び込み、整理を行いました。作業は、正規職員2名のほか市職員OBが非常勤職員として担当しました。作業の基本的な方針は、文書を1点1点封筒に詰め、町村別・分野別・年代順に棚に並べる松本市文書館が行ってきた方法をとりました。また、緊急雇用創出事業による補助金を活用し、入力作業のためのパンチャーを雇い、文書の目録情報と位置情報を、バーコードを使って管理するシステムを導入し、2年ほどで作業を完了しました。その後、総務部総務課では、バーコードを使った文書の整理を応用し、本庁舎以外に保管されている現用文書の整理を行いました。平成27年度からは、ファイリングシステムを導入し、文書のライフサイクルを明確にする取組を行っています。平成28年度からは、公文書整理室を文化課文化財保護係の所管とし、廃棄される非現用文書に対しても歴史的公文書として残す意義を全庁的に呼びかけ、選別基準の周知に努めました。こうして、文書館開館以前から、安曇野市となってからの公文書についても将来的に残していく取組を行ってきました。

3.文書館に向けての動き

 市の政策の中で「文書館」が念頭におかれたのは、平成25年に策定された「第1次文化振興計画」になります。計画では、進められてきた文書の整理作業を受け、「歴史的価値ある行政文書の保存と活用」の一環として「収集保存並びに調査研究、普及啓発活動を行う文書館機能をもった施設の整備」が挙げられました。当時、教育委員会では、市内に点在する博物館施設の統廃合を検討し、3つの郷土資料館の閉館と将来に向けた新たな博物館の整備方針の策定を進めました。平成27年には「新市立博物館構想」をまとめ、この中でも博物館とは別の施設で、「文書館」を整備する方針が打ち出されました。(「新市立博物館構想」は、こちらで閲覧可能です。)
 こうした事前の準備を経て平成28年から文書館開館に向けた動きが本格化しました。平成28年度6月議会の冒頭で市長から旧堀金公民館・図書館の解体工事の中止と同施設を「文書館」等として整備する方針が発表されました。旧公民館・図書館を解体する方針は、地域の市民と協議を重ねてきた結果であったため、市議会等では行政手続きに関する意見は出されましたが「文書館」の整備について反対はなく、最終的には合意に至りました。その後、松本市文書館等の視察をし、施設改修の実施設計を行いました。改修工事は、翌平成29年7月に始まり、平成30年3月に完了しました。

4.文書館業務検討委員会

業務検討委員会の様子

業務検討委員会の様子

 平成29年度には、所管する係を文化課博物館係へ移し、文書館の具体的な業務内容の検討に入りました。平成29年5月に第1回文書館業務検討委員会を開催しました。委員には、松本市文書館の小松芳郎特別専門員をはじめ、東洋大学法学部の早川和宏教授、長野県短期大学の瀬畑源准教授にも参加いただき、市内の古文書研究団体の代表者や社会教育活動の有識者、市の文書管理担当者等の計8人で行われました。第1回委員会と第2回委員会では、市のこれまでの取組の確認や文書管理の現状を視察し、文書館設置に対する期待を多角的な視点で意見を出していただきました。第3回委員会と第4回委員会では、具体的な文言について検討をすすめ、委員全員が納得する内容で提言書をまとめることができました。
 提言書では、市がこれまで進めてきた資料の収集事業を公文書等の管理に関する法律や著作権法等を遵守しながら発展させていくとともに、利用者の視点に立った事業を推進するなどの意見が多く盛り込まれました。特にインターネットを活用した資料の公開、広報の手段については、開館後も引き続き取り組むべき内容が示されています。(「安曇野市文書館開館に向けた提言書」は、こちらで閲覧可能です。)
 提言書の内容を受け、条例・施行規則の整備を進めました。条例では、文書館の保管する文書の名称を「重要文書等」とすること、文書の収集の手段として「購入」を明記することにしました。施行規則では、市情報公開条例と整合をとり、時の経過を考慮して利用制限基準を設けました。また、移管・収集する文書については、基準を別表で整理しています。

整備された書庫(公文書)

整備された書庫(公文書)

5.開館まで

 平成30年4月には、条例・施行規則が施行され、館長が着任しました。7月から穂高会館公文書整理室からの移転を進め、作業は1ヶ月ほどで完了しました。物品の配置を進める一方で、来館者が使用する検索システムの構築も行いました。検索システムの構築には、国立公文書館が公開していた「公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書」を参考にし、デジタルアーカイブ係の職員に来訪いただき、御意見を伺いました。業務用の管理システムは従来使用してきたものを改修し、新たに公開用の検索システムを構築しました。公開用の検索システムでは、重要文書等を「公文書」と「地域資料」に区分し、全体を検索する機能とそれぞれを検索する機能を付けました。特に地域資料については、平成21年度よりすすめていた古文書の整理作業をもとに、パソコン上での画像の表示が可能となっています。

検索システムトップ画面

検索システムトップ画面

検索システム地域資料検索画面

検索システム地域資料検索画面



 現在、文書館では約9万点の所蔵資料のうち約2万点を公開しています。所蔵点数と公開点数に開きがあるのは、これまでに整理してきた公文書を利用制限基準の観点から再び整理を行っていること、収集された地域資料の情報について、文書館での利用許諾を所有者と取り直しを行っていることが挙げられます。これらの重要文書等をいち早く公開していくことが当面の課題となっています。

6.文書館に求められる役割

人物顕彰を目的とする企画展

人物顕彰を目的とする企画展

 文書館は、重要文書等の収集・保存、利用促進、調査研究活動、教育普及活動のほかに、3つの役割を求められています。一つ目は、市域にゆかりのある先人たちの顕彰です。安曇野市には、自由民権運動で活躍した松澤求策や、『暗黒日記』を記した清沢洌、大河小説『安曇野』の著者である臼井吉見に関する資料が寄贈されています。こうした資料を広く利用に供することで、先人たちの志に触れるとともに、より深く地域を理解することを目指しています。資料を整理して得られた成果は、年2回の企画展示や講演会を行うことで広く周知していきます。二つ目は、自治体史編纂に向けた取組です。安曇野市域は、旧町村時代にまとめられたそれぞれの自治体史があるものの、記載項目や記載年度に差があり、市域全体を包括的に叙述した書籍は未刊行となっています。市域には、失われつつある自然や民俗風習が多くあり、そうした情報も次世代に残していくことが求められます。文書館をデータバンクとして運用し、そこに集まる情報を自治体史編纂へ活用していきたいと考えています。三つ目は、博物館・図書館・公民館・学校施設との連携です。文書館は、文化課博物館係が所管しているため、市域の博物館と連携が取れるよう工夫がされています。今年度からは豊科郷土博物館・貞享義民記念館・文書館の三館の館長と担当職員が、定期的に情報交換を行う三館会議が始まりました。会議では、三館の活動内容を打ち合わせるとともに、事業内容の連携を図ることを目的としています。その他の施設についても、連携を密にし、お互いの長所を生かして、相互支援を行っていきたいと考えています。

7.おわりに
 文書館の業務の方針は、文書館業務検討員会からの提言書がもとになっています。提言書の冒頭には、文書館設置の役割について「安曇野市にとって重要な文書等がしっかりと後世に引き継がれ、安曇野市の教育・学術・文化・生活の向上につながることを期待しております」と書かれています。文書館は開館したばかりですが、市民の方々と協働し、より良い施設となるよう取り組んでいきたいと思います。

データシート
機関名: 安曇野市文書館
所在地: 〒399-8211 長野県安曇野市堀金烏川2753番地1
電話/FAX: 0263-71-5123 /0263-71-5127
Eメール: bunshokan■city.azumino.nagano.jp(■を@に替えてください)
ホームページ: http://www.city.azumino.nagano.jp/site/bunsho/
交通: JR豊科駅から車で6分、長野自動車道安曇野インターから車で10分
開館年月日: 平成30年10月1日
設置根拠: 安曇野市文書館条例
組織: 教育部―文化課―博物館係―文書館
人員: 館長1名、正規職員1名、再任用職員1名、非常勤職員3名
建物: (1)書庫、(2)事務室、(3)閲覧コーナー、(4)多目的室、ホール、(5)講義室、延床面積約1,473㎡
所蔵資料: (1)非現用文書、(2)地域資料
開館時間: 9:00~17:00
休館日: 土・祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
主要業務:
 ・歴史的若しくは文化的価値を有する公文書等の移管の受入れ及び収集
 ・重要文書等の保存及び利用
 ・重要文書等の知識の普及及び啓発
 ・重要文書等の調査及び研究