平成29年度アーカイブズ研修II B班グループ討論報告-「移管元機関との連携-評価選別基準の策定と共有を中心に-」

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門員 楠本里帆

1.はじめに

 本稿は、平成29年度アーカイブズ研修IIのグループ討論におけるB班の討論内容を要約したものである。討論テーマであった「移管元機関との連携」「評価選別基準の当てはめ方と課題」を中心に内容を執筆し、まとめと課題の項で「人材育成」について触れていく。
 B班の参加者及び役割分担は以下の通りである。
 楠本里帆(国立公文書館:本稿執筆)、大川史織(国立公文書館アジア歴史資料センター:書記)、小山珠実(埼玉県立文書館)、熊澤美佐子(愛知県公文書館)、荒木清二(広島県立文書館:司会)、澤内一晃(藤沢市文書館:書記)、西村太一(石川県:発表)、矢板淳一(水戸市:発表)(名簿順、敬称略。所属は研修当時のもの)

2.現状報告・共通課題の抽出

 討論テーマの選定にあたり、参加者の業務内容及び業務上の課題等を報告した。参加者のうち、評価選別を行っている国立公文書館・埼玉県立文書館・愛知県公文書館・広島県立文書館・藤沢市文書館から、主に評価選別業務における課題を、現在公文書館が設置されていない石川県と評価選別を実施していない水戸市は、今後評価選別基準の策定や公文書館(機能)を設置(実現)していく上での課題が挙げられ、異なる立場から多様な課題、問題意識を共有した。

3.移管元機関との連携について

(1)問題点
 討論の共通の課題として挙げられたのは、公文書館等の評価選別業務を行う者(以下、評価選別担当者)と移管元機関である文書作成課(以下「原課」という。)との連携である。原課職員の「歴史資料として重要な公文書その他の文書(以下「歴史公文書等」という。)」への関心や意識の低さは国、地方問わず共通している。国や愛知県のようにレコードスケジュール を採用しているところは、保存期間満了時の移管、廃棄の措置の判断が原課に委ねられるため、歴史公文書等に対する原課職員の関心が評価選別に直接影響してくる。そのため、原課における歴史公文書等へのより深い理解が重要であると考える。

(2)対応策
 原課の意識改革のための対応策として、第一に研修が挙げられる。行政機関の新規採用者への研修に、「歴史公文書等」に対する理解を深める講義等を盛り込むことが望ましい。研修では、講義のほか、実際に公文書館等に移管された歴史公文書等を見学させるなどして、歴史公文書等に対する理解を深める機会が与えられると良い。公文書館を有する自治体については、公文書館で研修を行うことが「公文書館」の存在を知らない職員への周知に有効ではないかと考えられる。
 また、研修以外にも職員共有のイントラネットで「文書だより」を掲示して公文書館の業務を積極的に周知している埼玉県立文書館のような取り組みも大切である。更に、広島県立文書館では、公文書館でなく本庁舎内で歴史公文書等の展示を行った実績があり、県職員の目に留まりやすく、関心を持ってもらいやすいという実感を得られたという意見があった。

4.評価選別の当てはめ方と課題-判断しやすい評価選別基準の策定と共有-

B班 グループ討論の様子1

B班 グループ討論の様子1

(1)問題点、課題
 研修や展示等で歴史公文書等を職員へ周知することにより、それらへの関心が高められても、文書作成から保存期間満了後の措置という文書管理全体に関心を持ってもらわねばならない。そのためには、分かりやすい制度設計が必要であり、中でも、判断しやすい評価選別基準の策定が重要である。そうした基準が求められる背景について、討論で出された業務上の問題点、課題を以下に列挙する。
・基準が未策定
 本班においては、水戸市が評価選別基準の策定段階であった(研修当時)。そもそも指針となる最低限の基準が策定されていなければ、歴史的に重要な文書かどうかの判断ができないため、選別が困難である。
・基準はあるが自治体間で判断にブレ
 基準をもっている自治体間でも、選別に幅がある。他の自治体を参考に基準を策定しているところでも同じような事業において移管、廃棄の判断が異なることもあり得る。
・行政機関間での認識の相違
 ある事業について(たとえば補助金等)、市は県が、県は国が関連資料を残しているだろうと考え廃棄してしまう可能性が高く、相互の情報共有や意識統一が正確に図られていない現実がある。
・レコードスケジュールの判断
 国や愛知県ではレコードスケジュールが採用されているが、移管、廃棄の判断を行うのは原課であり、適切な評価選別が行われるのか、その判断の妥当性が問われる。
・新規事業に関する選別
 新規の事業であるが故に、歴史的な重要性を有するかの判断にあたって参考とする事例がない。そのため、幅広に収集してしまいがちになる。

(2)対応策
 評価選別担当者も原課も分かりやすい評価選別基準の策定にあたり、以下に述べる「ア.業務の類型化」と「イ.再選別」という二つのアプローチを検討した。

ア.業務の類型化
 業務を類型化(既存/新規事業)することにより、評価選別の効率化(特に原課との連携)を図るねらいがある。
 まず、既存事業について、ルーティン化された事業には、法令に基づく事業等どの自治体も同じような事業を行っているものがある。そこで、都道府県担当者による協議会を設置し、全国的な判断基準(フォーマット)を取りまとめてはどうかと考えた。統一的な基準ができれば、自治体間での選別においてもブレが生じにくくなると考えられる。
 新規事業は、選別業務の前例がないため、歴史的に重要かどうかの判断が特に困難である。そうした中で、歴史的に重要な文書として判断するための指針として出た具体案が、「記者発表資料や年報で取り上げられたもの」「パブリックコメントを募集したような事業」である。記者発表をしたものは、報道等で広く認知され、世間の耳目を集めている事業の可能性が高い。年報で取り上げられたものも、その年度の主な事業として、重要であると原課も判断がしやすいと考えられる。また、パブリックコメントを募集したような事業は、市民との結びつきが強い、生活に身近といった事業もあるため、「歴史的に重要な文書の可能性が高いので気にかけてほしい」と原課に伝えやすいことも考えられる。こうした類型化によって得られた指針が、ひとつの判断基準になるのではないか。

イ.再選別
 本班では、愛知県と広島県が再選別を実施している。重複しているものや、過去の選別で残っていた軽微な内容のものを整理することが可能である。時の経過を考慮しての選別が可能であり、選別の精度を上げる意味でもメリットはある。その結果を、判断基準にフィードバックさせることで、通常の選別に活かすことが可能となる。
 しかし、再選別にはリスクと手間を要するというデメリットも大きい。
 一度選別し、保存している文書を廃棄することへの説明責任の問題や、条規等の制定・改正、諮問機関としての委員会の設置、あるいは意見の公募など、手続きを透明化する制度を整える必要がある。更に、通常の選別業務に加えて負担が増えるため、恒常的に続けることが難しいという広島県の例もあった。
 課題は残るが、具体的な指針が定まり、選別の精度が上がることで、評価選別担当者・原課共に選別の判断がしやすくなり、効率的に選別業務を進めることが可能となる。

5.まとめと課題

B班 グループ討論の様子2

B班 グループ討論の様子2

 本班では、「移管元機関との連携」を中心に評価選別基準をどのように定め、原課と共有していくかを中心に討論を進めた。まずは、原課職員に「歴史公文書等」について理解を含める研修を行い、理解を深めた上で、原課での文書作成業務や評価選別に携わってもらうことが大切である。また、判断しやすい評価選別基準の策定については、原課とどのように認識を共有していくか、その対応策として「業務の類型化」等を検討した。
 しかしながら、課題も多く山積する。その一つに人材育成がある。歴史公文書等の周知、選別基準の策定が進んだ後は、業務全体を俯瞰し、適切な評価選別を行うことができる人材をいかに育成していくかが課題となる。平成29年12月に国立公文書館では「アーキビストの職務基準書(平成29年度12月版)」をとりまとめた。この基準書により、アーキビストへの社会的関心が向上することに期待したいが、それには、組織全体として人材育成のためのフォローが必須である。人事異動等の現実的な問題はあるが、アーキビストの人材育成のための制度が整い、移管元機関との連携が円滑に進むことが、評価選別業務を効率的かつ適切に行うことに繋がると考えられる。