(寄稿)我が国の領土・主権に関する調査研究事業から見た公文書管理の重要性と課題等について

内閣官房領土・主権対策企画調整室
内閣参事官 岡本信一

1.内閣官房で領土・主権に関する調査研究事業が開始された経緯
   平成24年12月26日に発足した第2次安倍内閣において、領土・主権をめぐる情勢について、我が国の立場の正確な理解が内外に浸透していくよう、政府の体制を強化する為、歴代政権で初めて海洋政策・領土問題担当大臣が置かれた。その後、平成25年2月5日には、内閣官房に「領土・主権対策企画調整室」が設置されている。同室は、領土・主権に関する国民世論の啓発等に係る企画及び立案並びに総合調整に関する事務を処理するとともに内閣府北方対策本部との連携を図る事を任務としている。
   こうした事務を遂行するに当たり、有識者の知見を活用することが重要である事から、担当大臣の下で、国際関係、国際法、歴史研究、国内啓発・対外発信等に深い知見を有する有識者からなる、「領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会」が開催されており、第1回(平成25年4月23日)には、安倍晋三内閣総理大臣も出席した。平成25年7月2日には、「―戦略的発信の強化に向けて―領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会報告書」が取りまとめられた。この報告書の中では、「7.日本の主張の正当性をより効果的に発信するために、歴史的な経緯や文献・史料の収集も含め、調査研究を強化する体制整備が望まれる。」とした上で、「関係国は、自国の研究所・大学・財団、NPOに至るまで総動員して、領土に関するキャンペーンを行っている。また、領土をめぐる歴史的な議論を通じて、自国の立場を強化しようとしている。これに対する日本政府の反論は、必ずしも十分になされてきたとは言い難い。その理由としては、領有権に関する歴史的な経緯や文献・史料の収集に関する日本の調査研究体制の足腰の弱さがあげられる。領土・主権に関して、研究機関や資料センター、図書館のアーカイブ(資料書庫)などを活用して文献・史料を発掘し、英訳したうえで発信していくことが重要である。関係国では、国の公文書の閲覧を意図的に拒否して情報を閉じている例もある。日本では、これとは逆にオープンな状況を継続していることを広く内外に示し、関係国と価値観や制度に差があることを示すべきである。」と言う指摘が行われた。
   この報告書がきっかけとなり、内閣官房領土・主権対策企画調整室が、広報・啓発をより効果的に行う観点から、平成26年度予算の概算要求において、我が国の領土・主権に関する発信、調査研究体制の強化に資する為のパイロット事業として、「我が国の領土・主権に関する調査研究経費」を新規要求し、平成26年度から事業が始まった。

2.事業の実施状況
   領土・主権に関する調査研究事業では、シンクタンクや有識者の知見を活用すべく、内閣官房領土・主権対策企画調整室から委託を受けた民間団体が、有識者による研究委員会を設置して助言を仰ぎつつ、地元の専門家を中心とした研究チームを組織して、資料の調査・整理、目録の作成及び画像データ化を行い、調査結果を報告書にまとめている。

(1)平成26年度事業
   平成26年度事業では、尖閣諸島に関しては、領土編入を行う前の1885年から1972年に作成された、沖縄県の公的機関に所蔵されている資料、文献を中心に調査した結果、約500点に上る行政文書、関係者の記録、新聞記事等、従来からの我が国の主張を裏付ける資料の所在が改めて数多く確認された。主なものとしては、①1895年の尖閣諸島の領土編入は、日本人による漁業活動に端を発するものであり、日本政府は適正な現地調査等を行った上で編入過程を進めていたことを示す資料((ⅰ)『八重山嶋ニ係ル書類―久場島』1889-1890年(沖縄県立図書館所蔵)、(ⅱ)『喜舎場家資料 四三 本県各課報告綴諸達正誤』「沖縄県告示第四十四号」[阿根久場島渡航漁業者行方不明の件] 1893年(石垣市立図書館所蔵))、②尖閣諸島の領土編入後終戦まで、日本政府が尖閣諸島において有効な行政権の行使を行っていたことを示す、土地登記簿謄本や鉱物資源試掘許可関連の行政資料((ⅰ)『沖縄県統計書 明治28年、29年』1900年 土地 [第一〇 島嶼ノ位置及周囲面積](沖縄県立図書館所蔵)、(ⅱ)『官報』(1922年6月6日)鉱業事項試掘不許可 北小島/南小島(沖縄県公文書館所蔵))等を挙げる事が出来る。
   また、竹島に関しては、島根県への編入が行われた1905年から1950年代に作成された、島根県の公的機関に所蔵されている資料、文献等を中心に調査を行った結果、約1,000点に上る地元の行政文書、関係者の記録、新聞記事等、従来からの我が国の主張を裏付ける資料の所在が数多く確認された。主なものとしては、①1905年1月の閣議決定による竹島の島根県への編入は、日本人による漁業活動に端を発するものであり、日本政府は適正な手続きを踏んだ上で編入過程を進めていたことを示す資料(『明治36年中ノ調査〔海驢漁業者調査〕』 竹島貸下・海驢漁業書類 1903年(島根県公文書センター所蔵))、②編入後、日本政府による行政権の行使が行われていたことを示す、島根県や隠岐の島町による調査、規則、取り締まり等に関する資料(『漁業取締規則中更正の件』明治38年島根県令第18号 1905年4月14日(島根県公文書センター所蔵)、『官有地借用願』1910年6月25日(島根県竹島資料室所蔵))等を挙げる事が出来る。
   平成26年度事業の調査報告書(和文・英文)は、平成27年4月に内閣官房領土・主権対策企画調整室のウェブサイトに掲載され、同年8月には、同室のウェブサイトに資料ポータルサイトが立ち上げられた。資料ポータルサイトには、研究チームや有識者の助言を踏まえて、領土・主権をめぐる我が国の立場を裏付ける基本的な資料や研究活動に資する資料が、尖閣諸島・竹島に関してそれぞれ約100点選定の上、目録・画像データを検索可能な形で掲載された。
(「尖閣諸島資料ポータルサイト」(http://www.cas.go.jp/jp/ryodo/shiryo/senkaku/index.html)及び「竹島資料ポータルサイト」(http://www.cas.go.jp/jp/ryodo/shiryo/takeshima/index.html)

(2)平成27年度事業
   平成27年度事業では、調査の対象期間を尖閣諸島及び竹島の編入以前に遡るとともに、対象地域についても、地元の沖縄県及び島根県に限定せず、国内の関連する地域(尖閣諸島については福岡県、熊本県等主に九州地方・東京都内等、竹島については鳥取県・東京都内等)に拡大して調査を実施した。
   尖閣諸島に関しては、領土編入を行う前の1885年から1972年(沖縄返還)の時期を中心に、日本国内に存在する主な尖閣諸島関連資料を調査した結果、約300点の行政文書、関係者の記録、新聞記事等、従来からの我が国の主張を裏付ける資料の所在が改めて数多く確認された。
   主なものとしては、① 領土編入以前において、日本政府が適正な現地調査等を行っていた一方、中国(清国)は尖閣諸島を中国(清国)領と認識していなかったことを示す資料(『[写]魚釣、久場、久米赤島回航報告書』1885年11月2日(国立公文書館所蔵))、② 領土編入以降、尖閣諸島における我が国の有効な行政権の行使を裏付ける文書(『勅令第百六十九号』[葉煙草専売法ヲ施行セサル地方指定]1897年5月31日(国立公文書館所蔵))、③ 戦後から沖縄返還までの間、琉球政府による施政権が行使されたことを示す行政資料(『尖閣列島写真集』琉球政府出入管理庁/撮影1970年7月(沖縄県立図書館所蔵)、『復命書』(後述))等を挙げる事が出来る。
   また、竹島に関しては、日本国内に所在する江戸時代以降の主な竹島関連資料を調査した結果、約450点の行政文書、関係者の記録、新聞記事等、従来からの我が国の主張を裏付ける資料の所在が改めて数多く確認された。主なものとしては、①1600年代に竹島で採取した鮑を江戸幕府に献上したことを示す鳥取藩の記録(『鳥取藩政資料御用人日記に見る竹島・松島関係資料』 元禄八年御在江戸日記亥七月朔日より十二月二十九日迄 1695年9月21日(鳥取県立博物館所蔵))等、江戸時代における竹島での日本人の活動が裏付けられる資料、②竹島の島根県編入以前における韓国の竹島に対する認識がうかがえる資料(『大東輿地圖』1861年(国立国会図書館所蔵)、『大韓地誌』1906年(1899年初版)(国立国会図書館所蔵))、③竹島の島根県編入以降における我が国による竹島の利用に関する資料(『本標 経緯度実測原簿』1908年8月 海軍水路部(海上保安庁所蔵))等を挙げる事が出来る。
   平成27年度事業の調査報告書(和文・英文)は、平成28年4月に内閣官房領土・主権対策企画調整室のウェブサイトに掲載され、同年9月には、上記資料ポータルサイトに約200点の資料が新たに追加されている。

3.資料調査の具体例~「復命書」の全貌を確認の上公開
(1)尖閣諸島の不法入域警告板設置に係る「復命書」
   平成27年度事業で確認された公文書の中に、尖閣諸島の不法入域警告板設置に係る「復命書」(福岡入国管理局那覇支局所蔵)がある。本資料は、1970年7月7日から同16日にかけて、琉球政府出入管理庁が尖閣諸島不法入域者に対する警告板を設置した際に提出された復命書である。作成年月日は1970年7月24日、作成者は当時出入管理庁警備課課長であった比嘉健次氏。これまで、南方同胞援護会機関誌「季刊沖縄」第56号(昭和46年3月)及び同誌第63号(昭和47年12月)において、警告板の設置概要等が紹介されていたが、全体像は明らかでは無かった。
   本資料は、警告板設置状況等を報告している貴重な一次資料である為、本事業において収集の対象とすることとしたが、原本が現存しているかどうかは不明であった。

(2)情報公開制度を活用して資料の写しを入手
   「復命書」の作成を行った比嘉健次氏にとって警告板の設置は出入管理庁時代の思い出の一つとして記憶に残る事柄であったとの事で、八重山毎日新聞において、警告板設置の関係者を探したり(平成21年8月15日付け)、「尖閣諸島/『警告板』設置の思い出」と題する寄稿(平成21年8月20日付け)を行ったりしていた。御自身でも資料原本を探していた所、5年ほど前に、福岡入国管理局那覇支局を訪れた際に、自身が提出した復命書が同局のキャビネットに保管されていると係の者から聞かされていたとの事であるが、その後そのままになっていた。
   平成27年11月、本事業を受託した民間団体の主任研究員の國吉まこも氏が比嘉氏と共に福岡入国管理局那覇支局を訪れ、協力依頼した所、担当者から当該資料が現存している場合は、法令に従って対応することとなる旨の説明があった。これを受けて、「復命書」について、平成27年12月4日付で福岡入国管理局に対して行政文書開示請求を行ったところ、福岡入国管理局が平成28年1月27日付で開示の決定を行い、同資料の写しを入手する事が出来た。

(3)復命書の内容
   復命書は、「1970年7月7日 不法入域防止用警告板の設置立会及び不法入域者の取締のため、尖閣列島へ出張しましたので、その概要をつぎのとおり復命します。 1970年7月24日 出入管理庁整備課 課長 比嘉健次 出入管理庁長大城実殿」で始まり、出張年月日、出張先、概要(警告板設置状況(時系列で移動や工事の状況等を記載、参考事項)、警告板設置一覧表、警告板設置(標柱建設)を伝える新聞記事(八重山毎日新聞1970年7月7日付記事「尖閣列島に立ち入り禁止 七つの島に標柱建設 きょうから九日間、出入管理庁と建設局」、琉球新報1970年7月14日付(地方版)「不法入域防止めざす 尖閣諸島に警告板を設置」)、警告板設置状況及び作業状況・参考資料(写真)、不法入域者の取締状況、領海侵犯台湾漁船現認状況、八重山毎日新聞1970年7月14日付記事「尖閣列島 周囲は大小の台湾船の群 仮小屋を建て住む 海鳥と卵は減る一方 警告板を建て一行帰る」(尖閣列島で行われた台湾漁船の目に余る不法行為に対して、警告板の建設は幾分効果があると評価するもの)、警告板の本文、警告板設置工事設計図と言った内容となっている。このうち、不法入域者の取締状況、領海侵犯台湾漁船現認状況等は、今回の事業で初めて確認・公開された内容と言える。

4. 領土・主権に関する資料保全の必要性と政府の取組
(1)公文書管理法制定時の考え方と公文書管理の現状・課題
   公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号。以下「公文書管理法」という。)の制定に向けての検討の為に開催された公文書管理の在り方等に関する有識者会議の最終報告「『時を貫く記録としての公文書管理の在り方』~今、国家事業として取り組む~」(平成20年11月4日)では、公文書管理制度の制度設計に当たっての基本的な考え方の一つとして、「職員一人一人が、職責を明確に自覚し、誇りを持って文書を作成する仕組みを作る。また、作成した公文書に愛着を持ち、堂々と後世に残せる仕組みを作る」ことを挙げている。
   3.で見た「復命書」は、当時の担当課長の比嘉氏が自ら取り組んだ業務の実績に関して作成した文書であり、組織内で共有・整理・保存されていたところ、本事業により、原本の存在が確認されたもので、比嘉氏も、「まさにこれだと、ちゃんとあった」と喜んでいたとの事であった。
   この様に、尖閣諸島における行政権行使を裏付ける領土・主権に関する公文書が残っていて、本事業で確認された裏側には、元公務員が自ら行った仕事に対して強く誇りを持ち、回顧の念から独自に文書を探す取組があった訳であるが、行政の現場では、通常は、大量の行政文書の中に埋もれていて、領土・主権に関するものとして、区分や識別をされていない状況にあるものも多いと考えられる事や、公文書管理法の施行後も、この様な資料が必ずしも残る仕組みとはなっていない事に留意が必要である。
   3.で見た「復命書」の対象となった事業は、1970年に米軍施政権下の沖縄の琉球政府が、米国高等弁務官の命を受け、米国の予算的な援助により実施されたもので、設置経費は約5千米ドル(約180万円)であった。1972年の沖縄の本土復帰により、琉球政府の当該業務を引き継いだ法務省の出先機関が文書を取得して行政文書となったと考えられる。
   現行の公文書管理法に基づく行政文書の管理に関するガイドライン(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)に定められた別表第2の保存期間満了時の措置の設定基準では、公共事業の実施に関する事項について、移管すべきものの例示として、①総事業費が特に大規模な事業(例:100億円以上)については、事業計画の立案に関する検討、環境影響評価、事業完了報告、評価書その他の重要なもの、②総事業費が大規模な事業(例:10億円以上)については、事業計画の立案に関する検討、事業完了報告、評価書その他の重要なもの、③工事誌が挙げられている。
   すなわち、警告板設置の様な小規模な公共工事に関する文書は、①及び②にあてはまらず、③に該当するか否かで国立公文書館等への移管対象となるかどうかが決まる事になる。
   その他の文書の場合であっても、別表第2の(3)で、「昭和27年度までに作成・取得された文書については、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号。いわゆる「サンフランシスコ条約」)公布までに作成・取得された文書であり、1の【Ⅰ】【Ⅲ】【Ⅳ】に該当する可能性が極めて高いことから、原則として移管するものとする。」とされている事から、これに該当する文書であれば移管対象となるものの、1970年に作成された「復命書」は該当しない。
   領土・主権に関する文書は、本来は、別表第2の移管対象の基本的な考え方に示されたⅠ 国の機関及び独立行政法人等の組織及び機能並びに政策の検討過程、決定、実施及び実績に関する重要な情報が記載された文書、Ⅱ 国民の権利及び義務に関する重要な情報が記録された文書、Ⅲ 国民を取り巻く社会環境、自然環境等に関する重要な情報が記録された文書、Ⅳ 国の歴史、文化、学術、事件等に関する重要な情報が記録された文書に該当するものも多いと考えられるが、行政の現場では前述の通り、大量の文書の中に埋没し、該当する文書かどうか判然としない状況にあると考えられ、実際は、保存期間満了時に廃棄される恐れがある状態だった。

(2)領土・主権問題に関する行政文書ファイル等の管理について(通知)を発出
   そこで、内閣官房領土・主権対策企画調整室は、公文書管理の制度官庁である内閣府大臣官房公文書管理課と協議の上、連名で、領土・主権に関する文書が、整理・保存され、適切に国立公文書館等へ移管される様に、各行政機関に注意喚起を促す内容の「領土・主権問題に関する行政文書ファイル等の管理について(通知)」を平成28年11月28日付で発出した。
   この通知では、「領土・主権問題に関する行政文書ファイル等」を、「竹島及び尖閣諸島に関する日本国の行政権の行使その他施策を遂行する過程で作成又は取得した行政文書ファイル等」と定義した上で、具体的には、各行政機関に対して、領土・主権問題に関する行政文書ファイル等の管理について、以下の対応を行うと共に、所管の独立行政法人等への周知及び行政機関に応じた対応がなされるよう必要な情報提供を求めている。

1) 領土・主権問題に関する行政文書ファイル等について、法に基づく適切な整理・保存等を徹底されたい。
2) 昭和27年度までに作成・取得された文書については、行政文書の管理に関するガイドライン(平成23年内閣総理大臣決定。以下、「ガイドライン」という。)別表第2の2(3)において、原則として国立公文書館等に移管するものとされており、これに応じて移管の措置を取ることを徹底されたい。
   また、昭和28年度以降に作成・取得された文書であっても、「領土・主権問題に関する行政文書ファイル等」については、ガイドライン別表第2の1 基本的考え方の「【Ⅳ】国の歴史、文化、学術、事件等に関する重要な情報が記録された文書」等に該当する可能性があり、国立公文書館等への移管対象となる歴史公文書等となり得ることを踏まえて保存期間満了時の措置を設定されたい。
3) 領土・主権問題に関する行政文書ファイル等の保存期間満了時の措置が適切に付与されているかを確認するため、「公文書等の管理に関する法律に基づく行政文書ファイル等の移管・廃棄等に関する手順について」(平成23年4月1日内閣府大臣官房公文書管理課長決定)様式1並びに様式3-1別添①、別添②及び様式3-2別添①、別添②の「その他判断の参考となる情報(行政文書ファイル等の内容・性質等)」・「行政文書ファイル等の内容・性質等」のうち、「③その他参考となる情報」欄に「領土・主権関連」、「領土・主権関連を含む。」を記述されたい。


5.結びにかえて
   平成23年4月1日に施行された公文書管理法は、附則第13条で、法施行後5年を目途とする検討を定めており、この規定を踏まえて、公文書管理委員会は、平成27年9月から公文書管理の在り方について検討を行い、平成28年3月には、「公文書管理法施行5年後見直しに関する検討報告書」を取りまとめた。この報告書では、「歴史的な価値と言う視点に立った評価選別」の論点項目で、評価選別業務の見直しの方向性として、「各行政機関においては、それぞれの業務内容を前提に、歴史的に価値がある行政文書を主体的に評価選別し、体系的に保存・移管することが重要である。」とした上で、「各行政機関においては、マクロとミクロの両面から適切に評価選別がなされることが重要である。マクロの指標については、マクロ・アプレイザル(巨視的な評価の指標・選別)を意識した重要政策事項等の例示について、時の経過も踏まえて、評価の指標の見直し、拡大も視野に検討を加えるべきである。ミクロの指標についても、各行政機関における評価選別の指標が、それぞれの業務内容、組織(事務分掌)や機能に即した実践的な指標としてより細部にわたって作り込まれるような、積極的な措置について検討すべきである。」等を挙げている。
   領土・主権に関する文書には、閣議決定等の内閣や外交関係等の本府省等の文書だけではなく、3.で見た「復命書」や「石垣町大字登野城処分調査書」(昭和7年(九州森林管理局旧蔵(国立公文書館へ移管済))、「竹島リン鉱石試掘原簿」(昭和14年(中国経済産業局所蔵)))等の様な個別行政分野を担当する各府省等の出先機関等で作成・取得された文書も存在する。この為、領土・主権に関する文書の管理を政府全体で進めるに当たっては、領土・主権と言う切り口による、各府省等の枠を超えた横断的かつ出先機関等を含めた広範な取組が必要なものであると言える。
   「領土・主権問題に関する行政文書ファイル等の管理について(通知)」により、領土・主権に関する文書については、各府省等において、公文書管理法に基づく適切な整理・保存の徹底が求められると共に、文書の整理に当たり行われる保存期間満了時の措置の設定では、該当文書にレコードスケジュール上、「領土・主権関連」、「領土・主権関連を含む。」と言った記載が行われる様になり、また、保存期間満了時には、国立公文書館等への移管の徹底が求められる等の実践的な措置が求められる事となった。
   今後は、各府省等において、この通知を踏まえた適切な運用が図られる事により、領土・主権に関する公文書等の国立公文書館等への移管が進むことが期待される。