公文書等の評価選別における移管元機関との連携―文書作成課、文書事務主管課、公文書館の関係を中心に―(平成27年度アーカイブズ研修Ⅱグループ討論3班報告)

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官 島林孝樹

1. はじめに

   本稿は、平成27年度アーカイブズ研修Ⅱで実施されたグループ討論の中で、第3班の討論内容を要約したものである。本研修は、「公文書等の評価選別」をテーマに実施されたが、第3班は、「移管元機関との連携について」という議題のもと、討論を行った。
   第3班は、10名から構成される。参加者とその所属及び討論における役割分担は以下の通りである。

岡本詩子(国立公文書館:書記)、島林孝樹(同:本稿執筆)、髙杉美里(同:書記)、岡本敏男(日本銀行金融研究所:司会)、三浦貴之(秋田県公文書館:司会)、西村陽子(栃木県立文書館:発表)、二宮美和子(福岡共同公文書館)、福地洋子(沖縄県公文書館:発表)、菊地明子(埼玉県)、山本太郎(倉敷市)(名簿順。敬称略。所属は研修当時のもの。)

   討論では、それぞれの所属組織で行われている評価選別の仕組みや移管元との関係など、現状の確認をまず行った。その中で、評価選別において生じる課題を抽出するとともに、課題に対する対応策を明らかにした。さらに、文書作成課、文書事務主管課、公文書館という三者がどのような取り組みを行えるかを具体的に検討した。
   以下、討論内容を具体的にみていくこととする。

2. 所属組織

3班 グループ討論の様子1

3班 グループ討論の様子1

   表1は、各所属組織の組織形態と評価選別主体を整理したものである。
   組織形態は大きく5つに分類できる。すなわち、(1)首長部局の所管となっている組織(倉敷市、秋田県、福岡県)、(2)教育委員会に属している組織(埼玉県、栃木県)、(3)独立行政法人等(国立公文書館、日本銀行)、(4)指定管理者(沖縄県)、(5)組合(福岡県内市町村)である。沖縄県公文書館の場合、公益財団法人沖縄県文化振興会が指定管理者となっている。また、福岡共同公文書館の場合、福岡県と市町村の共同で運営している。そのため、福岡県は首長部局の所管となり、市町村は組合という形態に分類される。
   一方、公文書の評価選別の主体は、文書作成課と公文書館に分類できる。文書作成課が主体となっているところは、倉敷市、埼玉県、国である。対して、公文書館が主体となっているところは、秋田県、栃木県、沖縄県である。福岡県と日本銀行は、文書作成課と公文書館が共同で、評価選別を行っている(日本銀行の場合、内部に「国立公文書館等」にあたる機関をもっている)。福岡(市町村)の場合は、県内市町村(政令市である北九州市、福岡市を除く。)が一次選別、公文書館が二次選別をそれぞれ実施している。

表1

3. 課題と対策

   各所属組織の組織形態と評価選別主体を整理したのち、評価選別において生じる課題を2点抽出した。

3.1 公文書館側の課題(課題1)

   第1に、公文書館側の課題として、評価選別のための情報が不足している点である。ここでいう情報とは、文書や業務内容に関する情報が想定される。文書に関する情報不足とは、評価選別者(公文書館)が、ファイル名など限られた情報の中でしか、文書の内容を確認できないことを指す。例えば、栃木県の場合、公文書館は、文書廃棄リストのみに基づいて評価選別を行っている。時間等の制約のため、現物を確認できないためである。また、日本銀行でも、原課で作成された資料を閲覧することが容易ではない。一方、業務内容に関する情報不足に関しては、沖縄県の事例が参考になる。沖縄県では、評価選別を行う際に、「シリーズ」選別という手法を用いている。これは、業務を分析し、業務の発生類型を確認し、保存すべき文書を決定するという手法である。しかし、業務の全体像がみえにくいことから、この手法を用いた選別を行うことが困難になっている。同様に、秋田県や栃木県でも、文書作成課における業務の流れを、評価選別者(公文書館)が把握できていない現状にある。

3.2 文書作成課側の課題(課題2)

   第2に、文書作成課側の課題として、移管・公開手続き等に対する知識や歴史公文書等に対する意識が不足している点である。とりわけ個人情報保護の観点から、移管・公開手続きに対して、文書作成課が懸念しているという事例が多数報告された。例えば、倉敷市では、裁判に係る記録、内部検討資料の移管に対して、文書作成課(法務課)が懸念を示しているという事例がみられた。また、埼玉県や栃木県、秋田県でも、文書作成課が個人情報の管理に慎重になっており、公開に不安を持っているという事例がみられた。
   このように、公文書館と文書作成課というそれぞれの立場から、課題を抽出した。これらの課題が生じる要因として、討論では、文書作成課・文書事務主管課・公文書館の間でのコミュニケーション不足、情報共有の脆弱さが指摘された。したがって、上記課題への対応策としても、三者のコミュニケーション・情報共有を行っていくための仕組みや方法の構築が重要であるとの認識が参加者間で共有された。

4. 具体的な取り組み

   こうした認識を共有したのち、討論では、文書作成課・文書事務主管課・公文書館間のコミュニケーション・情報共有を行っていくための、具体的な仕組みや方法、ひいては三者の適切な体制・役割分担を議論した。
   表2は、前章で挙げられた課題1, 2に対応するために、文書作成課・文書事務主管課・公文書館それぞれで可能な取り組みをまとめたものである。

表2

   課題1への取り組みとして、文書作成課は、事務事業に関する参考資料を、公文書館に提供することが考えられる。具体的には、事務マニュアルの整備・共有や事業評価資料の提供等が挙げられる。すでに秋田県公文書館では、事務事業シートを業務分析に使用するとともに、各課が作成している「事務マニュアル」を評価選別に使うことを検討している。これらの取り組みは、文書作成課が日々の業務を進めていく上でもメリットになる。例えば、事務マニュアルの整備は、事業の見直しを行う際にも役に立つ。また、業務の引継ぎを効率的に行うことも可能となる。
   課題2への取り組みとして、公文書館が持っている評価選別結果等知見のフィードバックを、文書事務主管課に行うことが考えられる。つまり、保存期間が適切に設定されているか、保存期間満了時の措置は適切か、といったような文書管理の在り方を公文書館側が確認し、その結果を文書事務主管課にフィードバックするのである。公文書館側の知見を、文書事務主管課に還元することで、適切な文書管理を行えるよう支援することが考えられる。こうしたフィードバックを踏まえて、文書事務主管課が文書作成課を指導することで、文書作成課にとっても参考になると考えられる。
   また、公文書館の認知度を向上させることも重要な取り組みとなる。具体的には、(1)ガイドブック作成、(2)広報、(3)研修、(4)展示・見学などが想定される。以下、討論で紹介された事例をもとに、具体的な対応策をみていく。
(1) ガイドブック作成
   沖縄県では、館ホームページに「(職員への)利用ガイド」が掲載されている。県職員に対して、公文書管理に関する情報を掲載することで、公文書館と県職員のコミュニケーションの架け橋を行うことが意図されている。
(2) 広報
   広報も、公文書館の認知度の向上を図る上で有益である。沖縄県では、県職員向け広報誌に、公文書館に関する記事を掲載するなど、普及啓発活動を行っている。また、埼玉県でも、文書館が作成する普及啓発紙「文書だより」の中に、文書館のコーナーを設けるなど、各課への周知をはかっている。
(3) 研修
   研修を取り入れているところも多く見られる。例えば、埼玉県では、文書事務担当者(総務係長、文書管理責任者等)に対して、文書館職員が文書館の役割等を説明する研修を実施している。また、福岡県でも、年2回実施される担当者会議の中で、文書事務主管課に対して、選別の方法等を解説するなど、研修を実施している。
(4) 展示・見学会
   展示・見学会は、研修と連携して実施されることが多い。例えば、栃木県では、公文書館内で常設展示などを実施することで、公文書館の認知度の向上をはかっている。具体的には、普段閲覧に供していない資料(東北新幹線の資料、自治医大駅〈宇都宮線〉の開業に関する資料)の展示を行い、「歴史資料となりうる」ということを示し、原課職員の関心をひいた。また、倉敷市では、年に1回開かれる展示会の際に、文書作成者である市の職員に対して展示会ツアーを実施している。さらに、福岡県でも、市町村採用職員向けの研修の中で、公文書館のツアーを実施している。
   以上、4つの具体的な対応策を論じた。これらを通して、文書事務主管課や文書作成課に対して、公文書の適切な管理の在り方を周知するとともに、歴史公文書等が国民の共有財産であるという意識をともに共有していくことが求められる。
   最後に、課題1, 2双方への取り組みとして、文書事務主管課の役割を指摘できる。文書事務主管課には、公文書館と文書作成課をつなぐ架け橋の役割を果たすことが求められる。1つ目の具体的な役割として、文書管理システム等の適切な運用等を行うことで、文書の統括的な管理を行っていくことが求められる。具体的には、文書管理システムを通して、どのような文書が作成・取得されているかという全体像や文書の具体的内容を示すことが求められる。2つ目の具体的な役割として、公文書館からのフィードバックを文書作成課に周知することが求められる。すなわち、文書管理を指導する立場として、文書作成課と公文書館間の情報共有やコミュニケーションの円滑化をはかる橋渡しの役割を果たすことが期待される。こうした役割を果たすことで、公文書館側は、文書ファイルの内容や全体像を把握することができ、歴史的文書の評価・選別を効率的に行うことが可能となる。同時に、文書作成課は、情報公開に対する不安を解消でき、さらには、歴史公文書等が国民にとっての共有財産であるという価値観を共有することにつながる。

5. おわりに

3班 グループ討論の様子2

3班 グループ討論の様子2

   本稿では、平成27年度アーカイブズ研修Ⅱで実施されたグループ討論の内容をもとに、評価選別の課題を抽出するとともに、移管元機関との連携という観点から、課題に対する対応策を提示した。抽出された課題は、(1)公文書館側では、評価・選別のための情報(文書・業務内容等)が不足している点、(2)文書作成課側では、移管・公開等手続き等に対する知識や歴史公文書等に対する意識が不足している点の2点であった。また、これらの課題への対応策とは、文書作成課・文書事務主管課・公文書館でのコミュニケーション・情報共有のための仕組み・方法を構築することであった。こうした仕組み・方法を構築し、効率的な評価選別を行っていく上で不可欠となるのが「全体像」の把握・共有ではなかろうか。ここでいう全体像とは、(1)施策や事業内容、(2)文書ファイルの中身、(3)文書のライフサイクルの3点である。これらの全体像を3者で把握・共有することで、連携が生まれ、よりよい評価選別が可能となる。