栃木県立文書館開館30周年を迎えて

栃木県立文書館 
山本 訓志

1. はじめに

栃木県立文書館概観

栃木県立文書館概観

   栃木県立文書館は「古文書、将来貴重な歴史資料となる県の公文書その他必要な資料(以下、「文書」と言う。)の収集及び管理を行うとともに、これらの活用を図り、もって県民の教育、学術及び文化の発展に寄与するため」昭和61年4月1日に設置され、10月1日に開館した。平成28年度に開館30周年を迎える。
   文書館設置の構想は、栃木県史編さん時にさかのぼる。明治百年記念事業の一つとして計画された県史編さん事業の開始以来、文書館の設立について、県史編さん委員会等でしばしば要望されていた。県史編さん委員会が発足して間もない昭和44年3月22日、その専門委員会において寶月圭吾委員長から「古文書悉皆調査事業へ地元研究者の参加を進めることにより、県の一大文化運動を展開し、将来の文書館設立を準備する必要がある。」との指摘があった。栃木県史の最初の刊行は昭和48年3月であるが、それ以前から、また県史刊行中も平行して文書館設置が要望されていた。
   このような動きを踏まえて、昭和55年に策定された「新長期総合計画」の中に文書館の整備が位置づけられ、これに基づいた「県立文書館基本構想策定委員会」が設置された。昭和58年には、文書館の建設予定地が明らかにされ、次いで設計費を計上した補正予算が組まれて、館の建設準備が軌道に乗った。

2. 館の事業

   館の設置は昭和61年4月1日で、同日「栃木県立文書館条例」が施行された。同条例によれば文書館は次の6つの事業を行うこととされている。
(1) 文書の閲覧、展示その他の利用に関すること
(2) 文書の収集、整理及び保存に関すること
(3) 文書についての専門的な調査研究に関すること
(4) 資料集等の編さん及び刊行に関すること
(5) 文書についての知識の普及啓発に関すること
(6) 前各号に掲げるもののほか、その目的を達成するために必要な事業
   以下、上記の事業ごとに、特に最近10年間の取り組みを中心として概要を紹介する。

(1) 文書の閲覧、展示その他の利用に関すること

平成27年度企画展

平成27年度企画展

   文書閲覧者は、平成20年度を除いて、その数は年間600~900人程度で推移している。平成20年度は、庁舎改修工事のため、文書館が別庁舎に仮移転して業務を行った年である。
   展示は、開館以来、文書館展示室で常設展および企画展を開催してきた。加えて平成19年度に、第4代県庁舎の一部を移築した昭和館が開館して、その館内2展示室を文書館が担当することとなり、計3室の展示を作成しながら現在に至っている。昭和館1階の展示室は、「四代目県庁舎と佐藤功一」という室名で、第4代県庁舎建設の過程と設計者の佐藤功一について展示している。3階の展示室は「近代栃木のすがた」という室名で、栃木県の成立についての展示を主題としている。また、この3階展示室を使って、平成20年度以降の当館の企画展等を開催している。
   展示については、昭和館3階展示室を会場とした平成20年度から、企画展と人物展を1年交代で開催している。企画展は、展示室全面を使って1ヶ月程度開催し、終了後に縮小して、栃木県の成立に関する展示と平行して1年間ほど継続展示する。人物展示は栃木県の成立に関する展示を継続したまま作成し、1年間継続している。

(2) 文書の収集、整理及び保存に関すること。

   平成27年度末で、古文書は約30万5千点、公文書は、簿冊と刊行物を併せて約57,000冊となった。特に、開館25周年時に中世宇都宮氏の調査を重点的に行い、九州・四国地方の宇都宮氏関係文書を写真収集した。これは写真帳を作成して利用に供している。

(3) 文書についての専門的な調査研究に関すること

文書館研究紀要と、文書館だより

文書館研究紀要と、文書館だより

   『研究紀要』は開館10周年を契機として創刊された。所蔵文書を素材とした下野の歴史関係論文や、史料紹介、史料論等を、当館の職員らが執筆し、調査研究に資するよう公表している。平成28年度は第21号を開館30周年記念号として刊行する。例年よりも多様な論文が掲載されるよう計画している。
   また、定期的に『文書館だより』を刊行し、調査研究の成果を掲載してきた。広報誌という位置づけであり、分かり易いことを身上とするが、収蔵史料紹介に代表されるような、史料の把握のために有用な研究調査結果を掲載している。

(4) 資料集等の編さん及び刊行に関すること

学校教材資料集(1号と10号)

学校教材資料集(1号と10号)

   県史編さんのための古文書悉皆調査の成果として刊行されてきた栃木県資料所在目録は、1年に1冊の割合で刊行を継続している。開館20周年を迎えた平成18年度には冊子にデータCDを付し、検索の便宜を図った。なおCDに収録されたデータの形式は、ファイルメーカーとエクセルであった。現在では冊子形態を廃し、CDのみで刊行している。
   また、平成16年度から『学校教材史料集』を、10年にわたって、年間1冊ずつ刊行した。これは学校の授業での史料活用を目的とするもので、指導主事が分担して執筆した。執筆にあたって、実際の授業を想定した指導例を掲載し、授業の構成や発問の工夫に資するようにした。単に史料を提示して解説するだけにとどまらず、史料を使った授業を単元の中の1時間分として位置付ける場合、また、1時間の授業の一部を史料を使って構成する場合など、授業を担当する先生の目的に応じた多様な史料使用ができるよう配慮したものである。

(5) 文書についての知識の普及啓発に関すること

授業支援事業の風景

授業支援事業の風景

ア 学校支援事業 
   実物史料には高い教材的効果が備わっていることが多い。当館では、職員の内4名が指導主事(教員)である強みを生かして、史料の教材的側面を活用して普及啓発を図るべく、平成16年度から学校支援事業を開始した。この事業は、実物史料を学校教育の現場に持参し、学習活動に活用しようとするものである。主体となるのは授業支援事業で、担当の教員とティームティーチング形式の授業を構成して、実物史料の提示や解説などの役割を当館職員が分担する。一度限りの出前授業的なものでなく、1年間の授業を見通した1時間の授業の中に、明確な目的を持って組み入れていただいている。当館職員が持参する形態であるため限られた時間での実施となるが、授業支援を実施した翌日以降に追究がなされることもしばしばある。例えば、授業支援時に子ども達から出た疑問を早速次回の授業で取り上げ、学習を深めた例。また、授業支援を含む数時間の授業で取り組み、その成果を学習発表会で発表した例。いずれも、授業支援の時間のみで完結させることなく、大きなテーマの中に支援を有効に位置づけ、活用した事例である。

イ 古文書に親しむ会、歴史講演会

歴史講演会の風景

歴史講演会の風景

   古文書に親しむ会は、連続4回シリーズで、古文書を解読してわかることを解説する講座である。1回を外部講師、3回を当館指導主事が担当する。古文書の画像を提示して、文字の解読や文意、古文書の内容からどのような歴史がわかるのかを2時間程度で解説する。
   歴史講演会は1年に1回、もっぱら外部講師を招いて、下野関連の歴史についてやや専門的な内容を受講者に提供している。
   どちらの講座も、毎回多くの受講者を迎え、好評を得ている。

ウ 市町文書保存担当者講習会
   市町の文書保存担当者を対象として、1年に1回開催し、資料の適切な保存と利用を行うために必要な知識と技術を提供している。幅広い視点から情報を提供するために、当館職員が取り組みを紹介するのに加えて、市町の関心の高いテーマについては外部講師を招いて広い視野での情報を提供している。

3. おわりに

   この10年間の取り組みは、普及啓発、特に学校教育での文書の利活用へと大きく進展させるものだった。その中心である授業支援事業は、当館の事業の中で重要不可欠なものとなっている。この流れは一層促進したい。
   一方で、平成23年の公文書管理法施行によって、法の趣旨にあった館の運営が課題となっている。公文書の移管、公開の制度を中心に、総体的に検討を開始したところである。こうした課題に取り組みながら、収蔵文書量は毎年着実に増加している。収蔵スペースの確保は常在的な課題であり、当面の必要量を確保しつつ、根本的な解決方法を議論していくことが必要である。