米国における連邦記録法の改正について

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官 小原由美子

はじめに
 2014年11月、米国で大統領記録法(1978)及び連邦記録法(1950)が改正された。2013年3月に法案が下院に提出され、2014年1月14日に下院を賛成420票反対0票で通過[1]、上院で修正が加えられたのち9月10日に全会一致で可決、11月26日にオバマ大統領が署名して成立した。正式名称は「大統領記録・連邦記録法2014年改正」(Presidential and Federal Records Act Amendments of 2014, 法令番号113-187、以下「改正法」)という。今回の法改正は名称が示すとおり、2つの法律を改正したものだが、本稿ではこのうち連邦記録法の改正点について取り上げる。

 オバマ大統領は、その就任直後の2009年1月に「透明性及び開かれた政府に関する覚書」[2]を出し、市民に開かれた透明性の高い政府の実現を推進してきた。2011年11月28日には「政府記録の管理に関する大統領覚書」を発出、政府記録管理の向上が「開かれた政府」実現の基盤であるとして、各連邦政府機関に幅広い記録管理の改革を促した[3]。これを受けて翌2012年8月24日に行政管理予算局(OMB)と米国国立公文書記録管理院(NARA)による各省庁及び独立機関の長に宛てた覚書(以下、M12-18)が出され、電子記録や電子メールの管理に関する具体的な目標が設定された[4]。

 例えば、連邦機関は2019年までに、電子的に作成された移管対象の記録は紙に打ち出すのではなく、全て電子フォーマットのまま管理し移管しなければならない、とされている。今回の連邦記録法の改正は、オバマ大統領の「開かれた政府」に向けたリーダーシップに端を発した政府の記録管理改革の取組を、法律の面から強化したものである。

 米国の法律は、制定後合衆国法律集(United States Code、以後U.S.C.)に組み入れられ、U.S.C.の編番号及び条文番号(§)で参照される。記録管理やNARAに関する法律は、第44編「公的印刷物及び公文書に関する法律」にまとめられており、今回改正された条文を含むのは表1の各章である。以下、このU.S.C.の条文番号により改正法の主な内容を紹介したい。なお、以下の条文は筆者の仮訳であるが、限られた時間内で作成したもので、法律等の専門家による校閲を経たものでもないことをお断りしておく。より正確かつ厳密な解釈が必要な場合は、NARAのホームページ等に掲載されている法律の英文テキストにあたっていただきたい[5]。

表1 今回改正された条文を含むU.S.C.の各章

第44編 公的印刷物及び公文書に関する法律
21章 国立公文書記録管理院
22章 大統領記録
29章 合衆国アーキビストによる記録管理
31章 連邦機関による記録管理
33章 記録の処分

1.「記録」の定義の改正
 今回、1950年に連邦記録法が制定されて以後初めて、44 U.S.C.§3301の「記録」(records)の定義が改正された(表2)。§2901の規定により、21章、29章、31章においてもこの定義が適用される。以前の条文と比べ、記録の内容を定義した部分に変更は無いが、「記録された情報」(recorded information)という語を新たに用いて、「記録された情報」は「すべての伝統的な形態の記録を含み、物理的な形態や特徴を問わず、デジタル又は電子の形態で作成され、操作され、交換され、保存された情報を含む。」と明記して、定義の中に電子記録を明確に位置づけた。改正前の条文でも「書籍、書類、地図、写真、機械可読資料、その他の物理的な形態や特徴を問わない資料」とされていたので、電子記録を含むと解釈できたが、ほとんどの記録が電子媒体で作られる時代に合わせて、今回64年ぶりの改正が行われた。

 また(b)項で、記録された情報が連邦記録法における「記録」かどうかの判断は、NARAの長である合衆国アーキビストが決定する、という新たな条文が加わり、合衆国アーキビストの権限が強化された。

表2 44 U.S.C. §3301 記録の定義(仮訳)

改正前 改正後
本章において記録とは、合衆国連邦法に基づき、あるいは公的業務の遂行に関連して、連邦機関により作成、あるいは受領されたもので、当該機関あるいはその正統な継承者によって、組織、機能、政策、決定、手続き、運営その他の政府の活動の証拠として、あるいはその記録の持つ情報的価値のため、保存されあるいは保存が適当とされる、書籍、書類、地図、写真、機械可読資料、その他の物理的な形態や特徴を問わない資料をいう。もっぱら参照または展示の目的のために獲得され保存されている図書館および博物館資料、参照の便宜のためにのみ保存された余分なコピー、出版物や複写文書の在庫は含まない。 (a) 記録とは、以下のように定義される 

(1)一般に-本章において、「記録」とは、

(A)形態や特徴を問わず、合衆国連邦法に基づき、あるいは公的業務の遂行に関連して、連邦機関により作成、あるいは受領されたもので、当該機関あるいはその正統な継承者によって、組織、機能、政策、決定、手続き、運営その他の合衆国政府の活動の証拠として、あるいはその記録の持つ情報的価値のため、保存されあるいは保存が適当とされる、すべての記録された情報を含む。ただし、

(B) (i) もっぱら参照または展示の目的のために獲得され保存さ
     れている図書館および博物館資料、及び

   (ii) 参照の便宜のためにのみ保存された記録の重複した写
     しは含まない。

(2) 記録された情報の定義-(1) 項の意味において、「記録された情報」とは、すべての伝統的な形態の記録を含み、物理的な形態や特徴を問わず、デジタル又は電子の形態で作成され、操作され、交換され、保存された情報を含む。

(b) 記録された情報が物理的、デジタル、電子、いずれの形態であっても、合衆国アーキビストがその情報を(a)に定める記録であるとした決定は、全ての連邦機関に拘束力を持つ。

 

2. 移管の時期に関する改正
 44U.S.C. §2107「歴史保存のための記録の受入」は、NARAが移管を受ける記録の範囲や、移管するかどうかの最終決定権及び移管の時期について規定しており、日本で米国の移管制度を紹介する場合に必ず引用されてきた条文である。今回その第2項の、移管の時期についての規定が改正された。(表3)改正前の条文では「作成から30年以上経過」した記録を移管、とされていたのが、「実行可能な限りすみやかに」移管を行い、その時期は「作成又は受領してから30年を越えない範囲」と改正された。紙媒体の文書よりも、長期保存が難しいとされる電子記録の確実な移管のため、移管の時期を早めたものである。

 この法律に基づくNARAへの移管の適切な時期については、2015年6月17日にNARAからガイダンス(NARA Bulletin 2015-01)が出されている[6] 。米国において連邦記録の保存期間は、記録のシリーズごとに定められたレコードスケジュールで決められているが、このガイダンスでは、連邦機関は「業務上の必要性が無くなり、時間の経過により内容の機密性が低くなった時点で移管を行わなければならない」とし、通常NARAで承認するレコードスケジュールでは、個人情報や機密情報等を含まない記録の移管の時期を「15年から30年の間」と設定している、と述べている。また、電子記録その他の特殊メディア(写真、地図、海図、航空写真、動画、音声、及び付属の検索補助手段)については、その保存方法や保管場所に特別な配慮が必要であるため、可能な限りすみやかに物理的及び法的に記録を移管するようスケジュールしなければならない、としている。もし機密情報その他の理由で電子記録の早期移管ができない場合は、法的所有権は連邦機関に残したまま、そのコピーをNARAに移送する事前受入(Pre-accessioning)制度の利用を勧めている[7]。

 この事前受入は、電子記録を対象にNARAによって以前から試みられていた仕組みだが、今回改正法§2107 (b) として新たな規定が加えられた。合衆国アーキビストは30年を経過する前に記録のコピーを受け入れることができるが、30年を経過するまでそのコピーは公開しない、と定める一方、移管元機関と合意すれば30年を経過する前であっても公開することができる、と規定している。

表3 44 U.S.C. §2107 歴史保存のための記録の受入(仮訳)

改正前 改正後
合衆国アーキビストが公益にかなうと判断した場合、合衆国アーキビストは、(中略) 

(2) 連邦機関記録のうち、作成後30年以上を経過し、かつ合衆国政府による継続的保存を正当化するに足る十分な歴史的価値、その他の価値があると合衆国アーキビストが認定した記録について、合衆国アーカイブズへの移管を指示し実行する。(後略)

(a) 一般に-合衆国アーキビストが公益にかなうと判断した場合、合衆国アーキビストは、(中略) 

(2) 継続的保存を行うに足る歴史的その他の価値を認めた連邦機関の記録について、実行可能な限りすみやかに、移管を指示し実行する。その時期は、連邦機関が作成又は受領してから30年を超えない範囲で、合衆国アーキビストと連邦機関の長が相互に合意した時点とする。(中略)

(b) 記録の早期移管-合衆国アーキビストは、

(1) 記録作成元連邦機関の長と協議の上、本条(a)(2)に掲げる30年を経過していない記録のコピーの受入を許可され、

(2) それらの記録は以下を経過するまで公開してはならない。

(A)(1)に掲げる30年間、

(B)合衆国アーキビストの命令により定めた30年を越える期
   間、又は、

(C)記録作成元連邦機関と合意した上記より短い期間

 3.合衆国アーキビストによる記録管理

 これまで連邦機関の現用記録の管理については、29章「合衆国アーキビストと共通役務庁長官が行う記録管理」と、31章「連邦機関が行う記録管理」でそのルールを定めていたが、今回の改正で29章は「合衆国アーキビストが行う記録管理」となり、共通役務庁長官と分かち持っていた現用記録管理の責務が、合衆国アーキビストに集約され権限が強化された。

 また、44 U.S.C.の21、29、31、33章で定めている効率的で効果的な記録管理を保証するための標準及び手順について、それら標準及び手順が実現をめざすべき具体的な目的を定めた§2902「記録管理の目的」の(6)に、下線部の規定が加わった(下線筆者)。

(仮訳) 

(6)記録の最初の作成から最後の処分に至るまで、継続的に注意を払い、連邦において不必要なペーパーワークを防ぎ、連邦機関から米国国立公文書館への記録の移管を、可能な限りデジタル又は電子の形態で行うことに特別の重点をおいた指導。

 さらに、§2904「記録管理の一般責務」にも新たな条文が加わった。

(仮訳) 

(d)合衆国アーキビストは、全ての連邦機関に対し、全てのデジタル又は電子記録を可能な限りデジタル又は電子の形態で米国国立公文書館に移管することを必須化した規則を発布する。

 これらの条文により、デジタル又は電子記録はデジタル又は電子の形態でNARAに移管すべきことが確認され、M12-18で2019年を目標とした電子記録の電子媒体による移管は、法律に基づいて推進されることとなった。

4. 公用でない電子メッセージアカウントを使用したメールに関する規定
 M12-18では、連邦機関は2016年までに全ての電子メールをアクセス可能な電子フォーマットで管理することを目標としている。NARAは2013年8月、「電子メール記録管理の新しいアプローチに関するガイダンス」(NARA Bulletin 2013-02)を出して、各連邦機関に対し、Capstoneアプローチと名付けた電子メール管理方法を提案した[8] 。組織内の頂点(Capstone)に位置する幹部職員(Capstone officials)のアカウントの電子メールを永久保存の対象とし、機械的に収集・保存し保存期間満了後にNARAに移管する、というもので、これまでのように電子メールの内容によって連邦記録かどうかを判断し、保存すべきものはプリントアウトしてファイルするのではなく、個々の職員の判断によらず、自動的に移管すべき電子メールを捕捉することを意図したアプローチである。現在NARAは移管対象の幹部職員の定義づけや、それ以外の廃棄対象の職員の電子メールの保存期間等を定めた連邦機関共通の一般レコードスケジュール(General Records Schedule, GRS)を開発中である。2015年4月に出された案[9]では、電子メールアカウントが移管対象となる幹部職員(Capstone officials)のメールは原則15年経過後に移管し、それ以外の職員については原則7年経過後に廃棄、ただし事務補助的な職員のメールは原則3年後に廃棄する、となっており、意見募集等を行って検討が続けられている。

 このように、米国ではM12-18で定めた目標の実現に向けて、日常の公務で使われている電子メールの移管と廃棄のルールを確立しつつあるが、このたびの法改正で、電子メールについて以下の条文が加えられた。

(仮訳) 

§2911 公用でない電子メッセージアカウントを使用して実施した公務の開示要件

(a) 一般に-行政機関の職員又は雇用者は、以下の場合を除き、公用でない電子メッセージアカウントを使用して、記録を作成したり送付したりしてはならない。

(1) 当初作成、又は送信した記録を当該職員又は雇用者の公用電子メッセージアカウントにコピーする

(2) 当初作成、又は送信した記録の完全なコピーを、20日以内に当該職員又は雇用者の公用電子メッ
   セージアカウントに転送する

(b) 不利益行為-適切な監督者によって(a) の意図的な違反(規則、規定、その他の実施ガイドラインを含む)が認められた場合、第5編第75章のI、II、Vに従って、懲戒処分の対象となる。

 (後略)

  2015年3月、民主党の有力な次期大統領候補ヒラリー・クリントン氏が、国務長官時代に個人用電子メールアカウントから公務のメールを送受信していたことが発覚し、批判が高まっていることが日本でも報じられ話題となったが、この条文により、行政機関の職員は原則公務でメールを送受信する場合は公用のメールアカウントを使うことが義務づけられ、個人のメールアカウントを使って公務を行った場合は公用のアカウントにCCで送付するか、20日以内に転送しなければならない、と定められた。違反した場合は懲戒処分の対象となる。移管したくないメールは個人のアカウントから出す、という抜け道を絶つ規定である。Capstoneアプローチと合わせて、継続的価値を持つ移管すべき電子メールの選別基準を定め、それらを確実に捕捉・保存し、NARAへ移管する仕組みが確立されつつあるといえよう。

おわりに
 2009年に第10代合衆国アーキビストに就任した、デービッド・フェリエロ院長のリーダーシップの下で、NARAは「開かれた政府」の実現に向けて、(1) 電子記録管理の強化、(2) NARAが所蔵する機密情報の公開促進、(3) ソーシャルメディアを活用した市民との協働等に積極的に取り組んできた。今回の改正法は、これらのNARAの取組に法的根拠を与えるものとなっている。全会一致で成立したことからみても、政府の電子記録の管理を強化して将来の移管を保証するためのオバマ大統領及びNARAの方針は、議会においても全面的に支持されたことがわかる。今回は、連邦記録法の主な改正部分しか紹介できなかったが、大統領記録法の改正部分では、大統領記録の公開に関する規定が改正されて、機密情報の公開を促す内容となっている。フェリエロ院長は、改正法成立後に出したプレスリリースで、「21世紀にふさわしい国家記録法の刷新に対する超党派の努力を歓迎する。」と述べている。

 平成26年度、当館が移管を受けた電子公文書は33ファイルであり、電子公文書の移管はまだ少ないが、制度と実践の両面から電子文書の確実な管理及び移管を推進することが、今後の我が国における公文書管理の喫緊の課題であろう。

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[1] Final Vote Results for Roll Call 18, http://clerk.house.gov/evs/2014/roll018.xml(2015年7月15日アクセス)
[2] Transparency and Open Government: Memorandum for the Heads of Executive Departments and Agencies, https://www.whitehouse.gov/the_press_office/TransparencyandOpenGovernment(2015年7月15日アクセス)
[3] Presidential Memorandum – – Managing Government Records: Memorandum for the Heads of the Executive Departments and Agencies, https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/28/presidential-memorandum-managing-government-records(2015年7月15日アクセス)
[4] M-12-18 Memorandum for the Heads ofExecutive Departments and Agencies and Independent Agencies,  https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/memoranda/2012/m-12-18.pdf(2015年7月15日アクセス)
[5] NARA の法令・規則掲載ページ:http://www.archives.gov/about/laws/(2015年7月15日アクセス)合衆国議会ホームページに掲載されたもの:  https://www.congress.gov/113/plaws/publ187/PLAW-113publ187.pdf(2015年7月15日アクセス)
[6] NARA Bulletin 2015-01, http://www.archives.gov/records-mgmt/bulletins/2015/2015-01.html(2015年7月15日アクセス)
[7] NARA Bulletin 2009-03,  http://www.archives.gov/records-mgmt/bulletins/2009/2009-03.html(2015年7月15日アクセス)
[8] NARA Bulletin 2013-02, http://www.archives.gov/records-mgmt/bulletins/2013/2013-02.html(2015年7月15日アクセス)
[9] GRS 6.1 Email Managed Under a Capstone Approach,  https://recordsexpress.files.wordpress.com/2015/04/final-grs-6-1-review-package-fr-posting-03-30-151.pdf(2015年7月15日アクセス)