公文書館等における普及啓発の取組について―平成26年度アーカイブズ研修Ⅱグループ討論2班報告―

衆議院憲政記念館 藤野  由紀

1.はじめに

 本稿は独立行政法人国立公文書館において平成27年1月20日(火)より22日(木)の3日間で開催されたアーカイブズ研修Ⅱにおけるグループ討論・2班の討論内容の概要である。2班の参加者及び所属先は以下のとおりである。

安藤友明(札幌市公文書館)、池田静香(福岡共同公文書館)、加納直恵(新潟県立文書館)、塩原理恵(松本市文書館)、藤野由紀(衆議院憲政記念館)

 グループ討論は21日(水)ワークショップとして、翌22日(木)は議論・討論により実施された。22日の討論において2班では主に「講座、見学、講演等について」どのような取り組みが可能か、その方策と課題について検討を行った。

2.ふみくら市における文書館開館10周年記念事業の計画についてワークショップでの検討

2.1
設定からのイメージ
 本テーマでの検討は21日(水)に行われた。記念事業について検討を始めるにあたり、まず設定されたふみくら市及びふみくら市文書館の背景を設定することとした。市の人口、教育施設・介護施設の数から年齢層の構成を考察し、市民参加が可能な記念事業計画の立案に利用した。また市の各文化施設について、それぞれの館の規模・機能を分析し、併せて地図上から各館の立地する場所、交通手段などを考察して開催行事の検討材料とした。そして記念事業に充てられる予算規模により記念事業候補を絞りこむこととした。これは新たな事業計画をたてる場合、さまざまな要件を勘案して何故、何を、どこで、誰と(に)、いつ実施するかを考えることが、基本的なアプローチとして不可欠のものであるからである。

2.2 記念事業の検討
 設定からのイメージを得て、「何故=目的」から意見を出し合った。これはまず、10周年記念事業であるという大前提からして、第一にこれまでの運営に対する感謝と成果の報告、そして今後に向けた新たな利用者開拓と、館の幅広い周知ということで一致した。次に「何を=事業内容」である。これはふみくら市の文書館という位置付けからふみくら市の歴史に関する展示、記念講演、講座、見学会、スタンプラリーの実施、キャラクター募集という意見が挙がった。次なるは、これらをどのように実施するか「どこで=開催場所」の検討となるが、ここでは最初に行った設定からのイメージを考慮して展示施設の規模、機能などから行事によって開催館を文書館に限らず、記念事業の種別・集客見込によって市内文化施設を併せて利用することとした。まず記念講演については、多目的ホールを擁する市民文化会館での開催とした。講座については文書館及び歴史資料館、また市民文化会館(図書館を含む)での開催とした。周知が未だ万全とはいえない文書館に比して、人の往来があり、認知度の高い図書館や歴史資料館等の文化施設において文書館主催の記念講演を開催することは、認知度を上げることはもちろん、他館との連携を深める機会としても有効であり、予算の制約上からも市の施設を活用することが賢明と判断した。これらを「誰に=参加対象」向けて発信するかについては、市の施設である文書館であることから、広く市民全般とした。先に検討した行事を年齢層を区切って対応することで、文書館へのより広く深い認識につながると考えた。例えば昨今のキャラクターブームを考慮して、記念事業の一つに文書館キャラクターの募集と製作が挙げられたが、募集資格については、ふみくら市文書館の記念事業であることから、ふみくら市の市民を対象とするものの、小中高生を主とすることとした。最後に、「いつ=時期」についての検討である。10周年記念行事でもあり、通年での開催が可能ではあるが、現実問題として予算規模や人員配置等の条件も関わること、また特に館の所在地によっては、気候条件に大きく左右されることから、期間を特に限定することとし、概して好適と考えられる秋の開催が適切であるとの結論に達した。これら事業計画の策定は前年度、またそれ以前からの事業検討が望ましいと考える。

2.3 広報と事業評価について
 次にこれらをどのようにして周知するかについて検討を進めた。予算や事業規模から、広報物(ポスターやチラシ)の作成と配布、市報への掲載、記者クラブへの投げ込み、インターネットを活用した広報(ホームページやSNSの利用)を想定した。事業評価に対しては、各事業ごとにアンケートをとり、その結果を集約し分析すること、記念事業実施期間中の来館者や参加者の集計、記念誌の発行、事業報告書の作成という意見が出された。

2.4 事業計画の検討と実際
 2班では討論課題として与えられた本テーマに対し、以上の検討を行った。これらを踏まえ、事業計画の検討にあたっては、その規模によっては、館のみならず関わる都道府県や市町村の情勢や、近隣諸施設等の基本的要件を分析して組み立てることがまず必要となること、事業計画内容については、より拡充させるべきところではあるが、実施にあたっては予算上・人事上の制約を常に受けることから、この相対する理想と現実の開きをいかに埋めるかという大きな課題と向き合う必要があると考える。

3.「普及啓発への取り組みとしての、講座、見学、講演」その検討と結果

グループ討論の様子

3.1 検討に先だって
 翌22日(木)のグループ討論では、2班においては普及啓発への取り組みとしての、講座、見学、講演を特に取り上げ、討論のテーマとした。班としての検討に入る前に、メンバーそれぞれの所属館において直面する課題と取り組みについて意見交換を行った。メンバーの所属先についてまず整理しておくと、5人の内4名が、文書館職員として日常業務に従事しており、各館において既に講座、講演会等の取り組みがなされている。内1名の所属館は文書館ではなく資料展示とその企画に重きをおいており、講座等は未実施である。これら所属の別のほか、所在地や開館後の日数の深浅など置かれた環境は異なるが、いずれにおいても、まず共通する課題として、「認知度をいかに高めるか」、「利用を如何に増やすか」という点が挙げられた。特に文書館に所属するメンバーからは利用する年齢層の偏りが顕著であり、若年層の利用が総じて低いことも共通する課題として挙げられた。これらを解消するための手段、利用者の拡大を企図して、各文書館において展示会の開催や、講座、講演の機会を行事として既に設けているところである。これらの実施を通じて「人を集める」という点については効果が認められ、更に講座や講演の回数は増加傾向にある館、また利用者増は認められるものの僅かに留まる館というように所属先によってその効果は均一ではないのが現状であった。現下において公的施設として公開されている以上、利用率の向上は必ず求められ、このための行事の活用は有効であるという認識では一致した。
 検討に先だって、実際の日常業務から直に対する課題について意見を交換したが、普及・啓発のための行事の有効を認めた上で、次のような意見が出されたことを追記しておきたい。それは、「なぜ、その回数が必要なのか」、「文書館本来の役割とは何なのか」というものである。講座や講演会の実施、また見学会を行うことが、「文書館本来の意義への理解につながるのか」、「次なる利用に結びつくのか」という意見がこれに続いた。本来、文書館にとっての重要な機能である資料の整理、保存、そして閲覧(提供)という本来目的を果たすことがまず第一義であり、認知度を高めることや利用促進のために「まず行事ありき」に傾いて、もともと考えなければならない基礎や基本となることを十分に考えないまま発進している現状への懸念についても意見が出された。続く本題のグループ討論では以上の点を考慮して逐次検討を行った。

3.2 問題点の抽出と検討
 本テーマについてグループ討論を始めるにあたり、まず「どのようにして普及啓発をするか」について検討を始めた。その取り組みとして、講座、見学、そして講演会の実施が挙げられた。これらの有効的な周知方法、そしてあり方について意見を出し合い、これを主催する主催側のゴールをどこに定めるかを検討した。いずれの取り組みにあっても共通して検討の前提としたのが「対象の明確化」という点である。以下、見学会、講座及び講演会についての検討結果を述べる(検討の過程で講座及び講演会を並行して検討したためこの順序とする)。

3.3 見学会の実施
 見学会の実施については、幅広い世代への働きかけをする上で、ターゲットとする対象ごとにアプローチ法を考えることとした。まず、参加対象を小中学生、高校生、大学生、一般を対象とするものにそれぞれ分け、小中学生対象の見学会においては「施設の存在を認識してもらうこと」を第一義とした。存在意義ではなく、存在の周知である。人数を絞っての時間をかけた体験プログラムや、職場体験のような内容を組み込むことも有用と考えた。文書館は各地域の図書館と併設されていることも多いため、図書館の見学会と併せて実施することによって、図書館と文書館の差異の認識につながることも期待できる。また保護者同伴という条件を附すことで、大人と子供の両方に対して施設の認知を進めることが出来るのではないかと考えた。次に、高校生を対象とした見学会では、前述した小中学生対象の見学会の目途とした「施設の存在の認識」に加え、進路決定やキャリア教育の一助となるようなプログラムの構成も考えられる。続いて、大学生を対象とする見学会では、ゼミでの利用を念頭として、それぞれの研究特性に合わせた所蔵資料の説明を行うなどして、実際の施設利用について具体的説明を加えることを想定した。最後に、一般を対象とした見学会では、利用をはじめとした施設全般に対する説明に加え、資料保存の重要性についての啓発にも踏み込むことを目途とする。見学会の実施にあたっては、展示環境を活用して資料展示を行い、展観に供することも併せるとした。この際、展示する資料の基本は「所蔵する資料」であることとする。

全体討論での発表の様子

3.4 講座及び講演会の実施
 次に講座及び講演会の実施について検討に入り、ここでも対象をどのようにするかについてまず意見交換を行った。市民に開かれた館として幅広い世代からの利用を目指すため、講座及び講演会の実施には、年齢層を問わないのが理想ではあるが、実際は一般の利用を対象とするのが現実的であろうという意見で一致した。テーマの選定にあたっては、館に関わるテーマであることを前提とし、本研修中の講義でも触れられたところであるが、集客が必ず見込めるテーマ、基本的には「人がわざわざ足を運ぶテーマ」の選定を中心に検討することが望ましいとした。当然のことながらそれに限らず、地域史や教養講座といった類のテーマも検討の範疇に入るであろう。ポスターやチラシの作成は難解なものは避け、誰にも分かりやすいものとすることとした。講演内容によってそれを専門とする大学の教員などに講師を依頼し、可能であれば所蔵資料の紹介を講演の中に組み込んでもらうことも効果が期待出来ると考える。
 講演会の補助的役割として、講座を位置づけることとした。講演会よりももう一歩踏み込み、これは通年にわたって複数回開催することとし、職員が講師を担当することでフレキシブルな対応も可能となる。講座内容については、所在する自治体、市民が実際に生活を送る土地の歴史に関心を持ってもらう一助とするため、市史講座なども考えられる。これらの場合、所蔵資料の活用を念頭におくことが見込める。
 講座及び講演会のいずれにあっても、その目的は大勢の人に来館してもらいたい、リピーターとなってもらいたいというもので、これらへの参加を通じて所蔵資料の活用につながることが最も期待するところであるが現状は厳しい。とはいえ、参加者同士の輪や口コミへの期待などは決して軽視出来ないことも事実である。普及啓発の取り組みは不可欠なものであり、努力が常に求められるところであろう。しかし、新規の利用者獲得を目指すことのみを注視して、従来からの来館者の満足度が失われる結果となっては本末転倒であること、これに対して充分な配慮が必要となることを忘れてはならない。

3.5 検討結果と課題
 以上、普及啓発への取り組みとして、見学会、講座及び講演会の実施について検討を行った。いずれも、市民への認知度の向上、利用者増等、まず「ふり向いて」もらうきっかけとしての取り組みとして有効であることに異論はなく、利用者の掘り起こしのためにも、館からの利用者に向けた積極的な働きかけは益々重要となってくるであろうという結論に達した。その上で、実施に際しては、計画段階における検討と分析が重要であり、まず実施ありきでやみくもに回数を重ねること、実施回数を増やすことは避けるべきであり、館の運営と利用という大きな枠の中において、これらの実施はあくまで一つの構成要素であって全てではなく、資料の整理・保存という文書館の本来業務の軽視につながることがあってはならない。普及・啓発への取り組みとしての行事の実施によって、ただ館の存在のPR、利用促進のみに捉われることなく、より深い理解の獲得に到達するためのきっかけとなることが最も理想的であり、自己満足に終わらないことにも細心の注意を払わなければならない。

4.おわりに

 限られた人員と予算のもとで、いかにして館の認知度、そして利用を高めるかという課題と日々向き合っている現場にあるメンバーとの活発な意見交換・討論は、唯一、館の設置目的や運営形態の異なる立場からの参加となった私から見て、大きく頷くことしきりの大変実りのあるものとなった。とかく狭きに陥りがちな業務の捉え方を広い視野にたって見つめ直し、また考えを改める機会となった。また本稿執筆にあたっても、多忙の中、修文・確認作業に大変協力的であったこと、そして研修という機会を通して、このように新たな人と人とのつながりを築けたことに謝意を添えたい。