展示やホームページにおける資料紹介等 ―平成26年度アーカイブズ研修Ⅱグループ討論1班報告―

茨城県立歴史館   小倉  朗
広島県立文書館 西向 宏介

1. はじめに

 今回のアーカイブズ研修がテーマとする普及啓発を考えるとき、関係者の多くが真っ先に思い浮かべる取組は展示とホームページではないだろうか。今回のグループ討論の中で最も希望者の多かったテーマでもある。
 以下、展示・ホームページに焦点を当てた1班の討論内容について、公文書館の普及啓発のあり方自体に関する討論も含めて概要を紹介する。

2. 公文書館の普及啓発

 公文書館の普及啓発を考える時、館の存在意義をアピールする対象としては、大きく一般利用者と組織(行政)内部の二つに分けて考える必要があろう。討論では、まずこの二つの対象ごとに、どのような取組が考えられるかについて意見が出された。
 一般利用者向けのアピールとして討論の中で指摘されたものに、目録整備や検索システムの充実があった。資料が使えるように目録等を整備することは当然重要であるが、普及啓発の討論でこうした意見が出たことは重要であろう。通常、普及啓発と言えば、展示・講座・講演会・ホームページといった事柄がとかく意識されがちであるが、公文書館の基本機能の一つである整理・目録作成、あるいはレファレンスが普及啓発の一環としても位置づけられることは、あまり指摘されてこなかったと感じるからである。
 討論では、目録データ整備が進むことによって、「使える」というイメージを公文書館に与えることが、利用促進につながるといった意見が出された。レファレンス業務についても、システマティックに行えるよう対応の充実を図ること、そのためにレファレンス情報をエクセルデータなどで内部共有を図り、あるいはレファレンス集を作成して一般利用者に向けても提示していくことが必要であるといった意見も出された。また、使用される頻度の高い画像資料などは、Web上でダウンロードできるようにすれば、出版物掲載等への二次利用の際に便利であること、さらには、閲覧対応の際に資料が素早く提示できるよう、目録記載の充実を図るべきことなどが指摘された。
 一方、組織(行政)向けのアピールについては、まず、館の評価指標となる統計の作成について意見が出された。来館者数や出納数だけでなく、資料整理の件数や工数など(つまり仕事量)も数値把握する必要があること、また二次利用の申請数や行政利用の件数なども、公文書館がどれだけ役立っているかを行政に向けてアピールできる重要な指標であるといった意見である。
 勿論、文書事務の流れと共に公文書館の役割について研修の機会を設けることも必要であろう。また庁内向けに公文書館だよりを作成・配布している例もあり、参考になる。
 また、行政向けに古文書を活用することも指摘された。とくに近年は、古文書の記述をもとに過去の震災や水害等について学ぼうとすることが多い。従って、古文書の展示などを通して現在の災害対策を考えることにより、公文書館が所蔵する古文書も行政に役立つことを示す必要があるといった意見が出された。

3. ホームページでの活用方法と問題点

グループ討論の様子

 次に、ホームページ(以下「HP」という)の活用の在り方について討論した。班メンバーの事前調査をみると、グループ討論での希望する論点として、「HPでの資料紹介のポイント」、「効果的なHPの作成・運用方法」、「魅力あるデジタルアーカイブ」などが挙げられている。研修参加者の全機関においてHPを開設している(親機関のHP内への設置も含め)状況からも、公文書館においても積極的なHPの活用が必須であることがわかる。
 メンバーから各機関でのHPの活用事例を挙げる中で、課題点・対応策などを論論し、講師等から助言をいただいた。大きく以下のような内容となった。

3.1 HPでの資料紹介
 所蔵資料をHP上でいかに紹介するかが論点となった。以下のような事例が挙げられた。
①国立公文書館
「今月のアーカイブ」というコーナーをトップページに設け、月ごとに資料を紹介する、という取組が紹介された。資料画像・簡単な説明・請求番号を表示し、閲覧につながるように工夫されている(「今月のアーカイブ」の更新は、平成26年度末で終了)。また、デジタルアーカイブにより、資料内容を閲覧することができる。さらに、「今月のアーカイブ」のバックナンバーを設け、過去に紹介した資料を見ることもできる。
②金沢大学資料館
デジタルアーカイブを充実させている。HPの目録上から豊富なデジタルアーカイブの画像を閲覧することができる。ネットバーチャルミュージアムを体感できる取組である。
③広島県立文書館
展示図録をPDFで掲示し、全ぺージをHP上で閲覧できるようにしている(紙資料目録も無償)。展示期間中に図録をアップしているとのことである(展示期間後に図録をHP上に出すという他機関の報告もあった)。
④戸田市郷土資料館
親機関である市HP内に資料館の情報が掲載されている。同館では、市HP内の地図上に、昔の風景の写真資料をデジタルアーカイブでUPする構想を立てているとのことである。
 これらの取組を受け、HP上に資料や図録のコンテンツを出すことについて論議が交わされた。コンテンツを出すことは、自宅等での資料閲覧が可能となり、来館者数が減ってしまうのではないかという意見と、遠隔地など来館に制約がある利用者に対しては、利用の促進策になるのではとの意見も出された。コンテンツをHP上に出すことが利用の促進となるか妨げとなるかについては、それぞれの地域的条件が大きく関わるという意見にグループではまとまった。

プレゼンテーションの様子

3.2 HPの管理・運用
 HPの管理や運用についても以下のような意見交換を行った。
①予算・人員・他業務との兼ね合い
HP内容を充実させることは、どの機関にも共通する課題であるが、人手と予算が必要である。例えば、HP上で紹介した資料についての反響が大きく、問い合わせが殺到することがあるが、その対応の人員が必要となる。また、他の重要な業務が山積し、それらとのバランスとりに苦心している機関も多かった。さらに、HP内容の更新を職員自身で行っている機関では、人員・技術等の条件により、時間がない、更新自体が難しい、等の課題を抱えている。
②Blogの活用
Blogで1日1記事、館の情報を発信している取組も紹介された。写真1枚と3~4行の説明で伝えているとのことである。公文書館に対して、より親しみをもたせるため、バックヤードの紹介も行っている。日々の更新作業が必要となるが、頻繁に更新しているコンテンツへのアクセス数は多く、全体的なアクセス数も増えているとのことである。Webに親しんでいる青年層に対する利用促進策が課題とのことであった。

3.3 講師助言等から
①HPについての業績評価の必要性
HP上で、資料データベースの検索、また、デジタルアーカイブによる資料閲覧も可能となっている。今後は、自宅等からでも公文書館を利用できる「非来館型」の利用者が増えるだろうとのことである。従って、公文書館の業務評価として、閲覧者数や来館者数だけでなく、HPの活用状況も加えるべきであるとの助言をいただいた。
②紙媒体の必要性
HPの資料検索システムは、一点抽出の資料検索には便利である。しかし、館所蔵資料全体を総覧する際は、HP上では不可能であり、紙媒体でのみ可能である。紙媒体が前提でのHP活用であるべきとの視点を示していただいた。

4. 展示等における公文書の見せ方・アピール方法

全体討論での発表の様子

 展示等において、行政文書をいかにアピールするか、どのような見せ方の工夫をしているか、が論点となった。

4.1 キャプションについて
 キャプションの大きさについては、「来館者に行政文書を知ってもらうため」、「高齢者が読めるように」、「資料自体が小さいので」などの理由で大きくしているという報告がある一方、キャプションは端的にまとめ、小さい方がわかりやすいのではないかとの意見も出された。キャプションは、200文字を越えると読みにくくなる、という目安を示した機関もあった。
 縦書きか、横書きかについては、機関によって、または、資料によってさまざまであった。

4.2 解説シートについて
 展示を補助するための解説シートが必要である、との意見も出された。
 キャプションは小さく端的にまとめ、解説シートで説明を補うようにする。それにより、整理された展示になるとのことであった。
 また、「モノ資料」と「関係する公文書」をセットにして展示し、補足説明するために解説シートを用意するという展示方法も提示された。

4.3 見せる展示か読ませる展示か
 展示を見に来る人は簿冊を見に来るのか、それとも、内容を読みに来るのか、ということについて話し合った。
 閲覧室での原本閲覧に誘導するためには、「見せる展示」をし、文書内容ではなく、文書の価値等を伝えるようにする必要がある。
 また、ある機関では、「読ませる展示」として、デジタル化したものをタブレット端末で全ページ読ませるサービスを行っている。
 さらに、見学者同士でどんな話をしているのかをインタビューしたり、行動を観察したりすることで、よりよい見せ方のヒントになるのでは、という意見も出された。

4.4 資料があり館がある
 講師から、公文書館として市民等に伝えるものは「資料」か、それとも、「館」か、という話があった。「アーカイブズは、利用する人がいて存在意義がある」という認識が大切とのことである。まずは、所蔵資料を市民に伝えていく必要があることを学ぶことができた。

5. おわりに

 展示・ホームページだけを取り上げてみても、館によって様々な取組がなされていることがわかる。一概にアーカイブズ機関といっても、公文書館・文書館・歴史館・資料館などと様々な名称があり、単に名称の違いだけでなく、館の機能や考え方にも微妙な違いがある。しかし、個々の斬新な取組は、館の違いを越えて参考になるものであり、今後の活動に活かしていければと思う。
 なお、1班のメンバーは次のとおりである。

水野京子(国立公文書館)、大貫摩里(日本銀行金融研究所アーカイブ)、小倉朗(茨城県立歴史館)、松元梢(千葉県文書館)、石川敏江(京都府立総合資料館)、西向宏介(広島県立文書館)、芳澤直起(香川県立文書館)、荻野寛美(福岡共同公文書館)、中山真治(ふるさと府中歴史館)、松原尚子(北谷町公文書館)、細井薫子(戸田市立郷土博物館)、笠原健司(国立大学法人金沢大学(資料館))。

*1・2・5は西向宏介、3・4は小倉朗が執筆した。