平成26年度アーカイブズ研修Ⅱについて

国立公文書館

1.はじめに

 国立公文書館(以下「当館」という。)では、平成27年1月20日(火)から1月22日(木)までの3日間、「平成26年度アーカイブズ研修Ⅱ」を開催しました。本研修は、国又は地方公共団体の設置する公文書館等の職員及び地方公共団体の文書主管課等の職員を対象に、実務上で見出された問題点等について、共同研究を通じて解決方策を習得し、受講者のそれぞれの業務の改善に資するよう、開催しているものです。研修は3日間の日程で行われ、前半には講義と事例報告、後半にはそれらを受けてグループで討論を行う構成となっています。
 平成26年度は、「公文書館等における普及啓発及び歴史公文書等の利用促進等について」をテーマとして開催し、国の機関をはじめ、府県、政令指定都市、市区町、独立行政法人等の23機関から28名の参加がありました。

講義風景

2.講義と事例報告

 日程の前半では、2つの講義と4機関からの事例報告が行われました。
 まず、講義では、筑波大学図書館情報メディア系の白井哲哉教授に、「公文書館における展示等について」と題し、公文書館における展示・普及事業の歴史的発展、先進的な地方公文書館での展示会の取組や、今後の普及活動における課題等について、幅広くお話しいただきました。また、北海道大学大学院文学研究科の佐々木亨教授による「文化施設における普及啓発等について~博物館経営論の観点から~」と題した講義では、これからの文化施設は、利用者だけでなく、施設未利用者を含む幅広いコミュニティ・地域社会といかに向き合っていくかが課題であることが、博物館等における具体的な取組事例の紹介を交えつつ、提示されました。
 事例報告では、山口県文書館の吉田真夫氏より国内における広域連携の例として「中国四国地区アーカイブズウィーク」を、栃木県立文書館の西村陽子氏に「学校教材史料集」刊行や学校現場との連携の取組を、また尼崎市立地域研究史料館の辻川敦館長にはレファレンスをきっかけに大きく発展した市民との協働の取組をご紹介いただきました。さらに、当館が行っている見学ツアーや他機関と連携した展示の取組を紹介しました。

3.ワークショップとグループ討論

ワークショップで使われた「架空の設定」(クリックすると拡大)

 グループ討論は、受講者に対し事前に行ったアンケートにより、それぞれの課題・関心に基づいて、1班「展示やホームページにおける資料紹介等について」(12名)、2班「講座、見学、講演等について」(5名)、3班「他機関等(教育機関、文化施設等)との協力や地域との連携、住民参加等について」(11名)の3つのグループにわけて行われました。
 今年度の研修では、新たな試みとして、ワークショップの手法を取り入れました。これは、各館の状況により普及啓発活動に多様性があること、受講者の業務経験に差があることなどを想定し、普及啓発活動を進める中での各局面の問題の発見と共有の場をつくり、一定の環境・条件の枠内でゴールを目指して、共同して企画を練ってもらう形をとることとしたものです。
 実際のワークショップで出された課題は以下の通りです。

【課題】
・みなさんは、ふみくら市公文書館の職員です。
・平成27年度は、開館10周年。そこで、館長から、記念事業の企画案を複数出すように指示がありました。さて、どんな記念事業を企画しますか?

 ワークショップでは、最初の2時間で、各班内でさらに少人数グループに分かれていただき、ふみくら市公文書館職員という「架空の設定」(複数の自治体の状況を参考に、運営側で作成。詳細は右上図参照)に基づいて、自由な発想で事業企画案を作成してもらい、次の1時間で、各グループによるプレゼンテーションを行い、他グループから質問や提案を受けるという形で進められました。
 発表では、事業の開催時期やターゲット層、スタッフの配置、事業を実施する際の協力関係や達成目標、事業の評価方法といった基本設定の説明から、具体的な展示会や講演会、スタンプラリーやゆるキャラの創出、記念誌の発行など、様々なイベントの企画の内容について解説される等、活発な報告がなされました。
 最終日のグループ討論では、2日目のワークショップの成果を踏まえ、受講者が所属する機関での事例の紹介を交えながら、公文書館の普及啓発・利用促進のあるべき姿について、各班で積極的な議論が交わされました。その後行われた全体討論では、各班の討論の成果が発表され、質疑応答や意見交換が行われたほか、1日目でご講義いただいた白井哲哉教授に、各班の発表へのコメント及び全体講評を頂きました。
 なお、今号(第56号)では、各班で行われた討論の内容・成果を掲載しています。

4.まとめ

全体討論・全体講評の様子

 研修終了後に実施したアンケートでは、受講者からは、「講義・事例報告はもとより、他館の方たちとの情報交換もとても有益でした」「今回のような普及啓発事業に関する研修は、具体性もあり、今行っている仕事に直結する有意義な研修であった」「ワークショップやグループ討論で他の研修生と意見交換しながら交流を持てたことが、自分自身の財産となりました」といった意見が寄せられました。
 今回、初めて取り入れたワークショップでしたが、これによりグループ討論における議論の時間が短くなったために、討論により長い時間をかけることを希望する声もありました。一方、「1つの架空設定のもと、個々の経験の差に関わらず、自由な意見を出しながら皆で課題に取り組むことができ、楽しみながら進められた」との意見のように、運営側が意図した活用のされ方のみならず、「(ワークショップでは)2日間の講義で知り得た内容も取り入れつつ、より実践的な話し合いができた」等、研修前半の講義・事例報告の「復習」の機会として、学んだ事例を積極的に企画に取り入れる様子が各グループに見られたり、「ワークショップの後にグループ討論という流れがとても良かった」等のように、続いて行われたグループ討論の足掛かりとされる等、様々な形でおおむね良好に受け止めていただけたと思われます。
 今後も、受講者や所属機関から寄せられた御意見等を踏まえ、受講者が実務上の課題を検討し各機関の業務改善に資する研修となるように図ってまいりたいと思います。