(巻頭エッセイ) アーキビストって何をする人?

国立公文書館長
加藤 丈夫

アーカイブズ研修Ⅲで講義を行う加藤館長(平成29年9月)

 3年ほど前、初めてアメリカの国立公文書記録管理院(NARA)のフェリエロ院長にお目にかかった折、頂戴した名刺に“Archivist of the United States”とありましたが、フェリエロさんはアメリカにおけるアーキビストという専門家集団の「総帥」というわけです。
 これを見て「なるほど、アメリカではアーキビストの専門家としての立場が明確になっているのだな」と羨ましく思ったのですが、わが国ではアーキビストという言葉そのものが一般には馴染みがうすく、アメリカのように「その道の専門家」として認められるまでになっていないのが現状でしょう。
 昨今わが国ではさまざまな場で公文書の在り方が問題になり、それに関連して公文書管理に携わるアーキビストの存在が注目されるようになりましたが、図書館における司書や博物館・美術館における学芸員のように、その仕事の専門性が一般に認められていないために、アーキビストを志望する人も少なく、現にその仕事に就いている人たちの処遇も必ずしも安定しているとは言えません。
 私のところにも「アーキビストってどんな仕事をするの?」とか「アーキビストになるにはどんなことを学ぶ必要があるの?」という問い合わせがあるのですが、わが国で公文書の管理を充実させるには、先ずアーキビストの専門家としての立場を明確にして、その育成に積極的に取り組む必要があります。
 そのようなことで、国立公文書館では平成26年度からその課題解決に向けた取り組みを続けてきたのですが、このほどそれを「アーキビストの職務基準書」という形で取りまとめました。 
 ここには、アーキビストはどのような仕事をするか(職務)、それをこなすにはどのような能力が必要か(遂行要件)という仕事の専門性が個別に分かり易く記述されており、アーキビストの教育や採用、配置の資料として使えるようになっています。
 この基準書は、これから全国の大学や公文書館などの関係機関に展開し、実際にアーキビストの採用・配置・育成に役立つかどうかを検証していただくことにしていますが、これが「役に立つ」ことを確かめた上で、将来はアーキビストの公的資格制度の制定にも結び付けたいと考えています。
 そして私はこの機会に、この基準書をこれからアーキビストに挑戦しようという人たちはもちろんのこと、現に公文書管理の仕事に携わっている人たちにもぜひ読んでいただきたいと思っています。現在公文書管理に従事している人はこれを読むことによって改めてアーキビストの仕事の幅と深さを認識できるし、それによって専門家としてのレベルアップの目標をつかむことができるに違いありません。
 これはわが国としては初めての試みですが、職務基準書が策定の目的を果たすことができるよう皆さんの積極的な参画を期待しています。