しょうけい館(戦傷病者史料館)について

しょうけい館
学芸課   木龍 克己

1   沿革

   平成13~14年、厚生労働省の「戦傷病者等労苦継承調査検討事業」の委託を受けて(財)日本傷痍軍人会(以下「日傷」)が「戦傷病者等労苦継承調査検討委員会」を設置し、平成15年8月に各都道府県傷痍軍人会(以下「県傷」)を通して寄贈資料を受け入れてきました。その結果、約3,000点以上の寄贈(平成18年3月現在)があり、展示施設の開館に向けて起動していきました。併せて平成16年1月より戦傷病者の労苦継承事業の一環として、東京都在住者4名、国立療養所箱根病院入院患者3名から、証言映像「戦傷病者の労苦を語り継ぐ」の制作も開始していきます。
   平成17年4月、労苦継承事業の国立の施設として「戦傷病者史料館(仮称)事務局」が設置されました。日傷が収集した資料および収録した証言映像関連の資料を引き継ぎ、戦傷病者の基本情報である「戦傷病者の記録」をベースに、資料収集と証言映像の収録を進めながら、平成18年3月21日、厚生労働省の管轄で日傷が管理運営する施設「しょうけい館(戦傷病者史料館)」として開館しました。戦傷病者ご本人の資料展示であるため、戦場等での負傷・発症にはじまり復員、社会復帰など、戦中・戦後の労苦を展示で回想できるようになっています。戦傷病者の平均年齢が93歳を迎えた平成25年11月30日、戦後の長きにわたり戦傷病者の中心的存在であった日傷が解散することとなり、県傷もこれに併せて解散(長崎県傷を除く)していきました。
   日傷を経由して県傷からの資料寄贈・証言映像収録の依頼という方法で運営していた館は、一大転換期を迎えました。これを契機として、新たに12月1日より運営団体が民間へと委託され、戦後70年を迎えての節目となる展示やミニ展示・地方展を開催するなど、いままで以上に積極的な運営を行なっています。

2   所蔵資料の概要

(1)戦傷病者の記録
   当館では、戦傷病者に関する資料を収集・保存・活用を行なうため、その核となる部分の「戦傷病者の記録」を収集しています。これには、出生年(本籍)、入隊年(部隊名)、受傷病年、受傷地、傷病名、受傷部位、帰還(復員)年、障害の程度など、戦傷病者に関する全ての情報を集約しています。公開する場合は、戦傷病者の了解を得たもののみ、情報検索コーナー(個人情報を除く)で閲覧できます。併せて戦傷病者の実物資料・証言映像・体験記の有無及び内容も確認できるようになっています。この「戦傷病者の記録」は、戦傷病者の経緯を知るうえで重要な基本台帳となっています。これを基にし実物資料、図書資料、証言映像を加えることによって、総合的に戦中・戦後の労苦を把握することが可能となるシステムとなっています。

(2)実物資料
1)日傷・県傷資料
   昭和27年、日傷の設立に併せて順次、県傷が設立されました。日傷資料は、恩給請求など厚生労働省からの連絡事項を各県傷への伝達、日傷の全国大会(都道府県別)の実施、県傷からの報告関連資料などがあります。県傷資料は、日傷経由での恩給請求手続きおよび書類作成の経緯、国会陳情活動、日傷全国大会、各都道府県単位での活動記録など、多岐にわたっています。従来は、日傷および県傷からその都度、寄贈されていましたが、平成25年その資料数が大幅に増加しました。理由は、同年に日傷が最後の全国大会・解散式を行ない、県傷も順次解散していったことによります。
   当館では、全国の県傷へも呼びかけ、設立経緯を含む資料や広報紙、恩給関連資料を含めた資料の寄贈を依頼するなど、積極的に収集してきました。各傷痍軍人会の管理運営に関する資料は、解散直前まで使用していた関係から、同年11月30日をもって解散した以降に集中して寄贈されました。大半の県傷は、解散の事務処理に追われるなか、廃棄されたものも生じましたが、それでもなんとか38都道府県傷の資料を収集することができました。一括寄贈のため現在も順次、資料整理を行なっています。
2)戦傷病者資料
   戦傷病者個人から寄贈された資料は、開館前に日傷が受領していた資料と併せて、当館では継続して収集しています。資料は、持参もしくは郵送にて寄贈されたもので、戦傷病者本人からの場合は軍隊手牒、診断書等で戦時中の資料が主となっています。ご本人が他界された以降に親族から寄贈された場合は、ご本人を証明する資料として傷痍軍人証、戦傷病者手帳をはじめ戦時中の写真やアルバムなど、思い出の遺品が出てくる場合があります。特徴としては、戦傷病者の実状を端的に示す内容の資料が多く寄贈されています。負傷時の状況を示すものとしては、血染めの日章旗や千人針、摘出弾、銃弾貫通した軍服、補装具としての義眼、義手、義足、受傷病を示す診断書などがあります。特に補装具は、戦傷病者を端的に示す貴重な資料となっています。こうした実物資料は、26,387点(平成29年1月現在。日傷・県傷資料を含む)所蔵しています。

(3)証言映像資料
   当館の証言映像は、戦傷病者のオーラルヒストリーとして、戦傷病者(軍人・軍属・準軍属)が受傷・発症して戦中・戦後と数多くの困難を乗り越えた証言を収録しています。
   一概に戦傷病者といっても軍人・軍属・準軍属までを対象とし、戦中における戦場での受傷・発症、訓練での受傷・発症、戦後(シベリア抑留等)の受傷・発症など様々です。加えて戦場での受傷は一か所だけではなく複合的なものが多く、病気も併発するなど複合化した事例もあります。ご本人を対象とするも、平均年齢97歳を迎え時間との勝負となっています。
   戦傷病者が他界して収録不可能の場合は、その労苦を共に共有し生活をしてきたことで、戦傷病者の労苦を語ることができると確認されれば、妻、子供(長男、長女、長男嫁)に至るまで、収録対象者を広げて実施しています。受傷した瞬間、受傷後の労苦、戦後の労苦などを確認することができれば、軍隊手牒・履歴票をはじめ兵籍簿などを収集・確認して、軍歴をもとに受傷年月日、受傷地、受傷部位および収容病院(外地)、転送病院(内地)、退院(除隊)までを確認していきます。
   収録基準は1)障害の程度(項症以上)、2)受傷病年月日、3)傷病名(銃創・砲創・爆創等や発症)、4)障害部位(傷病名及びこれを起因とする新たな障害)、5)戦中・戦後の労苦の5項目を基準として、戦傷病者となった経緯を明確にし、今日に至るまでを記録映像や参考写真等を挿入して編集します。収録は都道府県単位で実施し、これまで197本(平成29年6月現在)収録し、このうち14本が編集中です。

(4)図書資料
   戦傷病者の調査をする時、耳が遠い方、認知症の症状を発症しつつある方等の発言が二転三転する場合は、図書資料(体験記・部隊史)があると補足することができます。日傷時代には、全国の戦傷病者へ原稿依頼して編集した『戦傷病者等労苦調査事業報告書』『戦傷病克服体験記録』が作成され、館の代表的な体験記として活用できます。館では、さらに地元でしか入手できないものや自費出版などを積極的に収集し、図書資料閲覧室で体験記が読めるように配架しています。こうした体験記をはじめ戦傷病者に関する図書資料は、8,671点(平成29年1月現在)所蔵しています。

3   常設展示室

   2階常設展示室は、戦争とその時代・戦争での受傷病と治療・本国への搬送・帰還後の労苦・戦後の労苦・ともに乗り越えて、の6コーナーがあります。前半は、一人の人間が兵士となり、戦場で受傷することによって戦傷病者となる経緯を展示でたどっています。その収容先の一つとして、野戦病院(ジオラマ)を紹介しています。後半は、内地還送となって病院の治療を経て退院(除隊)し、社会復帰を遂げたうえで戦後の混乱期を経て壮年期、老年期を迎え、今日に至るまでの様子を資料と映像で紹介しています。特に受傷のシンボル展示、野戦病院は、当時の雰囲気を知るためにもぜひご覧ください。

4   情報検索コーナー

   1階図書閲覧室には、4台のPCを設置した情報検索コーナーが設けられ、戦傷病者の記録、実物資料、証言映像を検索できます。「戦傷病者の記録」(個人情報を除く。本人了承済分)では、人名・受傷部位・受傷地・出身地で調べることができます。特に受傷部位別の検索ができるようになっています。実物資料は分類表・提供者名・資料名・フリーワードで、証言映像は人名・タイトル・受傷部位・受傷地・フリーワードで、それぞれ検索できます。このほか、図書専用のPCが2台設置され、図書検索・戦史叢書検索もできるようになっており、体験記や希少図書も含めて戦傷病者専門の文献を収集することが可能となっています。

データシート
・機関名:しょうけい館(戦傷病者史料館)
・所在地:〒102-0074 東京都千代田区九段南1-5-13 ツカキスクエア九段下
・入館:無料
・電話:03-3234-7821
http://www.shokeikan.go.jp/
・交通:東京メトロ東西線・九段下駅(6番出口 徒歩1分)
     東京メトロ半蔵門線・九段下駅(6番出口 徒歩1分)
     都営新宿線・九段下駅(6番出口 徒歩1分)
・開館年月日:平成18年3月22日
・設置根拠:
  厚生労働省は平成14年「戦傷病者等の労苦継承に係る事業調査検討委員会」を設置したうえで16年3月末日、年月の経過と風化が進行している現状から「必緊の事業」として事業の実施に向けた準備に入るよう日傷へ委託、17年度概算要求に設置費用を計上。17年12月24日に閣議決定。戦傷病者史料館(仮称)準備室が設立して18年3月21日に開館。
・組織: 館長 - 事務局長 - 総務課 - 総務係
                         - 経理係
                  - 学芸課 - 学芸情報係
                         - 図書係
・建物:展示面積698㎡(1階338㎡、2階360㎡)
     書庫・収蔵庫400㎡
・主な所蔵資料(平成29年1月現在)
     実物資料           26,387点
     戦傷病者の記録    1,210名(うち656名は非公開)
     証言映像               183本(ほか編集中14本)
     図書文献             8,671冊