北谷町公文書館の25年-町民の「宝の部屋」を目指して-

北谷町公文書館
公文書館担当主査   鉢嶺 明美

はじめに

公文書館入口

   北谷町は、1992(平成4)年4月に町村立としては全国初となる「公文書館」を設置しました。
当時は、「なぜ北谷町のような小さな町が公文書館を設置したのか」とよく聞かれたそうです。
沖縄戦により戦前の行政文書は全て焼失し、戦後(昭和20年以降)の限られた行政文書等しか有しない本町において、せめてこれからの行政文書等は大切に後世に伝えたいという思いから行きついたのが公文書館の設置です。

1 開館の経緯と沿革

(1)失われた公文書の記録
   沖縄本島中部に位置する本町は、沖縄戦における米軍の上陸地となり、艦砲射撃を浴びる陸上戦で戦前の公文書の全てを焼失しました。1946(昭和21)年4月、捕虜収容所のあった越来村(現沖縄市)嘉真良に仮役所を設けて村行政を開始し、帰村を許された後は、台風による倒壊もあり、10年余で村内を3回も移転しながら行政事務を行ってきました。このような度重なる庁舎移転も、公文書の散逸を招きました。

(2)増え続ける公文書
   本町は、本土復帰前の1968(昭和43)年7月に文書取扱規程を全部改正し、県内では一早くファイリングシステムの導入による文書管理を行ってきました。しかし、年月を経るごとに職員の文書への認識不足が生じ、個人の身の回りに文書を置いたり、簿冊のファイルで個人管理のような状態になる等、書庫のみならず執務室にも文書が溢れ、また、復帰後の多種多様化する業務の増大により、文書分類・保存年限表による文書の分類も困難となり、規程は有名無実のものとなっていきました。
   更に、昭和50年代後半から、全国的に情報公開の重要性を認識する動きが見え始め、「これ以上公文書を失ってはならない」「公文書は、北谷町がこれまで歩んできた経過であり歴史である」という文書担当者の思いから、保存期間満了文書の多くは廃棄処分されることなく増え続けていきました。

(3)「北谷町文書保管所」の設置
   1983(昭和58)年頃になると、庁舎内文書の整理について各課からの要望や議会からの質問が上がるようになり、文書担当課である総務課が文書の整理保存について検討を開始しました。
   1986(昭和61)年3月、文書取扱規程を全部改正し「文書分類・保存年限種別表」(ワリツケ方式)を完成させました。また、同年5月、民間の建物を借用し「北谷町文書保管所」を設置、同時に「昭和59年以前の文書」の整理業務を民間事業所への委託により開始し、2010(平成22)年度まで、年次的に文書整理業務を委託していくことになります。

(4)全国初の町立「公文書館」設置へ
   1990(平成2)年、当時の文書担当者が1987(昭和62)年に国会で成立した「公文書館法」と全国歴史資料保存利用機関連絡協議会の「公文書館法問題小委員会報告」をもとに、公文書館設置について提案したことから、町として本格的な検討がスタートしました。あわせて、役場庁舎から離れ職員が利用するには不便だった文書保管所を、庁舎近くの民間アパートの一部を借り受け移転し、現用文書を中心に保存、また保存期間満了文書については近隣の空き店舗を書庫として借り受け保存しました。
   1991(平成3)年には、先進地への視察や関連例規の整備にあわせて文書保管所を増築し、1992(平成4)年の公文書館設置に向けて準備が進められました。1992年3月、「北谷町公文書館条例案」を議会へ上程し、4月1日の条例施行により、文書保管所を移行し、北谷町公文書館が設置されました。
   「現行の文書保存管理体制は、廃棄予定文書の増加に伴う保存書庫の狭隘化で、早めに公文書館に引き継がないと保存年限を経過した文書が、廃棄されてしまう。」という喫緊の問題を抱えていたため、公文書館活動の三位一体と言われるうちの「条例」だけを整備し、残りの「館舎」については民間アパートの「借家住まい」であり、「専門員の配置」についても今後の課題とするなど、準備が整わないなかで敢えてのスタートとなりました。

(5)新庁舎への移転
   1998(平成10)年5月、役場新庁舎の落成に伴い、公文書館を役場庁舎内へ移転しました。庁舎1階には閲覧室をはじめ、館長室と事務室を配し、地階には、仕分け室、作業室と書庫(一般書庫、耐火書庫2室)が設けられました。
   1992(平成4)年開館時の人員体制は、非常勤館長1名、企業からの派遣職員1名でしたが、1993(平成5)年4月に職員1名の定数化を図ることができ、現在は、非常勤館長、担当主査、専門員2名、臨時職員1名の体制で業務を行っています。

2 公文書館の現状

閲覧室

(1)閲覧とレファレンス
   閲覧室の書架には、行政刊行物や参考図書を配架しており、自由に閲覧することができます。2016(平成28)年度のレファレンス件数は、75件ありました。そのうち、町内の拝所の場所、戦前の地名等、歴史に関する事項が47件と半数以上を占めています。

(2)保存
   公文書館では、保存計画において、資料保存の基本方針を「予防保存」とし、適宜保存箱の切り替えや保護紙への梱包等、公文書等の適切な保存に必要な措置を施し、公文書等をホコリやカビ等から保護するようにしています。復帰前の歴史公文書は弱アルカリ性のアーカイバルボードに保存していますが、復帰後の公文書等の多くは、まだ酸性のダンボールに収納し保管しています。2010(平成22)年度と2011(平成23)年度には、緊急雇用創出事業を活用し、歴史公文書の劣化度調査及び修復事業を行いました。
   2016(平成28)年度末時点の所蔵資料の内容は、行政文書20,284件、刊行物等 24,749件、写真類19,897 件となっています。

(3)普及事業
   公文書館についての周知や普及活動については、これまで様々な媒体を活用した広報に努めてきました。
   企画展については、新庁舎への移転から5年後の2003(平成15)年10月、2005(平成17)年3月に開催しましたが、その後は、公文書館単独で企画展等を開催するには、所蔵資料の整理が追いつかず、継続できませんでした。しかし、町主催の平和祈念祭展示部門に毎年度参画することにより、公文書館業務の普及啓発活動に努めてきました。2013(平成25)年12月、約7年ぶりに企画展「写真でみる懐かしい北谷の景色」を開催し、2014(平成26)年には、「戦後北谷の保健福祉のあゆみ」、2015(平成27)年には、沖縄県との共催で県公文書館の移動展「公文書館資料にみる北谷町-戦後のあゆみ-」を開催しました。
   また、2014(平成26)年7月から収蔵資料の紹介や公文書館機能の解説、ポスターを閲覧室前に展示しています。同年8月から町の広報紙「広報ちゃたん」に「公文書館報」の連載を開始し、時季にあった所蔵資料等を掲載しています。
   2017(平成29)年度は、写真整理、目録作成、デジタル化等、ホームページでの歴史公文書及び行政資料の目録公開等や広報活動を強化し、利用促進を図っていきたいと考えています。

(4)現用文書管理との連携
   本町では、文書の発生から一定期間(原則完結から1年間)経過後、現用文書の保管を主管課から文書管理担当課に引き継ぎ、公文書館の書庫に保管します。書庫の管理は公文書館に委任されており、現用文書と非現用文書が一元的に管理されています。
   2011(平成23)年4月に「公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号。以下「公文書管理法」という。)」が施行されました。本町は、2011年2月1日庁議決定された「北谷町文書管理システム導入計画書」に基づき、公文書館法、公文書管理法施行令及び行政文書の管理に関するガイドラインに対応した「行政ナレッジ・ファイリング」による文書管理システムを2012(平成24)年度から本格導入しました。
   全職員が実践することで「文書管理が職員の基本であること」「組織における根幹であること」の意識が高まり、公文書の私物化意識の払拭、不要文書の氾濫防止、執務室環境の改善がなされています。

平成28年3月企画展の様子

3 開館25周年記念事業

   北谷町公文書館は、2017(平成29)年に開館25周年となりました。戦後の苦渋・困難を乗り越え、現在のまちづくりへと発展させた北谷の先人たちの思いや行動力を感じ、更なる北谷町の発展に寄与することを目的に、開館からの25年間の集大成として2017年12月に記念事業の開催を予定しています。主な事業は、「企画展」と「公文書館講座」で、公文書館講座「アーカイブズで沖縄のあゆみを知る」は、沖縄県公文書館と共同開催となっています。


4 課題

一般書庫

(1)選別・収集作業の遅れと書庫の狭隘化
   総務課から引き渡された廃棄予定文書の選別業務の遅れは、開館当時からの大きな課題となっています。現在は、専門員による一次選別の後、毎月1回、二次選別会議を行い、作業をすすめていますが、選別速度を上げていく方法を研究する必要があります。選別の遅れは書庫の狭隘化の原因にもなっています。2016年は、臨時職員を増員して書庫の整理等にあたり、スペースを確保している状況があります。書庫の適正管理の方法について継続的な検討が必要です。

(2)公文書館職員の人材育成
   公文書館設置に関わった元職員は、これからの課題について、「人材なんです。(略)人間によって公文書館の動きが変わってくるとなると困る、ちゃんと水がよどみなく流れるためには人材の育成、人材の確保だと思っています。(2000.9.1)」と述べています。しかし、現状においてもなお、短期間で異動してしまう非常勤館長と正規職員、また、専門員が嘱託職員という不安定な体制であり、安定的な体制を確立し、現用からアーカイブズを意識した文書管理ができる職員を多数育成していくことが、公文書館業務の充実に繋がると考えます。

5 おわりに

   これからの時代は、「文書の作成からアーカイブズ(記録資料)まで」を一つの流れとして機能させ、「町(まち)の顔」としての公文書館が求められています。公文書館が北谷町の発展に貢献し、設置の目的が達成され、町民の「宝の部屋」になる日を思い描き、職員一同、努力を続けて行きたいと思います。