筑波大学アーカイブズの設立とその特色

筑波大学アーカイブズ
助教   田中 友香理

1   筑波大学アーカイブズの設立と「国立公文書館等」への指定

当館正面玄関

   筑波大学アーカイブズ(以下「当館」という。)は平成28年(2016)4月1日に発足し、平成29年4月1日付で公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号、以下「公文書管理法」という。)で定める「国立公文書館等」に指定された。本稿では、その設立から「国立公文書館等」として指定を受けるまでの経緯、大学アーカイブズとしての特色、今後の課題について述べたい。
   筑波大学アーカイブズ設立について具体的な計画が持ち上がったのは、平成22年(2010)5月のことである。それを契機として、本学では公文書管理法施行への対応が検討され、同年11月にアーカイブズの設置に向けた正式な合意が得られた。翌23年3月に筑波大学アーカイブズ設置検討委員会が、24年4月に同委員会のもとに専門委員会が設置された。また同年10月に専門委員会委員長から「筑波大学アーカイブズの設置に向けた調査・検討結果について(答申)」が委員会に提出され、ついで同答申は委員会委員長から翌月の学長・副学長懇談会、運営協議会にそれぞれ提出、了承され、25年2月には、筑波大学アーカイブズ設置準備室設置規程(同年法人規程第9号)が制定され、翌月、大学本部に筑波大学アーカイブズ設置準備室(以下「準備室」という。)が開設された。
   3年にわたる準備室での検討を経て、28年4月に準備室は「教育研究組織」(国立大学法人筑波大学の組織及び運営の基本に関する規則(16年法人規則第1号)第46条)として発足した筑波大学アーカイブズに切り替わった。その目的と業務内容、組織に関しては国立大学法人筑波大学アーカイブズの組織及び運営等に関する規程(同年法人規程第31号)で定めた。文書の保存と移管の体制に関しては特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン(23年4月1日内閣総理大臣決定。以下「ガイドライン」という。)をモデルにして、筑波大学アーカイブズにおける保存、利用等に関する規程(同年法人規程第32号、以下「利用等規程」という。)を制定し、「国立公文書館等」にスムーズに移行できるようにした。また、利用等規程に詳細が規定されていない移管と寄贈・寄託については別に定めた。
   以上の準備に取組みながら、「国立公文書館等」への指定に向けて内閣府大臣官房公文書管理課(以下「公文書管理課」という。)との協議を行った。28年8月10日と9月15日に指定に係る報告書を文部科学省経由で公文書管理課に提出し、12月13日には利用等規程とガイドラインの対照表も提出した。29年1月19日に公文書管理課の現地調査があり、2月21日の公文書管理委員会において異議が出ることなく、4月1日付で「国立公文書館等」に指定された。

2   筑波大学アーカイブズの特色

   筑波大学は、いわゆるRU11(世界水準の研究・教育を行う11大学)のなかでも最後にアーカイブズ(文書館)を設置し、「国立公文書館等」の指定を受けたが、同時に北海道大学文書館も「国立公文書館等」に指定された。しかし、北海道大学文書館が文書館として長い歴史を持ち、『北大百年史』編纂関係資料を引き継いでいることに対して、筑波大学は初めて大学に関する資料収集のための施設を設置し、その後間もなく「国立公文書館等」の指定を受けた。つまり、当館は所蔵資料の蓄積もアーカイブズとしての経験値も他の国立大学法人のそれに比べて低いといわざるを得ない状況のなかスタートを切ってはいるが、以下のような三つの特色をもつ大学アーカイブズとして発足した。

(1)移管と廃棄の仕組み
   筑波大学アーカイブズにおける保存期間が満了した法人文書の移管については、総括文書管理者である総務担当副学長からアーカイブズ館長(以下「館長」という。)に対して行われることになっているが、実質的には各文書管理者から移管を受ける。現在、筑波大学には100を超す文書管理者が存在しており、文書は分散管理されている。
   そこで当館は準備室の段階で、保存期間が満了した法人文書等の「受託」と廃棄への「合意」について定め(25年7月17日定め)、実際に複数の部局の文書を「受託」した。
   「国立公文書館等」指定を見据えて、総務担当副学長と館長の間で移管等に関して申合せを取り交わした(28年11月29日申合せ)。この申合せでは、第一に文書管理者が法人文書のレコードスケジュールを設定し適切に実施することと、館長がレコードスケジュールの設定に対して専門的技術的助言を行うこと、第二に廃棄について、文書管理者が館長に廃棄同意を求め館長がそれに同意を与えること、第三に移管に関して、文書管理者と館長が協議を行い文書の移管を実施することを定めた。これらは、現用文書の管理とアーカイブズでの保存との間をスムーズに架橋するための仕組みを定めたものであり、言い換えれば、法人文書と特定歴史公文書等の間の微妙な空白期間を埋めるためのものである。申合せが実施されることで、アーカイブズが文書のレコードスケジュールに早い段階から積極的に関与できるだけでなく、廃棄と移管がシステマティックに行われることで、原局の業務負担を軽減することができると思われる。

(2)利用等規程の内容
   当館では、利用者の利便性と昨今の情報技術の進展を斟酌し、利用等規程において複写物の交付方法についてガイドラインとは異なる規定を導入した。
   近年、パーソナルコンピューター、タブレット端末等の普及と情報のデジタル化が急速に進んでいるため、利用者の大半がデジタル化された複写物を望むであろうことが想定された。そこで、当館では基本的に利用者によるデジタルカメラでの撮影を推奨することとし、カメラを持参していない利用者にはカメラを貸し出すことにした。そうすることで、利用者はより満足のいくデータを得ることができるうえ、即日どころかその場でデータを取得することができる。また、アーカイブズ側からすれば、データ化に係る業務を省くことができるうえ、高価な機器の購入も必要ない。もちろん、アーカイブズは利用者の多様な要望に応える義務を課せられているので、利用者の要望には真摯に対応していくつもりである。
   「国立公文書館等」に指定されるための要件はきわめて高いといわれることが多いが、とくに利用に関しては上記のような些細な工夫を積み上げることで、人員・設備ともに限られる小規模なアーカイブズも「国立公文書館等」として指定を受けることができると思われる。

(3)『筑波大学50年史』編纂のための基礎的な資料の収集・整理
   昭和48年(1973)に「新構想大学」として設置された筑波大学は、6年後の平成35年に創立50周年を迎える。28年3月24日、筑波大学50年史編纂委員会規程が制定され(同年法人規程第33号)、総務担当副学長を委員長としてすべての副学長と図書館長、当館館長によって編纂委員会が組織された。現在、編纂委員会のもとに設置された編纂専門委員会(委員長は当館館長)において、50年史の実質的な編纂が進められている。
   こうして、当館は50年史編纂に関与することになったが、現在、学内の各部局において資料の所在を調査するとともに、教職員や研究室からの資料の寄贈・寄託を積極的に推進し、さらにオーラルヒストリーの事業も実施している。
   他大学では、年史編纂室を文書館等が引き継ぐ例が多いようであるが、筑波大学の場合、それらの例とは異なり、当館が年史編纂を主導することになる。明治5年(1872)の師範学校設立以来150年近い本学の歴史を編むことは困難なことであろうが、アーカイブズと年史編纂の新たな関係性の構築を模索していくことが目指される。

3   今後の課題

当館書庫の一部

   最後に、筑波大学アーカイブズにおける今後の課題を三点に分けて述べておきたい。
   第一に、前述の50年史編纂事業との関係である。人員・設備ともに限られるアーカイブズにおいて、アーカイブズの業務と年史編纂の業務の双方を両立させていくのは、きわめて困難であろう。しかし、年史編纂は学内全体の50周年記念事業の一環として位置づけられることが予測されるので、総務部総務課をはじめ広報室等の事務部局と連携し、学内各部局の協力を仰ぎたいと考えている。
   第二に、大学特有の法人文書、個人の文書の受入れについてである。たとえば、卒業論文は文書管理規程で5年保存と定められているにも関わらず、開学以来の卒業論文を組織として保存してきた学類もある。また、大量の図書を含む個人文書の取扱いに関する問題である。これらの課題については、法人文書管理規程別表の改正(それに伴う移管申合せ別表の改正)、附属図書館との連携等を行う必要があると思われる。
   第三に、現用文書の管理にどこまで踏み込めるかである。現在、すでに複数の部局から廃棄簿が転送され、移管を要する文書のチェックを行っているが、目録の記載からは文書の内容が読み取れない簿冊や、ファイルに収録されている文書数がゼロになっている簿冊が少ないながらも見受けられる。アーカイブズには現用文書の管理を指導するような権限はないが、技術上の指導助言を繰り返し行うことで、現用文書の管理の改善に資することができればと考えている。