寒川文書館-開館10周年を迎えて-

寒川文書館長
高木 秀彰

1.はじめに

   平成18年11月3日に開館した寒川文書館は、このほど10周年を迎えることができた。建物は総合図書館との複合館で、4階建ての3階までが図書館、4階の1フロアが文書館となっている。総務部総務課の出先機関と位置づけられ、現用公文書の管理、情報公開から非現用文書の取扱いに至るまでを同じ課で担う仕組みとなっている。
   開館にあたっては、5つの基本理念を掲げ、運営の基本方針とした。1)寒川の記録資料を後世に伝える文書館、2)すべての人々が利用できる開かれた文書館、3)郷土愛と未来の創造に役立つ文書館、4)行政の説明責任を果たす文書館、5)みんなが足を運びたくなる文書館、この5つである。10年たった今、この理念に沿って運営できたか、振り返りながら検証したい。

2.取り扱う資料

   文書館では公文書、民間資料、行政刊行物など、寒川に関する記録資料を広く取り扱っている。
   まず公文書である。文書取扱規程では、文書の保存年限は1年、3年、5年、10年、永年の5種となっており、このうち一定年数の経過した永年文書を文書館で保管している。当初は作成後11年目に本庁から文書館へ運び入れていたが、本庁の書庫が手狭になったため、平成26年から作成後3年経つと文書館へ運ぶよう運用を改めた。現在930箱あまりを保管している。
   一方、3年、5年、10年の保存期間が満了する文書を評価選別して保存している。これまでに約320箱、ファイリングシステムのフォルダで約4,500点を収集した。
   民間資料は、町史編さん事業で調査、整理した資料がベースとなっている。この事業では約5万点の資料を整理し、約65万コマのマイクロフィルムを作成した。これらの大半は所蔵者に返却したが、改めて寄贈・寄託を呼びかけたり、写真版での閲覧公開の許諾を受けたりした結果、約32,000点が閲覧できるようになっている。
   寒川町や神奈川県などが発行した行政刊行物は図書館との棲み分けを行い、文書館が収集・保存・公開の責任を持つこととしている。自治体史や辞典類なども合わせ約36,000冊を提供している。
   写真は、町の各課が業務上撮影したものが移管されるほか、個人蔵の写真を複写させていただいたり、団体から寄贈を受けたりしており、現在合わせて約9万点を整理している。
   その他、ケーブルテレビで放映した広報番組などの動画、新聞、折り込み広告、地図など、寒川に関するあらゆる記録資料を収集・整理している。

3.資料保存

   基本理念の1)は資料保存を謳っている。収蔵庫は温度25℃、湿度50%を保つよう、24時間空調を実施している。また年に1回、専門業者による燻蒸を行う。収蔵庫内にビニールテントを建て、そこに資料と燻蒸剤を入れて4昼夜置くことで、虫やカビから資料を守るというもので、1回に約400箱の処理ができる。また、マイクロフィルムの保存のため、巻き替え作業を少しずつ進めている。

4.閲覧とレファレンス

   文書館の基本的なサービスは閲覧とレファレンスで、基本理念では2)・3)がこれにあたる。行政刊行物や参考図書は開架書架で自由に閲覧できるので、カウンタを通して出納した資料のみを閲覧としてカウントしている。平成27年度までで1,705件、6,950点の出納があった。
   レファレンスはカウンタで資料の相談を受けたもので、平成27年度末で3,258件の問題解決に貢献してきた。歴史の調査研究だけでなく、小学生から大学生まで学校の宿題・課題への対応、先祖調べ、不動産業者や測量業者による土地の調査など、一般利用者のニーズは多岐にわたる。特に平成23年の東日本大震災のおりには、地盤や標高など自宅の情報、関東大震災の時の被害状況、津波の被害想定など、安全・安心のための情報を求める利用者が急増した。文書館が地域に果たす役割を再認識した瞬間であった。さらに町職員への対応も重要な任務で、町の情報を文書館に蓄積することで、各課の業務遂行の後方支援を担っている。

5.普及事業

   これまで展示、講座、講演などの普及活動に積極的に取り組んできた。これは文書館の資料を広く知っていただき、資料の閲覧利用につなげたいと考えるためである。基本理念5)「みんなが足を運びたくなる」の一端を担っている。
   展示としては企画展、ミニ展示、図書館ミニ展示などを開催している。企画展は2~6か月の会期で、これまで23回実施した。各団体とのタイアップのもと開催することもあり、活動の幅を広げてきた。ミニ展示はエレベータ前のスペースでタイムリーなテーマを選んで随時行っている。また複合館ならではの企画として、図書館1階の展示スペースを借り、文書館の企画展の内容に合わせた書籍の展示を随時行っている。
   講座は外部講師を呼ばず、スタッフが指導にあたっている。近世の古文書を読む講座は平成19年度から毎年開いている。「吾妻鏡」など鎌倉時代の史料を読む中世史講座に代わり、27年度からは文書館活用講座を開講している。地図、防災情報、先祖調べなど文書館の持つ多彩な資料の使い方を紹介するものである。

6.ボランティア

   資料整理や展示の準備などで頼りになるのがボランティアの皆さんである。写真の目録作成やスキャン、新聞やタウン紙のデータベース作成、企画展の展示替え作業などに、現在10名ほどの皆さんに携わっていただいている。基本理念5)はここでも実現できたといえる。今後は、携わった成果を目に見える形で示すことにより、達成感を味わってもらえるようにする必要がある。

7.複合館のメリット

   この10年、寒川文書館は図書館との複合館として運営を進めてきた。両館が協力し合うことで、その特性をさらに活かしている。
   まずは行政刊行物の取り扱いである。文書館が収集・保存・利用の責任を持つことで、重複を避けている。さらにこれを図書館と同じシステムに登録し、同じICタグで管理することにより、両館の資料を同時に検索することができるほか、蔵書点検も効率的に行えるようになっている。
   次に普及事業の共催である。毎年11月3日の開館記念日には映像上映会を開催し、準備や当日の運営を分担しながら進めている。また夏休みに小中学生向けのバックヤード見学会を実施しており、両館の収蔵庫で貴重な資料を見せたり、作業を体験してもらったりしている。
   さらに、施設やコンピュータシステムの管理は図書館に一元化されており、会議室やインターネットサーバなどは共通のものを使っているほか、空調、清掃など施設管理の予算は図書館のみに付けられている。
   利用者にとって最大のメリットはレファレンスの相互協力である。図書館のカウンタに地域のことを調べたい方が来たら、文書館に連れてきてもらったり、文書館のレファレンス中に図書館の参考図書を案内したりと、両館の資料を駆使して問題解決にあたることができる。この建物へ来れば何でも調べられる、そのようなイメージを持っていただけるよう、さらにサービスに努めたい。

企画展「図書館・文書館10年のあゆみ」

企画展「図書館・文書館10年のあゆみ」

8.10周年記念事業

   このほど10周年を迎え、さまざまな記念事業を図書館と協力し合って開催することができた。
   文書館展示コーナーでは、企画展「図書館・文書館10年のあゆみ」を平成29年2月28日までの会期で開催中だ。両館ができるまでの経緯や、この10年間の取り組みについて紹介するものである。もう一つの共催事業は上映会である。毎年11月3日に行っているが、今年はケーブルテレビで放映された町の広報番組のバックナンバーから、図書館開設準備や開館時にレポートした回を上映した。
   文書館独自の企画としては10月30日にシンポジウム「アーカイブズでできる先祖調べ」を開催した。新たな利用者層を獲得するため、アーカイブズの持つ資料が先祖調べに有効であることをアピールしようという試みで、当日は60名の皆さんに集まっていただいた。報告者は研究者だけでなく、日常的に文書館を利用している方にもお願いすることができた。
   図書館も講演会、展示会、コンサート、本の福袋など多彩な企画を行ったが、そのPRにあたりチラシや広報記事を共同で作成するなどした。

9.今後の課題

   これまで基本理念にそって足跡を振り返ってきたが、この中では4)が最も手薄だったといわざるをえない。情報公開制度と車の両輪となり、非現用公文書でも住民への説明責任を果たすという考え方だが、文書取扱規程の改正、評価選別基準の公表、公開用の目録の作成など、公文書に関して行わなければならない課題がまだまだ山積している。これらを早急に解決していかなければならない。
   もう一つ直面しているのが指定管理者制度の導入である。図書館は平成29年度から全面的に指定管理者に委ねることとなった。もともと文書館の建物管理は図書館に依存しているため、今後はその部分を指定管理者が担うこととなる。目下その選定手続きを進めているところである。資料整理、レファレンスサービスなど文書館の基幹業務はこれまでとおり直営で行うが、これまで図書館と協力して積み上げてきた利用者サービスを低下させることのないよう今後も活動していきたい。