郡山市歴史情報博物館 渡邉 裕太
1 はじめに
郡山市歴史情報博物館(以下当館という)は、市立の公文書館機能を有する博物館として令和7年3月15日に開館した。歴史、民俗、考古、特定歴史公文書等の各分野を対象とし、市内の図書館や公民館、美術館、科学館、文学館、史跡公園など関連する市の施設のほか、研究機関や学校、企業など市内外の団体との連携を図るハブ施設としての役割も有する。また、当市では当館の設置に先立ち、令和6年3月に「郡山市公文書管理条例」を制定したが、本条例第24条では、特定歴史公文書等について積極的に一般に供するようつとめなければならないと規定している。
2 資料展応募の経緯
当館では、市制施行、市町村合併、戦前の東北振興政策や満蒙開拓、戦災復興などの常設展の各テーマで、関連する特定歴史公文書等(複製)を展示している。また、第1回企画展「過去と未来をつなぐ 新たな博物館の挑戦」(令和7年3月~6月)においても、特定歴史公文書等の紹介を行ったが、国立公文書館が所蔵する第一級の特定歴史公文書等の持つ魅力や、当館所蔵資料と組み合わせることで見えてくる事象について、市民に広く発信したいと考え応募した。
3 打合せから出展資料の選定まで
令和7年3月26日に国立公文書館の金子智哉上席公文書専門官(当時)、鈴木隆春公文書専門官(当時)に御来館いただき、初回の打合せを行った。その後、メールやオンラインでの打合せを通じて、展示資料の選定を行った。出願時に公募要綱に掲載されたリストを中心に、当館で希望の候補を挙げ、それを踏まえて国立公文書館側で関連する資料を調査いただき、夏ごろにかけて確定した。構成は通史展示(4章)、テーマ展示(5項目)の9つにした。
4 展示・広報物の制作
展示物は、当館で提供した原稿や画像も合わせて、国立公文書館で制作していただいた。広報物は、有料での開催となったことから、制作と発送を当館で担当した。しかし、校正等について遅れが生じたため、市民等への周知が開催直前になってしまうなど、反省すべき点があった。
5 展示・撤去作業
展示は国立公文書館が中心に行い、鈴木展示・学習支援担当室専門職(令和7年度より職制変更、以下「鈴木専門職」という)の指揮のもと、委託業者が資料の陳列、パネルの設置、当館職員がライティングや追加パネルの設置等の作業を行った。撤去作業についても同様に三者で行った。
6 展示の構成
展示は、幕末から昭和40年頃までの通史を4章に分け、そのほかに5つのテーマ展示により構成した。ここでは、各章・項目ついて紹介する。なお、国立公文書館所蔵を(国)、当館所蔵を(郡)と略す。
第一章 幕末から明治へ
第一章では、旧郡山宿出身で昌平坂学問所教授の安積艮斎が、嘉永6年のペリー来航に際して、アメリカ大統領の国書を翻訳したことを踏まえ、『ペリー提督日本遠征記』(国)や、同じく旧郡山宿の商人が安政五カ国条約締結における幕府の記録を写した「一二月二日亜墨利加使節応接之趣一二月四日同断差出候書付和解」(郡)を展示し、外国と地域の人々について解説した。また「復古記」(国)や、「福島県史料」(国)により、戊辰戦争から廃藩置県の様子を紹介した。
第二章 近代国家の形成と地方
第二章では、安積開拓、安積疏水の開さく事業を中心に構成した。この2つの事業は、各地の士族の救済を目的に、当初は福島県と開成社(郡山宿の商人らが結成した団体)により、明治9年の明治天皇巡幸の後は、新政府の主導により行われた。耕地の拡大や疏水が生み出す電力など、郡山の産業発展において重要な出来事であり、市民にもよく知られてはいるが、実物の資料を目にする機会は少ないため、最初に疏水開さくを提言した小林久敬の「岩代国安積岩瀬両郡開拓水路見積書」(国)、大久保利通が士族授産を提案した「一般殖産及華士族授産ノ儀伺」(国)、開拓地に新村を設置した「福島県下岩代国大槻原開墾村名ヲ設ク」(国)など、他の章に比べ多く出展した。また、その後の鉄道開業については、当館では三春馬車鉄道の復元展示を行っていることから、「三春馬車鉄道鉄道免許状及命令書返納の件」(国)や関連する写真(郡)を展示した。一方で、同時期に激化した自由民権運動について、「民選議院設立建白書」(国)、福島事件の報告書である「福島県稟告奸民暴挙ノ件」(国)などから当時の実情を紹介した。
第三章 大正、昭和戦前期の日本と郡山
第三章では、大正時代の後半から、昭和20年の終戦までを扱った。郡山市は大正13年に市制施行したが、初代市長の大森吉弥について、市長臨時代理者の告示から市会による選出、内務省への上申、命令により翌年2月に就任するまでの経過を、「大正13年市制記念関係書類」(郡)、「郡山市会議録」(郡)、「大森吉彌福島県郡山市長ニ就任ノ件」(国)の市と国の公文書を組み合わせて解説した。
また、大正12年9月1日に発生した関東大震災では、市域西部で猪苗代湖に接する旧福良村、旧赤津村が9月9日、10日に議決を行い、東京や横浜へ義援金を送ったことを記録している「大正12年会議録(福良村)」及び「大正12年会議録(赤津村)」(郡)を紹介した。さらに太平洋戦争については、戦後80年に当たることから、「開戦の詔書」(国・複製)、「終戦の詔書」(国・複製)、終戦時の「海軍経理学校日誌」(郡)の展示にとどめ、詳細は後述するテーマ展示1に譲った。
第四章 戦後のあゆみ
第四章では、公文書読み聞かせ(後述)に関連し農地改革、婦人参政権、新産業都市などの事項を扱った。特に開催時は、男子普選100年、男女普選80年の記念の年に当たることから、第三章で「衆議院議員選挙法改正法律」(国)、第四章で「衆議院議員選挙法中ヲ改正ス」(国)の閣議書を出展した。また、当市では新産業都市の指定により様々な政策がとられたことから、同じく閣議書「新産業都市建設促進法」(国)を展示した。
![]() |
![]() |
| 展示会場2 2章・3章 | 展示会場3 4章 |
テーマ展示1 空襲の記録
戦後80年を記念し、4回にわたる郡山空襲の記録を、福島地方裁判所の報告書「空襲被害状況に関する件」(国)や投下された爆弾の破片(郡)などから紹介した。
テーマ展示2 映画と公文書
この項では、映画史に関する特定歴史公文書等の展示を行った。テーマの設定に当たっては、筆者が得意とする分野ということも影響しているが、フランス映画『ジゴマ』(後述)の取り締まりに関する内務省の文書を国立公文書館が所蔵していること、フィルムが国立映画アーカイブに現存することから、両者の資料を組み合わせることで特定歴史公文書等の活用例として紹介した。この事例については、普及事業の項で後述する。
テーマ展示3 東日本大震災
東日本大震災は、地震による揺れ、津波被害に加え、福島第一原子力発電所事故による大きな被害を与えた。これらを紹介する公文書は、当時を知る上で貴重な資料であることから、自衛隊の出動記録(国)などを展示した。
テーマ展示4 郡山市の公文書
この展示は、当館が所蔵する特定歴史公文書等の利用に関して、周知を目的に設定した。市民にとってなじみ深い古関裕而氏作曲の郡山市民の歌や当館に隣接する麓山公園の2テーマについて、関連する特定歴史公文書等からその成り立ちや移管の歴史を紹介した。
テーマ展示5 記録に残る近代郡山の人々
この項では、地域の発展に寄与した、中條政恒、立岩一郎、阿部茂兵衛、橋本万右衛門、二瓶貞四郎、全国的に活躍した高山樗牛、新城新蔵、宮本百合子の8名について、その事績と関連する特定記録公文書等を大型パネルで紹介した。
![]() |
![]() |
| 展示会場4 テーマ展示1 | 展示会場5 テーマ展示5 |

ギャラリートーク(鈴木専門職)
7 普及事業
当館では、来館者に対し企画展の理解を深めるともに、リピーターになっていただくことを目的に、企画展ごとに普及事業を複数回行っている。今回の展示では、記念講演会、ギャラリートーク、映画『ジゴマ』の上映会、公文書読み聞かせ、メタバース展示の各事業を実施した。
7.1 記念講演会
記念講演会では、「記録に息づく人間の物語 ~文学と歴史の交差点で~」という演題で日本文学研究者のロバート・キャンベル氏にお話しいただいた。この講演会では、公文書のみならず、記録、収集すること、そして集めたアーカイブの大切さについて、輪島塗職人の技術やウクライナの首都キーウで収集したうつわの破片の事例を含めてご説明いただいた。なお当館には講堂がないことから、隣接する中央図書館の視聴覚ホールを利用した。
7.2 ギャラリートーク
ギャラリートークは、鈴木専門職が2回、筆者が2回の計4回実施し、各回45分程度で出展資料の見どころを紹介した。

『ジゴマ』上映風景
7.3 映画『ジゴマ』の上映会
映画『ジゴマ』は明治44年にフランスで製作された怪盗が主人公の映画である。日本では同年に公開され大ヒットしたが、模倣犯の出現などの社会的な影響を生じ、警視庁や上級庁である内務省を通じて全国の警察により上映禁止(昭和初期に解禁)になった。このことは、映画と検閲の関係から重要な出来事であると、牧野守氏をはじめ映画史研究者によって指摘されている。そこで今回の企画では、なぜ禁止されたのか、フィルムと公文書に記録されたそれぞれの内容を来館者に知っていただくために、「甦る怪盗!ジゴマナイト」と題して上映会を行った。映像は国立映画アーカイブの御協力によりデジタルデータを借用し、活動写真弁士の片岡一郎氏、ギタリストの湯浅ジョウイチ氏による実演により、明治時代の様子を再現して実施した。
7.4 公文書読み聞かせ
今回の展示では、農地改革を国民に周知するために作られた紙芝居「農地改革」(国)
を出展したが、観覧者自身が本文を読むのと、紙芝居として上演されるのを見聞きするのとでは印象が異なることから、終戦直後の当時どのような様子で周知を行ったのか再現するために企画した。しかし、原資料には一町歩などの単位や言葉遣いなど、現在ではわかりにくい箇所があるため、当館で現代語訳を作成し、当市図書館ボランティアの豊増良子氏に実演していただいた。

紙芝居「農地改革」の実演風景
7.5 メタバース展示
当市DX戦略課が所管するメタバース空間「福島県郡山市 in Metapa」を利用し、期間内にバーチャル展示とギャラリートーク(1回)を実施した。なおメタバースの利用は当館では初めての試みであった。
8 おわりに
開館初年度にこのような企画を実施する機会をいただき、当館としても今後の活動に向けて、大きな弾みをつけることができました。開催に当たり、御協力くださいました、ロバート・キャンベル様、片岡一郎様、湯浅ジョウイチ様、豊増良子様、国立映画アーカイブ、国立公文書館の皆様に心より御礼申し上げます。







